高血圧以外の原因による脳出血の治療
◉エビデンス 1.自然歴
脳動静脈奇形の自然発生は12.4人/100万人/年で、う ち70%は出血発症で58%は脳内出血発症であった1)(レ ベル3)。スコットランドでの成人(16歳以上)の調査では 1.12人/10万人/年であった2)(レベル3)。脳動静脈奇形の
自然歴を報告した 9 論文(うち 3 論文は本邦からの報告)
のメタアナリシスでは、脳動静脈奇形の未出血例の年間 出血率は2.2%で、出血例では4.5%、全体では3.0%であっ た3)(レベル1)。米国 4 施設のメタアナリシスでは、未出 血例の年間出血率は1.3%で、出血例では4.8%、全体では 2.3%であった追1)(レベル1)。本邦における集計では脳動 表 脳動静脈奇形に関するSpetzler-Martin分類(1986)
特 徴 点 数
大きさ
小(< 3 cm) 1
中( 3 〜 6 cm) 2
大(> 6 cm) 3
周囲脳の機能的重要性 重要でない(non-eloquent) 0
重要である(eloquent) 1
導出静脈の型 表在性のみ 0
深在性 1
大きさ、周囲脳の機能的重要性、導出静脈の型の点数の合計点数をgradeとする。
重症度(grade)=(大きさ)+(機能的重要性)+(導出静脈の型)
=(1、2、3)+(0、1)+(0、1)
Spetzler RF, Martin NA. A proposed grading system for arteriovenous malformations. J Neurosurg 1986;65:476-483.
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脳卒中治療ガイドライン 2015[追補 2017]
Ⅲ
脳出血
〔 73 〕
脈瘤のみ手術する9)(レベル4)。出血急性期の血腫除去 および脳動静脈奇形の外科的切除術は手術成績が良好で あり、画像上脳ヘルニアの危険の高い重症例でも出血急 性期の積極的手術が勧められる24)(レベル4)。手術後の modified Rankin Scale(mRS)は非出血群のほうが出血群 に比し良好である(1.44 vs. 1.90)25)(レベル4)。術後脳動 静脈奇形残存群と未治療群では、年間出血率に差はない とする報告26)(レベル4)と、部分的治療を行った場合は 未治療に比べて成績不良という報告がある9、27)(レベル 4)。脳幹部動静脈奇形(特に中脳背側、小脳橋角部の軟 膜下、軟膜外)の出血例に対する外科的手術は有効であ る28)(レベル4)。
5.定位放射線治療
定位放射線治療での完全閉塞率は、脳動静脈奇形のサ イズあるいは容積と放射線量に依存する。容積が小さい ほど完全閉塞率が高く、4 mL未満では76〜88%、4 〜 10mLでは52〜74%とされている17、29、30)(レベル4)。ガ ンマナイフ単独による治療の限界は10cm3である30)(レベ ル4)。治療後閉塞するまでの潜伏期における年間出血率 は1.8〜5.0%で治療前と有意差はない17、31、32)(レベル4)
とする報告と、出血発症例では潜伏期でも出血のリスク は治療前と比較して65%減少するが、脳動静脈奇形が消 失してもわずかながら出血の可能性は残る33)(レベル4)
とする報告がある。定位放射線治療後の出血の危険因子 として、出血の既往、脳動静脈奇形が未消失、高血圧の 既往、脳動脈瘤の合併がある34)(レベル4)。定位放射線 治療後の副作用として、遅発性放射線障害によるMRI変 化が24〜38.2%に、神経症候が4.4%〜9.9%に認められ、
そのうち永続性は0.9〜2.1%で29、35)(レベル4)、脳幹部や 基底核周辺(中脳、視床、基底核、脳室周囲、脳梁)は合併 症率が高いとされている36)(レベル4)。遅発性嚢胞形成 は5年以上経過観察した例の23%に認められた37)(レベル 4)。定位放射線治療後の良好な転帰(脳動静脈奇形消失、
治療後出血なし、永続的な放射線関連症状なし)は、脳動 静脈奇形の小容積、non-eloquent局在、出血の未既往など が有意に相関し、これらを要素としたグレーディングス ケールは良好な転帰の達成率と相関した35)(レベル4)。 6.塞栓術
塞栓術単独での完全消失率は6〜40%とされ38-40)(レベ ル4)41)(レベル3)、外科的手術または定位放射線治療前 の栄養血管閉塞またはナイダスの体積減少を目的として 行われている42、43)(レベル4)。Onyx(本邦では塞栓術単 独では保険適用外)を用いるとより高い塞栓率が得られ、
塞栓術単独での完全消失率が50%を超えたとする海外の 報告がある44)(レベル4)。塞栓術に関連する合併症率は 一過性を含めると患者あたり9.5〜14%で、そのうち永続 静脈奇形の破裂は全出血性脳卒中の 1 〜 2 %を占めてい
た4)(レベル2)。出血例での年間出血率の経時的推移は、
出血後の最初の 1 年は 6 〜32.9%5-7)(レベル4)と高く、
その後年々低下し、5 年以後は1.72〜2.2%であった6、8)(レ ベル4)。Spetzler-Martin分類 grade 4、5の年間出血率は 1.1%と低いとされていたが9)(レベル3)、10.4%という高 い報告もある10)(レベル4)。システマティックレビュー の結果、脳動静脈奇形患者の年間死亡率は0.68%と報告 されている11)(レベル1)。
2.出血の危険因子
メタアナリシスの結果、出血の既往(ハザード比3.2)、
脳深部局在(ハザード比2.4)、深部静脈のみへの流出(ハ ザード比2.4)、脳動脈瘤の合併(ハザード比1.8)が統計学 的に有意な出血の危険因子として報告されている3)(レベ ル1)。別のメタアナリシスの結果では、出血の既往(ハ ザード比3.9)および高齢(ハザード比1.34/10歳)が出血の 独立した危険因子であった追1)(レベル1)。女性3)(レベル 2)、深部静脈への流出3)(レベル2)5)(レベル3)、穿通枝
領域12、13)(レベル4)、流出静脈狭窄14)(レベル4)なども危
険因子として指摘されている。出血の危険因子としては、
小児、女性、深部局在で出血率が高い6)(レベル4)とする 報告と、初回出血率は小児に高い傾向があるが、再出血 の頻度は成人と小児で差がないとする報告がある(10年 間の年間平均出血率:小児2.0%、成人2.2%)15)(レベル 4)。出血の少ない因子としては二つ以上の主幹動脈境界 部の局在がある16)(レベル4)。
3.動脈瘤の合併例
脳動脈瘤を伴った脳動静脈奇形は出血発症が多い12、13)
(レベル4)。動脈瘤の存在は定位放射線治療後の出血の 危険を 4 〜 8 倍高くするので、定位放射線治療前に処置 すべきという報告17、18)(レベル4)と、ナイダス内動脈瘤 は出血の危険因子となるが、流入動脈近位部動脈瘤は出 血の危険が少なく、ナイダス閉塞により50%以上の自然 退縮を30%に認めたとする報告19)(レベル4)がある。
4.外科的手術
外科的切除術による神経学的後遺症発生率はSpetzler- Martin分 類 のgrade 1は 0 〜8%、grade 2は 5 〜36%、
grade 3は16〜32%、grade 4は21.9〜65%、grade 5は16.7
〜33%、死亡率は 0 〜 3 %とする報告が多く、gradeの高 いもの、機能的に重要な部位にあるもの、大きな脳動静 脈奇形、深部静脈への流出などで術後の障害や合併症が
多い20-22)(レベル4)。機能的に重要な部位や脳深部局在
例、Spetzler-Martin分類 grade 4ないし5の症例でも、出 血例や症状悪化例には手術が勧められると報告されてい る23)(レベル4)。
Spetzler-Martin分類 grade 4、5の動脈瘤合併例では動
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9.治療適応と治療法の選択
脳動静脈奇形の完全消失率は、手術単独群82%、塞栓 術単独群 6 %、定位放射線治療単独群83%、塞栓術+手 術群100%、塞栓術+定位放射線治療群90%であった。
塞栓術は消失率を向上させるが、死亡率3%は塞栓術に 関連していた38)(レベル4)。142のコホートを含む137の 観察研究をシステマティックレビューした結果、治療に よる消失率は手術で96%、定位放射線治療で38%、塞栓 術で13%であり、一方、永続的な神経脱落症状や死亡を 招く合併症は手術で7.4%、定位放射線治療で5.1%、塞栓 術で6.6%に生じており、いずれの治療法にも不完全な治 療効果と重大なリスクが存在する11)(レベル1)。
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いる45、46)(レベル4)41)、(レベル3)。N-butyl cyanoacrylate
(NBCA)を用いた塞栓術では 3 分の 2 以下の閉塞率で出 血を抑制する効果はなく、塞栓術後出血の危険因子は出 血発症と低閉塞率であった47)(レベル4)。NBCAによる Partial Targeted Embolization Treatment(PTET)は、治 療前と比較して31%年間出血率を減少させ、治療開始 2 年後には自然歴より出血率の減少を認めた48)(レベル4)。 大きなあるいはSpetzler-Martin分類gradeの高い脳動静 脈奇形において、塞栓術と外科的摘出術の組み合わせが 完全摘出率を上昇させ42)(レベル4)、後の神経学的脱落 症候を減少させた49)(レベル4)。外科的摘出術の術前塞 栓物質としてNBCAとOnyxをランダム化して比較した結 果、50%以上閉塞の達成率、摘出術中の出血量、手術時間、
合併症率において同等であった50)(レベル2)。 7.てんかん
天幕上の脳動静脈奇形の30%に痙攣が認められ、それ らの18%は難治性であった。痙攣を伴いやすい危険因子 としては出血の既往(レラティブリスク[RR]6.65)、男 性(RR 2.07)、前頭側頭葉局在(RR 6.65)であった51)(レベ ル3)。痙攣を伴う脳動静脈奇形の外科手術後の痙攣コン トロールは良好で、70〜80%で痙攣は消失した51)(レベ ル3)52)(レベル4)。特に、30歳以上および痙攣発症 1 年 以内の手術施行例は成績良好であった52)(レベル4)。て んかん焦点を認める場合には焦点切除の追加が有効で あった52)(レベル4)。痙攣発症例に対する定位放射線治 療の報告では、51〜77%で発作消失を認め、転帰良好因 子は小容積と治療前発作の低頻度、脳動静脈奇形の消失 であった53、54)(レベル4)。Multimodality treatmentを行っ た痙攣発症141例の検討では転帰良好(free of disabling seizure)が66%で、転帰良好因子は短期病歴、出血に伴う 痙攣、全般性痙攣発作、深部および後頭蓋窩病変、外科 的摘出、脳動静脈奇形の完全消失であり、完全消失例に おいては治療法による有意差は認めなかった55)(レベル 4)と報告されているが、新たに脳動静脈奇形が診断され た成人229例を対象に、保存的治療群と何らかの治療が 行われたmultimodality treatment群とでてんかん発作の 出現を前向きに追跡したところ、5 年間の発作出現リス クは出血発症例、てんかん発症例ともに保存群と治療群 で差がなく(26% vs. 35%、72% vs. 67%)、てんかん発 症例における2年間の発作消失達成率にも差はみられな かった(57% vs. 52%)56)(レベル3)。
8.小児例
小児例では出血発症の頻度が高く再発例も認められる が、外科的手術、塞栓術、定位放射線治療により成人例 と同様な転帰が期待される57-59)(レベル4)。