第 5 章 音楽大学の学生の特徴,および進学調査使用項目と性格検査との関係
5.2 男女差の検討
5.2.1 音楽大学への進学理由の男女差について
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68 (3) 分析方法
男子学生と女子学生の平均値に関して等分散を仮定しない 2 条件の差の検定を行った。
5.2.1.3 結果と考察
音楽経験(レッスン期間),進学決定時期および進学理由項目への回答について,男女別 の平均値,標準偏差および検定結果をTable5.2.1に示す。また,男女差を検討するために 平均値に関して等分散を仮定しない 2 条件の差の検定を行ったが,検定の結果から有意差 が見られたものおよび有意傾向3を示した進学理由項目のみを取り上げて作表している。
まず,レッスン期間(Q1)の男女差については,男子学生(M=8.22)より女子学生
(M=13.37)の経験年数が長い。この結果は,一般的に女子に対して幼年期からお稽古ごと として音楽のレッスンを受けさせるケースが多いことを示した先行研究とも対応している が,音楽大学に進学した学生の中でも,このような男女差の存在が確認された。
また,音楽大学への進学決定時期(Q2)の男女差を見ると,女子学生(M=15.22)より も男子学生(M=16.27)の決定時期がやや遅い。これは,音楽経験年数について相対的に男 子学生が短いことが影響している可能性もある。ただし全体としては,多くの学生が高校入 学前から高校入学して間もなく進路を決定しているようだ。
進学理由については,積極的な進学理由を示していると思われる項目のうち,「将来展望」
因子にも含まれる項目「自分の求めている生き方ができる(Q3.2)」について,やや男子学 生の値が高い(ただし,p<.1)。次に,「能力活用」因子に含まれる 2 項目「他の教科より音 楽が得意(Q3.3)」「自分の能力を生かすことができる(Q3.4)」)は,女子学生の値が高い。
また,「音楽的同一性」因子に含まれる 3 項目「音楽を自分から取り上げたら何も残らない
(Q3.5)」「音楽は自分の一部(Q3.6)」「音楽活動を行うことが自然(Q3.7)」および,内容 的には似た要素を持つと思われる「音楽活動を行うことで自信(Q3.8)」についても,女子 学生の値が高い(ただし,Q3.5 については p<.1)。なお,「感動体験」の影響を示す項目
(Q3.1)については男子学生の値が高かった(ただし,p.<1)。
他者の影響を示す進学理由項目(Q3.9~Q3.13)で男女差が見られたものは,1 項目(Q3.11)
3 p<.1 を「有意傾向」とすることは,統計的検定結果を示す上で望ましくないと指摘され ることもあるが,今回の分析においては考察上重要な意味を持つ項目も含まれており,解 釈を控えめに行う方針でここでは使用する。
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を除いてすべて女子学生の値が高い(ただし,Q3.13 についてはp<.1)。レッスン期間も長 く,高い技能を持っていることにより,家族を含む周りからのサポートを得やすいことにつ ながっているとも言えるが,女子学生の方が周りからの影響を受け易いという可能性も考 えられる。唯一,男子学生がより高い値を示した項目が「父親の協力」(Q3.11)であった
(ただし,p<.1)ことは,同性の親からの影響力の強さをうかがわせるものである。
また,「消極的進学理由」因子に含まれる 2 項目「勉強したくないが大学に行きたい
(Q3.15)」「音楽以外に得意な科目がなかった(Q3.16)」,および第3章の分析において「将 来展望」因子に逆転項目として含まれていた「なんとなく決めてしまった(Q3.14)」につい ては,学生全体の平均値が低い中でも,男子学生は女子学生よりもさらに平均値が低かった
(ただし,Q3.16 についてはp<.1)。
これらの結果から女子学生,男子学生それぞれの特徴を以下にまとめる。
Table5.2.1 レッスン期間,進学決定時期および進学決定理由項目への回答の男女別平均値
分析対象項目 M SD M SD
Q1 レッスン期間(年) 8.22 (4.60) 13.37 (2.98) ***
Q2 進学決定時期(歳) 16.27 (1.56) 15.22 (2.41) **
<進学理由項目(文章の一部を省略)>
Q3.1 音楽の素晴しさを知る感動的な体験があった 4.26 (1.09) 3.99 (1.14) † Q3.2 自分の求めている生き方ができると思った 4.03 (1.23) 3.73 (1.24) † Q3.3 他の教科より音楽が得意だった 3.64 (1.44) 4.20 (1.12) ***
Q3.4 自分の能力を生かすことができると思った 3.48 (1.36) 3.85 (1.10) * Q3.5 音楽を自分から取り上げたら何も残らないと思った 3.29 (1.60) 3.61 (1.42) † Q3.6 音楽は自分の一部分であり,やめられない 3.67 (1.44) 3.98 (1.17) * Q3.7 音楽活動を行うことが自分にとって自然 3.64 (1.39) 4.04 (1.07) **
Q3.8 音楽活動を行うことで自分に自信が持てる 3.20 (1.44) 3.56 (1.21) * Q3.9 母親の音楽活動に影響を受けた 1.47 (1.13) 1.82 (1.39) * Q3.10 母親のすすめがあった 1.52 (1.07) 2.36 (1.58) ***
Q3.11 父親の協力があった 3.48 (1.74) 3.06 (1.71) † Q3.12 音楽の先生のすすめがあった 2.15 (1.41) 3.14 (1.59) ***
Q3.13 両親以外の家族の影響があった 1.52 (1.08) 1.81 (1.35) † Q3.14 なんとなく決めてしまった 1.68 (1.26) 2.35 (1.50) **
Q3.15 勉強はしたくないが,大学には行きたかった 1.52 (0.96) 1.98 (1.37) **
Q3.16 音楽以外に得意な科目がなかった 2.00 (1.47) 2.31 (1.44) †
***p<.001, **p<.01, *p<.05, †p<.1
男子学生 N=66 女子学生 N=562
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まず,女子学生は多くの場合,音楽経験が長いことから高い技能を身に付け,そのことに 自信を持ち,音楽活動との一体感も強いことが音楽大学への進学につながっていることも 多いと言えるだろう。また,そのためもあるのか両親を含む周囲からのサポートを得やすい 環境にあることも多いと思われる。ただし,場合によっては本人の積極的な意志を伴わない 決断がなされる危険性もあると言えるだろう。
一方,男子学生については音楽経験がより短いこともあり,自分の技能への自信に乏しく,
音楽活動への一体感が薄い場合もあるが,進学を決める背景には何か特別な感動体験を持 っていることも多い。周りからのサポートも女子学生に比べると得にくい環境にある傾向 もうかがえるが,結果的に進学できた学生にとって,父親のサポートは女子学生よりも心理 的に重要な意味を持つ可能性がある。また,消極的な理由で進学するケースは女子学生より もさらに少ないと考えられ,多くの場合はある程度の覚悟を持って進学を決定しているの ではないかと思われる。