11.3.1 降伏曲面と法線則
(1) 降伏関数
ここでは降伏関数をf = f(J2,J3,· · ·)のように一般化して,いわゆる一般化されたPrandtl-Reussの構成方程 式を誘導する。基本的な代表モデルを具体的には二つだけ紹介するが,降伏条件f =0は応力の6次元空間の 曲面とも解釈でき,その曲面を降伏曲面と呼ぶ。
σii σiii
σi O
π平面 e=
1/√3
1/√3
1/√3
図11.18 π平面とMisesの降伏条件
Misesの降伏条件: まず前節で用いたMisesの降伏条件の
場合は,偏差応力の第2不変量のみを用いて f = f(J2,履歴)= √
J2−τy(履歴)=0 (11.52) と定義したことになる。J2は応力成分で表すと
J2= 1 6
{(σ22−σ33)2+(σ33−σ11)2+(σ11−σ22)2} +σ223+σ231+σ212 (11.53) となり,主応力で書き直すと
f =
√1
6
{(σii−σiii)2+(σiii−σi)2+(σi−σii)2}
−τy=0 (11.54)
とも書くことができる。この条件は,図11.18のような主応力軸を直交する3軸とする座標系で,σi = σii = σiiiの直線(静水圧軸あるいは等方応力軸)方向の単位ベクトルeを法線とする平面(π平面と呼ぶ)内に円断 面を持つ,無限に長い円柱形になる。なぜならe方向の等方応力状態では降伏しない29からである。
Trescaの降伏条件: これに対し,最大せん断応力がある規定値に達したときに降伏するという規準もあり得
る。特に図11.16の単結晶金属のように結晶方位で決定されるすべり面上のすべりで塑性変形が生じる場合は,
この最大せん断応力による規準の方が適していると考えられる。しかもそのような単結晶中のすべり面は有限 個(面心立方晶では4面)しか存在しないから,降伏曲面には角が存在することも容易に想像できる(図12.25 参照)。さて最大せん断応力は第3.6.3 (3)節で示したMohrの円を見れば明らかなように,主応力の差の半分 である。したがって,二つずつの主応力差の半分,1/2σi−σj, (i, j = I, II, III)のうちの最大値(最大せん断応 力)で降伏を規定すればいい。この条件はTrescaの降伏条件と呼ばれ,例えば
f∗(σ,履歴)≡{
(σi−σii)2−4τ2y(履歴)} {
(σii−σiii)2−4τ2y(履歴)} {
(σiii−σi)2−4τ2y(履歴)}
=0 (11.55) と表すことができる。この降伏曲面は滑らかではなく角が存在し,図11.19の六角形がその例である。さて,
この表現では偏差応力との関係が明確ではないが,偏差応力の不変量と主応力の関係を用いて書き直すと f∗(J2,J3,履歴)=4J32−27J23−36 (J2)2 τ2y+96J2 (τy)4−64 (τy)6=0
と書き直すこともできる。ただし,一見滑らかな関数に置き換えられているため,例えばσiのみが非零である ような1軸状態にこの式(11.55)を用いると負になってしまう等,使用には注意が必要である。そのためf で はなくf∗と記した。そういう観点からは
f = max
i, j=I, II, III
(σi−σj
)2
−4τ2y(履歴) (11.56)
と定義した方が正しいかもしれないが,使い難いことには変わりがない。また主偏差応力sx(x=i,ii,iii)が主応 力差と σi−σii
3 −σiii−σi
3 , σii−σiii
3 −σi−σii
3 , σiii−σi
3 −σii−σiii 3
という関係にあることと,式(11.24)の主偏差応力sxの表現とを比べることによって,Trescaの条件は f = √
J2 cosθl−τy=0 (11.57)
29複合材料のように内部に微視構造を持つ材料の場合は,例えば各相がMisesの降伏条件に従う材料であっても,巨視的には等方応力で
降伏[192]する場合もある。具体的には図H.10を参照のこと。
と表すこと[70]もできる。ここにθlはLode角と呼ばれるもので θl≡1
3 sin−1
−3√ 3J3
2J
3 2
2
, −π
6 ≤θl≤ π
6, θl=θs−π
6 (11.58a, b, c)
で定義されている。ここには式(11.25)の角度θsとの関係も示しておいた。
σiii−σii
σi−σii O
√3τy 2τy A B
σiii−σii
σi−σii
O √
3τy
図11.19 Mises(楕円形)とTresca(六角形)の降伏条件 ところでここでは,この基本
的な二つの降伏関数同士で,降 伏せん断応力τyが共通になる ように定義した。つまり図11.19 の左図のA, B点(σi =−σiii =
±τy, σii = 0の純せん断状 態)で両条件が一致する。した
がって,Trescaの降伏条件に基
づけば1軸状態の降伏引張応力 σyは
σy=2τy (せん断一致のTrescaの場合) (11.59)
という関係にあり,Misesの降伏条件に基づいた式(11.28)の関係とは異なる30ことには注意する必要がある。
この図11.19の左図は,よく教科書等に描かれているものとは異なりTrescaの条件の方がMisesのそれの外側
に位置しているが,これは上述のように,お互いの降伏せん断応力を一致させたからである。もし両条件の降 伏引張応力を一致させると右図のように,多くの教科書等にある図になる。この場合の降伏せん断応力と降伏 引張の関係は,式(11.28)のMisesのそれと同じになる。金属材料の実験値はこの右図のMisesとTrescaの条 件の間のややMises側に分布する[122]ためMisesの降伏条件がよく用いられて31いる。
(2) 安定材料の一つの定義
τ
O γp
A B C τy
図11.20 安定材料の抵抗履歴
Drucker [22]は,次の条件を満足する材料を「安定な材料」と定義した。
∫ (σi j−σ(0)i j )
ϵ˙i jpdt≥0 (11.60)
これをDruckerの公準と呼ぶ。ここに積分は,塑性変形を伴いながら変形す
る経路に沿った履歴の累積を表しており,σ(0)i j はそのような履歴の開始時の 任意の応力状態である。この条件式(11.60)が降伏状態近傍の非常に微小な 任意の時間の間に成立しなければならない(厳しい)条件を
(σi j−σ(0)i j )
ϵ˙i jp ≥0 (11.61)
と記すことができそうだ。任意の塑性変形は,この条件式(11.61)を満足するように生じるものとすることが 基本となっている。図11.20には直感的かつ短絡的な説明を描いておいたが,履歴Bのような軟化材料や,履 歴Cのような材料を除外していると考えればいい。この公準は解の唯一性とも密接に関係していて,上式のσ やσ(0)およびϵ˙pの定義を明確にした上で,上の安定規準が最大塑性仕事の原理に相当することも示されている が,著者は理解できなかったので詳細については文献[39]等を参照のこと。ただし実験等と比較すると,この 基準を満足する材料は安定過ぎる挙動を示すことが多いので,この条件を緩和したモデルも多く存在する。
30第11.5節の塑性的平面ひずみ状態の塑性解析ではこの関係式の方が用いられている。式(11.170)参照。
31前述のように単結晶なら角のある多面体状の降伏曲面になるはずだが,多結晶の場合はすべり面の方向が等方的に無数に分布するた め,降伏曲面の角が取れて滑らかになってMisesの降伏条件に近づくと考えればいい。
(3) 基本的な流れ則—法線則
等方材料の降伏条件を一般化して降伏条件式(11.26b)を
f ≡h(J2,J3)−τy(ϵp)=0, (11.62) と表す。ここでも初期降伏後の履歴依存を明示するために,材料パラメータのせん断降伏応力τyを相当塑性ひ ずみϵpの関数として定義した。また基本的な扱いに留めるためにhはJ2とJ3のみの関数とし,より一般的な モデルはその例をいくつか第11.4節に示すに留めた。さて弾性状態でも降伏した状態でもいいが,ある任意の 応力状態のσ(0)から出発して塑性変形が生じるような変形履歴をたどって降伏条件式(11.62)を満足する応力 状態のσに達したとしたとき,任意の応力増分(
σ−σ(0))
に対して生じる塑性ひずみ増分ϵ˙pは 1. 式(11.61)の安定条件と
2. 歴史的に発見された式(11.31b)が示すように,その向きは応力増分ではなく,現応力状態σで唯一に定 まる条件と
の両方を同時に満足しなければならない。
ϵ˙p ϵ˙p
A A B B
f =0
図11.21 法線則と凸曲面 実は,この条件がどちらも同時に満足されるためには
制約1: 降伏曲面は凸面であり,同時に
制約2: 塑性ひずみ増分は降伏曲面の法線方向を向く 必要がある。というのも
• もし降伏曲面が凹面になっていたとすると,図11.21の左図のように,塑性ひずみ増分がどの向きであっ たとしても,その塑性ひずみ増分と(
σ−σ(0))
の向きが90度以上になる場合(B)が存在してしまい,安
定条件式(11.61)を満足しない場合があり得るし
• 塑性ひずみ増分の向きが降伏曲面の法線方向ではない場合にも,図11.21の右図のように安定条件式(11.61) を満足しない場合(B)があるか,あるいは塑性ひずみ増分が応力状態だけではなく応力増分の向きにも依 存してしまう
からである。制約1は,この節で紹介したMisesの降伏関数もTrescaの降伏関数も満足している。また制約2 は,流れ則が
ϵ˙i jp ∥ ∂f
∂σi j → ϵ˙pi j=λ ∂f
∂σi j, λ≥0 (11.63a, b, c)
を満足しないといけない32ことを意味する。というのも ∂f
∂σi j
はその曲面(f =0)の外向き法線「ベクトル」33に 相当するからだ。ただし,前節のλprが応力の逆数の次元を持つのに対し,ここのλは,式(11.62)のような
f の定義と式(11.63b)の流れ則の下では無次元量になることには注意すること。この条件を法線則と呼んでい る。応力空間と塑性ひずみ増分空間を同じ「座標系」に重ねて議論することは非常に考え難いとは思われるが,
式(11.31b)が発見されるに至った実験観察から「応力」と「塑性ひずみ増分」は共軸性を持っていると考えて
いるので,重ねて考えられているのである。
32ただし,Trescaの降伏関数の場合には図11.19からも明らかなように降伏曲面に角点が存在することから,式(11.63b)の微係数が唯
一には定義できない問題点がある。角点の発生は,多結晶体のように複数の降伏メカニズムが存在する場合に,その複数の降伏曲面の 一番内側の包絡面で降伏曲面を定義する[51]ことからも生じる。これについては文献[122]あるいは第11.4.3節で紹介するモデル[80]
等を参照のこと。
33円の方程式f(x, y)=x2+y2−r2=0をxとyで微分して求められるベクトルν≡⌊∂f
∂x∂f
∂y
⌋t
=⌊2x2y⌋tが円の外向き法線ベクトルを表 していることからもわかるだろう。
(4) 増分型構成方程式
塑性ひずみ増分が生じ続ける載荷状態では降伏条件式(11.62)が成立し続けなければならないので,整合条件 を満足し
f˙= ∂f
∂σi j
σ˙i j−∂τy(ϵp)
∂ϵp ϵ˙p= ∂f
∂σi j
σ˙i j−∂τy(ϵp)
∂ϵp
√
2 ˙ϵi jpϵ˙i jp =0 が成立する。第2項に流れ則の式(11.63b)を代入すると
f˙= ∂f
∂σi j
σ˙i j−λ∂τy(ϵp)
∂ϵp
√ 2 ∂f
∂σi j
∂f
∂σi j
=0 となるので,最終的に
λ= 1 H
∂f
∂σi j
σ˙i j, H≡∂τy(ϵp)
∂ϵp
√ 2 ∂f
∂σi j
∂f
∂σi j
(11.64a, b) を得る。Hは硬化係数である。これを再度流れ則の式(11.63b)に戻せば
ϵ˙i jp = 1 H
∂f
∂σi j
∂f
∂σkl
σ˙kl (11.65)
を得る。これが一般化されたPrandtl-Reussの関係である。Misesの降伏関数を用いた場合には式(11.37)の 関係が成立するので,この式(11.65)は前節の式(11.39)に一致する。弾性成分との和および逆関係の誘導は,
次節に示す塑性ポテンシャルを用いた場合の結果の特別な場合に相当するので割愛する。
また式(11.64a)から,載荷や除荷も同様に降伏曲面の法線を用いて規定できることがわかる。すなわち
弾性: λ=0 もし f <0 (11.66a)
除荷: λ=0 もし f =0 かつ ∂f
∂σi j
σ˙i j<0 (11.66b) 中立載荷: λ=0 もし f =0 かつ ∂f
∂σi j
σ˙i j=0 (11.66c) 載荷: λ >0 もし f =0 かつ ∂f
∂σi j
σ˙i j>0 (11.66d) 許容されない状態: f >0 (11.66e) となる。つまり降伏曲面の法線「ベクトル」と応力増分「ベクトル」の内積で各状態を規定している。内積が 正であるということは,降伏曲面が凸である限り,応力増分がこの降伏曲面から外に出ようとすると解釈する ことができる。逆に内積が負であれば,応力増分は降伏曲面の内側に戻ろうとしていることに相当しており,
これが上式では除荷として規定されていることになる。Misesの降伏関数を用いた場合には式(11.37)の関係 が成立するので,この式(11.66)は前節の式(11.40)に一致する。
11.3.2 塑性ポテンシャルの導入
(1) 塑性ポテンシャルと弾塑性増分関係
塑性ひずみ増分の空間と応力空間を同じ「座標系」に重ねて法線則を解釈したところに違和感を持った人も いたと思う。そこでここではそれを緩和しよう。ここもHill [39]の記述をそのまま引用する。まず単調に載荷 し続けて塑性変形を発生させ続けた場合には,式(11.62)のhもτyも単調に増加し続けるものの,f は零を満 足し続ける。したがって「載荷」という状況は
載荷: f =0, f˙=0, h˙ >0, τ˙y>0 ⇒ ϵ˙p>0, f =0 (11.67)