第 9 章 非上場株式評価方式の課題
第 2 節 各評価方式の課題
Ⅱ 事業承継における非上場株式評価のあり方
既述したように、非上場株式の評価に当たっては、評価通達に定める方式が原則である が、評価通達によらないことが相当と認められる場合には、他の合理的な時価の評価方式 によることが認められている。非上場株式評価の課題としては、「評価方式の採用方法」と
「非上場株式評価制度の法定化」であると考える。
まず、非上場株式の評価方式であるが、それには収益方式4)、比準方式5)、純資産方式6)
3) 北野弘久〔1983〕331−333頁。
4) 収益方式とは、評価対象会社が将来継続していくことを前提として、評価対象会社の将来生み出さ れる収益を予測し、適正な割引率によって現在価値を導き株価を算定する方式をいう。この評価方法 には、将来のフリーキャッシュフローを予測し株価を算定するDCF方式、将来の予測利益を基に株価 を算定する収益還元方式、評価対象会社の配当金に着目して株価を算定する配当還元方式などがある
(中小企業庁・平成21(2009)年2月、9頁)。
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があり、どの評価方式を採用するかにより価額に大きな影響を与える。しかし、税法上の 非上場株式の評価は、評価通達178~189−7に定められており、相続税の財産評価を目的 としているため、原則として、課税の公平の観点から、課税時期における清算価値に着目 し、将来の企業価値を考慮する収益方式の考え方は取り入れられていない。
所有と経営が分離していない中小企業は、事業資金借入のために個人資産を担保提供し ている場合が多い。法人経営のために提供した個人資産は債権者の承諾なしには処分でき ず、資産価値としては制約を受けている。
このように、法人経営のために担保提供した個人資産は、事業用資産に準じるものとし て扱い、担保付個人資産の評価額の一定割合を減額する特例を創設する。また、一定要件 を満たす中小企業につき、一定期間の事業の存続を条件として生存権的財産の対象となる 財産については、現行の資本価額ではなく、利用価額(収益還元価額)を課税標準とする などの措置を導入し、相続税の評価方法の見直しを検討すべきだろう。加えて、市場性の ない株式の評価については、中小企業経営者が経営努力により企業価値を向上させるほど 評価額が高くなり、相続税が重くなるという弊害が生じているので、こうした点を踏まえ、
評価通達における非上場株式の評価方法を抜本的に見直す必要がある。
「経営承継法における非上場株式等評価ガイドライン」(平成21年2月)において、実 務上活用されている収益還元法やDCF方式など多様な評価方法が提示されているように、
評価通達における非上場株式の評価方法も将来の企業価値を考慮する収益性に着目した評 価方法を取入れることを提言したい。その場合に、将来の収益や超過収益をどのように見 積もるか、ブランドの超過収益への貢献をどのように考えるかがポイントとなるだろう。
次に、「株式評価制度の法定化」である。ドイツでは、相続税における財産評価は、「評 価法」という法律が体系化され、それに基づいて行われている(相続税法12条1項)7)。 一方、わが国では、実務上の評価は、評価通達に基づいて行われており、その評価を巡り、
しばしば納税者と国税庁との間で争われるケースが少なくない。それは、現在の評価方法
5) 比準方式とは、評価対象会社と類似する公開会社等の配当、利益、純資産などを基礎とし、類似す る公開会社の要素に調整を加えて株価を算定する方法をいう。この評価方法には、類似する公開会社 の株価を基礎とする類似会社比準方式、類似する会社の実際に行われた過去の取引価額を基礎とする 取引事例方式がある(同上、14−15頁)。
6) 純資産方式とは、評価対象会社のストックとしての資産および負債に着目して株価を算定する方法 をいう。この評価方法には、評価対象会社の貸借対照表上の資産および負債を基礎とする簿価純資産 方式、評価対象会社の貸借対照表上の資産を時価評価し、簿外負債の計上等追加修正を行った後の資 産および負債を基礎とする時価純資産方式などがある(同上、14頁)。
7) 渋谷雅弘〔2004〕175頁、詳細は第3章第1節にて既述。
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が「時価」の変動に対応できない場合や、適時・適切に改正されない場合等評価通達の合 理性が問われているからであろう。
現状では、相続税法第 22 条において、当該財産の価額は「時価による」と定められて いるのみで、後は評価通達に依存している。評価通達には、拘束性はないというものの、
実務上、納税者や裁判所ですら、運用指針として通達に依存している。その評価通達は、
「時価とは何か」ということよりも、事業承継のための政策目的を実現するために改正さ れてきたともいえる。それは、大別すると、①中小企業の事業用財産等は生存権的財産で あるが故に、一定の規制または制約等があるために一定割合を控除しているものと、②評 価の安全性を考慮して、類似業種比準価額を計算する際の「0.7(又は0.6、0.5)」を乗じ ているもの等がある。この評価の安全性は、①市場性・流通性に欠けるため財産評価が困 難であること、②事案を大量に処理するための必要性等に対する斟酌であると説明されて いる。これらの評価の安全性(評価上の斟酌)が大きいということは、個々の財産の特殊 性に加え、財産評価の困難性を意味していると考えられ、裏を返せば評価が不適正ともい えるのである8)。
財産の評価は、財産の種類により個別性に加え、評価通達にのよる形式基準のみならず、
実態にあった評価の観点から評価することも必要であろう。すなわち、通達による形式的 な要件を満たすだけではなく、同時に実質的な事実認定をも判断要素として必要とされて いるのである9)。
以上から、中小企業の雇用を安定させ、より経済的発展を目指すためには、事業承継税 制のさらなる改正が必要であると考える。事業承継円滑化を地域経済活性化対策として重 点的に位置付けるならば、将来的には、現行相続税から分離した事業承継税制の確立およ び財産評価の法定化が必要であろう。その法定化の具体的内容については今後の研究課題 として進めていきたい。
8) 品川芳宣〔2004〕121−122頁。
9) たとえば、①通達の取扱いを形式的に適用した納税者の主張が排斥された事例では、裁判所は、形 式的に通達に掲げるいずれかの事実がありさえすれば当然に退職給与と認めるべきという趣旨では なく、実質的な退職の事実がないとして、納税者の請求を棄却した(東京高裁平成17年9月29日判 決(平成17年(行コ)第78号)訟月52巻8号2602号)、②通達の取扱いは例示であり実質的に判 断する必要があるとされた事例(東京地裁平成20年6月27日判決(平成18年(行ウ)第466号)、
(平成19年(行ウ)第270号)判タ1292号161頁)。
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謝 辞
本研究は、筆者が熊本学園大学大学院 商学研究科 商学専攻 博士後期課程在学中に 研究をまとめたものです。
本研究に関して終始ご指導ご鞭撻をいただきました指導教授の末永英男教授に心より感 謝申し上げます。末永教授には、博士後期課程3年間にわたり、論文の作成過程において、
筆者の細部にわたる問題点の指摘等、学位論文の完成まで、丁寧かつ熱心なご指導を賜り ました。本当にありがとうございました。
学位論文の審査において、本論文をご精読いただき貴重なご指導とご助言をいただきま した工藤栄一郎教授、池上恭子教授に心より感謝申し上げます。
長崎大学大学院経済学研究科の岡田裕正教授に心より感謝申し上げます。岡田教授には、
長崎大学大学院の在学中、修士論文の作成にあたり、論文の基本を厳しくも優しくご教示 いただきました。本当にありがとうございました。
末永ゼミの先輩の皆様、大学院での学びを温かく見守り応援して下さいました。また、
末永ゼミの宮崎裕士さん、ゼミの中心的存在として先生との橋渡しを快く受けて下さり、
仲間が一丸となることができました。心より感謝申し上げます。
日常の議論を通じて多くの知識や示唆を頂いた末永ゼミの仲間の皆様、皆様との学びの 中で出会いの大切さを知ることができました。それに、研究を進めていく上で大きな励み となりました。心より感謝申し上げます。
最後に、仕事と大学院との両立を応援して下さり、温かく見守って下さった田中会計事 務所の所長はじめ職場の皆様に心より感謝申し上げます。皆様のご理解とご支援のおかげ で論文を書き上げることができました。ここに深い感謝の意を表して謝辞と致します。