(1)西部大開発を引き続き強力に推進 第11次5か年計画では、地域間のバランス のとれた発展を促進することも重要なテーマ の一つとなっている。これは、三農問題の解 決と同様、所得格差の縮小に資するからであ る。地域開発では、西部大開発の推進がトッ プ・プロジェクトに位置づけられている。こ のほか、東北地域の老工業基地の振興(いわ ゆる東北振興(注)6)、中部地域の掘起こし促進、
東部地域の先駆的発展の奨励、が並列して述 べられており、東部や中部に属する地方政府 への配慮がうかがえる。ただ、東北振興に関 しては、「02年秋の第16回党大会で提起され た重要任務である」として、西部大開発に続 く位置づけがなされている。
西部大開発は、99年6月、江沢民総書記(当 時)が提唱し、00年以降に本格化した巨大 プロジェクトであり、2050年までの50年間 で、相対的に発展が遅れている西部地域(四
(注) 6.東北3省(遼寧省、吉林省、黒龍江省)の旧工業地帯の重工業基盤と食糧基地としての優位性を生かすため、国有企業の リストラと農業インフラの整備による農業生産の効率化を進めるもの。03年以来、中央政府は160項目の国有企業リストラ・
プロジェクトに600億元の資金を投入したほか、国有企業の破産を政策的に誘導している。
図表12 企業形態別の研究開発費(03年)
(単位:社、億元、%)
企業数 研究開発費(A) 売上高
(B) (A)÷(B)
株式会社 6,997 371 36,311 1.02 集団所有制企業 2,048 46 5,413 0.85 国有企業 4,278 113 19,653 0.58 外資企業 6,070 167 29,621 0.56 民営企業 2,883 23 5,499 0.42 合計 22,276 721 96,497 0.75
(備考)国家統計局、科学技術部『中国科技統計年鑑』2005 年版より作成
川、重慶、雲南など12省・市・自治区)の 投資環境を整備し、内外企業の誘致と農業基 盤の強化で所得の底上げを図り、農村地域で の需要喚起と社会不安の解消を目指す戦略で ある。
00〜05年の6年間、西部地域で実施された 国家プロジェクトは70項目、総投資額は約1 兆元(約13.5兆円)にのぼる(図表13)。ま た、00〜04年の外資導入額は累計で116.3億 ドル(約1.3兆円)、東部地域から西部地域へ 進出した国内企業は3万社余り、総投資額は 累計6,000億元(約8兆円)に達したとされる。
これによって、02年以降、西部地域の実質 GDP成長率は全国平均を上回るペースを維 持している。
こうした実績をもとに、第11次5か年計画 では、①インフラ建設で飛躍的な進展を図る、
②生態環境保護で成果を上げる、③特色のあ る優位産業を発展させる、④公共サービスの 改善と充実を図る、という目標が掲げられて いる。
具体的にみると、インフラ建設では従来以
上に財政投入を拡大する方針が示され、毎年 10項目以上の新規重点プロジェクトが立ち 上げられる、とみられる。特に、国際鉄道や 省際鉄道、「西煤東運(西の石炭を東に運ぶ ルート整備)」、「五縦七横(5本の南北幹線道 路と7本の東西幹線道路)」、8本の省際道路、
大型発電所、「西電東送(西の電力を東に送 る送電設備)」などの建設があげられている。
生態環境保護では、「退耕還林還草(耕作 に適さない農地を森林や草地に戻す事業)」
に引き続き取り組むほか、三峡ダム地区とそ の上流の水質汚染対策や重点都市の公害対策 を推進する。特色のある優位産業としては、
西部の天然資源、人的資源、観光資源を利用 した産業の発展を目指す。公共サービス面で は、農村における義務教育の普及や農村の新 しい医療制度の整備に力点が置かれている。
西部大開発の主たる目的は、インフラ整備 や人材育成などによって、産業誘致の受け皿 を作ることである。したがって、今後、西部 大開発の対象地域では東部の大企業や外資企 業による投資を促進するため、投資優遇政策
図表13 西部大開発関連指標
単位 00年 01年 02年 03年 04年 05年 実質GDP成長率 前年比、% 8.5 8.8 10.0 11.2 12.7 12.7 全社会固定資産投資 前年比、% 12.7 17.2 19.0 27.3 26.8 30.6 外資導入実績 億ドル 18.6 19.2 20.1 17.2 41.3
前年比、% 1.0 3.6 4.3 △ 14.1 139.5
東部対西部投資 億元 6,000
輸出入総額 億ドル 171.6 168.3 206.0 279.3 367.3 451.3 前年比、% 25.1 △ 1.9 22.4 35.6 31.5 23.0 農民純収入 元 1,632 1,693 1,792 1,921 2,147
前年比、% 1.7 3.7 5.8 7.2 11.8
新規重点プロジェクト数 項目 10 12 14 14 10 10
重点プロジェクト投資額 億元 1,000 2,000 3,300 1,300 800 1,300
(備考)1.数値は西部大開発対象地域(重慶、四川、貴州、雲南、チベット、陝西、甘粛、青海、寧夏、新疆、内モンゴル、広西)
の合計または平均。農民純収入は対象地域ごとの数値の単純平均。05年は暫定値 2.国務院西部地区開発領導小組弁公室、国家統計局資料より作成
の一段の拡充が図られる可能性も大きい。
(2)外資企業にも大きな影響を与える機能 区域の制定
このほか、今次計画では、資源・環境の負 担能力、潜在成長力に基づいて、各地域を最 適化開発区域、重点開発区域、開発規制区域、
開発禁止区域の4種類に区分して、区域ごと の開発方針を明確化し、乱開発による国土の 荒廃を防ぐ政策が示されたことも大きな特徴 である(図表14)。
最適化開発区域とは、開発密度が高く、資 源・環境の負担能力が低下していると見なさ れる地域であり、北京・天津・河北、長江三 角洲、珠江三角洲といった大都市工業圏が指
定されている。
今後、指定地域では大量な資源消費や大量 な汚染放出による高成長方式を改め、成長の 質の向上を図る方針である。具体的には、資 源効率の悪い低付加価値産業を淘汰・移転さ せ、先進的な製造業、ハイテク産業、金融 など近代的なサービス業を積極的に発展させ る。外資利用に関しても、前述のような先端 産業を中心に受け入れることになる。また、
行政区分を取り払って人口と都市の整合的な 分布を実現し、交通等のインフラを共有する ことによって、区域全体の競争力と成長力を 向上させるとしている。
重点開発区域は、資源や環境の負担能力が 比較的高く、経済的な集積が進み、人口条件
図表14 4つの機能区域とその対象地域
最適化開発区域 北京市、天津市、河北省
長江三角洲(上海市、浙江省、江蘇省)
珠江三角洲(広東省)
重点開発区域
遼東半島(遼寧省) 長株潭地区(湖南省)
山東半島(山東省) 漢中地区(陝西省)
閩東南地区(福建省) 成渝地区(重慶市、四川省)
中原地区(河南省) 北部湾沿海地区(広西壮族自治区)
江漢平原(湖北省)
開発制限区域
大小興安嶺森林生態効能区 蘇北沿海湿地生態効能区
長白山森林生態効能区 四川若爾蓋高原湿地生態効能区
川滇森林生態・生物多様性効能区 甘南黄河重要水源補給生態効能区
秦巴生物多様性効能区 川 旱熱河谷生態効能区
蔵東南高原辺緑森林生態効能区 内蒙古呼倫貝爾草原砂漠化防止区 新疆阿爾秦山地森林生態効能区 内蒙古科爾沁砂漠化防止区 青海三江源草原甸湿地生態効能区 内蒙古渾善達克砂漠化防止区 新疆塔里木河荒漠生態効能区 毛烏素砂漠化防止区
新疆安爾金草原荒漠生態効能区 黄土高原丘陵溝壑水土流失防止区 蔵西北羌塘公言荒漠生態効能区 大別山土壌浸食防止区
東北沿海湿地生態効能区 桂黔 等喀斯特石漠化防止区 開発禁止区域(規模)
国家自然保護区(243か所:8,944万ha)
世界文化・自然遺産(31か所)
国家重点風景名勝区(187か所:927万ha)
国家森林公園(565か所:1,100万ha)
国家地質公園(138か所:48万ha)
(備考)『国民経済・社会発展第11次5か年計画要綱』より作成
が比較的よい地域である。遼東半島、山東半 島、閩東南地区、中原地区、江漢平原、長株 潭地区、漢中地区、成渝地区、北部湾沿海地 区などがこれに相当する。これら地域では、
インフラ建設を強化し、積極的に外国資本と 技術を導入して、最適化開発区域や開発規制 区域などから人材、産業を受け入れて、産業 を集積し、産業規模の拡大を進める方針であ る。また、合理的な産業分布、人口分布を実 現することによって、中心都市の大規模化と その衛星都市として中小都市を整備する計画 である。当然ながら、緑地空間を確保するな ど、環境保護にも十分に配慮する。
開発規制区域は、資源や環境の負担能力が 比較的弱く、経済、人口の大規模な集積に適 さない生態環境の保護を優先する地域であ る。例えば、天然林保護区、退耕還林還草を 実施している地区、草原 三化 地区(注)7、 水資源保護区、深刻な水資源欠乏地区、自然 災害頻発地区、砂漠化地区、土壌流失が深刻 な地区などである。こうした地域では、環境 保護を優先し、適度な開発を進め、特定地点 に的を絞って発展させる。資源・環境の状況 をみて特色のある産業を育成し、生態環境保 護を強化し、他地域への移転を通じて過剰人 口を解消する。
開発禁止区域は、各種の自然保護地区であ る。こうした地域では、開発建設活動を一切 禁止し、域内人口を徐々に他地域へ移転させ ることにより、開発禁止区域内の自然破壊を
防止する。
今後、中国政府は、上述の4つの機能区域 ごとに、財政政策、投資政策、産業政策、土地政 策、人口管理政策を策定していく予定である。
すでに、産業政策に関しては、05年12月、『産 業構造調整促進暫定規定』が公布されている。
同規定は、第11次5か年計画期間中の産業構 造調整の目標、原則および方向性を定めたも のであり、そのなかで4つの機能区域に基づ く産業構造の調整も明記されている(注)8。
今後の産業構造調整は、同時に発表された
「産業構造調整指導目録」に基づいて実施され ることになる。同目録は、各種の産業をその 技術、設備、製品によって、奨励類(539項目)、
制限類(190項目)、淘汰類(399項目)に分類・
列挙している(図表15)。また、目録に列挙 されていない産業は許可類とされている。
『産業構造調整促進暫定規定』では、4つの 機能区域と指導目録の分類をどのように組み 合わせて産業構造を調整していくのかを明確 にしていない。現時点での予想では、最適化 開発区域では原則として奨励類に属する産業 振興に注力し、重点開発区域では奨励類と許 可類に属する産業の発展を促す、というスタ ンスが採用されるであろう。
こうした産業政策は、これから中国へ進出 する外国企業のみならず、すでに進出してい る外資企業にも適用されることになるため、
日本企業も今後の政策動向を注意深くウォッ チしていく必要がある。
(注) 7.草原が退化(草木の減少)、砂漠化、アルカリ土壌化している区域 8.『産業構造調整促進暫定規定』第10条