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第 6 章  非上場株式等の新事業承継税制

第 1 節  非上場株式評価の現状

1.非上場株式評価の必要性

事業承継においては、平成 18年(2006年)の会社法施行に伴い1)、相続があった場合 に、相続により株式を取得した相続人に対して、会社は株式の売渡請求を行うことができ る制度が設けられた(会社法174条)。また、事業承継のための相続時精算課税2)で特定同

1)  「新会社法」は改正後の会社法(平成17726日法律第86号)である。

2)  相続時精算課税制度は、生前贈与を容易にして次世代への資産の移転を促進するため創設された(平 15年(2003年)3月法律第8号)。この制度は、生前贈与について、受贈者の選択により、現行 の贈与税制度に代えて、その選択にかかる最初の贈与を受けた年の翌年21日から315日まで の間に必要事項を記載した届出書を所轄税務署長に提出した場合に適用する(相法219②)。この 制度の適用対象となる贈与者は、65歳以上の親、受贈者は20歳以上の推定相続人(贈与者の直系卑 属)である(相法219①)。ただし、平成25年改正で、平成2711日以後の贈与につき、贈 与者の年齢要件を60歳以上に引き下げ、受贈者の範囲に20歳以上である孫が追加された(措法70 25)。この贈与税の額は、選択した年以後については、現行贈与税の基礎控除110万円を控除 せず、特定贈与者ごとに、贈与財産の価額の合計額から非課税枠2500万円(相法2112)を控除

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族株式に関する特例が設けられた(措法70の3の4)。このように、非上場株式の評価は、

相続・贈与のみならず売買・M&A 等の企業再編を行う場合などのさまざまな場面で必要 不可欠なものとなってきた。

既述したように、事業承継の方法は、一般的に、①親族承継、②従業員等への承継、③

M&Aの3種類であるといわれている。この時、事業承継のためオーナーの議決権株式の

集中に際し、税務上の時価が問題になるのは、①と③の場合である。①の親族承継は、所 有と経営を分離しないで承継される経営のし易さから株式を買集める場合であり、③の

M&Aでは、オーナーがM&Aに先だって株式の買集めをする際に「時価」が問題になり

やすい。取引相場のない会社の株式の評価において、その必要性が生ずる場合はさまざま であるが、共通する特色としては、(イ)株価形成に市場要因が入らない、(ロ)株式保有の性格

(支配株主か少数株主か)により価格が異なる(一物多価)、(ハ)不動産評価をどの方法で 行うかによる影響が生ずる場合もある、などが指摘できる3)。特に、以下の場合において、

株式評価が必要とされる。

  まず、取引相場のない会社の株式評価が求められるのは、相続や贈与の場合が最も頻度 が高い。相続や贈与の対象財産に非上場株式が含まれる場合には、上場株式と異なり、市 場価格が定められていないため、株価を算定しなければならない。特に、相続税・贈与税 においては、相続、遺贈または贈与により無償取得した株式の価額を課税標準として、納 付すべき税額を計算することになるので、その取得株式の価額をどのようにして評価する かということは基本的事項である。なお、相続税を計算するための財産評価方式として、

国税庁は、「評価通達」のなかで、非上場株式の評価について、類似業種比準方式、純資産 価額方式、配当還元方式などを示している。この具体的な評価方式は、第9章第2節にお いて記述する。

次に、株式譲渡の場合であるが、売買は、契約自由の原則により、売買価額を自由に決 めることができるが、経済的行為としての売買である以上、売り手はより高く売り、買い 手はより安く買いたいと思うのが自然だろう。このような経済的行為において、その売買 当事者が第三者同士であり、資本関係、親族関係などに問題がなければ、その成立した取 引価額はまさに時価といえよう。しかし、売買当事者が資本関係や親族関係など特別な関

した後の金額に一律20%の税率を乗じて計算する(相法2113)

3)  村松司叙〔1994〕20頁。 

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係にある場合には、一般の市場とは異なる価額により売買が成立することもあり得る4)。 このような売買契約による税務処理については、売買当事者の組合せ、すなわち、①法人 間取引、②法人・個人の取引、および③個人間取引における価額により、その判断基準に 相違がある5)。また、私契約として締結された売買の価額が不当に高額または低額の場合 に、租税回避という問題が発生し、税法により課税権が行使される可能性もある6)

したがって、取引価額については、その適正性、経済合理性、取引の目的、当事者の資 産処分による損益の処理、取得後の利用状況などを精査し、税務上の時価基準、評価額等 の規定による処理が行われることとなる7)

既述したように、わが国の中小企業は、経営者の高齢化の進行により事業承継問題への 関心が高まってきており、その多くが同族経営であり、後継者問題および相続税等のさま ざまな要因により円滑な事業承継が行われていないのが現状である。その中小企業では、

後継者とそれ以外の相続人との間に株式の買取価格をめぐる問題が存在し、その買取価格 の算定が重要課題の一つとなっている。さらに、同族関係者間での取引の場合は、税務的 な観点からの評価額も考慮する必要がある。

2.財産評価の基本的考え方

(1)時価の意義

相続税法においては、同法22条において、相続等により取得した財産の価額は、「当該 財産の取得の時における時価」によることとされ、同法7条において、著しく低い価額の 対価で財産の譲渡を受けた者は、「当該対価と当該譲渡があった時における当該財産の時 価」との差額について贈与をうけたものとみなされる。このように、相続税法においては、

「時価」の評価が課税価格算定の重要な要件となる。

「時価の意義」について、相続税に係る評価通達では、「財産の価額は、時価によるもの とし、時価とは、課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者

4)  高価譲渡や低廉譲渡の場合には、贈与税の問題、みなし譲渡の問題など、上場株に比べ課税される 範囲が広くなっている(岩下忠吾〔2010〕82頁)

5)  同上、84頁。

6)  学説上、租税回避とは、「私的経済取引プロパーの見地からは合理的理由がないのに、通常用いられ ない法形式を選択することによって、結果的には意図した経済目的ないし経済的効果を実現しながら、

通常用いられる法形式に対応する課税要件を免れ、もって税負担を減少させあるいは排除する行為」

であるとされている。すなわち、納税者は、私法上の選択可能性を利用して、通常の法形式を選択し た場合と同じような経済効果を達するために異常な法形式を選択し、それによって通常の法形式の場 合に生じる租税負担を軽減または排除しようとすることがある(金子宏〔2013〕114頁)

7)  岩下・前掲注4、84頁。

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間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は、こ の通達の定めによって評価した価額による」(評基通1(2))と定めている。

この評価通達の意図するところは、まず、いつの時点の時価であるかという評価時点が 問題となる。相続税法では、相続、遺贈または贈与により財産を取得した時であり、原則 として、被相続人の死亡の日であり、贈与の場合は、契約その他法律的原因に基づいて財 産権を取得した日である。すなわち、相続財産等の価額は、課税時期における時価により 評価することになる。ところが、実務上、株式評価の具体的な取扱いでは、評価上の安全 性の配慮等から、評価時点について、若干の弾力性を持たせている8)

次に、評価通達において、時価とは、上述したとおり「課税時期において、それぞれの 財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると 認められる価額をいう」とされている。したがって、①時価は、不特定多数の当事者間で 通常成立する価額であるから、客観的であり、主観的な要素は排除される。②また時価は、

自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額であるから、客観的な交換価 値を示す価額である9)

また、評価通達は、「時価」の意義を上述のように定めながらも、各財産について具体的 な評価方法を定めている。非上場株式についても、純資産価額方式等の評価方法を定め、

時価評価ができるようにしている。しかし、このような評価額は、実務的には、一種の基 準価額または標準価額を意味し、本来の「時価」である客観的交換価額から乖離することも ある10)。このような乖離から生じる弊害を防止するために、評価通達の取り扱いの中で自 動安全装置的な措置が設けられている11)

たとえば、非上場株式の価額を純資産価額方式で評価する場合に、課税時期前3年以内 に取得した土地等を通常の取引価額で評価すること(評基通185)、上場株式等の価額の評 価においては、課税時期の属する月以前3月間の価額変動を斟酌して評価することができ るが、負担付贈与等により取得した上場株式等の価額の評価においては、その斟酌は認め

8)  たとえば、上場株式については、証券取引所の公表する終値を基として評価することとしているが、

相続税、贈与税における評価に当たっては、課税時期の終値ばかりではなく、課税時期の属する月前 三カ月間の各月の終値の月平均額も評価要素として採用しており、非上場株式を類似業種比準方式よ り評価する場合においても同様の配慮が加えられている(竹中正明・前田繼男・関俊彦(共著)〔1987〕

77頁〔前田執筆〕

9)  東京地裁昭和5593日判決(昭和52年(行ウ)第294号)行集3191750頁、東京高 裁平成71213日判決(平成7年(行コ)第99号)行集46121143頁。

10) 品川芳宣〔2004〕14頁。

11) 同上、14頁。