第三章 低酸素応答型遺伝子発現システムの組織工学への応用
3.3 高機能組織構築を目指した低酸素応答型遺伝子発現システムの応用
80
81
実験方法
3.3.2.1 プラスミドベクターの作製
pLenti/TRE/VEGF/IRES/tTA のコンストラクトとその作製手順を Fig. 36 に示
す。まず、すでに構築されたプラスミドpLenti/TRE/GFPmodcを制限酵素EcoRI に よ っ て 切 断 し 、 目 的 DNA 断 片 を 得 た 。 同 様 に し て 、
pQMSCV/CMV/mVEGF164/IRES/EGFP(秋山裕和氏作製)を制限酵素XbaI, ClaI
によって切断し、目的DNA断片を得た。以上2つの遺伝子断片についてBlanting 処理(DNA断片末端の平滑化処理)を、pLenti/TRE/GFPmodc由来のDNA断片 のみ CIAP 処理(DNA5’末端の脱リン酸化処理)を行った後に Mag 精製を行っ た 。 以 上 得 ら れ た 2 断 片 を 用 い て ラ イ ゲ ー シ ョ ン 反 応 を 行 い 、 pLenti/TRE/VEGF/IRES/tTAを作製した。
Fig. 36 Flowchart for the construction of pLenti/TRE/VEGF/IRES/EGFP plasmid.
82
3.3.2.2 安定発現株取得
上記pTRE/VEGF/IRES/EGFPとpRTP801/TA-ODDを用いて作製したレンチウ
イルスベクターをMOI=30の条件でC2C12細胞へと共感染させた。その後、1 % 酸素条件下で2日培養し、セルソーター(Sony)によってEGFP蛍光陽性の細胞 バルクを取得した。取得したバルクを1 µg/mLのDox添加培地を用いて3日培 養後、再度セルソーターを用いてEGFP 蛍光の消失した Dox 応答性陽性バルク を取得した。取得したバルクに対して限界希釈を行うことで安定発現株の取得 を行った。
3.3.2.3 安定発現株の発現プロファイル解析
取得した低酸素応答VEGF安定発現株のうち低酸素応答性を示した#5と#8に 対して詳細な低酸素応答性・Dox応答性試験を行った。1.5×104 cells/wellの密度 で6ウェルプレートに細胞を播種し、24時間後に培地交換を行った。その後1%
酸素下で48時間培養し、培養上清を回収した。上清回収後の細胞に対してフロ ーサイトメーターによるEGFP蛍光解析を行った。また、回収した培養上清に対 してVEGF量を定量するためのELISA試験を行った。
3.3.2.4 安定発現株の自律的遺伝子発現抑制試験
低酸素応答VEGF安定発現株#5と#8に対して、低酸素下で遺伝子発現を誘導 した後、通常酸素下に戻すことで遺伝子発現が抑制されるかを調べた。1.0×105
cells/wellの細胞密度で6ウェルプレートに細胞を播種した。24時間後、細胞増
殖を停止させるため、10 µg/mLのMMC含有培地で37℃、2時間インキュベー トした。通常培地に培地交換した後、1%酸素下に曝し2日間培養し、さらに19%
83
酸素下で3 日間培養した。この培養期間中、24時間毎に培養上清の回収と培地 交換を行った。回収した培養上清に対してELISAを行いVEGFの定量を行った。
結果と考察
3.3.3.1 安定発現株の発現プロファイル解析
取得した低酸素応答VEGF安定発現株のうち#5と#8に対して低酸素応答性・
Dox 応答性試験を行った。1%もしくは 19%の酸素濃度条件下で 48 時間培養し た後、フローサイトメーターによってEGFP発現レベルを解析した。この際、両 酸素条件に対して Dox 添加・非添加条件を設定した。その結果、Dox 非添加条 件において、#5と#8 はどちらも 1%酸素条件において 19%酸素条件より高い位 置にヒストグラムのピークが見られたため、低酸素環境に応答して、より強い EGFP蛍光を示すことがわかった(Fig. 37)。一方でDox添加条件においては、
#5と#8は1%, 19%両条件においてピークの位置は変わらなかったため、2 種類
の細胞株はどちらもDox応答性を有しており、低酸素下においてもDox添加に よる遺伝子大量発現の抑制が起きていると考えらえる。
Dox非添加、19%酸素条件における#5と#8を比較すると、#5では約20%の細 胞しかEGFP蛍光を示さないが、#8では約88%の細胞がEGFP 蛍光を示してお り、通常酸素下でのリーク発現が強いということが明らかになった。しかしなが ら、Dox非添加、1%酸素条件下でのEGFP蛍光細胞率、EGFP蛍光強度はどちら も#8の方が#5より高い。これらの結果より、細胞株#8は通常酸素下でのリーク 発現が強いが、低酸素下での遺伝子発現も強く誘導される細胞株であり、#5 は 通常酸素下でのリーク発現が弱く、低酸素環境により厳密に応答して遺伝子発 現が誘導される細胞株であることが示された。
84
Fig. 37 Flow cytometry analysis for cell clones equipped with the hypoxia-responsive transgene expression system. The EGFP-negative cell populations gated by using wild type C2C12 cells are shown in orange, and the EGFP-positive cell populations are shown in green. Dox+, presence of doxycycline; Dox-, absence of doxycycline.
また、EGFP 蛍光解析だけでなく、回収した培養上清に対して ELISA を行う ことで、VEGFの定量を行った。その結果、#5と#8はVEGF量においてもEGFP の発現解析と同様の結果が得られた(Fig. 38)。これらの結果より、リーク発現 レベル、低酸素下での発現レベルに違いはあるものの、#5,と#8は低酸素環境に 応答して VEGF と EGFP を発現する細胞株だということが示された。さらにど ちらの細胞株も Dox 添加によって遺伝子大量発現を抑制できるため、Dox 応答 性を有する細胞株であることが明らかになった。
85
Fig. 38 VEGF expression levels measured by ELISA. Cells under 19% O2 with (open columns) or without (shaded columns) doxycycline; cells under 1% O2 with (hatched columns) or without (closed columns) doxycycline. Data are expressed as mean ± SD (n = 3).
3.3.3.2 安定発現株の自律的遺伝子発現抑制試験
最後に、低酸素下で遺伝子発現誘導された#5と#8を通常酸素下に曝すことで、
自律的な遺伝子発現の抑制が起こるかを調べた。#5, #8を1%酸素下で2日間培 養した後、19%酸素下で 3 日間培養した。24 時間おきに回収した培養上清に対
してELISAによるVEGF量の定量を行った。この際、コントロールとして5日
間 19%酸素下で培養し続ける条件を設定した。その結果、遺伝子を導入してい
ないwild type(WT)では酸素濃度にかかわらず5日間ほとんどVEGF発現がみ
86
られなかったのに対し、#5, #8 では 1%酸素下における VEGF 発現がみられた
(Fig. 39)。さらにどちらの細胞株も、1%酸素条件の後に通常酸素下に曝すこと
で、VEGF発現量は、コントロールと同程度まで低下した。これらの結果は、#5 と#8 が環境刺激に対して自律的に遺伝子発現の on/off 制御を行うことを示して いる。
Fig. 39 Time course analysis for VEGF expression levels. Open columns, cells cultured under 19%
O2 for 5 days; closed columns, cells cultured under 1% O2 for 2 days, then cultured under 19% O2 for 3 days. Data are expressed as mean ± SD (n = 3).
本節のまとめ
本節では、VEGFを発現する低酸素環境応答型遺伝子発現システムを構築し、
C2C12細胞へと導入した。取得したVEGF安定発現株を低酸素下で培養した後、
EGFP発現解析とVEGF発現量の定量を行うことで、取得した細胞株が低酸素応 答性を有することを示した。また、低酸素環境が克服されると遺伝子発現が抑制 されるかを調べるため、低酸素下での培養に続いて通常酸素下で細胞株を培養 し、その際の VEGF 発現量を経時的に定量した。その結果、細胞株は低酸素下 でVEGFを発現した後、通常酸素下ではVEGF発現が抑制されることを示した。
87