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非可逆変形と 1 次元塑性モデル

ドキュメント内 構造と連続体の力学基礎 (ページ 131-151)

塑性序論 — 時間が関与しない増分の力学

A

B

A

C

D

E (c) (b)

(a)

図11.3 3種類の破壊形態の微視的な違い

その右側の図である。二つあるSの箇所では,ある結晶面(黒丸のある下の階)からその上の結晶面(その上 の網掛け丸のある階)へとらせん階段のようにつながっている。したがってE付近にある網掛け丸の結晶とそ のすぐ下にある黒丸の結晶とのそれぞれの位置から図の左の方に移動していくと,Sの位置で出会うことにな る。このSのような欠陥をらせん転位と呼び,Eのような欠陥を刃状転位と呼んでいる。黒丸の格子点をつな いだ面(1階)と網掛け丸の格子点をつないだ面(2階)との隙間をつないだ曲線を転位線と呼ぶが,透過電 子顕微鏡ではこれが黒い円弧状の曲線として観察できる。そして面白いことに,力を加えるとこの転位線が移 動するのだ。そして力を逆向きにすると逆方向に移動する。しかしこの転位が界面や表面に達すると,その位 置で新しい界面・表面になってしまい動けなくなる。この表面が作られるときにエネルギが放出されて熱が出 る。これが非可逆的に残留変形が生じる微視的な仕組みのモデルの一つである。

さて上述の(常温環境下の)針金の実験では,繰り返し何度も曲げないと破断までは至らなかった。これは,

延性や靭性と呼ばれる特性のために粘り強くなっているのだ。金属材料の破壊には次のような特性が関係する。

脆性: 普通のガラスのようにほとんど変形しないままパリンと壊れる特性を脆性と呼び,特に低温 環境下で顕著になる。

靭性: なかなか破壊せず(エネルギ的に)粘り強く変形し続ける特性を靭性と呼んでいる。

延性: 例えば引張試験の破断までの主に塑性変形が大きい性質を延性と呼ぶ。この章の塑性論とは,

この延性をモデル化するための数理科学である。

靭性と延性の違い: ただし,延性の高い材料が靭性も高いとは限らない。というのも,靭性は材料 の内部欠陥周辺の微視的な破壊エネルギ的な抵抗の大きさを表すのに対し,延性は単純に延 び易さを示しているからだ。

このような特性に関連して,主に次のような三つの破壊形態がある。

脆性破壊: 変形がそれほど大きくならないうちに壊れることを脆性破壊と呼ぶ。ちょうどガラスが 割れるようなものだと考えればいい。図11.3の左上に描いたように,何らかの原因によって 材料中に亀裂ABが存在した場合で,さらにその亀裂先端の微視的な延性が小さい場合は靭 性が低いので短時間で亀裂が(ある結晶面方向に)伸び続け,材料表面まで達すると破壊す る。亀裂先端の延性が小さいため,そこの塑性変形も小さいまま破断するので,脆性破壊し た材料の破面は目の細かい(大きい番手の)紙やすりくらいに「ザラザラ」している(ガラ スの場合は「ツルツル」)のが普通である。

延性破壊: 同様の亀裂があっても,その先端の微視的な延性が大きい場合には,そこの塑性変形に よって亀裂進展がある程度阻害される。そのため左上の二つ目の図のCまでの経路のように 亀裂先端に塑性変形を伴いながら伸びて破壊する。一方,亀裂が無い場合は転位の集積等が 関係していると考えられている。前述の刃状転位を簡単に描いたのが図11.3の右上に示した 格子配置の三つの状態である。その左図のような位置にある刃状転位は外力の作用で中央の 図のように移動できる。この格子の右端が界面あるいは表面だとすると,さらに外力を作用 させて転位がそこに移動するとその右の図のように一格子面分だけ外に飛び出して,もう元 には戻らなくなって残留変形になる。このときできる新しい表面からエネルギが放出される。

この転位は図11.3の左下の図(a)のように,単結晶粒中に1無数に分布していて自由に動くこ とができる。そして外力レベルが上がるにつれて,中央の図(b)のように転位が界面あるいは 介在物周辺等に集まる。外力の増加に伴って,それが右の図(c)のように転位は界面の新しい 表面になり,同時に大きく塑性変形をしながら剥離して空隙になり,最終的にこの空隙等が つながって破壊する。このような比較的大きな塑性変形を伴う破壊を延性破壊と呼ぶ。延性 破壊した材料の破面は塑性変形のために元の形(角度や面積)をほとんど留めず凸凹で「ゴ ツゴツ」しているのが普通である。触ると痛い。

疲労破壊: もう一つ,例えば鋼の場合には疲労破壊と呼ばれる破壊形態がある。これは材料の微視 的な内部欠陥周辺の微視的な脆性破壊が徐々に進展して起こる。つまり図11.3の左上のよう な状態にある材料が脆性破壊と同じように亀裂の進展を伴うが,1回の外力の作用では亀裂 が材料表面までには達することがなく,徐々に伸びていった場合の破壊形態である。亀裂が 少しずつ伸びるので,疲労破壊した材料の破面は

しましま

「縞々」になっており,貝殻模様や波に洗 われた砂浜の模様(ビーチマーク)が残るのが普通だ。

このように,脆性破壊と疲労破壊の二者は延性破壊とメカニズムが異なっていることが明らかで,前二者を勉 強するには破壊力学を学ぶ必要があるが,著者は苦手なので付録Dにその基礎だけを列挙した。なおこの章は 主にNorthwestern大学のNemat-Nasser先生(1980年頃当時)の‘Plasticity’の講義ノートを参考にした。

さて,車体等をプレスして製造する塑性加工をシミュレートするためや,材料が実際に破断して構造の崩壊 までを設計時に予測するためには,材料によってはひずみが数十%以上までに至る状態をモデル化する必要が あるので,大変形(有限変形)状態までを対象として取り扱わないといけない場合が多い。しかし,そのよう な扱いについては第12章を参考にして欲しい。この章では,その塑性変形を記述する材料モデルの考え方その ものを理解して欲しいので,いわゆる微小変形理論の枠組の中で,上述のような塑性変形を伴う材料特性の数 理的な記述の仕方を説明する。

(2) 実験観察

まず,鋼の最も単純な1軸引張試験等で観察される事実には次のようなものがある。

1. ある外力レベルに至るまでの変形はほぼ弾性だが,あるレベルで塑性変形が大きくなり始める。そのあ との例えば図11.4の点Uのように塑性変形が生じた状態で荷重を取り去ると,そこに至るまでに経験し た変形経路を元に戻るのではなく,太い矢印で示したような別の変形経路をたどる。このとき転位はほ とんど動かず結晶格子そのものの伸び縮みと歪みが元に戻るだけなので,ほぼ弾性挙動を示す。このよ うに,応力ひずみ関係には一対一関係が成立しない上に,同じ応力状態で生じようとする(増分)変形 特性が唯一ではない。

1単結晶毎に結晶面の向きが異なるから界面には最初から転位が存在しているが,図には省略した。

2. その取り去った荷重を再度同じ方向に載せると,図の細い矢印で示したようにほぼ弾性応答をしたあと,

点Uに近づいた時点で塑性変形がさらに大きくなる。つまり,転位を動かすための「力」があるレベル に達したときに塑性変形は増加するのであって,全体の「変形」があるレベルに至って塑性変形が生じ るわけではないのだ。

3. 塑性変形を生じさせ続けると,弾性変形2とは異なり,ほとんどが非線形の応答を示す。これは内部の微 視構造が転位の移動や集積によって変化するからと考えればいい。

4. ただし,鋼球を例えば日本海溝に沈めた場合,もちろん深海では大きな水圧のために体積が変化して縮 んでいるものの,それを海面に戻すと元の径を持つ球に戻る(とは,見てきたかのような嘘だが)。つ まり,等方的な外力載荷(静水圧状態あるいは等方応力状態)では転位は動かないので塑性変形はほと んど3生じない。つまり塑性変形は本質的にはせん断変形であってせん断力の作用と密接に関係している と考えられる。

5. 1方向に大きく塑性変形が生じてしまった材料を,続いて別の方向に変形させていくと,最初の載荷方向 に塑性変形が発生し始めた応力レベルよりも低い応力レベルで塑性変形が生じる4ことがある。これも転 位の移動等によって内部の微視構造が変化したからである。この特性をBauschinger効果と呼ぶ。ただ

し,第11.4.1節で説明する移動硬化則の節以外ではこの性質をモデルには含めていない。

これが数理的塑性論を構築するときの根拠となる基本的な事実であり,多くの弾塑性材料モデルの基本である。

σ,ϵ

O ϵ σ

U

図11.4 1軸引張試験の変形履歴 ちなみに図11.4の2種類の曲線のうち下の曲線は軟鋼の応力ひずみ

関係である。面白いことに踊り場と呼ばれる平らな履歴があるが,こ こで起こっていることが図11.3の下の図(a)から(b)への変化,つま り転位の移動と集積に対応している。一方,踊り場が終わったあとの 曲線は正の勾配を持って硬くなっていくが,これは,図11.3の図(b) に示したような集積した界面等の転位が動き難くなることにその原因 がある。硬くなるので,前述の針金の実験のように塑性変形させたあ と元のまっすぐな状態に戻すのが困難になるのだ。そのあとの応力ひ ずみ関係はピークを迎え,この前後で引張試験片は細くなり(絞りが

生じ)図11.3の(c)のような界面剥離等が生じて巨視的なすべり変形や微視空隙の生成が顕著になってくると 考えられている。一方図11.4の上の曲線は高張力鋼が示す特性で,明確な踊り場が現れていない。これは内部 の結晶粒径の違い等によって転位の移動量が少なくなっているからだと考えられている。

11.1.2 1次元の塑性モデル (1) 基本的なモデル

ここではまず1次元の変形状態を対象にして,基本的な塑性モデルとその記述の仕方を説明する。前節の実 験観察から判断して,次のように考えられる。

• まずは塑性変形が生じ始める規準(後述の降伏条件)が必要だ。それは前述のように変形で定義される 規準ではなく,転位を動かそうとする応力状態で規定されなければならない。しかも観察項目4から明

2ゴムのように非線形挙動をする弾性体も無数に存在する。

3砂・岩・複合材料のような内部に微視構造を持つ材料では等方応力下でも塑性変形が生じる。鋼も多結晶材料であり内部に微視構造を 持つが,等方応力状態の塑性変形は非常に小さいと考えている。

4非均質性が助長するため,特に内部に微視構造を持つ場合(例えば文献[51, 60])に生じ易い。

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