11.4.1 移動硬化モデル
(1) 移動可能な降伏曲面の導入
O σy
σ11
ϵ11
−σy
A B
C B
C A
α
初期
図11.37 種々の硬化と降伏曲面の模式図
前節までの基本的なモデルが正の硬化を持つ場合,
降伏曲面の半径が単に大きくなるだけだ。したがって図
11.37の右側の図のAのように,降伏曲面の半径はすべ
ての応力方向に同じように大きくなるだけなので,左側 の図のAのように引張って降伏させたあと除荷して圧縮 していくと,次の降伏はその履歴上の最後の降伏応力値 で始まる。このような硬化を等方硬化と呼んでいる。し
かし,第11.1.1 (2)節の箇条5.で述べたように実際には
Bauschinger効果が存在し,過去に経験した載荷の向きと
異なる向きの再載荷では,その履歴上の最後の降伏応力よりも小さい応力レベルで降伏が始まることがあるこ ともわかっている。これは例えば材料内部の微視構造が変化して転位の動き方が変化してしまうこと等が原因 だが,その挙動を巨視的な量でモデル化できれば便利だろう。そこで図11.37のBやCのように降伏曲面の中 心座標が原点以外のαの位置に移動するモデルを考える。このような硬化を移動硬化と呼んでいる。図11.37
のBは降伏曲面の半径が変わらないまま中心だけが動く移動硬化のみを含むモデルで,Cは中心が動きながら 半径も同時に大きくなるような移動硬化と等方硬化の両方を含むモデルである。
まず降伏曲面の中心座標αを導入し,これが変形に伴って移動できると考え,降伏関数のJ2を変更して f = f(σi j−αi j)≡h(σi j−αi j)−τy, h(σi j−αi j)=(σ−α)≡
√1
2
(σ′i j−α′i j
) (σ′i j−α′i j
) (11.114a, b)
と定義し直そう。ここにα′はαの偏差成分である。つまり,応力そのものの偏差成分ではなく,変形履歴途中 の降伏曲面中心からの相対的な応力成分の偏差成分で定義される一種のせん断応力成分が降伏を支配するもの とする。ただしここでは,ひとまずは等方硬化を除外してτyは定数とする。その代わり,中心座標が塑性変形 の変化と累積によって移動(硬化)するものとする。また流れ則は式(11.63b)と同じく
ϵ˙i jp =λ ∂f
∂σi j, λ≥0 (11.115a, b)
が成立するものとする。したがってこの微係数は式(11.114)の定義から
∂f
∂σi j
= ∂h
∂σi j
= 1 2 (σ−α)
(σ′i j−α′i j
)= 1
2τy
(σ′i j−α′i j
) (11.116)
という関係にある。
f =0 σ˙ α˙
∇f
図11.38 載荷の向き まず整合条件をとると,式(11.114)の全微分から
f˙= ∂f
∂σi j
σ˙i j+ ∂f
∂αi j
α˙i j= ∂f
∂σi j
σ˙i j− ∂f
∂σi j
α˙i j= ∂f
∂σi j
(σ˙i j−α˙i j
)=0 (11.117)
となる。つまり図11.38に示したように,応力増分の降伏曲面の法線方向成分の 大きさは,降伏曲面の移動増分の同じ方向成分と同じでなければならず,した がって,σ˙ = α˙となるか,相対的な応力増分の成分( ˙σ−α˙)が移動する降伏曲面
の接線方向にしか変化できないことを示している。さてここまででは降伏条件と流れ則はこれまでとほぼ同様 に定義できているが,まだ降伏曲面の中心αの発展則が規定されていない。これには主に次の二つの考え方が 用いられる。
(2) Pragerモデル
Pragerは,降伏曲面の中心は塑性ひずみ増分の方向,つまり降伏曲面の法線方向に移動すると仮定した。こ
れは近年よく使われる多曲面モデルの運動学の基礎になっていると思われる。すなわち
α˙i j=cϵ˙i jp (11.118)
とするので,式(11.115a)の流れ則と式(11.116)を代入すると α˙i j=cλ ∂f
∂σi j
=cλσ′i j−α′i j
2τy (11.119)
と仮定したことになる。したがってαは偏差成分しか持たない。これを整合条件式(11.117)に代入すれば
∂f
∂σi j
σ˙i j= ∂f
∂σi j
cλσ′i j−α′i j
2τy =λHkp → λ= 1 Hpk
∂f
∂σi j
σ˙i j
となる。ここにHkpは硬化係数で Hkp≡ ∂f
∂σi j
cσ′i j−α′i j
2τy =cσ′i j−α′i j 2τy
σ′i j−α′i j 2τy =c
2 (11.120)
と定義した。これがcの物理的な意味でもある。
このλを流れ則に代入すれば,最終的に塑性ひずみ増分が
ϵ˙i jp = 1 Hkp
∂f
∂σkl
σ˙kl ∂f
∂σi j
= 1 Hpk
(σ′i j−α′i j) (
σ′kl−α′kl)
4τ2y σ˙kl (11.121)
と求められる。したがって,降伏曲面の中心点の移動則(αの発展則)も式(11.118) (11.120)から
α˙i j =
(σ′i j−α′i j) (
σ′kl−α′kl)
2τ2y σ˙kl (11.122)
と表現できるので,塑性ひずみ増分と同様,降伏曲面の中心は静水圧では移動しない。しかし,なぜ移動硬化 が生じるかについて材料の微視的挙動を考えると,内部に存在する微視構造の何らかの変化がその原因の一つ だろうと推測される。そのような微視構造を持つ材料では巨視的な静水圧載荷に対しても微視的な硬化が発生 することは容易に推測できるのだが,読者はこのモデルをどう思いますか。
(3) Zieglerモデル
そこで,もう少し一般性を持たせるために(なのかどうかは別にして),中心座標が式(11.27)で定義された 相当塑性ひずみの関数として変化すると仮定しよう。つまり
αi j=αi j(ϵp) (11.123)
と仮定する。したがって式(11.117)の整合条件はさらに f˙= ∂f
∂σi j
σ˙i j− ∂f
∂σi j
∂αi j
∂ϵp ϵ˙p=0
となる。式(11.27)の相当塑性ひずみの定義に流れ則の式(11.115a)を代入して,式(11.116)を考慮すれば ϵ˙p=λ
√ 2 ∂f
∂σkl
∂f
∂σkl
=λ
になるので
Hk ≡ ∂f
∂σi j
∂αi j
∂ϵp (11.124)
によって硬化係数Hkを定義すると,上の整合条件式から λ= 1
Hk
∂f
∂σi j
σ˙i j
と求められる。したがって,再度流れ則にこれを代入して整理すると塑性ひずみ増分は
ϵ˙i jp = 1 Hk
∂f
∂σkl
σ˙kl ∂f
∂σi j = 1 Hk
(σ′i j−α′i j) (
σ′kl−α′kl)
4τ2y σ˙kl (11.125)
と求められる。実はこれはPragerモデルの式(11.121)と形式的には一致している。またこれはPrandtl-Reuss
の式(11.46)ともよく整合しており,単に応力の中心をαだけずらしたモデルになっている。
ここまでではまだ中心の移動則つまりαの発展則が定義されていない。Zieglerはそれを α˙i j=ξ(
σi j−αi j
), ξ≥0 (11.126a, b)
と仮定した。こうすることによってαは等方成分も定義できるようになる。ξは流れ則のλのようなパラメー タである。この仮定を式(11.117)の整合条件に代入すると
∂f
∂σi j
σ˙i j = ∂f
∂σi j ξ( σi j−αi j
) (∗)
と表される。式(11.116)を用いると,上式(∗)右辺は 式(∗)右辺=ξ 1
2τy
(σ′i j−α′i j) ( σi j−αi j
)=ξ 1
2τy
(σ′i j−α′i j) (
σ′i j−α′i j)
=τyξ となるので,結局上式(∗)から
τyξ= ∂f
∂σi j
σ˙i j → ξ= 1 τy
1 2τy
(σ′i j−α′i j
)σ˙i j
と求められる。これを上の仮定に代入すれば,Pragerモデルと併記して Ziegler: α˙i j=
(σi j−αi j
) (σ′kl−α′kl)
2τ2y σ˙kl, Prager: α˙i j =
(σ′i j−α′i j) (
σ′kl−α′kl)
2τ2y σ˙kl (11.127a, b) と求められる。この二つのモデル間の違いは,中心の移動量が偏差成分だけかどうかだけである。これは,式 (11.119)のPragerの仮定と式(11.126a)のZieglerの仮定の間の
Ziegler式(11.126a): α˙i j=ξ( σi j−αi j
), Prager式(11.119): α˙i j= cλ 2τy
(σ′i j−α′i j
)
といった違いが根本的な原因である。
(4) 増分型構成方程式
最後に逆関係を求める。弾性は増分型のHookeの法則式(11.42)で与えられるものとすれば,それと式(11.125) を加算則の式(11.22)に代入して,総ひずみ増分は
ϵ˙i j =Di jklσ˙kl+χ
(σ′i j−α′i j
) (σ′kl−α′kl)
4Hkτ2y σ˙kl (11.128)
となる。第11.2.3節で説明した手法で逆関係を求めると σ˙i j=Ci jklϵ˙kl−χµ2 (
σ′i j−α′i j) (
σ′kl−α′kl)
(µ+Hk)τ2y ϵ˙kl (11.129)
と求められる。ここにχは式(11.51)で定義したスィッチである。この方程式と式(11.127)が移動硬化則の増 分型構成方程式である。
(5) 等方・移動硬化モデル
より現実的なモデルは,前節の移動硬化則とその前に定式化した等方硬化則を共に考慮したもの38だろう。
ここではZieglerのモデルの方を用いることにして,式(11.114)の降伏関数を
f ≡(σ−α)−τy(ϵp) (11.130)
のように降伏応力が定数ではなく相当塑性ひずみの関数だとする。こうすることによって整合条件が f˙= ∂f
∂σi j
σ˙i j− ∂f
∂σi j
∂αi j
∂ϵp ˙ϵp−∂τy
∂ϵp ϵ˙p=0
38そうやって材料パラメータの数を増やすことで,実際の材料挙動を近似し易くなるわけであるが,しかしそこに本質があるわけではな いことには注意すること。
となる。式(11.115a)の流れ則を代入し,式(11.38b) (11.124)の硬化係数の定義を用いると λ= 1
Hk+H
∂f
∂σi j
σ˙i j
を得る。これを流れ則に代入すれば,ひずみ増分の塑性成分が ϵ˙i jp =
(σ′i j−α′i j) (
σ′kl−α′kl) 4 (Hk+H) (σ−α)2
σ˙kl (11.131)
と求められる。中心の移動についても,前節同様の演算を行うと α˙i j= Hk
Hk+H
(σi j−αi j
) (σ′kl−α′kl)
2 (σ−α)2
σ˙kl (11.132)
となる。H=0の場合が前節のZieglerモデルである。
(6) 具体例
0.005 0.01
400 500 600
σ11 (MN/m2)
ϵ11
α= 1
√3 prop
t2s s2t
図11.39 移動硬化を含む場合の応力ひずみ関係
Zieglerの移動硬化モデルで線形硬化の場合の例を示
す。材料は第11.3.3節の例と同じくE = 200 GN/m2,ν = 0.3, H = E/1000,τy0 = 300 MN/m2とし,移動硬化につい てはHk =50Hとかなり大きめの設定をして移動の様子が 誇張されるようにした。応力も同様にσ≡σ11とτ ≡σ12
の2軸状態とし,載荷パターンも図11.25に示したのと同 じ3種類とする。それに伴い,降伏曲面の中心位置も
ζ≡α11, η≡α12
のみを考えればいいことになる。こうすることによって関 係式のほとんどが,第11.3.3節のσとτを
σ:=σ−ζ, τ:=τ−η
のように置き換えるだけでいい。降伏曲面の中心座標の発 展則だけを明記しておくと
ζ˙= Hk Hk+H
σ−ζ
3τ2y {(σ−ζ) ˙σ+3 (τ−η) ˙τ}, η˙= Hk Hk+H
τ−η
3τ2y {(σ−ζ) ˙σ+3 (τ−η) ˙τ}
となる。明らかに積分不可能であり,中心座標の移動も履歴依存であることが明らかだ。数値例ではα = 1/√3 の比例載荷からの3種類のさらなる応力載荷を対象とし,具体的には
(σ, τ) : (367.4,212.1)→(606.2,350.0) MN/m2
のような履歴とした。結果的に生じた相当塑性ひずみは約2%(ϵp=0.019)であった。
図11.39が降伏後の応力ひずみ関係であり,履歴依存で最終状態が異なっている。増分ステップはN = 100
から107までを用いて結果を比較したが,この図の応力ひずみ関係で判別できるような差は生じなかった。し かし,単純な増分解析で降伏条件に蓄積される誤差はステップ数によって異なり,図11.40のようだった。相 対誤差では有効数字三桁を確保していることが明らかなので,応力ひずみ関係の図に顕著な差が生じないのも 当然である。そもそも履歴依存の増分理論なので,増分解析で十分な精度の解が得られるのは工学的には好ま しい結果である。図11.41が降伏曲面の移動を示していて,原点から伸びる線分が降伏曲面の中心αの軌跡で ある。一点鎖線と白丸が‘s2t’の結果であり,破線と白四角が‘t2s’の,実線と黒丸が比例載荷の結果を示して いる。最終応力状態が同じであっても履歴の影響を受けて降伏曲面の位置も異なるのが明らかだ。
0 0.01 0.02 10−10
10−8 10−6 10−4 log
( f τy
)
ϵp N=102 103
104 105
106 107
s2t
図11.40 増分解析における降伏条件の相対誤差
300 600 900
200 400
σ τ(MN/m2)
s2t t2s
α
(MN/m2) O
図11.41 降伏曲面の移動と履歴依存
演習問題11-4
4. 式(11.128)から式(11.129)を求めよ。
5. 式(11.131) (11.132)を求めよ。
6. 図11.39等の結果を求め,降伏曲面の移動を確認せよ。
11.4.2 静水圧依存モデル
(1) 降伏関数と塑性ポテンシャル
鋼の場合には平均応力(静水圧)が降伏に及ぼす影響は非常に小さいが,砂や粘土のように必ずしも連続体 として取り扱うことができ難い材料や,岩や複合材料のように内部に微視構造を持つ材料の場合には,平均応 力が降伏や塑性変形に影響を及ぼす。ここでは非関連流れ則の代表的な例としてDrucker-Pragerモデル[23]
を一般化したもの[74]を紹介しよう。そこでは,降伏関数 fと塑性ポテンシャルgを
f ≡σ−F(I1,∆p, ϵp), g≡σ+G(I1) (11.133a, b) と定義している。ここにσは式(11.23a)で定義した相当応力であり,I1は式(3.36)で定義した応力の第1不 変量である。静水圧pは
p≡ −1
3I1=−1
3σkk (11.134)
で定義できるので,これを静水圧依存モデルと呼ぶことがある。履歴を代表するパラメータとしては前節まで と同様相当塑性ひずみを用いるが,ここでは塑性的な体積変形も存在するので,式(11.27)の相当塑性ひずみは 塑性ひずみ増分の偏差成分のみで定義し直す必要がある。したがって
ϵp≡
∫
履歴
√
2 ˙ϵp′i jϵ˙p′i jdt, ∆p≡
∫
履歴
ϵ˙kkp dt (11.135a, b)
と定義した。∆pは体積変形の塑性成分39で,前節までのモデルでは零だった。
39地盤工学でダイレタンシーと呼ばれるものに対応している。