10.3.1 Rayleigh波
O x1
x2
図10.10 Raileigh波
図10.10のように,x1方向に進む波ではあるが,その振幅がx2方向に向かっ
て指数関数的に小さくなるような波7が存在できるかどうかについて考えてみよ う。ここではx2は下向きを正にしてあり,x2 =0の水平面は自由表面とする。
この運動に対応した変位成分(運動場)
u1=Aexp (−b x2) exp{ik(x1−c t)}, (10.55a) u2=Bexp (−b x2) exp{ik(x1−c t)}, u3=0 (10.55b, c) の存在の可能性を検討しようとしているのだ。ただし,深くなるほど振幅は小さ くなるものと考えるため,少なくとも
ℜ(b)>0 (10.56)
でなければならないものとする。ここにℜ(·)は実部を表す。
境界条件はx2=0でσ22=0,σ21=0であるから,ひずみの定義とHookeの法則を用いれば (λ+2µ)u2,2+λu1,1=0, µ (
u1,2+u2,1)=0 (10.57a, b)
7もちろんこの図は式(10.55)をプロットしたものではなく,特に深さ方向の図は,この方が直感的にわかり易いのではないかと考えたイ メージである。
になる。また運動方程式は式(10.14)から (λ+µ)(
u1,1+u2,2)
,1+µ(
u1,11+u1,22)=ρu¨1, (10.58a) (λ+µ)(
u1,1+u2,2)
,2+µ(
u2,11+u2,22)=ρu¨2 (10.58b) である。式(10.55a) (10.55b)を式(10.58)に代入してexp{ik(x1−c t)}の係数同士を比べると
(λ+µ) ik{ik A−b B}+µ{
(ik)2+(−b)2}
A=ρ(−ik c)2 A,
−(λ+µ)b {ik A−b B}+µ{
(ik)2+(−b)2}
B=ρ(−ik c)2 B が成立しなければならない。したがって
(λ+µ){
−k2A−ik b B} +µ(
b2−k2)
A+ρk2c2A=0, (λ+µ){
−ik b A+b2B} +µ(
b2−k2)
B+ρk2c2B=0 つまり
−k2 (λ+µ)+µ( b2−k2)
+ρk2c2 −(λ+µ) ik b
−(λ+µ) ik b (λ+µ)b2+µ( b2−k2)
+ρk2c2
A B
=
0 0
(10.59) でなければならない。右辺が零なので,解が存在するためには係数行列が特異でなければならない。つまり
det
−k2 (λ+2µ)+µb2+ρk2c2 −(λ+µ) ik b
−(λ+µ) ik b b2 (λ+2µ)−µk2+ρk2c2
=0 となるので,これをclとctを用いて書き直せば
det
−k2c2
l+b2c2
t+k2c2 −ik b( c2
l−c2
t
)
−ik b( c2
l−c2
t
) b2c2
l−k2c2
t+k2c2
=0 であればいいことになる。これを整理すると
{c2tb2−k2 (
c2t−c2)} {
c2lb2−k2(
c2l−c2)}
=0 (10.60)
を満足するようなcとb1,b2が存在すれば,表面波の存在が可能になる。この式から,まず b1=k
√ 1−c2
c2
l
, b2=k
√ 1−c2
c2
t
(10.61a, b) という関係が成立する。cl > ctであり,式(10.56)のようにℜ(b) > 0でなければならないことから,この式 (10.61)の形は
c<ct<cl であることを示唆している。式(10.59)もcl,ctを用いて書き直すと
B A =k2 (
c2−c2l) +b2c2t ik b(
c2l−c2t) , あるいは B
A = ik b( c2l−c2t) k2 (
c2−c2t) +b2c2l と表すことができるので,これに式(10.61)を代入すると
(B A )
1=ib1
k =−b1
ik, (B A )
2=− k ib2 =ik
b2
と求められる。この関係を用いると,変位成分は u1={
A1 exp (−b1x2)+A2 exp (−b2x2)}
exp{ik(x1−c t)}, (10.62a) u2=
{
−b1
ikA1 exp (−b1x2)+ik b2
A2 exp (−b2x2) }
exp{ik(x1−c t)} (10.62b) と求められる。ここまでは運動方程式を料理しただけで,まだ境界条件を考慮していない。
あとは波の速さcを決定すればいいわけだが,それを決定する方程式が境界条件から求められるのだ。つま り,式(10.62)を境界条件式(10.57)に代入すれば
(λ+2µ)
b21
ikA1−ik A2
+λik(A1+A2)=0, {−b1A1−b2A2}+ik {
−b1
ikA1+ik b2 A2
}
=0 となり,cl,ctを用いると
c2
l
{ k
( 1−c2
c2
l
)
A1+k A2
}
−k( c2
l−2c2
t
)(A1+A2)=0, −2b1A1− (
b2+k2 b2 )
A2=0 と書き換えられる。これを整理すると
(2c2
t−c2)
A1+2c2
tA2=0, −2b1A1−k2 b2
( 2−c2
c2t )
A2 =0 と表すことができる。つまり
2−c2 c2
t
2b2
2b1 k2 (
2−c2 c2t )
A1
A2/b2
=
0 0
が意味のある解A1,A2を持つことができれば,表面波が存在できることになる。したがって,この上式の係数 行列が特異になる条件から
k2 (
2−c2 c2t
)2
−4b1b2=0 → k2 (
2−c2 c2t
)2
−4k2
√ 1−c2
c2l
√ 1−c2
c2t =0 つまり
R(c)≡4
√ 1−c2
c2l
√ 1−c2
c2t − (
2−c2 c2t
)2
=0 (10.63)
が成立しなければならない。この式の解cがRayleigh波の速さcrである。ここで0< ε≪1に対して
R(ct)=−1<0, R(εct)=4
√
1−ε2c2
t
c2l
√1−ε2−( 2−ε2)2
≃4 (
1−ε2c2
t
2c2l ) (
1−ε2 2 )
−4+4ε2=2ε2 (
1−c2
t
c2l )
>0 であることから,0<c<ctに少なくとも一つの実数解crを持つことが期待できる。さらに複素関数論におけ る「偏角の原理8」を用いてR(c)=0は2個の実数解しか持たないことが証明でき,R(c)がc2の関数であるこ とから,その2個は符号のみが異なる二つの解であることがわかる。したがって,Rayleigh波の速さは
0<cr<ct<cl (10.64)
を満たすものとして唯一に決定できる。このような表面波は,地震が終わったあとに地球を1周して到達する ことがあるとされている。
8すみませんが,理解できていません。Achenbach先生の授業の宿題でも第1著者の答は間違っていた。
10.3.2 Love波
前節のRayleigh波はSV波的な表面波だったが,では,表面SH波は存在するだろうか。今度は面外変位を,
式(10.55a)や式(10.55b)のように
u3=Aexp (−b x2) exp{ik(x1−c t)} と仮定して確かめてみよう。運動方程式で意味のあるのはx3方向の
µ(
u3,11+u3,22)=ρu¨3 (10.65)
のみだから,これに上式を代入してc2t = µ/ρを考慮すると,exp (−b x2) exp{ik(x1−c t)}の係数同士の等価性 から
−k2A+b2A=−k2c2 c2t A →
{
−k2+b2+k2c2 c2t
}
A=0 → b=k
√ 1−c2
c2t (10.66a, b, c) と求められる。また,境界条件はx2=0でσ23=0つまりu3,2=0であるから
u3,2(x2=0)=−b A exp{ik(x1−c t)}=0 となり,A,0であるためには
b=0
しかあり得ないことになる。つまり,面外波の表面波は存在しないことになる。
x1
x2
層 ρb,µb H ρ,µ O
自由表面
図10.11 Love波 しかし,もし図10.11のように表面近くに材料特性が異なる層が存在した
場合には,面外の表面波が存在し得ることがわかっている。そのような波を Love波と呼ぶ。そこで,変位を
u3=
f(x2) exp{ik(x1−c t)}, 0>x2>−H Aexp (−b x2) exp{ik(x1−c t)}, x2>0
(10.67a, b) と仮定する。ここにbとcは式(10.66c)を満足しているものとする。境界条件は
u3,2(x2=−H)=0 (10.68)
であり,x2=0におけるu3とσ32の連続条件は lim
0≤ϵ→0
に対して
u3(0+ϵ)=u3(0−ϵ), µu3,2(0+ϵ)=µbu3,2(0−ϵ) (10.69a, b) で与えられる。運動方程式は式(10.65)を書き直して
u3,11+u3,22 = 1 c2
t
¨
u3, x2>0, u3,11+u3,22= 1
(cbt)2 u¨3, 0>x2>−H (10.70a, b) である。ここにcb
tは表層の波速で
cbt ≡
õb
ρb (10.71)
と定義した。
まずx2 > 0の運動方程式に式(10.67b)を代入すると式(10.66c)が求められる。次に層の中を考えよう。式 (10.67a)を式(10.70b)に代入すると
{−k2 f(x2)+f′′(x2)}
exp{ik(x1−c t)}=−k2c2
(cbt)2 f(x2) exp{ik(x1−c t)}
となるので,f(x2)は
f′′+q2b f =0, qb≡k
√(c
cbt )2
−1 (10.72a, b)
を満足しなければならない。したがってf(x2)=B1 sin (qbx2)+B2 cos (qbx2)と求められ
u3={B1 sin (qbx2)+B2 cos (qbx2)}exp{ik(x1−c t)} (10.73) を得る。次にx2=−Hにおける境界条件にこの解を代入すると
u3,2(x2=−H)=qb {B1 cos (qbH)+B2 sin (qbH)}exp{ik(x1−c t)}=0 となるので
B1 cos (qbH)+B2 sin (qbH)=0 (10.74)
を満足しなければならないことになる。
またx2 = 0における連続条件は,式(10.69)に式(10.67b)と式(10.73)を代入して,exp{ik(x1−c t)}の係 数同士を比べれば
B2=A, µbqbB1=−µb A (10.75a, b)
になる。したがって,式(10.74) (10.75)からAを消去した残りの2式を並べると
µbqb µb
cos (qbH) sin (qbH)
B1 B2
=
0 0
を得るので,意味のあるB1,B2が存在するためには
µbcos (qbH)−µbqb sin (qbH)=0 → tan (qbH)− µb µbqb =0 でなければならない。これに式(10.66c) (10.72b)のbとqbを代入して得られる
L(c)≡tan
k H
√(c
cbt )2
−1
− µ
√ 1−
(c ct
)2
µb
√(c
cb
t
)2
−1
=0 (10.76)
が,Love波の速さcを決定する方程式になる。ct>cbtのとき式(10.76)は
L(c=ct)=tan
k H
√(ct cbt
)2
−1
>0, L(c→cb
t)=−∞
となるので,cb
t < c < ctに一つの解が存在することが期待できる。この結果を見たとき,ここまでに見た位 相速度が持つ特徴とはかなり違った特性をLove波の位相速度が持っていることに気付いて欲しい。平面波や
Rayleigh波の場合の位相速度cは波数kとは独立していた。しかしLove波の場合は,式(10.76)から明らかな
ように波速cが波数kの関数になる。したがって,複数の異なる波数でできたLove波が伝播するときには,波 数毎に異なる位相速度で伝わるため,最初の波の形が崩れながら伝播することになる。このような波は分散的 であると呼ばれる。
さてどうでしょう。何か興味を持てる情報が得られたでしょうか。波の速度には群速度というのもあります が,それは何でしょう。非破壊評価の勉強をしている人達は,実空間ではなくFourier変換された空間で物理を
x1
x2
x1
x2 θ0
T T T T
ρ ρ
P波
図10.12 拘束された表面がある半無限領域における平面波と表面波
考えるようだ。よき師とかなりの覚悟が無いと,この分野の勉強はできないと思ってもいいのかもしれない。
土木系のトップクラスの研究の基礎については文献[135]で触れることができるので,是非勉強してがんばっ て欲しい。一つ面白い事実を述べておこう。内臓のエコー検査というのがある。例えば心臓の場合は動いてい る状況を画面で確認できるし,ドップラー効果を使って血液の流れそのものも目の当たりにすることができる。
しかしこの画像は偽者なんだそうだ。例えばRC橋梁のようなものと比べたとき,人間の体の組成はとても単 純なので簡単に「積分」できるというのだ。だから,エコー検査の心臓の動き等がまるで本物のように見えて いるが,あれは逆問題が簡単に解けているだけらしいのだ。面白い。
演習問題10-3
5. 図10.12の左に示したように,半無限領域の・・・文献[1]の問題から。
6. 図10.12の右に示したように,半無限領域の・・・文献[1]の問題から。
‘syllabus,’ ‘office hours,’ ‘portfolio,’ ‘effort,’ ‘faculty development,’ ‘good practice,’ ‘manifesto’ ‘initiative,’ ‘solution,’ ‘action plan’ and ‘front runner:’
うぅーん。全部が大学や学協会・省庁の文書中で,もちろん「カタカナ」で 使われるし,‘hours’の‘s’は省略される。講義順概要とか面談時間帯・通信 簿・従事割合・教員啓発研修・良好な実証的取組み・所信表明(正確にはそ うじゃないらしいがどうでもいい)・先導的取組み・解決策(これは複数の 表現がありそうなので本当の意味が理解できていない)・実行計画・第一線 の人物じゃ駄目なんだろうか。ところで某大学工学部のsyllabusの多くの記 述には「第5回 構造と環境1」「第6回 構造と環境2」等とある。全くと 言っていいほど何の役にも立たない「講義題•目」だけが並んでいる。とても•
syllabusとは呼べない状況にある。
写真10.1 琵琶湖疎水のアーチ 京都南禅寺
E
‘アラビア数字:’9 その起源についてはインターネットにもいろいろ示され
ているが,以前,チュニジアの留学生10から聞いたものがもっともらしいの で,ここに示しておこう。「画数」に関連付けたものによく似ている。我が 国やヨーロッパでは‘7’がときどき‘ ’と書かれる。これはアメリカ合州国 では受け入れられないが,なぜ腹に斜めの線があるのだろう,という疑問に 答えてくれる。
以前ある丸秘の作業中,数字の書き方,特に‘4’について理学部・工学部の 先生達の間で議論が始まったとき,この順番でお教えして最後に「だから
‘0’は・・・」と楕円を描いたところ,みなさんとても喜んでくださった。
となると,上方で線のつながった‘4’には6個の角が存在してしまう。しか し,アメリカ人が‘6’を‘ ’と書く(という記憶があるが?)のは‘4’と紛ら わしい。
9T大学(故意にちょっと面白くするために,ややまずい引用をすると「Tは必ずしも大学名のアルファベットの頭文字に対応するとば かりは限らないという可能性もわずかに残されている」そうだが)の須藤靖先生の「著名な」随筆にアラビア数字の話題が出たとき,
失礼ながらメイルでこのコラムの内容をお伝えしたのだが,単行本化された随筆[143]では後日談として第1著者(仙台の匿名希望さ ん)からの情報を加筆してくださっていた。見つけたときとても嬉しかった。
10この学生さんはとても面白い人で,何か頼むと「どぉーんと(Don’t)任せなさい!」と応えてくれていた。
非線形の静力学
499
1985, 1987年当時の児島坂出ルート