4.1 横方向の振動に関する運動方程式
• 張力に逆らって弦を引き伸ばすと弦のエネルギーは高くなり,
相対論的な弦に対してその静止質量は重くなる.
• 相対論的な弦に対して,張力T0と質量線密度µ0はT0=µ0c2の関係にある(第6章). 現段階では,少なくとも両辺が同じ単位を持っていることを確認できる.
[一般に応力とエネルギー密度は同じ単位(次元)を持つ.
ただしここではT0は力であり,µ0は質量の線密度である.]
静的な状態においてx軸の0≤x≤aを占め,y方向にのみ振動する古典弦を考える(単位長さあたりの質 量µ0,弦の全質量M =µ0a).小さな振動|∂y/∂x| ≪1を仮定して張力T0を一定と見なすと,xからx+ dx までの素片に対する運動方程式
(µ0dx)∂2y
∂t2 =T0 ∂y
∂x
x+dx
−T0 ∂y
∂x
x
≃T0∂2y
∂x2dx は波動方程式
∂2y
∂x2 − 1 v02
∂2y
∂t2 = 0, v0≡
√ T0
µ0 になる.
問題4.1(p.82)
4.1節の解析では,弦の素片にかかる水平方向の力dFh を無視した.これは各位置で弦の傾き∂y/∂x ≡ tanθ(の絶対値)が小さいという条件の下で
cosθ= 1
√1 + tan2θ = 1
√1 + (∂y/∂x)2 ≃1−1 2
(∂y
∂x )2
,
∴dFh= [T0cosθ]x+dxx =−1 2T0
[∂2y
∂x2 ]x+dx
x
≃ −T0∂y
∂x
∂2y
∂x2dx となり,これが垂直方向の力(4.4):
dFv≃T0
∂2y
∂x2dx と比べて|dFh| ≪ |dFv|となることから正当化される.
■微小振動を仮定しない場合 微小振動の仮定を外しても,同時に弦の張力の非一様性を考慮すれば同じ波動 方程式を得ることができる.実際,各位置xで弦の伸びにより張力はT(x)になっているとすると,図7にお いてx方向の力のつり合い
0 =T(x+∆x) cosθ(x+∆x)−T(x) cosθ(x)
図7 弦を伝わる横波
よりT(x) cosθ(x) は位置x に依らずに一定となり,その値は波のないときの弦の張力T0 に一致する
(θ(x)→0のときT(x) cosθ(x)→T0).よってこの場合にも幅∆xの弦の微小部分に働く力のy成分は [T(x) sinθ(x)]x+∆xx = [T(x) cosθ(x) tanθ(x)]x+∆xx =T0[tanθ(x)]x+∆xx ≃T0∂2y
∂x2∆x
となる.こうすれば角度θ(x)が微小であることを仮定する必要はない(近似に用いたのは横幅∆xが微小で あることだけである).
4.2 境界条件と初期条件
• Dirichlet境界条件
弦の両端が壁に固定されている条件:
y = 0 (x= 0, a).
• Neumann境界条件
図8のように弦の両端それぞれに質量のない小さな輪をつけて摩擦のない支柱に通したとき,
∂y
∂x = 0 (x= 0, a).
[∂y/∂x̸= 0とすると輪にはy方向の無限に大きな加速度を持ち,
∂y/∂x= 0となる位置へと瞬間的に移動する.]
初期条件としてyと∂y/∂xの初期値を与えると,波動方程式の一般解 y(t, x) =h+(x−v0t) +h−(x+v0t) における,境界条件を満たすh±が求まる.
4.3 横方向振動の振動数
弦の振動y(t, x) =y(x) sin(ωt−ϕ)が波動方程式を満たすための条件 y′′(x) +ω2µ0
T0
y(x) = 0
図8 弦の自由端にはNeumann境界条件が課される
から
Dirichlet境界条件 → yn(x) =Ansin (nπx
a )
, ωn=
√ T0
µ0
nπ
a , n= 1,2,· · · Neumann境界条件 → yn(x) =Ancos
(nπx a
)
, ωn =
√ T0
µ0 nπ
a , n= 0,1,2,· · · を得る.
4.4 より一般的な弦の振動
■弦の質量密度が位置の関数µ(x)になっている場合 弦の振動y(t, x) =y(x) sin(ωt−ϕ)が波動方程式を満 たすための条件
y′′(x) +ω2µ0
T0
y(x) = 0 においてµ0→µ(x)と置き換わる.
関数µ(x)を特定しなければ,この式の解を詳しく調べることはできない.
■弦の縦方向(弦に沿った方向)の振動(相対論的弦では許容されない) 弦の素片に正味の力がかかるために は,その両端にかかる張力の大きさが違わなければならず,弦全体において張力が一定と仮定することができ ない.
4.5 ラグランジアン力学の復習
時間に依存しないポテンシャルV(x)の下でx方向に運動する質量mの点粒子に対して ラグランジアン L≡1
2mx˙2−V, 作用 S≡
∫ tf ti
Ldt (積分は任意の径路x(t)に沿う), Hamiltonの原理 ⇒ Newtonの第2法則 m¨x=−V′(x).
4.6 非相対論的な弦のラグランジアン
非相対論的な弦に対し
T =
∫ a 0
1 2(µ0dx)
(∂y
∂t )2
,
xからx+ dxまでの素片の伸び √
(dx)2+ (dy)2−dx≃dx1 2
(∂y
∂x )2
⇒ V =
∫ a 0
1 2T0
(∂y
∂x )2
dx なので,ラグランジアン密度を
L= 1 2µ0
(∂y
∂t )2
−1 2T0
(∂y
∂x )2
として
ラグランジアン L=
∫ a 0
Ldx, 作用 S=
∫ tf
ti
dt
∫ a 0
dxL となる.
最小作用原理
0 =δS=
∫ a 0
[ µ0
∂y
∂tδy ]t=tf
t=ti
dx+
∫ tf ti
[
−T0
∂y
∂xδy ]x=a
x=0
dt−
∫ tf ti
dt
∫ a 0
dx (
µ0
∂2y
∂t2 −T0
∂2y
∂x2 )
δy において,我々が最初と最後の弦の状態を任意の指定するため,δy(ti, x) =δy(tf, x) = 0であることから最 右辺第1項は消える.また,Dirichlet境界条件とNeumann境界条件のいずれに対しても最右辺第2項は消 えるため,運動方程式として波動方程式
µ0∂2y
∂t2 −T0∂2y
∂x2 = 0 が得られる.
Dirichlet境界条件(両端固定)の下での弦の運動を考えると,弦の運動量は保存しない.これは壁が弦に力
を及ぼすことによる.一方,弦の運動量py=∫a
0 µ0∂y∂tdxの時間微分は dpy
dt =
∫ a 0
µ0∂2y
∂t2dx=
∫ a 0
T0∂2y
∂x2dx=T0 [∂y
∂x ]x=a
x=0
なので,Neumann境界条件(x= 0, aで∂y/∂x= 0)では運動量が保存する.弦理論では端点がD-ブレイン に接続している弦を考える上で,Dirichlet弦が重要となる.
弦の場合のようにラグランジアン密度が
Pt≡∂L
∂y˙, Px≡ ∂L
∂y′
(ただしy˙≡∂y/∂t, y′ ≡∂y/∂x)のみの関数であれば,最小作用原理から得られる運動方程式は
∂Pt
∂t +∂Px
∂x = 0
図9 弦を伸ばす仕事
となる.弦に対して
Pt=µ0
∂y
∂t :運動量密度, Px=−T0
∂y
∂x なので
Dirichlet境界条件 ⇔ Pt= 0 (端点で) Neumann境界条件 ⇔ Px= 0 (端点で) である.
4.6について
■弦のポテンシャルエネルギー(4.33)について 図9のように弦をx方向の幅dxおきに分割し,x座標の小 さい側から順に弦を変位させて弦の素片を伸ばしたときの仕事を考えれば良い.
■式(4.46)のPt,Pxについて 弦の座標y(t, x)は数学的には物体の位置と言うよりも,t, xを引数とする場 として扱われる.場の理論において場yに共役な場Pt=∂L/∂y˙は場の運動量密度と解釈される.空間座標 xに対しても類似の量Px=∂L/∂y′が定義されていることに注目する.8.3節で明らかになるように,Pxの 物理的な意味は運動量の流束(流れの密度)である.
計算練習4.1,4.2,4.3
計算練習4.1 ξを変数x, tのいずれかとすると,変分に伴い (∂y
∂ξ )2
→ (∂y
∂ξ +∂δy
∂ξ )2
= (∂y
∂ξ )2
+ 2∂y
∂ξ
∂δy
∂ξ +O(δy2) と変化するからδ
(∂y
∂ξ
)2
= 2∂y∂ξ∂δy∂ξ. 計算練習4.2
δy˙ = ∂
∂tδy, δy′= ∂
∂xδy として部分積分する.
計算練習4.3 式(4.47):Pt=µ0∂y∂t,Px=−T0∂y∂xから直ちに分かる.