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飛行状態推定

ドキュメント内 航空宇宙工学専攻 博士後期課程 (ページ 35-40)

第 3 章 解析ツール ________________________ 20

第 2 節 飛行状態推定

第1項 位置情報

地上において位置情報は各種航空保安施設から入手することが可能である.位置およ び高度情報は航空路監視レーダー(Air Route Surveillance Radar:ARSR),洋上航空路 監視レーダー(Oceanic Route Surveillance Radar:ORSR)および空港監視レーダー(Airport Surveillance Radar:ASR)に設置されている二次監視レーダー(Secondary Surveillance

Rader:SSR)から得られる.二次監視レーダーは航空機に搭載しているATCトランス

ポンダーに対して質問波を発信する.質問波を受信したATCトランスポンダーは機体 の気圧高度を含むデータを応答波として発信する.この応答波を受信することで得るこ とができる.

また,近年ではADS(Automatic Dependent Surveillance:自動位置情報伝送・監視機能) を装備する機体も増えてきている.ADS は航空機の航法システムから得られる航空機 の位置情報を自動的に管制システムに伝送している.航空機が自らの情報を発信してい るため,高い精度の位置情報を得ることができる.管制はこれらの情報を処理すること でレーダーと同様の表示を行い,航空機を監視することが可能である.ADS には 2 種

類有り,1090MHzで自動的に放送しているADS-Bと主に洋上で使用され衛星を介して

地上にデータを送信するADS-Cがある.また,ADS-Bの機能には自機情報を発信する

ADS-B OUTと他機が発信した情報を受信するADS-B INがある.航空交通管理の研究

では主に航空機から位置情報を含むデータが得られるADS-B OUTの情報を受信し使用 される.

この節では時刻,位置情報ならびに気圧高度が得られる SSR,ADS-B といった監視 データを使用して飛行状態推定の方法について説明する.

第2項 エアデータの推定

この項では監視データから得られた時刻,緯度,経度および気圧高度と,同時刻の気 象データにより航空機の幾何学的高度ならびにエアデータを推定する方法を述べる.気 象データの内挿補間は,時刻,緯度,経度についてはそれぞれの変数に対して線形となる補 間を行い機体の時刻,位置における物理量を推算する.与えられた気圧における気象データ の気圧面の内挿補間については,気圧面間の温度の変化を考慮した気圧と高度の内挿関数を 使ってジオポテンシャル高度,幾何学的高度,気温,水平面の風を導く.これらの機体の位 置における気象情報と慣性速度ベクトルから実際の航空機が算出しているTAS,CASおよ びMach数のエアデータを推定する.

気象データの内挿

エアデータの推定に使用する気象予報データは気象庁が発表している客観解析デー タを用いる[20].客観解析データは数値計算に用いる物理モデルや格子間隔等の違いに より数種類発表されている[21].表 3-1は3種類の数値予報GPVデータ,GSM(Global

Spectral Model)全球域,GSM日本域およびMSM(Meso-Scale Model)に格納されている物

理量を示している.

表 3-1 数値予報GPVデータの概要

データ名 GSM(全球域) GSM(日本域) MSM 初期値

(実況値) 00, 06, 12, 18 (UTC) 00, 03, 06, 09, 12, 15,

18, 21 (UTC)

領域 全球 北緯:20~50 [度]

東経:120~150 [度]

北緯:22.4~47.6 [度] 東経:120~150 [度] 格子間隔

(気圧面 データ)

緯度方向:0.5 [度] 経度方向:0.5 [度]

緯度方向:0.2 [度] 経度方向:0.25 [度]

緯度方向:0.1 [度] 経度方向:0.125 [度]

気圧面 1000, 925, 850,

700,600, 500, 400, 300, 250, 200, 150, 100,75,50,30,20,10 [hPa]

1000, 975, 950, 925, 900, 850, 800, 700, 600, 500, 400, 300, 250, 200, 150, 100 [hPa]

格納物理量

(気圧面 データ)

ジオポテンシャル高度, 気温, 上昇流,相対湿度, 風速(東西方向,南 北方向)

ここで飛行状態推定を行う上で気象データの精度は重要である.気象データの精度に ついては参考文献[22]で以下の結果が得られている.

1. GSM全球域,GSM日本域およびMSMの実況値については,航空機が飛行する 上空の大気温度および風速を評価した場合においてはほとんど差異がない.大気 温度の誤差はフライトの全時間の2乗平均平方根誤差で2K以下,風速の誤差は 5m/s以下である.

2. MSMは予報時間が長くなるにつれて予報の精度が悪化するが,GSMは予報時間 の変化に対して精度のばらつきが小さく,MSMよりも精度がよい場合が多い.

3. 日本以外の気象データの精度は,太平洋上において観測されたデータで評価した 結果,日本上空とほぼ同程度の精度を確認することができた.

数値気象予報データGPVは時刻,緯度,経度,気圧の格子点において与えられるので,

機体の位置におけるジオポテンシャル高度,気温,風からなる気象情報は格子点の物理量を 内挿補間することにより導くことができる.以下に気象データを内挿する手順を述べる [23].

(ⅰ) 緯度,経度の内挿

初めに線形補間を用いて緯度,経度について内挿を行う.内挿後のデータは,圧力を 格子点とするジオポテンシャル高度,気温,東西方向および南北方向の風速となる.ま た,時間方向にも線形補間を行う.

(ⅱ) 高度方向の内挿

気温および風速はそれぞれ高度に対して線形補間を用いて内挿を行う.標準大気モデル を適用することでデータ取得点における気圧は得ることができる.気圧高度計は標準大 気におけるジオポテンシャル高度を出力していることから気圧高度Hとジオポテンシ ャル高度hpは等しいとする.

ジオポテンシャル高度hp と気圧pについては,ρを空気密度,𝑔𝑔0を標準重力加速度と すると高度方向の大気の状態は式(3.1),式(3.2)で与えられる.

𝑝𝑝=𝜌𝜌𝜌𝜌𝜌𝜌 (3.1)

𝑑𝑑𝑝𝑝

𝑑𝑑ℎ𝑝𝑝=−𝜌𝜌𝑔𝑔0 (3.2)

静水圧平衡の式は式(3.2)のようにジオポテンシャル高度hpを使用することにより,重 力加速度は定数として扱うことができる.

対流圏のジオポテンシャル高度hpと静圧pの関係式は式(3.3)のようになる.

𝑝𝑝=𝑝𝑝0�𝜌𝜌0+𝑏𝑏ℎ𝑝𝑝 𝜌𝜌0

−𝑔𝑔𝑏𝑏𝑏𝑏0

(3.3)

ただし11km以上においては標準大気モデルの成層圏の式(3.4)を用いる.

𝑝𝑝 =𝑝𝑝𝑡𝑡𝑒𝑒𝑒𝑒𝑝𝑝 �− 𝑔𝑔0

𝜌𝜌𝜌𝜌𝑡𝑡(ℎ𝑝𝑝 −11000)� (3.4) ここで,𝑝𝑝0= 1013.25[hPa],𝜌𝜌0= 288.15[K],𝜌𝜌= 287.05[J/K・kg],𝑏𝑏=– 6.5[K/km], 𝑔𝑔0= 9.80665[m/s2],𝑝𝑝𝑡𝑡 および𝜌𝜌𝑡𝑡は標準大気状態での高度11 km における気圧および温 度で𝑝𝑝𝑡𝑡 = 226.32[hPa],𝜌𝜌𝑡𝑡 = 216.65[K]である.

気圧については線形補間を用いることは適当ではないと考えられることから気圧の 内挿関数を次のように導く.

いま,2つの気圧面(𝑝𝑝1,𝑝𝑝2)におけるジオポテンシャル高度(ℎ𝑝𝑝1,ℎ𝑝𝑝2)が気象データより 与えられている.気温は高度方向に線形であると仮定できることから気温減率b

𝑏𝑏= 𝜌𝜌2− 𝜌𝜌1

ℎ𝑝𝑝2− ℎ𝑝𝑝1 (3.5)

であり,任意のジオポテンシャル高度hp(ℎ𝑝𝑝1<ℎ𝑝𝑝<ℎ𝑝𝑝2)における気温T

𝜌𝜌=𝜌𝜌1+𝑏𝑏(ℎ𝑝𝑝 − ℎ𝑝𝑝1) =𝜌𝜌2+𝑏𝑏(ℎ𝑝𝑝 − ℎ𝑝𝑝2) (3.6) より計算できる.またその気温T における圧力は式(3.7),式(3.8)で求められる.

𝑝𝑝𝑟𝑟=𝑝𝑝1�𝜌𝜌 𝜌𝜌1−𝑔𝑔

𝑏𝑏𝑏𝑏0 (3.7)

𝑝𝑝𝑏𝑏 =𝑝𝑝2�𝜌𝜌 𝜌𝜌2−𝑔𝑔

𝑏𝑏𝑏𝑏0 (3.8)

ただし,|𝑏𝑏|<10−6の場合は,等温層であるとして式(3.9),式(3.10)を用いる.

𝑝𝑝𝑟𝑟=𝑝𝑝1exp�− 𝑔𝑔0

𝜌𝜌𝜌𝜌1(ℎ𝑝𝑝 − ℎ𝑝𝑝1)� (3.9) 𝑝𝑝𝑏𝑏=𝑝𝑝2exp�− 𝑔𝑔0

𝜌𝜌𝜌𝜌2(ℎ𝑝𝑝 − ℎ𝑝𝑝2)� (3.10) ここで,𝑝𝑝𝑟𝑟hpより下面の気象データ(p1, T1) より求められた気圧であり,同様に𝑝𝑝𝑏𝑏hpより上面の気象データ(p2, T2)より求められた気圧 である.

実際の気象予報データを用いて計算した場合,厳密に一致しないことから,以下の式

(3.11)を用いて重み付き平均をとりジオポテンシャル高度ℎ𝑝𝑝求める.

ℎ𝑝𝑝=ℎ𝑟𝑟 𝑝𝑝2− 𝑝𝑝 𝑝𝑝2− 𝑝𝑝1

+ℎ𝑏𝑏 𝑝𝑝 − 𝑝𝑝1

𝑝𝑝2− 𝑝𝑝1 (3.11)

幾何学的高度hは式(3.12)を用いてジオポテンシャル高度から求められる.

ℎ=� 𝑟𝑟0

𝑟𝑟0− ℎ𝑝𝑝� ℎ𝑝𝑝 (3.12)

ここで,𝑟𝑟0 はUS STANDARD ATMOSPHERE 1976[24]で定義されている地球半径

(6356.766km)である.

気温,水平面の風データについては,ここで得られたジオポテンシャル高度を用いて 線形の内挿補間を行う.

速度の推定

ここではTAS,CAS,Mach数を求める.

監視データから得られた緯度および経度の時間変化から求めた航空機のトラック角 𝜓𝜓 を用いると,対地速度ベクトル𝑽𝑽�������⃗は式𝑮𝑮𝑮𝑮 (3.13)で求めることができる.

𝑽𝑽𝑮𝑮𝑮𝑮

�������⃗= [𝑉𝑉𝐺𝐺𝐸𝐸cos(𝜓𝜓) 𝑉𝑉𝐺𝐺𝐸𝐸sin(𝜓𝜓)]T (3.13) ただしVGS は監視データの時刻と位置情報から推定した対地速度(スカラ)であり,

トラック角𝜓𝜓 は方眼北を基準として時計回りに定義している.

𝑽𝑽������������⃗𝑻𝑻𝑻𝑻𝑮𝑮𝑯𝑯は真対気速度の水平方向のベクトルであり,式(3.14)で求めることができる.

𝑽𝑽𝑻𝑻𝑻𝑻𝑮𝑮𝑯𝑯

������������⃗+𝑽𝑽���������⃗𝒘𝒘𝒘𝒘𝒘𝒘=𝑽𝑽�������⃗ 𝑮𝑮𝑮𝑮 (3.14)

ここで,𝑽𝑽���������⃗𝒘𝒘𝒘𝒘𝒘𝒘は気象GPVデータを線形補間することで得られた風速ベクトルである.

数値気象予報の風データは鉛直方向速度成分をゼロと仮定して推定を行っているため,

2次元のベクトルとなっている.

上昇率𝑽𝑽�����⃗から𝑽𝑽 𝑽𝑽���������⃗は式𝑻𝑻𝑻𝑻𝑮𝑮 (3.15)より求められ,𝑉𝑉𝐶𝐶𝐶𝐶𝐸𝐸は式(3.16),式(3.17)から求められる.

𝑽𝑽𝑻𝑻𝑻𝑻𝑮𝑮

���������⃗=𝑽𝑽������������⃗+𝑻𝑻𝑻𝑻𝑮𝑮𝑯𝑯 𝑽𝑽�����⃗ 𝑽𝑽 (3.15)

𝑉𝑉𝐶𝐶𝐶𝐶𝐸𝐸=�2 𝜅𝜅

𝑝𝑝0

𝜌𝜌0��1 + 𝑝𝑝

𝑝𝑝0��1 +𝜇𝜇 2

𝜌𝜌

𝑝𝑝 �𝑽𝑽���������⃗�𝑻𝑻𝑻𝑻𝑮𝑮 2

1𝜇𝜇

−1��

𝜇𝜇

−1��

2

(3.16)

𝜇𝜇=𝜅𝜅 −1

𝜅𝜅 (3.17)

ここでκは空気の比熱比1.4である.

Mach数M は𝑉𝑉𝑇𝑇𝐶𝐶𝐸𝐸ならびに音速をa とすると式(3.18)で求めることができる

𝑀𝑀=𝑉𝑉𝑇𝑇𝐶𝐶𝐸𝐸

𝑎𝑎 (3.18)

ただし

𝑎𝑎=√𝜅𝜅𝜌𝜌𝜌𝜌 (3.19)

であり,T は気象データより線形補間で内挿した気温である.

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