10.2.1 3次元の運動方程式
変位u(x,t)で表した3次元物体の運動方程式は式(3.152)で表される。その分布外力Xを無視したのが (λ+µ)∑
j
∂2uj
∂xj∂xi +µ∑
j
∂2ui
∂x2j =ρu¨i (10.11)
である。しかしこの章以降では総和記号のΣを省略し,また偏微分演算子の表記を簡略化するために
• 同じ添え字記号が二度5現れた項は,その記号については必ず1から3まで総和をとるものとする。2次 元の場合は1から2までの総和とする。この規則を総和規約と呼ぶ。例えば
δkk=δ11+δ22+δ33 =3, δi jσjk=σik, δi jσi j=σii=σj j =σkk =σ11+σ22+σ33
のようになる。ここにδi jはKroneckerのデルタである。したがってHookeの法則式(3.46) (3.49a)も
σi j=2µ ϵi j+λ δi jϵkk, σi j =Ci jmnϵmn (10.12)
と表すことができる。
• 微分はコンマで表し,コンマの次に現れる添え字に対応した独立変数についての偏微分演算子を表すも のとする。例えば3次元のひずみの定義式(3.6)とつり合い式(3.22)はそれぞれ
ϵi j= 1 2
(ui,j+uj,i)
, σji,j+Xi=0 (10.13a, b)
と表すことができる。元の式と見比べて早目に慣れて欲しい。
という「表記上の規則6」を用いることにする。この規則を使うと変位で表した運動方程式(10.11)は
(λ+µ)uj,ji+µui,j j=ρu¨i (10.14) と表される。これを解こう。ただし,任意の初期値境界値問題を解くには時間についてFourier変換された支配 方程式を対象とする必要がある等の難しさが伴う。著者の能力ではそれをカバーすることは不可能だ。ここで はある特定の運動場を設定し,弾性無限体中で定常的に伝播する調和振動の基礎的な現象だけを列挙する。
10.2.2 平面波の定義
O x2
x1
x3 p
図10.5 平面状の波 ある観測地からとても遠い活断層で地震が発生した場合,その震源を観測地から見
ると,それは無限遠点にある点源にしか見えないだろう。その点源からはほぼ球面状 の波動が発生するが,観測地が震源からとても遠いので,そこに到達する波は点源か らの曲率半径がとても大きな球面波であり,それをほぼ平面状の現象が伝播する波と して近似しても工学的には問題は生じないだろう。さて式(10.4)で示したように,1 次元の進行波はf(x−cbt)という関数形で表現できる。この関数は,x=const.の面の
物理現象が,その面の法線方向つまりx方向にcbの速さで伝播していることを示している。一方,図10.5に 示したようにpをある平面の単位法線ベクトルとすると,3次元空間の任意の平面はp1x1 +p2x2 +p3x3 = const.で定義できる。つまりその平面はx·p=xkpk=const.と表すことができる。したがって1次元の進行波 からの類推で,3次元空間の平面波の変位は
u=df(x·p−c t) あるいは ui=dif(xkpk−c t) (10.15) という関数で表現できることは容易に理解できるだろう。ここにdは変位ベクトルの向きを表す単位ベクトル であり,cは考えている波の位相速度である。引数の(x·p−c t)を位相と呼ぶことがある。
5興味深いことに,一つの物理的な項に同じ添え字記号が三度以上現れることは無い。逆に二度現れる添え字記号に対して総和をとらな い場合もあり,そのときは注意書きをすることになっている。例えば式(12.190)。
6「表記上」と書いたのは,ここに書いた総和規約とコンマは直角座標でしか用いることができない不正確な定義であるからである。正 確な定義は付録Cに示したので一度は必ず読んでおいて欲しい。
式(10.15)のような平面状の波が存在するかどうかを調べるために,それを式(10.14)の運動方程式に代入し てみよう。そのために式(10.15)を微分すると
ui,j=dipj f′(xkpk−ct), ui,j j =dipjpj f′′(xkpk−ct)=dif′′, uj,ji=djpjpif′′, u¨i=c2dif′′
等という関係が成り立つ。第2式ではpが単位ベクトルであること(pjpj =1)を用いた。これを運動方程式に 代入して整理すると
{(λ+µ)( djpj
) pi+µdi−ρc2di
} f′′(xkpk−ct)=0
となるので,この関数形を持った解が存在するためには,係数が零でなければならないから (µ−ρc2)
di+(λ+µ)( djpj
) pi=0 (10.16)
が成立しなければならない。
この式(10.16)が成り立つ可能性は二つある。
1. 一つはp=±dつまりpi=±diの場合である。これは,平面状の運動の変位は平面の法線方向であること を示している。これを上式(10.16)に代入すると
{(µ−ρc2)
+(λ+µ)}
di=0 → (λ+2µ)−ρc2=0 となる。つまり,位相速度が式(3.156a)で定義したものと同じく
c=cl≡
√λ+2µ
ρ (10.17)
で定義される縦波(P波)の速度になる。この場合は
∇×u=d×pf′(x·p−clt)=±d×df′=0 [∵d×d=0]
を満たす波動,つまり非回転波になっている。これはせん断変形が伝播するのではなく,1次元の波動 のような疎密波の伝播に相当する。
2. もう一つの可能性はp·d =0つまりpidi =0の場合である。つまり,平面状の運動の変位が平面の法線 方向と直角方向になることを示している。これを上式(10.16)に代入すると
µ−ρc2=0 → c=ct≡
õ
ρ <cl (10.18)
となるから,位相速度は式(3.156b)で定義された横波(S波)の速度になる。この場合は
∇·u=d·pf′(x·p−ctt)=0 [∵ d·p=0]
を満たす波動,つまり等体積波になっている。これは体積変形が無いまません断変形が伝播しているこ とになる。
⊗ ⊙
p p p
d
d d
x2 x1 O
P波 SH波 SV波
図10.6 P波・SH波・SV波 以下では,x1-x3平面が文字通りの水平面と平行で,波の
進行方向を定義するpはx1-x2平面内にあることを前提と する。その前提の下で,図10.6に示した3種類の波の挙動 を検討する。
P波: 縦波で,変位ベクトルの向きのdがx1-x2平面内にあるものとする。
SH波: 横波のうちdがx3方向にある波,つまりd=⌊0 0 1⌋tである。したがって平面状の運動は x1-x2平面の法線方向に生じ,水平(x3)方向の運動になっているのでH[orizontal]の文字を 用いている。面外波と呼ぶこともある。
SV波: 横波のうち,dもx1-x2平面内にある波である。平面状の運動はx1-x2平面内に生じ,一般 には水平方向ではない(傾いた鉛直方向の)運動になっているのでV[ertical]の文字を用いて いる。面内波と呼ぶこともある。
10.2.3 無限領域の調和平面波
(1) 調和振動
これまではf(·)の関数形は任意として扱い,初期条件や境界条件で決まるものだったが,ここからは定常運 動を対象として,定周期運動とする。つまり振幅Aの調和振動運動として
f(x·p−c t)=Aexp (iη), η≡k(x·p−c t)=k(x·p)−ωt (10.19a, b) と仮定する。ここにk ≡ω/cは波数であり,ωは振動数である。また,波が伝播する領域は図10.7のように,
水平面x2=0を境にして上下別々の領域に分割されているものを対象とする。
(2) SH波の反射
x1 x2
O
p(0) p(2) θ2
θ0
d⊙
図10.7 SH波の反射 SH波は図10.7に示したd = ⌊0 0 1⌋tの波である。境界条件を検討すると
明らかになるが,実はSH波の反射ではSH波しか生じない。したがって,
入射する波も反射波も生じる変位はx3方向成分u3のみである。そこで図の ように角度と波の進むベクトルを定義すると
p(0)=
sinθ0
cosθ0
, p(2)=
sinθ2
−cosθ2
(10.20a, b) となるので,入射波は
u(0)3 =A0 exp{ik0 (x1 sinθ0+x2 cosθ0−ctt)} (10.21) であり,反射波は
u(2)3 =A2 exp{ik2 (x1 sinθ2−x2 cosθ2−ctt)} (10.22) と表される。ここにA0,A2は複素数の振幅である。
上半分が剛な場合: 比較的剛な物体が載った地盤等で生じる反射をモデル化したものとして,x2 > 0の領域 が剛な場合を考えよう。この場合x2=0の境界条件はu3=0となるから,入射波と反射波の重ね合わせから
u3(x2=0)=u(0)3 (x2 =0)+u(2)3 (x2=0) (10.23)
=A0 exp{ik0 (x1 sinθ0−ctt)}+A2 exp{ik2 (x1 sinθ2−ctt)}=0
が任意のx1,tに対して成立しなければならない。つまり,二つの指数関数(exp)の形は共に同じでなければな らず,x1の係数同士とtの係数同士の等置から
k0 sinθ0=k2 sinθ2, k0=k2
が成り立つ必要がある。よって
k2=k0, θ2 =θ0 (10.24a, b)
を得,これを境界条件式(10.23)に代入し戻せば
A2=−A0 (10.25)
と求められる。したがってx3方向変位は,この結果を反射波の式(10.22)に代入したものと入射波の式(10.21) とを重ね合わせて
u3(x1,x2,t)=A0 exp{ik0 (x1 sinθ0+x2 cosθ0−ctt)} −A0 exp{ik0 (x1 sinθ0−x2 cosθ0−ctt)}
=2iA0 sin (k0x2 cosθ0) exp{ik0 (x1 sinθ0−ctt)} (10.26) となる。解の最初の関数sin (k0x2 cosθ0)の部分は,深さ方向のx2方向にはsine関数状の振幅分布をすること を示しており,このような波を重複波と呼んでいる。また二つ目の指数関数は,その引数が(x1 sinθ0−ctt)で あることから,x1の正の方向に進む進行波であることを示している。
水平面が自由表面の場合: 水平面より上が大気(真空)である場合の反射をモデル化したものとして,x2 =0 が自由表面である場合を考えよう。このときのx2 = 0の境界条件はσi2 = 0 (i = 1, 2, 3)である。SH波は u1 =0,u2 =0,u3 =u3(x1,x2)なので,各ひずみ成分はϵ11=0,ϵ22 =0,ϵ33=0,ϵ12 =0となるので,Hookeの 法則からσ12 =0とσ22 =0は常に成立する。したがって残った条件は
σ32=2µ ϵ32=µu3,2 =0 となる。このことから自由表面の境界条件は
u3,2=0 (10.27)
で与えられる。剛体の場合と同様にして入射波と反射波の重ね合わせで境界条件式(10.27)を表すと
u3,2(x2=0)=u(0)3,2(x2=0)+u(2)3,2(x2=0) (10.28)
=ik0A0 cosθ0 exp{ik0 (x1 sinθ0−ctt)} −ik2A2 cosθ2 exp{ik2 (x1 sinθ2−ctt)}=0 となり,これが任意のx2,tに対して成り立たなければならない。したがって
k2=k0, θ2=θ0 A2=A0 (10.29a, b, c) が解になる。よって,定常状態の変位は剛体の場合とほぼ同様に
u3(x1,x2,t)=2A0 cos (k0x2 cosθ0) exp{ik0 (x1 sinθ0−ctt)} (10.30) と求められる。境界条件の違いは,重複波の部分のみに現れている。
(3) 自由表面におけるP波の反射
前節のようにSH波の反射では境界条件によらずSH波しか生じなかったが,P波の場合には,例えば
P, SV波が発生: 次の条件のとき
1. 上領域が剛なとき:u1=0,u2=0
2. 自由表面のとき:σ21=0,σ22=0 P波のみが発生: 次の条件のとき
1. u1=0,σ22=0
2. 摩擦の無い境界のとき:u2=0,σ21=0 のような反射が生じることがわかっている。
x1
x2
O
P波 P波
SV波 d(0),p(0)
θ0
θ2
p(2) d(2)
d(1),p(1) θ1
図10.8 P波の反射 ここでは代表的な例として,自由表面を持つ半無限体を対象として
解くので,その他の場合については各自試して欲しい。図10.8に示し たように角度とベクトルを定義すると,三つの波の変位をn = 0, 1, 2 で区別して
u(n)i =Andi(n) exp (iηn) (i=1,2), (10.31a) ηn≡kn (
x1p(n)1 +x2p(n)2 −cnt)
(10.31b) と表すことができる。ここに
入射P波:d(0)=p(0)=
sinθ0
cosθ0
, c0 =cl, 反射P波:d(1)=p(1)=
sinθ1
−cosθ1
, c1=cl, (10.32a, b, c, d) 反射SV波:d(2)=
cosθ2
sinθ2
, p(2)=
sinθ2
−cosθ2
, c2=ct (10.32e, f, g) である。ひずみ成分はそれぞれ
ϵ(n)11 =u(n)1,1=iknp(n)1 d(n)1 An exp (iηn), ϵ22(n)=u(n)2,2=iknp(n)2 d2(n)An exp (iηn), (10.33a, b) 2ϵ(n)12 =u(n)1,2+u(n)2,1=ikn
(d(n)1 p(n)2 +d(n)2 p(n)1 )
An exp (iηn) (10.33c)
と書くことができるので,Hookeの法則に代入すれば各応力成分も σ(n)22 =(λ+2µ)ϵ22(n)+λ ϵ11(n)=ikn
{(λ+2µ)d2(n)p(n)2 +λd(n)1 p(n)1 }
An exp (iηn), (10.34a) σ(n)12 =2µ ϵ12(n) =iknµ{
d(n)2 p(n)1 +d(n)1 p(n)2 }
An exp (iηn) (10.34b)
と表される。
自由表面の境界条件はx2=0でσ22 =0,σ21 =0なので,式(10.34)の重ね合わせから σ22(x2=0)=
∑2 n=0
σ(n)22(x2=0)=
∑2 n=0
ikn
{(λ+2µ)d2(n)p(n)2 +λd(n)1 p(n)1 }
An exp( iηn
)=0, (10.35a)
σ21(x2=0)=
∑2 n=0
σ(n)21(x2=0)=
∑2 n=0
iknµ{
d2(n)p(n)1 +d1(n)p(n)2 }
An exp( iηn
)=0 (10.35b)
となる。ここにηn≡ηn(x2=0)=kn
(x1p(n)1 −cnt)
と置いた。この条件式に式(10.32)を代入して整理すると ik0
(λ+2µcos2θ0
) A0 exp( iη0
)+ik1
(λ+2µcos2θ1
) A1 exp( iη1
)
−2ik2µsinθ2 cosθ2A2 exp( iη2
)=0, (10.36a)
2ik0µsinθ0 cosθ0A0 exp( iη0
)−2ik1µsinθ1cosθ1A1 exp( iη1
) +ik2µ(
sin2θ2−cos2θ2
) A2exp( iη2
)=0 (10.36b)
を得る。この式が任意のx1,tに対して成立するためには,まず指数関数同士が等価でなければならないから k0cl=k1cl=k2ct=ω, k0 sinθ0=k1sinθ1=k2 sinθ2=見かけの波数 (10.37a, b) の条件が成り立つ必要がある。後者の式(10.37b)はSnellの法則と呼ばれている。したがって
k1=k0, k2=κk0, κ≡ cl ct =
√λ+2µ
µ =
√2(1+ν)
1−2ν >1 (10.38a, b, c) となり,角度は
θ1=θ0, sinθ2=k0
k2 sinθ0= 1
κ sinθ0 <1 → θ2< θ1=θ0 (10.39a, b, c) と求められる。式(10.38c)で定義したκが1より大きいので実数のθ2が必ず存在し,最後の式で示したよう に,その値はθ1より小さくなることには注意すること。この結果を式(10.36)に代入して整理すると
(λ+2µcos2θ0
) A1
A0 −κ µsin 2θ2
A2 A0 =−(
λ+2µcos2θ0
), sin 2θ0
A1
A0 +κ cos 2θ2
A2
A0 =sin 2θ0 (∗) を得る。第1式をµで除してκ2=λ/µ+2を使うと
(κ2−2 sin2θ0
) A1
A0 −κsin 2θ2
A2
A0 =−(
κ2−2 sin2θ0
)
と書き換えられ,さらにsinθ0 =κ sinθ2を使えば,κ2−2 sin2θ0=κ2 cos 2θ2となるので,この式は κcos 2θ2
A1 A0
−sin 2θ2
A2 A0
=−κ cos 2θ2
となり,結局上の二つの式(∗)は
κcos 2θ2 −sin 2θ2
sin 2θ0 κcos 2θ2
A1/A0 A2/A0
=
−κ cos 2θ2
sin 2θ0
と書き換えられる。したがって
A1/A0
A2/A0
= 1
∆
κ cos 2θ2 sin 2θ2
−sin 2θ0 κ cos 2θ2
−κ cos 2θ2
sin 2θ0
, ∆≡sin 2θ0 sin 2θ2+κ2 cos22θ2
のように誘導できて,振幅比が A1
A0 = sin 2θ0 sin 2θ2−κ2 cos22θ2
sin 2θ0 sin 2θ2+κ2 cos22θ2, A2
A0 = 2κ sin 2θ0 cos 2θ2
sin 2θ0 sin 2θ2+κ2 cos22θ2
(10.40a, b) と求められる。これから
1. θ0 = 0の場合にはθ1 = θ2 = 0, A2 = 0になるので反射はP波のみになり,A1 = −A0になる。ただし A0d(0)2 =A1d2(1)になるから,u2の入射波と反射波が同位相になって重複波になる。
2. θ0 = π/2の場合(かすめ入射と呼ばれる)にもA2 =0になり,反射はP波のみである。ただし,この場 合はA0d(0)1 =−A1d(1)1 になるのでu1の入射波と反射波は逆位相になり,結局u1 =0になる。真横からの 入射なのに波動が伝わらないというのは一体?
3. sin 2θ0 sin 2θ2 =κ2 cos22θ2を満たすようなθ0で入射した場合にはA1 =0になるから,反射はSV波の みになる。このような現象をモード変換と呼ぶ。
といった特徴が明らかになる。