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欧米主要国における事業承継税制の現状と最近の動向

第 2 章  事業承継形態の現状と課題

第 1 節  欧米主要国における事業承継税制の現状と最近の動向

1.アメリカの場合

1)

アメリカにおいて相続税は、「相続税」ではなく「遺産税(estate tax)」とされ、その 評価方式は、遺産課税方式2)を採用している。2011 年におけるアメリカ遺産税の税率は、

最高税率40%、最低税率18%であり、2010年の統計上、歳入に占める相続税の割合は1.6%

である【図表3−1】。

ブッシュ税制改革において、遺産税は、2009年にかけて次第に縮小し、2010年に一時 廃止されている。さらに、2013年オバマ政権では、富裕層向けを含めた「ブッシュ減税」

の 2 年間延長などが盛り込まれた包括減税法案が賛成多数で可決した3)。遺産税廃止の理

1)  アメリカについては、神山弘行〔2010〕32−66頁、川端康之〔2005〕21−43頁、渋谷雅弘〔2002〕

47−49頁、芳賀真一〔2010〕27−44頁参照。また、歴史的経緯については、McNulty,J.k.〔1994〕

参照。

2)  遺産税方式とは人が死亡した場合にその遺産全体を対象として課税する制度であり、英米系の国々 で採用されている。人は生存中に蓄積した富の一部を死亡にあたって社会に還元すべきである、とい う考え方に基づいている。この類型の相続税は、本来の意味における財産税である(金子宏〔2013〕

536頁)

3)  ブッシュ減税法案は、ブッシュ前政権が2001年~03年に導入した所得税や配当の減税を全所得層 を対象に延長するほか、失業保険の給付拡充、社会保障税の税率引下げ等が柱である。海外ニュース アーカイブス、http://world003news.blog133.fc2.com/blog-entry-334.html,2013315日。

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由としては、「遺産税、贈与税及び世代跳躍税は、特に、被相続人の遺産、被相続人の生存 配偶者等のすべての納税者や小規模事業や家族所有企業、農業事業者にとって不当なほど に負担が多い。また、ある納税者の死亡を原因として租税を課することは不当である」4) として、負担自体の問題と死亡を負担のきっかけとすることの不当性が説かれていた。遺 産税に対する批判の背後には、財産形成(消費と貯蓄との間の選択)は個人の自由に属す ることであり、また、財産獲得の多くは個人の努力の結果である、という自由主義的な思 想が存した5)。さらに、遺産税廃止は、キャピタル・ゲイン課税にも影響した。遺産税を 廃止することで、相続財産の取得価格の引継ぎを原則とし、相続財産の含み益(未実現キ ャピタル・ゲイン)に対する課税を繰延べ、相続人が売却した時点で含み益に課税する機 会を確保したと考えられた6)

2001 年ブッシュ減税法において、被相続人の課税資産の時価から、認定家族経営事業

(qualified family-owned business)の権利に係る一定の調整額を控除することができる ものと規定されている。当該規定がいわゆる事業承継税制に該当する。この規定では、被 相続人の課税資産の時価から、認定家族経営事業の価値相当額に係る一定の調整額を控除 することができるものとされている。その控除額は、事業用資産について、最高で675,000 ドルとされている7)【図表3−2】。

認定家族経営事業の特例とは、①その主たる事務所がアメリカに所在する事業であるこ と(個人経営か法人経営かを問わない)、②対象株式が相続前 3 年間市場で取引されてい ないこと、③相続人または被相続人の家族が相続前8年間のうち合計で5年間実質的に経 営に従事し、その権利を所有していること(実質的従事要件)、④1つの家族でその会社を 保有している場合には50%以上の保有が要件とされ、2つの家族の場合は70%、3つの家 族の場合は90%とされていること、⑤相続の発生した年において、被相続人の個人経営事 業所得が総所得金額の 35%を超えてはならないこと等の要件を満たした場合に適用でき る特例である。この規定は、大企業と中小企業との区別の基準を家族による所有において

4)  HR法案(The Death Tax Elimination Act of 2000)(単独時限法)が1999225日に提出さ れた時の委員会の提案であった。このHR法案8が、遺産税廃止理由としてそのまま採用された(川 端・前掲注1、35頁参照)

5)  同上、35頁。

6)  神山・前掲注1、46頁。

7)  認定家族経営事業の特例による控除は、2001年ブッシュ減税法に基づき、また、2010年減税法に よる延長を受けて、20031231日以降の相続については不適用とされている。当該特例は再び 201311日以後に死亡する者の資産に適用されることとなった(全国法人会総連合〔2012〕14 頁)

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いるととらえることができる8)

評価方法については、遺産税法では被相続人の総遺産の価値は適正な市場価格によって 評価され、適正な市場価格とは、「購入希望者と販売希望者が互いに十分な情報が与えられ た状況下で取引される価格である」(連邦遺産税法20−2031−1)と規定されている。

2.イギリスの場合

9)

イギリスの相続税の課税方式は、遺産課税方式である。イギリスの相続税の税収は全歳

入の 1%に満たない【図表 3−1】。これは、主に相続税の免税・軽減税制の影響が大きい

とされている10)

イギリスは、王権の強い国家であり、私有財産権を獲得した貴族階級や庶民階級が強大 にならないようにするという配慮から、国王がそれらの者の富を遺産承継税により回収す る目的で、遺産課税方式に重きをおく制度が導入され定着した11)

イギリスの相続税の課税対象となる移転(chargeable transfer)は、生前贈与と死亡で あり、死亡時よりさかのぼって7年内になされた生前贈与相当額が累積加算される。1988 年に相続税の累進構造の簡素化が図られ、税率は、基礎控除額(325,000£)を控除した 評価額に、単一税率40%が採用され、現在まで続いている12)【図表3−1】。

配偶者または社会的パートナーに対する移転は、移転された価値がこれらの者の遺産を 構成する財産に属する場合にはその全額が非課税とされる(配偶者がイギリスに居住して いない場合には55,000£までが免税)13)

イギリスの事業承継税制としては、「事業用資産の評価減の特例(Business Property

Relief;BPR)」(遺産税法 1984)があり、生前贈与と死亡時の移転のいずれも適用対象と

されている。その対象事業用資産の範囲および評価減割合は、①事業そのもの(ただし、

単一の事業用資産の移転を除く)、②パートナーシップへの出資、③非上場会社の出資(最 低限の保有割合の制限はない)の場合には100%評価減、④上場株式(贈与者が議決権を 保有している場合に限る)、⑤土地、建物、工場または機械(個人が所有する場合および個 人が経営する会社やパートナーシップへの出資を通じて使用される場合)には、50%評価

8)  同上、14頁。

9)  イギリスについては、吉村政穂〔2010〕7−29頁を参照。また、歴史的経緯については、Tiley .J.

&D.Collison〔2003〕参照。

10) 小林和也・塩谷洋子〔2012〕66頁。

11) 岩崎政明〔2005〕184頁。

12) 全国法人会総連合・前掲注7、16頁。

13) 同上、16頁。

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減である。なお、投資会社への出資、資産管理会社(property dealing companies)、不動 産を主に管理している事業は、当該特例の対象外とされている14)

当該特例の主な要件は、贈与者がその財産の移転の2年以上前から所有している場合に 限り適用される。ただし、贈与者の死亡前にその財産が受贈者によって売却された場合や 贈与者の死亡の時には当該特例の要件を待たさなくなった場合には、贈与の際に当該特例 が適用された場合であっても死亡時には適用対象外となる。また、その財産が移転前の 2 年間に事業用の目的として使用されていない場合などには当該特例の適用が制限される15)。   評価方法について、死亡時の財産の価値はその公開市場価格とされ、公開市場価格とは、

「 そ の 時 点 で 市 場 に よ り 取 引 さ れ た 場 合 に 仮 定 し た 価 格 で あ る 」(Inheritance Tax,IHTA1984,s160)とされている16)

3.ドイツの場合

17)

ドイツは、遺産取得課税方式18)の相続税を採用している。相続税の課税割合は 12.78%

(2010年)、相続税等の税収割合は0.8%(2010年)に過ぎないとされる【図表3−1】。 ドイツの制度について再検証することは、わが国の事業承継税制問題解決の糸口となる と思われる。なぜならば、ドイツ連邦裁判所(Bundesverfassungsgericht:以下「BverfG」

という)の1995年6月22日判決により、ドイツにおける事業承継税制について、次のよ うな見解が示されているからである。

「立法者は租税負担の形成にあたって、一定の事業―特に中規模企業―の存続が、相続 税によって生じる追加的な財政負担によってその存亡の危機にさらされることを考慮しな ければならない。それらの企業はある特定の目的のために独立しているが、経済的機能単 位として組織化された事業は、特別な形式で公共の利益に拘束され、公共サービスの提供 を義務付けられている。つまり生産力や労働場の保証人として、特に雇用者に対する義務 があり、営業基本法、経営管理法、及び長期間の投資によってもより高い法的拘束性を受

14)  同上、17頁。

15)  同上、17頁。

16)  同上、16頁。

17)  ドイツについては、山田ちづ子〔2010〕68−111頁、奥谷健〔2011〕155−177頁、渋谷雅弘〔2004〕

155−185頁、渋谷雅弘〔2002〕50−54頁を参照。また、条文に関する解説については、Tiedtke(Hrsg.)

〔2009〕参照。

18)  遺産取得課税は、人が相続によって取得した財産を対象として課税する制度であり、ヨーロッパ大 陸諸国において採用されている。この制度は偶然の理由による富の増加を抑制することを目的として おり、この類型の相続税は、実質的には所得税の補完税である(金子・前掲注2、536頁)