第 5 章 小規模宅地等の事業承継税制
第 2 節 「小規模宅地等の特例」に係る事業承継税制の課題
既述したように、小規模宅地等の特例は、幾多の改正を経て現在に至っているが、現行 の課税方式では、事業等を継続しない他の共同相続人等の税負担をも軽減する効果がある
11) 相続人以外の者とは、たとえば長男の妻が遺贈により取得した場合や相続人不存在の場合に成立す
る民法第958条の3(特別縁故者に対する相続財産の分与)の規定により、相続財産法人から分与を
受けた特別縁故者が遺贈により取得したものとみなされる場合などである(武田・前掲注8、4051 頁)。
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ことなど、これらの特例の拡充は課税の公平面での不平等の増幅につながるという問題点 を有している。また、次のような課題が考えられる。
第一は、民法上の課題である。現行の民法において、相続人は平等に相続できることに なっており、そのために様々な問題が生じている。その打開手段として生前贈与や遺言書 の作成があるが、それでも遺留分という権利保護があり問題解決には至っていない。さら に、相続税法における小規模宅地等の評価減額制度は、自宅や事業承継者を支援する制度 となっており、より問題が複雑になっている。なぜならば、小規模宅地等の特例と非上場 株式等に係る納税猶予制度とは、それぞれ別個独立した制度として適用されるからである。
それ故、中小企業者である会社の経営者の相続に際しては、特定同族会社事業用宅地等に
ついて400㎡まで80%減額の適用を受け、一方非上場株式等の完全議決権株式を相続によ
り3分の2取得して相続税額のうち非上場株式等に係る納税猶予の適用を受けることが重 要なポイントになる。よって、事業承継者が自社株式と事業用不動産を取得できるよう、
他の相続人に納得させることが現代表経営者の生前からの課題といえよう。
第二は、適用対象面積の課題である。特定事業用宅地等の限度面積は 400 ㎡であるが、
工場や老舗旅館等は大きな敷地を要する業種である。特に、老舗旅館等は歴史的な建物が 多く、地域経済にとっては不可欠な財産ともいえよう。これらの財産を代々守り事業を引 き継いでもらうためにも、業種により使用面積が異なるよう限度面積に特別の配慮が必要 であろう。
以上、小規模宅地等の減額割合は、【図表5−2】で示すように、地価の高騰とともに引 き上げられていったが、地価の鎮静化後も高止まりしていることへの批判があった。たと えば、平成 14 年(2002 年)の政府税制調査会答申では、「小規模宅地等の課税の特例を はじめとした事業承継関連の特例措置については、長期にわたる地価の低下等を踏まえ、
将来的には事業用資産全体に適用される特例措置への改組も含め、そのあり方について検 討する必要がある」12)として事業承継税制への拡充が図られようとしていたが、制度は改 正されなかった。なぜならば、優遇措置は、事業の円滑な承継を通じて中小企業の活性化 につながる点は認められるが、次のような問題点、すなわち、①自ら起業するものと事業 を承継するものとの間で機会の均等を害する、②次世代の経営能力の如何を問わず事業資 産が移転され、資源配分の効率性を損なう、③企業経営者層を過度に優遇し、事業用資産
12) 税制調査会〔2002〕16頁。
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以外の財産を相続した者との間で相続税負担の不公平をもたらす等の問題点が、存在する からである13)。一方で、「一定規模以下の居住用宅地建物の相続については非課税とするこ と」という意見もあった14)。それは、被相続人から継承した居住用宅地建物は、相続人が 生活を維持するために必要な財産であり、納税のために処分すれば生活の基盤が脅かされ るという理由によるからである15)。
なお、小規模宅地等の特例と特定事業用資産の特例の併用は原則的には不適用であった が(旧措法69の5⑥)、平成15年(2003年)度の税制改正により、一定の要件を満たす 場合、すなわち小規模宅地等の特例で選択した資産の特例対象面積が、限度面積に満たな い場合には、一定の算式で計算された価額を上限として特定事業用資産の特例の適用が選 択できた(旧措法69の5⑦)。この措置により、小規模宅地等の特例と非上場株式等につ いての相続税の納税猶予特例はそれぞれの上限まで完全併用が可能となり、中小企業経営 者にとっては、相続税の納税猶予特例の適用を検討する可能性が広がったといえるだろう。
13) 税制調査会〔2001〕6頁。
14) 日本税理士連合会〔2000〕19頁。
15) 同上、19頁。
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