前述のとおり、「95年版マニュアル」に対 しては相応の需要があった。また、信用金庫 等の一部は、同マニュアルを基に地域産業連 関表を独自に作成したうえで経済波及効果を 計測し、分析結果を地域住民へ提示するなど の実績をあげている。
ここでは、浜松地域経済研究会、旧・仙台 信用金庫(現・杜の都信用金庫)、かんら信 用金庫の成果物について紹介する。
(1)浜松地域経済研究会
イ.経済波及効果の計測に至った経緯 浜松地域経済研究会は、浜松信用金庫の発 起により設立された産学官連携(注)4の組織で あり、03年から04年にかけて、静岡県西部 の浜松地域(注)5を対象に、産業構造、産業政 策のあるべき姿についての調査・研究を実施 した。
浜松地域にはスズキ(株)、ヤマハ発動機(株)
が本社を置いており、二輪車・四輪車の一大 製造拠点となっている。実際、遠州地区ベー スの統計データ(浜松商工会議所が公表)を
みると、全国に占める生産台数のウエイトは、
二輪車で81.7%、四輪車で10.0%(軽四輪に 限れば37.0%)に達している(図表7)。
軽四輪車の国内販売が堅調なこともあり、
地域経済のパフォーマンスは相対的に良好に 推移していたが、「生産拠点のアジアなどへ の移転(浜松地域で生産し、海外へ輸出する 流れの先細り)、中長期的には海外からの完 成品の逆輸入の動きが強まる可能性もあり、
先行きについては楽観できない」とみる向き もあった。
これを踏まえ、同地域の中核都市である浜 松市(05年7月の合併前)を対象範囲とする 産業連関表を作成、空洞化の影響などにより 二輪車・四輪車の生産金額が減少した場合を
(注) 4.浜松信用金庫、浜松市役所、浜松商工会議所、浜松地域テクノポリス推進機構、浜松大学、静岡大学、信金中央金庫総 合研究所のメンバーにより構成
5.当時の4市8町(浜松市、磐田市、浜北市、湖西市、竜洋町、豊田町、舞阪町、新居町、雄踏町、細江町、引佐町、三ケ日町)
からなるエリアを浜松地域とした。なお、このうち磐田市、竜洋町、豊田町は他の1町1村とともに合併した(05年4月。新 市名は磐田市)。また、浜北市、舞阪町、雄踏町、細江町、引佐町、三ケ日町は浜松市に編入された(05年7月)。
図表7 遠州地区における生産台数のウエイト
1 (対全国、2004年)
(備考)1.一部、東三河(愛知県東部)の実績を含む。
( 2.浜松商工会議所「浜松経済指標」、日本自動車工
(2 業会「日本の自動車工業」より作成
(%)
81.7%
18.3%
〈二輪車〉
1.5%
7.4%
37.0%
〈四輪車(車種別)〉
0 10 20 30 40
普通四輪 小型四輪 軽四輪
車種別合計の ウエイトは10.0%
遠州地区 その他の地域
想定し、経済波及効果を計測した。
ロ.前提条件、分析結果
生産金額減少の前提を置く際には、前述の 浜松商工会議所の統計データを活用した。
二輪車については、①1台当たりの生産金 額(単価)は緩やかな上昇が続く、②生産台 数は最近の数年間でみられた減少ペースを今 後とも持続する、などを想定して得た、遠州 地区における生産額の変化率(現在→10年 後、33.0%減)を適用し、浜松市産業連関表 ベースの二輪車の生産額が236.5億円減少す るものと前提した。
一方、四輪車については、①単価は二輪車 と同様に緩やかな上昇トレンドをたどる、②
乗用車の生産台数は小型車を中心に減少傾向 が続く、③貨物車の生産台数は車種を問わず、
最近の数年間でみられた減少ベースを持続す る、などを想定して得た、遠州地区における 生産額の変化率(現在→10年後、乗用車6.9%
減、貨物車25.5%減)を適用し、浜松市産業 連関表ベースの乗用自動車、トラック・バス・
その他の自動車の生産額が、それぞれ101.1 億円、191.5億円減少するものと前提した。
計測結果は図表8のとおりである。いずれ についても、①自動車部品等(市内には、数 多くの中小下請メーカーが存在する)への負 のインパクトが大きい、②対事業所サービス、
教育・研究、商業など、他部門への影響も少 なくない、などの特徴を有する内容となって
〈四輪車の生産額が減少した場合〉
直接効果:
△292.7億円
第1次波及効果:△124.4億円
<上位3産業>
①自動車部品等 :△ 76.1億円
②対事業所サービス :△ 10.7億円
③教育・研究 :△ 10.3億円
第2次波及効果:△52.4億円
<上位3産業>
①不動産 :△ 9.0億円
②商業 :△ 8.3億円
③教育・研究 :△ 6.7億円
・直接効果から第2次波及効果までの合計…△469.5億円
・経済規模(名目域内総生産)の押し下げ効果…130.1億円
・従業者の減少数…1,512人
(備考) 1.四輪車の経済波及効果は、「輸入浸透度の高まりに伴い、国内向け生産が減少した場合」を想定した経済波及効果も 計測している。詳しくは浜松信用金庫・信金中央金庫総合研究所編『産業クラスターと地域活性化』を参照されたい。
2.浜松地域経済研究会資料より作成
〈二輪車の生産額が減少した場合〉
直接効果:
△236.5億円
第1次波及効果:△102.7億円
<上位3産業>
①自動車部品等 :△ 57.5億円
②対事業所サービス :△ 9.3億円
③教育・研究 :△ 9.2億円
第2次波及効果:△42.1億円
<上位3産業>
①不動産 :△ 7.3億円
②商業 :△ 6.6億円
③教育・研究 :△ 5.4億円
・直接効果から第2次波及効果までの合計…△381.2億円
・経済規模(名目域内総生産)の押し下げ効果…107.5億円
・従業者の減少数…1,247人
図表8 経済波及効果の計測結果
いる。
なお、当研究会は地元大手メーカー(スズ キ、ヤマハ発動機のほか、ヤマハ、河合楽器 製作所)のトップに対するインタビューも実 施しており、いずれの経営者からも「現地生 産を推し進める方針である」との回答を得て いる。このことを踏まえれば、当事例におけ る前提は、浜松地域の中長期的な将来の姿と して、ある程度の現実性を有するものといえ よう。
ハ.むすび
04年10月、当研究会は浜松市内で報告会 を開催した。
一連の研究成果について解説することを目 的としたものであり、まず、前述の経済波及 効果の計測結果とトップ・ヒアリングについ て紹介し、「主力産業に依存した経済構造か ら脱却することが必要」と提言した。そのう えで、浜松地域の構成員(自治体・関係機関、
企業、地域金融機関など)がとるべき対応と して、①プロダクト・イノベーション(新製 品開発、新市場への進出など)への取組みの 活発化を実現するべくサポート体制の構築を 推し進める、②成長途上の段階にある光電子 分野の産業クラスターを強固なものとするた めに、大学発ベンチャーの創出促進と、浜松 ホトニクスと地元中小企業の連携(人的交流、
共同研究開発の実施など)強化を実現する、
などを挙げた。
当日は、地元の中小企業経営者や金融機関 関係者など約200人が聴講したが、現状を容
認・甘受することに対する危機感の醸成、中 長期的な将来に備えた 自己変革 的な経営 戦略策定への動機付け、などの面で効果があ ったと判断される。
(2)旧・仙台信用金庫(現・杜の都信用金庫)
イ.経済波及効果の計測に至った経緯 宮城県北部に位置する大崎地方の1市6町
(図表9)において、市町合併の議論が高ま っていた。
当金庫にとっては、営業区域内における自 治体統合の動きとして最大級のものであり、
「中核都市として地位を向上していくうえで の参考資料を作成し、地域に貢献したい」と の考えから、総合企画部が中心となって、7 つの自治体より構成されるエリアを対象とし た地域産業連関表を作成、合併特例債により 資金を調達し、その一部を、新しい自治体の
図表9 大崎地方の1市6町
(備考)信金中金総合研究所作成 鳴子町
岩出山町 古川市 三本木町
仙台市
田尻町
松山町 鹿島台町
一体性の確立、均衡ある発展を目的とした建 設プロジェクトに充てた場合の経済波及効果 を計測した。
ロ.前提条件、分析結果
経済波及効果を計測する際の前提は、「大 崎地方合併協議会が掲げる一体性事業(注)6に、
合併特例債で調達した200億円を充てる」と いったものである。当該合併における特例債 の発行限度額(注)7は600億円程度であり、妥 当性のある前提といえよう。
計測結果は図表10のとおりである。直接 効果から第2次波及効果までを合計した生 産 誘 発 額 は291.9億 円 と な り、 波 及 倍 率 は 1.46倍に達する。また、産業別にみると建設 業(201.3億円)のほか、商業(18.4億円)、
対 事 業 所 サ ー ビ ス(16.9億 円 )、 金 属 製 品
(10.0億円)などへのプラス効果が大きくな っている。なお、経済規模の押し上げ効果は 148.6億円であるが、この数字は構成市町の
1つである松山町の、01年度の名目域内総生 産(1年間に産み出された付加価値)にほぼ 匹敵する。
ハ.むすび
当金庫は04年12月に古川市内で講演会を 開き、経済波及効果の試算結果などについて 報告した。新市の将来的な姿を数値の形で具 体的に示されたことにより、聴衆である地域 住民は、改めて市町合併のメリットに関する 認識を深めたと推察される。また、当日の模 様は地元誌などマス・メディアにも取り上げ られ、当金庫のプレゼンス向上にも寄与した と考えられる。
ちなみに、市町村合併の効果を定量的に計 測した先進事例を概観すると、「合併による 人口の増加に伴い、住民1人当たりの歳出額、
地方公務員数がどれだけ削減され得るか」と いった、行政・財政面への効果に関する分析 が多く、実体経済に及ぼす影響にアプローチ
(注) 6.合併市町村の一体化を速やかに推し進めるためのプロジェクト。具体的には、新市内にある幹線道路のネットワーク化(環 状道路の整備)、社会教育施設・文化施設・図書館などを有する複合拠点施設の整備などである。
7.合併後の人口、増加人口(合併関係市町村人口の合計から、当該市町村のうち最大のものを差し引いた人口)、合併関係 市町村の数より算出される。
(備考)旧・仙台信用金庫の資料を基に作成 直接効果:
200.0億円
第1次波及効果:56.5億円
<上位3産業>
①対事業所サービス : 15.0億円
②商業 : 11.1億円
③金属製品 : 9.8億円
第2次波及効果:35.5億円
<上位3産業>
①不動産 : 8.2億円
②商業 : 7.2億円
③対個人サービス : 6.1億円
・直接効果から第2次波及効果までの合計…291.9億円
・経済規模(名目域内総生産)の押し上げ効果…148.6億円
・1市6町の従業者の増加数…2,483人
図表10 経済波及効果の計測結果