第二章 ドイツ法
二 第一委員会、第一草案
立法委員会の起草担当者であるKübelによって作成された部分草案に基づき、1881年に第一 委員会が、BGB第一草案の作成を目指して審議している。以下では、贈与、負担付贈与につい て、どのような審議を経て第一草案が作成されたのか整理する。
(一) 第一員会における審議 1 贈与
第一委員会における贈与の審議は、ドレスデン草案497条、部分草案497条を基礎に審議さ れている。以下では、第一委員会における贈与の審議についてみていきたい。
まず、審議においては、ドレスデン草案、部分草案における用語、贈与の位置について議論
はない。受贈者が承諾しているか否かは、贈与にとって法的には全く偶然的で、どうでもいい ことであって、受贈者の同意は、この法律行為の有効性に何ら寄与せず、ひそかな善行は、こ こでは取り決められた善行と完全に同じく有効であるとする。
(Schubert(hrsg.),a.a.O.(Fn.298),S.146-148.サヴィニー著・小橋一郎訳『サヴィニー現代ローマ 法体系第四巻』(成分堂、2001)136-138頁、小島・前掲注(12)92頁参照)。
(303)Schubert(hrsg.),a.a.O.(Fn.298),S.142.
(304)Schubert(hrsg.),a.a.O.(Fn.298),S.65f.
(305)Schubert(hrsg.),a.a.O.(Fn.298),S.65f. Kübelは、受贈者の負担が履行されない場合、贈与者
は受贈者に返還請求も認めるべきであるという(Schubert(hrsg.),a.a.O.(Fn.298),S.201f.)。
(306)Schubert(hrsg.),a.a.O.(Fn.298),S.202.
されていたが、贈与をする者を贈与者、贈与を受ける者を受贈者とすることについて異議は唱 えられておらず、贈与がドレスデン草案、部分草案にならい債務法の各論に置くことについて も異議はなかった(307)。
次に、ドレスデン草案と部分草案において挙げられていた条文案については、Windscheid、
Plank、Schmittから条文の形式を改める提案がなされている(308)。Windscheidによる提案は、
「他人を利得させる意図で、ある者がその財産の減少によりその他人に利益を出捐し、その他 人が自己に出捐されたものを贈与と承認する場合」を贈与とし、贈与を契約としながら、他人 を利得させる意図も要求した提案となっている。Plankによる提案は、「受贈者が出捐されたも のを受け取る意思があり、贈与者の財産が減少し、出捐された財産により受贈者が利得するこ と」が贈与であるとし、受贈者の受諾の意思、贈与者の財産減少、受贈者の利得を要求した提 案となっている。Schmittによる提案は、「贈与による出捐の利益は、贈与者の財産が減少する ことで、受贈者の財産が増加することであり、契約によって有効に生じる」とし、贈与におけ る契約性、贈与者の財産減少、受贈者の利得を要求した提案である。これらの提案は、受贈者 に受諾を要求することから、贈与の契約性を前提にして、「他人を利得させる意図」で「贈与者 の出捐により財産が減少し、相手方が利得を受ける」という内容であるといえる。
その後、さらに贈与が契約であるか、どのように贈与が成立するか、について審議が行われ た。ここでは、贈与が常に契約であることが決定され、贈与者と受贈者の合意が必要であると されている。理由としては、「誰もその意思に反して贈り物をされてはならない」ので、受贈者 の承諾が必要とされるとしており、たいていの贈与は、契約に基づくもあるので、契約の一般 的な規定を適用できるというものであった(309)。このような決議に基づき、契約の一般原則を前 提に、贈与は、受贈者が贈与として出捐されたものを受け取ることであり、どの贈与において も、明確な表現として受諾(合意)がなされなければならないとされた(310)。
そして、第一委員会では、多数意見として、贈与の要件を「贈与は、他人に対する出捐、つ まり出捐者の財産が減少し、他人に利得させるものであり、そして、他人を利得させる意図で なされる」と決議した(311)。この要件は、草案とは本質的に差異がないものであり、当時の学説
(307)Jakobs/Schubert,a.a.O.(Fn.293),S.337.しかし、その際に、贈与の法典内の位置については、
適切であれば他の位置に配置するということで決議が留保された(小島・前掲注(12)135頁も参 照)。
(308)Jakobs/Schubert,a.a.O.(Fn.293),S.338.
(309)Jakobs/Schubert,a.a.O.(Fn.293),S.340.
(310)Jakobs/Schubert,a.a.O.(Fn.293),S.341.
(311)Jakobs/Schubert,a.a.O.(Fn.293),S.339. この点について、Pruskowskiは、第一委員会は、
贈与者の財産減少と受贈者の利得に因果関係を認めていると指摘する (Pruskowski,a.a.O.(Fn.296),S.41f.)。
が認めるところでもあったといわれ(312)、贈与する意思(animus donandi)(313)、贈与(出捐)の要 件をできる限り明確に表現しようとしたものであると評価することができる(314)。また、出捐が 利得者(受贈者)の認識や意思なしになされる場合でも、その拒絶までは、出捐者は贈与の申込 みに拘束されると決議されている(315)。このような議論を受けて、部分草案497条はRedVorl304 条、ZustOR305条、KE434条等を通じ、第一草案437条として形成されることとなる(316)。
2 負担付贈与
第一委員会における負担付贈与の審議は、ドレスデン草案512条、部分草案512条を基礎に 審議された。以下では、第一委員会における負担付贈与の審議をみていきたい。
まず、審議では、草案において第三者のためにする負担が義務付けられるのは、第三者のた めにする契約を想定したものであるとされている。これについては、Plank は第三者のために する負担という表現は、BGB121 条〜125 条(第三者のためにする契約)の適用を見出した表現 であると説明している(317)。Windscheid も、贈与の際に、受贈者の負った負担は、同時に贈与 の履行を義務付けるものであり、第三者に対して給付を生じさせる負担については、第三者の ためにする契約の規定の適用を受けるとする(318)。
次に、第三者のために負担の設定が可能であるということと関連して、負担付贈与の負担の 内容についても審議されていた(319)。そこでは、ローマ法を参照して議論されており、ローマ法 においては、負担付贈与の負担は、多くの場合、当事者の意思に合致したものが設定され、贈
(312)Jakobs/Schubert,a.a.O.(Fn.293),S.339.
(313)贈与において、贈与する意思(animus donandi)は「明白に本質的な要件」、「特別な強調を要
する要件」であるから、これを「贈与する意図」または「贈与により」とすることに懸念が示 され、「他人を利得させる意図」と表現する方を選ぶべきとされた。その理由は、本質的な要件 であるがゆえに争いを生じないように明確にすべきであること等が挙げられている
(Jakobs/Schubert,a.a.O.(Fn.293),S.339f.小島・前掲注・(12)89頁)。
(314)Pruskowski,a.a.O.(Fn.296),S,39.
(315)Jakobs/Schubert,a.a.O.(Fn.293),S.340ff.これは後にBGB516条2項の条文となる(BGB516
条2項「相手方の意思を問わずに出捐がなされたとき、出捐者は、相当の期間を定めて承諾の 意思表示をなすことを催告することができる。当該期間が経過したときは、相手方が予め拒絶 をしていない限り、贈与を承諾したものとみなす。当該期間が経過したときは、相手方が予め 拒絶していない限り、贈与を承諾したものとみなす。贈与が拒絶された場合、不当利得の返還 についての規定により、出捐されたものの返還を請求することができる」。なお、本章における BGBの条文の訳文については、山口和人『ドイツ民法Ⅱ(債務関係法)』国立国会図書館調査及 び立法考査局(2015)を参照している)。
(316)第一草案437条「他人の利得を意図してなされ、その他人が出捐を贈与として承諾する限り
で、出捐者の財産を減少させ、その他人に利得を得させるようになされた出捐は贈与とする」
と規定された。RedVorl304条、ZustOR305条、KE434条も同様の条文である。
(Jakobs/Schubert,a.a.O.(Fn.293),S.344f.)。
(317)Jakobs/Schubert,a.a.O.(Fn.293),S.390.
(318)Jakobs/Schubert,a.a.O.(Fn.293),S.390.
(319)Jakobs/Schubert,a.a.O.(Fn.293),S.391.
与者からの贈与により受贈者が利得した場合に負担が発生するとされていたという。しかし、
どのようなものが負担であると判断されるかは、具体的な事情によって見分けていたと指摘さ れている。このことから、より詳細な負担の内容を条文に規定することは審議されていなかっ た。
その他、草案において、負担付で贈与がなされた場合、受贈者は負担の履行の前に、贈与の 履行を請求することができるとあるが、審議においては、贈与者の贈与の履行後に受贈者に負 担の履行を請求できると決議されている。このような議論受けて、部分草案 512 条は、
RedVorl313条、ZustOR313条、KE445条を通じて第一草案448条として形成されることとな る(320)。
なお、負担付贈与の撤回については、ドレスデン草案513条(321)、部分草案513条(322)を基礎 に審議されており、Windscheidは、受贈者の責に帰すべき事由により負担が履行されないまま の場合、贈与者は損害賠償の請求、または、贈与の撤回を選択することができるという(323)。Plank も負担を付されてなされた贈与の履行が全部または一部不能の場合、贈与者に、贈与の撤回権 を与え、この撤回は受贈者に対して表示されなければならないとする(324)。しかし、負担が第三 者のために設定されており、第三者が121〜123条に基づき、負担の履行を請求する権利を有す るときは適用されないとされた(325)。このような議論を受けて、部分草案513条については、「贈 与に付された負担が、全部または一部不能となった場合、贈与者は267条から269条の規定に 基づき(筆者注:不当利得の返還に関する規定)、贈与物を返還請求することができる。受贈者
(320)第一草案448条は、「贈与が負担付きでなされた場合、贈与者は贈与の履行後、受贈者に対
して負担の履行を請求することができる。負担が第三者の利益のためになす場合は412条から 416条の規定を適用する。」と規定された。RedVorl313条、ZustOR313条、KE445条も同様 の条文である(Jakobs/Schubert,a.a.O.(Fn.293),S.394f.)。なお、部分草案二文目に規定してあっ た、受贈者の贈与者への費用償還の規定は、第一委員会において条文案として認められている。
その後、第一草案においても448条の二文目に規定されていたが、第二委員会以降、独立した 条文として議論されており、BGB526条として条文化されている(BGB526条(負担の履行の拒 絶):「贈与された物の権利の瑕疵又はその物の瑕疵の結果、出捐の価値が、負担の履行のため に必要な費用の額に達しないときは、受贈者は、瑕疵により生じた欠損の回復が行われるまで、
負担の履行を拒絶する権利を有する。受贈者が、瑕疵を知らずに負担を履行したときは、受贈 者は、贈与者に対し、履行に生じた費用が、瑕疵の結果、出捐の価値を上回る範囲において、
その賠償を請求することができる。」。)。
(321)ドレスデン草案513条「贈与をする際に、受贈者の不履行により、贈与者あるいは第三者の
ためにする契約により負担が履行されなかった場合、贈与者またはその相続人は贈与を撤回す ることができる。また、贈与者、あるいはその相続人は不履行に基づき給付の返還請求を受贈 者に請求できる」と規定する(Francke(hrsg.),a.a.O.(Fn.295),S.103.)。
(322)部分草案においてもドレスデン草案と同様の条文であった
(Schubert(hrsg.),a.a.O.(Fn.298),S.137.)。
(323)Jakobs/Schubert,a.a.O.(Fn.293),S.392.
(324)Jakobs/Schubert,a.a.O.(Fn.293),S.392.
(325)Jakobs/Schubert.a.a.O.(Fn.293),S.392.
の帰責事由により負担が不能となった場合、贈与者は負担の不履行のために損害賠償を請求す るか、前文に基づき、贈与物の返還請求を選択することができる」として条文案が形成され、
その後、帝国司法庁準備委員会、第二員会の審議を経てBGB527条において条文化されている
(326)。
(二) 第一草案理由書
このような第一委員会の審議を経て、第一草案が作成された。第一草案には理由書があり、
条文の規定趣旨等が示されている。その後、1879年12月27日、パーペ委員長は、帝国宰相ビ スマルクに本草案および理由書を提出したが、本草案の公表後には、様々な方面から意見が出 され、批判を受けていたという(327)。
以下では、理由書における贈与、負担付贈与の条文趣旨等の解説についてみていきたい。
1 贈与(第一草案437条)
理由書では、贈与の本質および意義について以下のように解説されている。
本条文案は、贈与の意義を規定した条文であるとし(328)、贈与の要件については、一方より他 方になしたる贈与により贈与者の財産が減少し、他方に利得を生ずるなければならず、贈与を 相手方の利得の目的で行い、かつ贈与を贈与物として相手方が受諾しなければならないと解説 されている(329)。さらに、この要件には、贈与が契約としての性質を含んでいるとする(330)。 そして、贈与の契約性については、まず、普通法学説では、贈与は契約たる外観を有するも、
契約としての性質を有しないもの、受贈者の受諾を最低限必要とするもの、意思の一致を必要 とするもの等、各見解が述べられていたとする(331)。その上で、本条文案の見解によれば、贈与
(326)513条に関しては、第一草案では条文化されず、その後の帝国司法庁準備委員会、第二員会
において提案され、条文化された。帝国司法庁準備委員会では「贈与者の過失により負担の履 行が不能となった場合、履行請求権が第三者によるものではない限り、贈与物は742から745 条の規定に従い返還請求することができる。」として448条a案が提案されており、第二委員会 においては448条b案として提案されたが、帝国司法庁準備委員会と同様の条文内容である。
その後、審議を経て、BGBにおいては527条1項、2項において規定されるに至った(BGB527 条(負担の不履行)1項:「負担が履行されないときは、贈与者は、双務契約の解除についての要件 のもと、不当利得の返還に関する規定に従い、負担の履行に対して贈与として予定されていた 出捐の限度において、贈与目的物の返還を請求することができる。」。同条2項「前項の請求権 は、第三者が負担を請求する権利を有するときは排除される。」。)。
(327)詳しくは石部・前掲注(294)33頁以下参照。
(328)Benno Mugdan,Die gesamten Materialien zum Bürgerlichen Gesetzbuch für Deutsch
Reich,Bd.2, Recht der Schuldverhältnisse,1979,S.158f.澤井要一『獨逸民法草案理由書第2編 上巻(復刻版)』(信山社、1999)513-515頁参照。
(329)Mugdan,a.a.O.(Fn.328),S.159.澤井・前掲注(328)513頁参照。
(330)Mugdan,a.a.O.(Fn.328),S.159.澤井・前掲注(328)513頁参照。
(331)Mugdan,a.a.O.(Fn.328),S.159.澤井・前掲注(328)515-516頁参照。