(1) 非心原性脳梗塞(アテローム血栓性 脳梗塞、ラクナ梗塞など)
発症 2 週間から 6 か月までの日本人の症候性頭蓋内動 脈狭窄を対象に、アスピリンとシロスタゾールの併用療
法とアスピリン単独療法を比較する全国多施設共同研究
(Cilostazol-Aspirin THerapy Against Recurrent Stroke with Intracranial artery Stenosis:CATHARSIS)では、頭 蓋内動脈の進展や脳梗塞の再発に両群間で有意差は認め られなかった58)(レベル2)。背景因子を補正した多重ロ ジスティック回帰分析では、脳卒中および新規無症候脳 梗塞の複合エンドポイントは、アスピリンとシロスタゾー ルの併用群でアスピリン単独群よりも有意に少なかった
(オッズ比0.34、95%信頼区間0.12~0.96、p=0.04)58)(レ ベル3)。
1999年から2003年に患者登録をしたWarfarin Aspirin Symptomatic Intracranial Disease(WASID)試験は、発症 90日以内の脳梗塞ないしTIA患者で50~99%の頭蓋内主 幹動脈狭窄を有する患者を対象に行われた、ワルファリ ン投与群(INR 2.0~3.0)とアスピリン投与群(1,300mg/
日)のランダム化比較試験である。その結果、平均1.8年 の試験期間の間で、死亡や主要な出血などの副作用の発 現率がワルファリン群でアスピリン群に比し 2 倍以上と 有意に(p=0.01~0.02)高く、一方で脳梗塞の再発率には 両群間で差がなかった59)。以上の結果から、50~99%の 頭蓋内主幹動脈狭窄を有する患者にはワルファリンでな くアスピリンが投与されるべきと結論された59)(レベル 2)。
50%以上の頚動脈狭窄を伴い、経頭蓋ドプラー検査で
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脳卒中治療ガイドライン 2015[追補 2017]
Ⅱ
脳梗塞・TIA
〔 51 〕
ン 服 用 中 の 頭 蓋 内 出 血 は、 欧 米 で 実 施 さ れ た 試 験
[CAPRIE(平均観察期間1.9年)、CHARISMA(平均観察 期間2.3年)、ESPRIT(平均観察期間3.5年)、SPS3(平均 観察期間3.4年)]では年間0.15~0.43%であったが、日本 や中国で実施された試験(CSPS2(平均観察期間2.4年)、
Sarpogrelate-Aspirin Comparative Clinical Study for Efficacy and Safety in Secondary Prevention of Cerebral Infarction(S-ACCESS)(平均観察期間1.6年)、JASAP(平 均観察期間1.3年)、CASISP(平均観察期間1.0年)では、
1.00~1.89%と明らかに高率であった。各試験の観察期 間が一様でないことから、頭蓋内出血のリスクを年間発 症率のみから判断することには慎重を要するが、アジア 人種ではアスピリン服用時の頭蓋内出血が欧米人に比し 多いことは留意すべきである67)(レベル2)。
一方、シロスタゾールを投与した臨床試験は中国と日 本でしか行われていないが、これらの試験(CSPS、
CSPS2、CASISP)での頭蓋内出血年間発症率は、0.27~
0.42%と低率であった26)(レベル1)。また、クロピドグレ ルは、欧米での試験(CAPRIE)では頭蓋内出血の年間発 症率は0.18%であったが、欧米と一部のアジアで実施さ れた試験(MATCH)(観察期間1.5年のデザイン)、PRoFESS
(平均観察期間2.5年)では、0.41~0.47%と軽度上昇して おり、日本での第Ⅲ相試験(平均観察期間1.3年)では 0.70%とやや高値であった68)(レベル2)。また、クロピド グレルの日本における市販後調査(COSMO)では、脳出 血がアテローム血栓性脳梗塞患者で0.37%、ラクナ梗塞 患者で0.45%、TIA患者で0.32%に認められた69)(レベル 4)。頭蓋内出血に関しては、ラクナ梗塞患者では、クロ ピドグレル単独群では0.42%であったのに対し、アスピ リン併用群では1.51%と有意に(p=0.0366)増加してい た69)(レベル4)。アテローム血栓性脳梗塞やTIA患者で は、両群間でそのような有意差は認められなかった。以 上より、ラクナ梗塞では、クロピドグレルとアスピリン の併用は控えるべきである(レベル4)。
なお、わが国で実施されたクロピドグレルの用量比較 試験(COMPASS)で、対象を20歳以上75歳未満かつ体重 が50kg以上に限った検討では、頭蓋内出血の年間発症率 は75mg/日群も50mg/日群もともに0.20%と欧米並みに 低かった70)(レベル2)。市販後調査の結果からはクロピ ドグレル服用時の頭蓋内出血は、欧米に比し実臨床では 約2倍多い可能性があるが、処方する患者を75歳未満か つ体重50kg以上に限った場合には頭蓋内出血は増えない 可能性がある。
12.抗血小板薬服用中の血圧管理
脳卒中ないしTIAの既往患者における降圧療法の有効 性と安全性を検証した国際的なプラセボ対照ランダム化 の発生率は、1 年後で17.5%、2 年後で19.8%であり、予
想に反して大変低かった。これは、最初の90日間のアス ピリンとクロピドグレルの併用療法とその後のアスピリ ン単独療法、および厳格な血圧管理とLDL-コレステロー ル管理などからなる高度内科治療が脳梗塞再発予防に優 れていることを示している(レベル2)。
9.抗血小板薬の中止・休薬
長期アスピリン服用中の虚血性脳卒中例あるいはTIA 例を対象とした症例対照研究では、アスピリン中止・休 薬に伴う虚血性脳卒中またはTIA発症のオッズ比は3.4
(95%信頼区間1.08~10.63、p<0.005)であり、特に冠動 脈疾患を有する例におけるアスピリン中止・休薬のリス クが示された62)(レベル4)。
抗血小板薬中止・休薬に関連した脳卒中例は、対象と したすべての脳卒中例の4.49%を占めたに過ぎなかった が、これらの例は中止・休薬後6~10日以内に発症してい た63)(レベル4)。
わが国の歯科三学会合同の「科学的根拠に基づく抗血 栓療法患者の抜歯に関するガイドライン2010年版」64)や、
2012年に改訂された日本消化器内視鏡学会の「脳血栓薬 服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン」65)など では、出血時の対処が容易な処置・小手術(抜歯、白内障 手術など)の施行時は、抗血小板薬の内服続行が勧めら れている(レベル4)。出血低危険度の消化器内視鏡では、
アスピリン、アスピリン以外の抗血小板薬はいずれも休 薬なく施行して良いとされている(レベル4)。出血高危 険度の消化器内視鏡では、アスピリン以外の抗血小板薬 単独内服の場合には休薬を原則として、休薬期間はチエ ノピリジン誘導体が 5 ~ 7 日間、チエノピリジン誘導体 以外の抗血小板薬は 1 日間の休薬とし、血栓塞栓症の発 症リスクが高い症例では、アスピリンまたはシロスタ ゾールへの置換を考慮するとされている(レベル4)。そ の他詳細は、上記ガイドラインを参照してほしい。それ ぞれの記述の科学的根拠のレベルは決して高くないが、
抗血小板薬の不用意な中止による血栓塞栓症のリスクを 回避することが臨床的に有用と判断されている。
10.抗血小板薬服用と発症・再発時重症度
1,643例の急性期虚血性脳卒中例あるいはTIA例を対 象とした横断調査では、発症前のいずれかの抗血小板薬 服用と、入院時あるいは入院 1 週間後の重症度(NIH Stroke Scale:NIHSS)、入院後回復度との間に、何ら有 意な関係は認められなかった66)(レベル4)。
11.抗血小板薬服用中の頭蓋内出血
脳梗塞再発予防を目的として最近行われた抗血小板薬 の大規模ランダム化比較試験で、各抗血小板薬を投与さ れた患者の頭蓋内出血の年間発症率を見ると、アスピリ
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≧160mmHgの4分位で検討すると、120mmHg未満の群(中 央値113mmHg)で他の群に比し有意に(p trend=0.007)頭 蓋内出血が少なかった71)(レベル3)。なお、頭蓋外出血 に関してはそのような関係は認められなかった。
2003年から2006年に日本で実施された、抗血栓薬服用 中の患者を対象とした前向き多施設観察コホート研究
(BAT研究)によると、4,009人の登録患者のうち、47.2%
が単一の抗血小板薬を、8.7%が 2 剤の抗血小板薬を服用 し、32.4%がワルファリンを服用、11.7%がワルファリン と抗血小板薬を服用していた72)。抗血小板薬の中では、
アスピリン単剤、チクロピジン単剤ないしアスピリンと チクロピジンの併用が大半を占めていた。中央値19か月 間の観察期間中に頭蓋内出血を発症した患者では、それ 以外の患者に比し、観察期間中の収縮期および拡張期血 圧が登録時に比し上昇する傾向にあり、多変量解析で他 の背景因子を補正すると、1 か月から 6 か月間、7 か月か ら12か月間の平均収縮期血圧と 7 か月から12か月間の平 均拡張期血圧は、頭蓋内出血の独立した予測因子であっ た72)(レベル3)。ROC分析では、頭蓋内出血を予測する カットオフ値は130/81mmHgと計算された72)(レベル3)。
また、ラクナ梗塞既往患者を対象に2003年から2011年 にかけて海外で施行されたSPS3試験において、平均3.7 年の観察期間中の全脳卒中発症率は、目標収縮期血圧 130mmHg未満の患者群では同130~149mmHgの患者群に 比し、統計的に有意差はなかったものの(p=0.08)、全脳 卒中発症は19%抑制され、特に脳出血は前者で後者に比 し有意に(p=0.03)、63%も抑制されていた73)(レベル3)。 両群間で降圧治療による合併症の発症に有意差はなく、
収縮期血圧130mmHg未満を目標とする降圧治療は安全 に施行可能であると結論されている73)。
なお、CSPS2のサブ解析として、脳出血の発症率は、
どの収縮期血圧レベルにおいてもアスピリン群のほうが シロスタゾール群より高く、特に140mmHgより高いレベ ルでは有意に高かった74)(レベル3)。この事実は、アス ピリンを処方する際は特に血圧の管理が重要であること を示唆している。
以上より、抗血小板薬を処方する際は、頭蓋内出血を 予防するために血圧の管理がきわめて重要であり、目標 として収縮期血圧を130mmHg未満に管理することが一 般に推奨される。