第 5 章 小規模宅地等の事業承継税制
第 1 節 小規模宅地等の相続税の課税価格計算の特例
1.特例の概要
個人が相続または遺贈(死因贈与を含む。以下同じ)により財産を取得した財産のうち に、その相続の開始の直前において、被相続人または被相続人と生計を一にしていた被相 続人の親族(以下「被相続人等」という)の事業(準事業を含む)の用または居住の用に 供されていた宅地等(土地又は土地の上に存する権利をいう)で、建物または構築物の敷 地の用に供されているもので棚卸資産に該当しない宅地等(以下「特例対象宅地等」2)と いう)がある場合には、個人が取得した特例対象宅地等の適用を受けるものとして選択を したものについて、限度面積までの部分(以下「小規模宅地等」という)については、相 続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、その小規模宅地等の相続税評価額から【図表 5−1】に掲げる区分に応じ、それぞれに掲げる割合を乗じて計算した金額を減額する。こ の特例を「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」(措法69の4)(以下
1) 国税庁による平成22年分の相続財産の構成比は、土地48.4%(前年49.7%)、現金・預貯金23.2%
(前年22.3%)、有価証券12.1%(前年12.0%)の順となっている(相続財産に占める各資産、国税 庁、http://www.nta.go.jp/平成24年4月参照)。
2) この特例の対象となる宅地等とは、特定事業用宅地等、特定居住用宅地等、特定同族会社事業用宅 地等および貸付事業用宅地等のいずれかに該当する宅地等である。
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「小規模宅地等の課税の特例」という)という。
なお、この「小規模宅地等の課税の特例」制度は、相続または遺贈により取得した宅地 等のうち遺産分割により取得したものに限って適用があり、未分割遺産については適用が ない(措法69条の4④)。ただし、申告期限までに分割されていない宅地等が、①申告期 限後3年以内に遺産分割された場合、②申告期限後3年以内に分割できないことについて やむをえない事情があり、所轄税務署長の承認を受けた場合で、分割できることとなった 日として定められた一定の日から4カ月以内に分割されたとき、のいずれかに該当するこ ととなったときは、特例を適用することができる(措法69の4④〜⑤)。
中小企業の事業承継税制としては、同制度の適用範囲は、「特定事業用宅地等」および「特 定同族会社事業用宅地等」が対象となる。
(1)特定事業用宅地等
「特定事業用宅地等」とは、被相続人等の事業(不動産貸付業を除く)用に供されてい た宅地等で、次に掲げる要件のいずれかを満たすその被相続人の親族が相続または遺贈に より取得したものをいい、その場合には、その選択した特例対象宅地等の面積の合計額が 400㎡以下であるときは80%の減額ができる(措法69の4①、③一【図表5−1】イ)。
① その親族が、相続開始の時から申告書の提出期限(申告期限)までの間にその宅地等 の上で営まれていた被相続人の事業を引き継ぎ、申告期限まで引き続きその宅地等を所 有し、かつ、その事業を営んでいること。
② その親族が被相続人と生計を一にしていた者であって、相続開始時から申告期限まで 引き続きその宅地等を所有し、かつ、相続開始前から申告期限まで引き続きその宅地等 を自己の事業の用に供していること。
(2)特定同族会社事業用宅地等
「特定同族会社事業用宅地等」とは、相続開始の直前から相続税の申告期限まで、法人3) の事業の用に供されていた宅地等で、次に掲げる要件の全てを満たす被相続人の親族が相 続または遺贈により取得した場合におけるその宅地等をいい、その場合には、その選択し た特例対象宅地等の面積の合計額が 400 ㎡以下であるときは 80%の減額ができる(措法
69の4③三【図表5−1】ロ)。
① 相続税の申告期限においてその法人の役員(法法 2⑮に規定する役員、ただし清算人
3) 被相続人およびその被相続人の親族その他その被相続人と特別の関係がある者が有する法人の発行 済株式または出資の総数または総額の10分の5を超える数または金額の株式または出資を有する法 人に限り、清算中の法人を除く(措法69の4③三)。
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を除く)であること。
② 相続税の申告期限までにその宅地等を有していること。
【図表5−1】小規模宅地等の特例による減額割合等
相続開始の直前における宅地等の利用区分 要 件 限度 面積
減額 割合
被相続人等 の事業の用 に供されて いた宅地等
貸付事業以外の事業用の宅地等 イ 特定事業用宅地等 に該当する宅地等
400
㎡ 80%
貸付事業 用の宅地 等
一定の法人に貸し付けられ、その 法人の事業(貸付事業を除く)用 の宅地等
ロ
特定同族会社事業 用宅地等に該当す る宅地等
400
㎡ 80%
ハ 貸付事業用宅地等 に該当する宅地等
200
㎡ 50%
一定の法人に貸し付けられ、その
法人の貸付事業用の宅地等 ニ 貸付事業用宅地等 に該当する宅地等
200
㎡ 50%
被相続人等の貸付事業用の宅地等
ホ 貸付事業用宅地等 に該当する宅地等
200
㎡ 50%
被相続人等の居住の用に供されていた宅地等 ヘ 特定居住用宅地等 に該当する宅地等
240
㎡ 80%
(注)1 この減額割合は、平成22年4月1日以後に相続の開始があった被相続人等に係る相続税につ いて適用する。ただし、平成27年1月1日以後に開始する相続から特定居住用宅地等に係る特 例の適用対象面積は330㎡(改正前は240㎡)までの部分に拡充される(新措法69の4②二)。
(注)2 「貸付事業」とは、「不動産貸付業」、「駐車場業」、「自転車駐車場業」および事業と称するに 至らない不動産の貸付その他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行う「準事業」をい う。
(注)3 「限度面積」については、「特定事業用宅地等」、「特定同族会社事業用宅地等」、「特定居住用 宅地等」および「貸付事業用宅地等」のうち、いずれか2以上についてこの特例の適用を受けよ うとする場合は、次の算式を満たす面積がそれぞれ宅地等の限度面積になる。
A+(B×5/3)+(C×2)≦ 400㎡
A:「特定事業用宅地等」、「特定同族会社事業用宅地等」の面積の合計(イ+ハ)
B:「特定居住用宅地等」の面積の合計(ヘ)
C:「貸付事業用宅地等」の面積の合計(ハ+ニ+ホ)
ただし、現行(居住用240㎡、事業用400㎡)は最大400㎡限定併用であったが、25年度改 正により平成27年1月1日以後の相続・遺贈については、それぞれの限度面積(居住用330
㎡、事業用400㎡)、最大730㎡の完全併用に適用される(新措法69の4②四)。
(注)4 郵便局の敷地の用に供されている宅地等は特定事業用宅地等となる4)。
(出所):財務省、http://www.mof.go.jp/、2014年7月29日。
2.小規模宅地等の相続税の課税価格計算特例の経緯
(1)特例措置の新設
本特例は、昭和50年(1975年)6月20日付直資5−17「事業又は居住の用に供されて
4) 郵政民営化法第180条第1項の要件をすべて満たす一定の土地または土地の上に存する権利につい ては、特定事業用宅地等とみなされる。
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いた宅地の評価について」の個別通達で取り扱われていた5)。個別通達の趣旨は、「被相続 人の事業の用または居住の用に供されていた宅地のうち面積200㎡までの部分のいわゆる 小規模宅地については、それが相続人等の生活の基盤の維持のために必要不可欠のもので あって、その処分について相当の制約を受けるのが通常であるところから、最小限度、相 続税の財産評価の上で保護されるべきものである」6)とされていた(傍線−筆者)。
この場合の「制約」とは、被相続人の事業または居住の用に供されていた宅地のうち必要 最小限の部分は、憲法25条の「生存権」「最低限度の生活を保障する国の債務」規定によ り、人間としての最低限度は保証できるという生存権保障の観点からの配慮が求められて いるのである7)。
昭和57年(1982年)12月23日の「昭和58年度の税制改正に関する答申」において、
「株式評価について改善合理化を図ることとの関連で、個人が事業の用又は居住の用に供 する小規模宅地についても所要の措置を講ずるのが適当である」とされたことから、昭和 58年に「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」(昭和58 年3月法律 第11号)として法定化された(旧措法70条)。いわば、事業承継税制の先駆け的なもの である。昭和58年の税制改正は第8章で述べているように、「中小企業の事業承継税制」
が創設されたことに鑑み、中小企業の事業承継といった観点から改正が行われたのである。
58 年当時の立法担当者は、「最近における地価の動向にも鑑み、個人事業者等の事業の 用又は居住の用に供する小規模宅地の処分についての制約面に一層配慮し、特に事業用土 地については、事業が雇用の場であるとともに取引先等と密接に関連している等事業主以 外の多くの者の社会的基盤として居住用土地にはない制約を受ける面があること等に顧み、
従来の通達による取扱いを発展的に吸収して相続税の課税上特別の配慮を加えることとし、
小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例として法定化することとされまし た」8)(傍線−筆者)と説明されていた。
中小企業経営者の個人資産に占める事業用資産の割合は6割を超え(第2章第1節参照)、
5) 「小規模宅地等の相続税の課税価格計算特例」の創設に伴い、昭和58年3月31日付直評4、直資 2−95により廃止された。
6) 財務省〔1983〕177頁。
7) 北野弘久〔2004〕383−385頁。
8) 財務省・前掲注6、177頁。また、「発展的に吸収して」ということは、「事業又は居住の用に供され ていた宅地の評価について」は、従来、個別通達により、通常の方法によって評価した価額の80%
相当額によって評価することに取り扱われてきた(昭和50年6月20日付直資5−17)。この通達は、
廃止され(前掲注5記載)、「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」として法定化 された。このとき、従来の通達を吸収するとともに、さらに、「事業の用」のなかには、「事業に準ず るものの用」を含むものとして発展していった(武田昌輔〔1981a〕4047の2参照)。