(1)指令目標から努力目標へ、直接介入か ら市場コントロールへの転換
2006〜10年を対象とする第11次5か年計画 は、03年7月以降、準備作業が開始され、中央・
地方政府、研究機関および各界の専門家が集 まって重要テーマごとに検討が重ねられた。
この結果を踏まえて、05年10月、中国共産 党第16期5中全会では『国民経済・社会発展 第11次5か年規画の策定に関する中国共産党 中央委員会の提言』が決議された。5中全会 以降、国務院(内閣)は、中国共産党による『提 言』および全国各地から寄せられたアイデア を参考として、専門委員会で各種の重要テー マについてさらに討議し、最終的に『中華人 民共和国国民経済・社会発展第11次5か年規 画要綱』が06年3月の第10期全国人民代表大 会第4回会議(全人代)に提出・採決された(注)1。
(注) 1.計画策定の経緯は、国務院『政府活動報告』06年3月による。第8次5か年計画(91〜95年)以降、計画の策定に当たって は、重要なテーマごとに中央・地方政府が入札方式により国内各種研究機関、大学等に研究を委託し、その結果を計画に 反映させる仕組みが確立されている。
第11次計画は、上述のように、中国の英 知を結集して周到に準備され、従来になかっ た新しい発想が盛り込まれている。第1は、
従来の「5か年計画」という呼称をやめ、「5 か年規画」という名称に変更したことである。
「計画」と「規画」の違いは、以下の3つの意 味合いを持っているとされる(注)2。
①市場メカニズムによって資源の効率的配分 を推進しようとする政府の意図を明確に示 している。
②詳細に定められた量的指標の達成を目的と する内容から、マクロ経済指標や社会指標 を把握し、その調整に重きを置く内容へと 移行したことを示している。
③経済・社会に対する過保護・過干渉、責任
の不明確さなど政府の問題を克服し、政府 の役割転換に向けた新たな道へ踏み出すこ とを示している。
つまり、従来の「計画」は社会主義計画経 済の発想の延長線上にあり、計画目標はすべ て必ず達成されなければならない命令(拘束 目標)であった。しかし、今回の「規画」で は、そこに掲げられた多くの指標が努力目標 であり、無理矢理に達成する必要がないもの であることが明確にされたのである。
第2は、「規画」の持つメッセージを具体化 するため、数値目標を努力目標(中国語:予 期性指標)と拘束目標(中国語:約束性指標)
に分けたことである(図表1)。
例えば、06〜10年の実質GDP成長率は年
図表1 第11次5か年計画の主要数値目標
分類
指 標 2005年 2010年 変化幅(率) 目標の性質
経済成長 国内総生産(GDP、兆元) 18.2 26.1 年平均7.5% 努力目標 1人当たりGDP(元) 13,985 19,270 年平均6.6% 努力目標 経済構造 GDPに占めるサービス業の比率(%) 40.3 43.3 3 努力目標 就業者全体に占めるサービス業の比率(%) 31.3 35.3 4 努力目標
研究開発費の対GDP比(%) 1.3 2 0.7 努力目標
都市化率(%) 43 47 4 努力目標
人口・資源・環境 総人口(万人) 130,756 136,000 年平均0.8%以下 拘束目標
エネルギー原単位(エネルギー消費÷GDP)の低下 20% 拘束目標
工業付加価値1単位当たりの用水量の低下 30% 拘束目標
農業灌漑用水の有効利用係数 0.45 0.5 0.05 努力目標
工業固体廃棄物のリサイクル率(%) 55.8 60 4.2 努力目標
耕地面積(億ha) 1.22 1.2 年平均△0.3% 拘束目標
主要汚染物質の排出総量の削減 10% 拘束目標
森林面積率(%) 18.2 20 1.8 拘束目標
公共サービス・
国民生活
国民の平均就学年数(年) 8.5 9 0.5 努力目標
都市年金加入人数(億人) 1.74 2.23 年平均5.1% 拘束目標
農村合作医療制度の加入率(%) 23.5 80以上 56.5%以上 拘束目標
5年間の都市部就業者増加数(万人) 4,500 努力目標
5年間の農業労働力の他産業への移動人数(万人) 4,500 努力目標
都市部の登録失業率(%) 4.2 5以下 0.8以下 努力目標
都市住民1人当たり可処分所得(元) 10,493 13,390 年平均5% 努力目標 農民1人当たり純収入(元) 3,255 4,150 年平均5% 努力目標
(備考)1.GDP、1人当たりGDP、都市住民1人当たり可処分所得、農民1人当たり純収入は2005年価格 2.主要汚染物質は二酸化硫黄排出量および水質汚濁の程度(化学的酸素要求量<COD>)で計測 3.『国民経済・社会発展第11次5か年計画要綱』より作成
(注)2.人民日報HP(http://www.people.com.cn/)05年10月12日付
平均7.5%、10年の1人当たりGDP(00年価格)
は00年の2倍というマクロ経済の目標が掲げ られているが、これらはあくまでも努力目標 である。努力目標は、「政府が期待する発展 目標であり、政府が良好なマクロ環境、制度 的環境、市場環境を提供し、適宜、マクロ・コ ントロール機能を発揮して、各種の政策を総 合的に運用して社会資源の合理的配分を誘導 し、努力をして実現するものである」とされる。
これに対して、拘束目標(約束性)は「政 府が責任を持つ目標であり、中央政府が公共 の利益の観点から地方政府に対して具体策の 実行を要求するものである。政府は、公共資 源の合理的配分と有効な行政運用によって、
目標を達成させる」とされる。拘束目標とし ては、総人口、エネルギー原単位など国家の 存立に係わるもの、あるいは都市年金加入人 数、農村合作医療制度の加入率など国民生活 の根幹に係わり、緊急性の高いものに限定さ れている。
努力目標と拘束目標の区分は、中国の実情 に適合していると思われる。
従来、地方政府の幹部は中央が掲げたすべ ての目標を拘束性のあるものと受け止め、そ の目標を超過達成することが中央への昇進に つながる、と信じてきた。実際、それが出世 の早道であった。これが成長至上主義の発想 をもたらし、経済効率や環境保護などは犠牲 にされる結果となったのである。
しかし、今後、地方幹部は経済成長率など の努力目標を達成することに大きな意義を見 出せなくなる。経済と社会の調和を目指した
拘束目標の達成に注力しなければ、中央への 昇進は覚束ないのである。これは、地方政府 による経済への直接的な介入を減らし、企業 の自主性と市場メカニズムによる調整機能を 高める可能性がある。
問題は、地方政府の意識改革がスムーズに 進むか否かである。地方政府が国有企業など への直接的な介入を止めることは、地方幹部 の既得権益を放棄することにつながる。エネ ルギー節約や環境保護にいくら努力しても金 にならないと感じれば、元の木阿弥になる可 能性も否定できない。この問題を解決するカ ギは、拘束目標を達成することに対して、中 央政府が地方政府にどのようなインセンティ ブを用意できるか、であろうと思われる。
(2)「三農問題」の解決が最大の戦略的任務 第11次5か年計画の内容は、①新農村建設、
②工業構造の高度化、③サービス業の発展加 速、④地域協調発展の促進、⑤資源節約型・
環境フレンドリー型社会の建設、⑥科学教育 振興戦略と人材強国戦略の実施、⑦体制改革 の深化、⑧相互利益・Win-Winの開放戦略、
⑨社会主義と調和ある社会の建設、などが重 要テーマとして採り上げられている(図表2)。
なかでも、三農問題(農業、農村、農民)
の解決は最大の戦略的任務に位置づけられて おり、そのキーワードが「社会主義新農村建 設」である。新農村建設とは、「都市と農村 の経済・社会の発展を協調させることを堅持 した上で、生産を発展させ、生活を豊かにし、
気風を改善させ、村を美しくし、民主的管理
図表2 第11次5か年計画の概要
項目
内 容
社会主義新農村建設
・ 食糧の総合生産能力を5億トンまで引き上げる。
・ 農産品加工、農産品の保存・輸送などのサービスを発展させ、郷鎮企業の機構刷新、構造調整を図る。農 村の余剰労働力の労働集約型産業やサービス業への移動を促進し、都市部へ流入する労働者の合法的な権 利を保障する。
・ 農民への直接補填を拡充し、農産物価格を合理的な水準に維持し、農業生産財価格を安定させる。農村に おける税費管理を徹底し、乱収費や寄付金や役務の割当を禁止する。
・ 農村の電力網、電話網、インターネット網を整備する。病院を重点とした農村の衛生インフラを建設し、
医療サービスを充実させる。農村教育、技能訓練、文化事業を発展させて、文化的素養があり、技術を理 解し、経営に精通した新しい農民像を創出する。農村の9年制義務教育を普及させ、義務教育段階の学生 の授業料を免除する。
・ 国家財政と予算内固定資産投資を農村へ傾斜配分し、農業、農村への投入を継続的に拡大する。
・ 農業請負制の安定と改善を基礎としつつ、条件が整っている地域については法に基づいた土地請負経営権 の有償譲渡を可能とする。
・ 郷鎮組織の改編を基本的に完了させ、農村義務教育と県・郷の財政管理体制の改革を推進する。
工業構造の高度化
・ ハイテク産業を発展させ、加工組立型から自主開発型の製造へ移行する。中核的な競争力を持つ先端企業 群、集積的・効率的な産業基地、ハイテク多国籍企業群、知的財産権を有する有名ブランド群を形成する。
IT産業、バイオ産業のレベルを向上させ、宇宙航空産業を促進し、新素材産業を発展させる。
・ 自動車産業の自主開発能力を増強し、基幹産業としての役割を発揮させ、国産乗用車の市場占有率を高め、
低燃費車、新型燃料車の開発を奨励する。
・ 安定的で、経済的で、クリーンなエネルギー体系を確立する。電力発電の効率化とクリーン化、石油・天 然ガスの利用、再生可能エネルギーの発展を促進する。10万kw級以上の大型風力発電所を30か所建設する。
・ 冶金工業をレベルアップさせ、新規の鉄鋼生産能力を厳格に抑制し、化学工業の再編、建材・建設業の発 展を促進する。
・ 経済・社会の情報化をレベルアップする。
サービス業の発展加速
・ 鉄道輸送の発展を加速する。鉄道新線1.7万km、うち旅客専用線7,000kmを建設する。
・ 道路網を一段と整備する。道路の総距離を230万km、うち高速道路を6.5万kmまで延長する。
・ 中西部地域および東北地域の空港を新設し、上海・天津・大連などに国際港運センターを建設する。
・ 所有制、経営形態を多様化させ、チェーン経営、フランチャイズ経営を発展させ、現代的な流通システム を確立する。
・ 国内観光を全面的に発展させ、外国人観光客の受入れ、海外旅行を促進する。
・ 体育事業と体育産業を発展させ、北京オリンピック、広州アジア大会を成功させる。
・ サービス業の独占を打破し、参入領域を拡大して、非公有制経済のウエイトを高める。
地域協調発展の促進
・ 西部大開発を推進し、東北の老工業基地を振興し、中部地域を発展させ、東部地域の先駆的な発展を奨励 する。
・ 財政移転と財政による投資を一段と拡大し、民族地区、辺境地区などの発展を加速する。行政の地域的分 断を打破し、生産要素の地域間移動、産業移転を促進する。各地域が多様な形式で経済協力、技術・人材 交流を進めることを奨励する。
・ 国土を最適化開発地域、重点開発地域、開発制限地域、開発禁止地域に区分して、秩序ある合理的な開発 を進める。
・ 土地節約、集約発展、合理的分布の原則の下、積極的かつ安定的に都市化を推進する。
・ 完全に土地を失った農民の都市への移動を促すため、政府は就業支援、技能訓練、雇用保険、最低生活保 障などを責任をもって提供する。
・ 都市と農村に分断された就業管理制度を改革し、戸籍制度改革を深化させ、戸籍登録制度を逐次確立する。
資源節約型・環境フレンドリー型社会の建設
・ 構造改善による省エネ、技術による省エネ、管理による省エネによって、鉄鋼、非鉄、石炭、電力、化学 工業、建材などの産業のエネルギー節約を促進する。
・ 節水によって、農業灌漑用水量のゼロ成長を実現し、都市における節水設備の使用を強制的に推進する。
・ 農地の建設用地への転用を抑制し、都市における大規模な広場の建設を抑制する。2010年までに都市に おけるレンガの使用を禁止する。
・ 工業廃棄物、生活廃棄物の再利用を促進する。
・ 2010年の都市汚水処理率が70%を下回らないようにし、大気汚染の防止、粉塵・噴煙・微粒物・排気ガ スの処理能力を強化する。固体廃棄物による汚染防止を強化し、2010年の都市生活ゴミの無害化処理率 が60%を下回らないようにする。
・ 限度のある開発、秩序のある開発、有償による開発を実行し、各種の自然資源の保護、管理を強化する。
法律に基づいて、土地利用の審査と耕地収用の補償制度を厳格に執行し、農村における建設用地管理を強 化する。