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贈与法の特質と寄付の法的構成

第三章 寄付の法的構成の検討

一 贈与法の特質と寄付の法的構成

(一) 日独における贈与法の特質-寄付の法的構成の議論を手がかりに-

まず、ドイツ法においては、贈与は、贈与者の財産の喪失から、受贈者に利得が生じなけれ ばならず、贈与の前後において、経済的観点によって決定される利得の客観的な増加が必要で あるとされており、立法過程から現在に至るまで受贈者の利得を厳格に解している。このこと から、寄付においては募集者が利得を受けないこと等を理由に、寄付の法的構成を贈与と解し ていない。なお、負担付贈与についても贈与と同様に、受贈者の利得の欠如等を理由に批判が なされていた。

ドイツ法においては、贈与、負担付贈与構成について様々な批判的考察がなされており、こ の点については、本稿第二章Ⅲの二(一)で論じた箇所と重複するので詳論は避けるが、Fischbach は、寄付者と贈与における贈与者には共通する点と相違する点があると指摘している(675)。例え ば、寄付者、贈与者はともに好意よって何らかの出捐をしており、どちらの出捐も、無償の出 捐により、最終的に出捐者の財産を減少させ、誰かの財産を増加させている点は共通するとい

(676)。相違する点としては、寄付の場合、寄付者の目的は特定人の利得、すなわち贈与におけ

る受贈者を利得させるようなことを望んでおらず、それを超えた慈善的な目的を目指している

とする(677)。それに対して、贈与の場合、特定人に対する出捐、すなわち、特定の受贈者を目的

に無償で出捐がなされるとする。そして、寄付においては、寄付者の直接の相手方は募集者で あり、この募集者は利得を得ることがない中間者と理解され、さらに寄付目的に貢献する人物 である理解されるとする。このような理由から、Fischbachは、寄付者と贈与者の出捐が好意に 基づくという点では共通するものの、前述したように寄付の場合は、寄付を受ける募集者が問 題となり、それは贈与の本質的な要素から逸脱すると述べる(678)。このようにFischbachは、贈 与における受贈者の観点と、寄付における募集者の観点が一致しないことが贈与と寄付の区別 の根拠となっているとする。また、ドイツ法においては、前述したように、寄付を信託行為に よって構成するのが一般的であったが、信託関係と贈与の区別については、信託行為による譲 渡等は、これは単に別の権利を強化するものであり、新しい財産価値を与えることを目的とし ていないから利得ではないとして贈与とは区別しており、信託財産は、経済的にも法的にも受 託者の財産に向けられるものではないと説明されていた(679)

(675)RegelsbergerもFischbachと同様の指摘をしていた。本稿第二章Ⅲの二(一)参照。

(676)Fischbach,a.a.O.(Fn.400),S.89.

(677)Fischbach,a.a.O.(Fn.400),S.90f.

(678)Fischbach,a.a.O.(Fn.400),S.90f.

(679)本稿第二章Ⅱの四(一)参照。その他、Schmidは、信託関係は主に受託者の財産増加によって

その他、Coingは、負担付贈与と信託行為による出捐は基本的に異なるとする(680)。後者の場 合、出捐を受けた者は、中間者としてのみの機能を有する場合であり、出捐物は、完全に移転 されなければならず、このような状況は特に寄付の場合において想定されるという。さらに

Coingは、後者の場合、すなわち、寄付の場合は、寄付者が募集者たる財団等へ無償の出捐をな

していることから、ここでは贈与の性質が存在するものの、基本的に贈与は受贈者が贈与の対 象物を自由に処分できることを前提に考えられなければならないとする。そして、寄付者が寄 付目的のためになした募集者への出捐には、信託関係が存在するという(681)。しかし、Coingは、

一般的な法的現象としての信託は未だ法律上明確ではないことに注意するべきであり、受贈者 が出捐物の処分に制限がある場合、それは純粋な贈与ではなく、贈与と信託の混合であると考 えるべきであり、受贈者が受け取った出捐物が(受贈者の)個人的利益以外の目的に使用される限 り、それは信託的な出捐であるとする(682)。Coingはこのように述べ、贈与については受贈者が 自由に贈与物を使用する限りにおいて贈与だとしており、無償の出捐による受贈者の個人的な 利得を贈与の特質の一つとしてみているようである(683)

次に、日本法においては、立法過程から現在において、贈与は自己の財産により相手方に利 益を与える契約であるとされ、財産出捐が無償でなされることに両当事者が合意し、無償の出 捐によって贈与者の財産が減少し、受贈者が財産的利益を受けることと理解されている。負担 付贈与については、立法過程においては、受贈者自身が、利得があると思って負担付贈与を承 諾すれば負担付贈与とみなされるとし、受贈者があらゆる負担を負担付贈与の負担と理解する 立場にあり、贈与者の出捐と受贈者の負担との間の対価のバランスが取れていない場合、受贈 者に利益がある場合を広く負担付贈与と解する立場であった。この立場は、債権法改正の議論 においても共有されており、民法(債権法)改正検討委員会は、負担が贈与者の債務と対価関係に ないことを表す意味で、受贈者の債務を「負担」と表現することとし、負担の内容を広く解す ることを前提として、負担の内容については定義規定を設けず、負担の解釈については一定程 度の柔軟性がある(684)

決定されるものではなく、受託者の法的権限が委託者の意図によって制限されているという特 徴を有するとし、これに対し贈与の場合は、通常、受贈者は贈与物の処分権を完全に得ること ができるとする(Schmid,a.a.O.(Fn.451),S.62.)。

(680)Coing,a.a.O.(Fn.559),S.104f.

(681)Coing,a.a.O.(Fn.559),S.104f.

(682)Coing,a.a.O.(Fn.559),S.104f.

(683)また、贈与の要件については、贈与者の出捐と受贈者の利得の他に、財産移転の無償性に関

する合意が必要であり、贈与説、負担付贈与説に対する批判としては、後者の要件が寄付の場 合に存在しないとも指摘されていた。本稿第二章Ⅲの二(一)参照。

(684)民法(債権法)改正検討委員会では、民法(債権法)改正検討委員会では、負担付贈与は、贈与者

の財産移転義務と受贈者の負担が、両当事者の主観的あるいは客観的にみて対価的関係に立た ないことを必要としており、負担の範囲を広く理解する立場にある。

日本法では、贈与、負担付贈与構成についてはドイツ法のように受贈者の利得等の観点から 批判が詳細になされていないが、日本法においても贈与が自己の財産により相手方に利益を与 える契約と解されているので、ドイツ法のように受贈者の利得を厳格に解せば、贈与、負担付 贈与構成は否定的に解される。しかし、日本法では、前述のように受贈者の利得の議論は負担 付贈与と関連してなされており、受贈者が負担付贈与によって利得を得るかどうかは、主観的 に決することも可能であり(685)、この点、受贈者の利得を厳格に解するドイツ法とは異なってい る。したがって、日本法における贈与の特質は、財産出捐が無償でなされることに両当事者が 合意し、無償の出捐によって贈与者の財産が減少して、受贈者が財産的利益を受けることであ るといえるものの、受贈者の利得の解釈については、負担付贈与においてある程度柔軟に解釈 できるという特質を有すると理解できる。

(二) 負担付贈与構成と寄付財産の保護の必要性

これまでの考察を踏まえると、寄付の法的構成については、日本法では、一応寄付を贈与と して論じるものの、寄付者から募集者への寄付の移転を信託的譲渡と解しており、単なる贈与 とは区別しているが、負担付贈与における負担の内容を柔軟に解することができれば、あえて 信託的譲渡と解する必要もないように思われる。なぜなら、この信託的譲渡は、財産権譲渡の 一態様であるものの、一般の財産権譲渡が終局的な財産権移転を目的とするのに対し、財産権 の復帰等を予定する「信託的」な譲渡という点で一般的な譲渡と異なると思われるが、一般的 な財産権譲渡においても、他方の債務が履行されない場合等、一定状況においては、契約の解 除により一度移転した財産権の復帰等があり得るからである。つまり、寄付を負担付贈与と解 した場合でも、募集者が負担を履行しなければ、寄付者は負担の履行を請求することができ、

それでも履行されない場合は、契約を解除することが可能である。したがって、この点からい えば、寄付を負担付贈与と構成することは不可能ではなく、わざわざ通説のように信託的譲渡 とする必要性はないと考える。したがって、寄付を信託的譲渡と構成するのではなく、負担付 贈与構成によって捉えることが可能であると思われる(686)

しかし、寄付においては、信託法上の信託の適用が必要となる場面が存在すると考える。そ れは、募集者が破産した場合、募集者の債権者による寄付財産の差押さえ等の場合において寄

(685)これについては、法典調査会において、穂積委員は、負担付贈与についてはやはり自分に利

益があると思ってそれを承諾すればこそ負担付贈与となるとしている(法典調査会・前掲注 (71)179頁)。民法(債権法)改正検討委員会編・前掲注(16)213-214頁も参照。

(686)その結果、近時の贈与の現実類型に着目し、贈与の多様性を直視して論じる議論との関係で

は、公益、慈善的な目的のために三者が関与して行われる寄付を贈与の類型の一つとして新た に認識することができる。

付財産の処遇が問題となった場面である(687)。なぜこのような場面において、信託法上の信託の 適用が必要となるのかについては次のような理由が考えられる。すなわち、大規模な義援金等 の寄付の場合、集められた寄付財産は極めて公共的な性格、役割を担っており、募集者の破産 財団の組み入れ、債権者による差押え等から保護する必要性が高いと思われる。そして、負担 付贈与構成の場合、募集者に目的に従って寄付財産を使用する義務等を負わせることは可能で あるが、寄付財産を募集者の固有財産とは分別して管理させ、信託財産として募集者の破産財 産の組み入れ、債権者による差押え等から保護することまではできない。

以上のことから、本稿では、寄付を法的にどのような構成によって捉えるべきかといった問 題に対しては、基本的には寄付を負担付贈与構成によって捉えるべきであると考えるが、寄付 には前述した理由から信託法の適用が必要となる場面が存在し、可能な限り信託法の準用ない し類推適用によって寄付財産の保護を図る方向性を考えるべきであるという立場をとる。そし て、寄付の法的構成をこのように考えた場合、いかなる基準によって信託法の準用ないし類推 適用が考えられるかという問題にあたると考えられる。これについては以下で検討することと したい。