32
③電線類(地中化)
日本では昭和 3(1928)年に芦屋市六麓町にお いて、初めて電線の地中化が行われた。これまで は、整備のしやすい大都市の幹線道路で行われて きた。無電柱化は、昭和 61(1986)年度から 3 期 にわたる「電線類地中化計画」、平成 11(1999)
年~平成 15(2003)年度の「新電線類地中化計画」、
平成 16(2004)年~平成 20(2008)年度の「無電 柱化推進計画」に基づき整備が実施されてきた。
松江城周辺の観光地では、電線の地中化が行わ れており、塩見縄手地区(通り①)、北堀町景観形 成区域の一部(通り②)、内濠地区(通り⑨)が該 当している。これらは松江市の観光政策の一環と して整備されたものである(写真 2-12、写真 2-13)。
(3)色彩
景観法により、良好な景観形成実現のために色 彩についての規制が設定されるようなったが、そ れぞれの地域により景観形成基準は異なる。色彩 に関する規制は以下のように二つに分かれる。一 つは、具体的な数値や色票を使い基準を設定して
いる規制である。もう一方は、「けばけばしい色は避ける」というような表現により具体的な基準 を定めない規制である。対象とする松江市の色彩基準は、「けばけばしい色彩はできる限り避け、
落ち着いた色彩を基調とし、周辺の景観との調和に配慮すること」、「敷地内の屋外設備、工作物 等の色彩は、大規模建築物本体及び周辺の景観との調和に配慮すること」とあり、「マンセル国際 標準色票」により推奨色を設定している。また、日本における色彩誘導の方法は、大きく分けて 6 種類ある。派手な色の制限、彩度の制限、色相の制限、明度の制限、トーンの制限、使える色 の指定の 6 種類である。景観条例における色彩の取り扱いについて、近年では、景観条例に明確 な基準を盛り込む行政も現れてきた。しかし、彩度の上限が色相のみで規定されているところが 多く、明度の概念が盛り込まれていないなどの問題がある。
分析に先立って、松江市の色彩基準について把握する必要がある。松江市における色彩の取り 扱いについて、彩度の上限が色相のみで規定されており、明度の概念が盛り込まれていない。松 江市の彩度における規制は、R 系統で 6 以下、YR 系統で 6 以下、Y 系統で 4 以下、その他の色相 で 2 以下が許容範囲となっている(図 2-6)。
これらの色彩基準をふまえて、街路景観を構成する要素の内、特に色彩が目につきやすい外壁、
屋根、門・扉・塀の 3 項目について明度と彩度の調査を行うこととした。
測色方法は、天候(晴れ)ならびに時間(午後 13 時~15 時)を一定にし、マンセルのカラー
R 赤 YR 橙
Y 黄 G 緑
P 紫 B 青
明 度 明
度
彩度 彩度
明 度 明度
彩度 彩度
明 度 明度
彩度 彩度
図 2-6 松江市色彩基準の一例
33
5R 5YR 5Y 色相 明
度
0 2 4 6 8 10
N
色相 彩 度
5R 5YR 5Y 0
2 4 6 8 10 12 14
5GY 5GY 5G
5R 5YR 5Y 色相 明
度
0 2 4 6 8 10
N
色相 彩 度
5R 5YR 5Y 0
2 4 6 8 10 12 14
5GY 5GY 5G
5R 5YR 5Y 色相 明
度
0 2 4 6 8 10
N
色相 彩 度
5R 5YR 5Y 0
2 4 6 8 10 12 14
5GY 5GY 5G
5R 5YR 5Y 色相 明
度
0 2 4 6 8 10
N
色相 彩 度
5R 5YR 5Y 0
2 4 6 8 10 12 14
5GY 5GY 5G
5R 5YR 5Y 色相 明
度
0 2 4 6 8 10
N
色相 彩 度
5R 5YR 5Y 0
2 4 6 8 10 12 14
5GY 5GY 5G
5R 5YR 5Y 色相 明
度
0 2 4 6 8 10
N
色相 彩 度
5R 5YR 5Y 0
2 4 6 8 10 12 14
5GY 5GY 5G
5R 5YR 5Y 色相 明
度
0 2 4 6 8 10
N
色相 彩 度
5R 5YR 5Y 0
2 4 6 8 10 12 14
5GY 5GY 5G 5R 5YR 5Y
色相 明
度
0 2 4 6 8 10
N
色相 彩 度
5R 5YR 5Y 0
2 4 6 8 10 12 14
5GY 5GY 5G
伝統美観保存区域(塩見縄手地区)
北堀町景観形成区域 景観計画区域
外
壁 外
壁
屋根 屋
根 屋
根
門・ 扉
・塀
門
・扉
・ 塀
門・ 扉
・塀 伝統美観保存区域
(塩見縄手地区)
北堀町景観形成区域
景観計画区域
少 多
※1) 塩見縄手地区は、塀で囲まれた武 家地であるため、通りから建物の壁面が 目視できないため、除外した。
※2) 分布図の範囲外の建物については 別に記述した。これらは全て松江市色彩 基準を満たしていない値である。
※3) 色彩分布内の黒い太枠は松江市色 彩基準であり、彩度についてのみ基準が 設定されている。
凡 例
分布外:2.5PB4/10
分布外:10BG4/8
分布外:5PB4/6
分布外:10B3/8、10B8/4
分布外:10RP3/8
分布外:10B3/8、2.5PB4/10
図 2-7 色彩分布
34
チャートを使った視感測色調査を行った。松江市色彩基準を参考に必要な 色彩を検討した結果、JIS 標準色票(2163 色)の中から色相 R、YR、Y、GY、
G、BG、B、PB、P、RP の 10 色相を 2.5、5、7.5、10 の 4 段階と無彩色の N を 0.5 刻みに分類したものを使用することにした注16)。明度・彩度について は 1.0 刻み又は 0.5 刻みとした。原則として、直接カラーチャートと比較 し測定を行ったが、屋根などの高い位置にある部位は、間接の方法で測定 した。各項目の調査において、複数以上の色彩が使われている場合には、
面積の広い部位の色を測色することにした。また沿道に塀があり、建物の 壁面および屋根が見えない場合には、測色を行っていない。
以上の方法で色彩の測定を行い、区域ごとに色相-明度、色相-彩度の分 布図をまとめたのが、図 2-7 である。また、通り沿いにおける色彩の統一 性を数値により示すために、多様度指数 D を検討する。Simpson の多様度指 数は最も代表的な多様度指数の一つであり、下記の式で表すことができる注
17)。
S
i
Pi D
1
1 2
D は、0~1 の範囲にあり、多様性が高いほど 1 に近づき、多様性が低いつまり統一性が高いほ ど 0 に近い値となる(表 2-7)。なお、色相については、2.5、5、7.5、10 の 4 段階しかないため、
多様度指数が低くなると予想される。そのため、色相の多様度指数は除外した。通り①の塩見縄 手地区は、塀で囲まれているため、塀の色彩により検討した。以上より、色彩の調査結果につい ては、景観法における景観計画の区域ごとに分析していくことにする。
①伝統美観保存区域(塩見縄手地区)
塩見縄手地区では、すべての建物が塀に囲われた屋敷型であり、外壁が街路景観として見えた 事例はなかった。ついで沿道から見える屋根について測色したところ、すべてが無彩色であり、
明度は 3~4 であった。これは通りから見える屋根がすべて黒色の和瓦で統一していたことを示し ている。ついで門・扉・塀についてみてみると、色相は茶系統の YR 系統を基調としており、彩度 は 2〜4 の範囲に、明度は 4〜6 の範囲におおむねおさまっており、統一された色彩の門・扉・塀 が設置されていることがあらためて確認された。
多様度指数については、明度と彩度ともに 0.70 となった。統一された塀により町並みがつくら れているが、老朽化や塀の塗り直し、建替えの場所があり多様度指数が高くなったと考えられる。
注16)BG、B、PB、P、RP の色彩の建物はほとんどないため、図 2-7 に数値のみ記載した。
注17)S は色彩の種数、Pi はある色彩の数が全体のなかで占める割合(相対優占度)を示す。
通り
番号 明度 彩度
① 0.70 0.70
② 0.78 0.38
③ 0.74 0.80
④東 0.84 0.81
④西 0.75 0.71
⑤北 0.65 0.80
⑤南 0.80 0.81
⑥北 0.63 0.76
⑥南 0.84 0.83
⑦西 0.74 0.81
⑦東 0.67 0.79
⑧南 0.78 0.77
⑧北 0.75 0.77
⑨ 0.45 0.74
表 2-7 外壁の多
様度指数
35
②景観形成区域(北堀町)
北堀町の外壁についてみてみると、無彩色の明度 9 が 最も多いことがわかる。これは外壁に白い漆喰を塗った ものが多いためである。有彩色の場合、色相は R・YR・Y の範囲におさまっていることがわかる。彩度は 4 以下の 割合が多いことがわかる。しかし基準の上限である彩度 6 のものも一定数みられた。松江市の彩度の基準が非常に 甘く設定されていることに鑑みると注18)、そのなかで基準 の上限いっぱいというのは、景観を阻害する要因になっ ているとみてよい。これらは新建材の建物が多数該当し ている。明度については、5 以上のものが多く、どちらか といえば明るい色が好まれていることがわかるが分布は 多岐にわたっている。北堀町には、新建材による非伝統 的建築物も多く、色彩において統一した町並みにはなっ ていない(写真 2-14)。
つぎに屋根についてみてみると、無彩色の明度 1~3 が 多いことがわかる。これは黒色の瓦が多く使われている ことによる。有彩色では、色相は R・YR・Y の範囲におさ まっており、彩度はほとんどが 2 以下の低彩度になって いる。このため屋根については一定度の統一感が保たれ ているといえる。
門・扉・塀については、無彩色では明度 8 のものが多い。これはアルミサッシの扉が多く使わ れていることが原因だと考えられる。有彩色では、YR 系統の明度 2〜3、彩度 3〜4 の分布が多い。
これは濃い茶系統の囲繞施設が多いことを示しているが、北堀の一部に屋敷型の伝統的建築物が 多数存在していることがその要因となっている。
このほか全体的な特徴的としては、色相、彩度、明度ともに広く分布していることが挙げられ る。彩度は 4 以下のものが多数を占めているが、基準限度の 6 の建物もいくつか存在しており、
景観を阻害する要因になっている。明度については 3〜9 の範囲に広く分布している。囲繞施設に おいても、外壁と同様、多様な材料のものが使用され、統一感のある色彩の町並みは形成されて いないことを示している。
多様度指数は、通り②(彩度)、通り⑤北側(明度)、通り⑥北側(明度)、通り⑦東側(明度)
において 0.70 以下の数値を示したが、残りの通りでは、0.70 以上となっており、多様性が非常 に高いといえる。
注18)例えば、松江と同様に歴史的景観整備に力を入れている奈良市では、明度 5 以下のものに限っては彩度 6 以下となっているが、明度 5 以上であれば彩度 3~4 以下となっている。
・写真は、平成 28(2016)年 4 月に撮影し たものである。