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電場印加システム

EDMの精密探索は原子集団に対して電場を平行及び反平行に印加した際のスピン歳 差周波数差を測定することにより行う。式(2.9)より、統計精度は原子集団に印加する電 場に比例する。したがって、測定精度を上げるためには、より大きな電場を作り出す必要 がある。また、電極間のリーク電流は測定領域の電磁場変動*1を引き起こし系統誤差の要

*1本実験セットアップの場合、リーク電流は印加静電磁場に平行な経路を通ると考えられるため、リーク電 流による磁場変動によるEDM測定の系統誤差はセルを用いた実験と比べて十分小さいと考えられる。

Pumping chamber Science chamber

MOT-1 MOT-2

Magnetic shield ODT-LASER

3.1 MOT-1MOT-2の間で差動排気を行い、MOT-2からODTによりEDM 測定領域(Science chamber)へと輸送し、測定を行う。

因となるため、可能な限り抑える必要がある。我々の測定系では電極間は超高真空に保た れ、その電極間にレーザーでFr原子集団をトラップする。電極の素材と表面処理は非常 に重要であり、ガスの吸収が少ない素材で表面は滑らかでなければならない*2。もし、表 面処理が粗い場合、その部分から放電が起こりやすくなる。表面が滑らかであったとして も、表面の処理工程により暗電流の放出過程が異なることが報告されている[39]。さらに 電極からのガスの放出は電極の放電を引き起こす要因となるばかりでなく、真空度やト ラップした原子をはじき飛ばす原因ともなり得るため、ガスの吸収が少ない素材が求めら れる。

一方で、我々は静磁場中でFrの歳差周波数を検出しなければならない。したがって電 極の素材はこの磁場を乱さない様な素材、つまり反磁性原子であることが望ましい。以上 の条件より、我々は無酸素銅を用いた電極を使った電場印加試験チェンバーを作成し、電 場印加試験を行った。

*21 105Paにおける絶縁破壊電圧はPaschenの法則が適用されるが、高真空中では電子の平均自由 行程が数十メートル以上になるため、適用できない。高真空中では電界放出等により陰極の微細な突起 (whisker)から放出された電子が陽極に衝突した際に発生する正イオンや光子が陰極に衝突して二次電子 を放出するという過程の繰り返しにより放電が起こると考えられている。したがって、ガス吸収が少な く、表面が滑らかな電極を用いることが重要である。また、我々の実験の場合、トラップした原子集団が 電子衝突によりイオン化されることが考えられるため、原子集団が存在しない場合に比べて放電が起こり やすくなる可能性がある。

3.1 電場印加システム 29

3.1.1 電極の設計

我々は光双極子トラップにより局在化した原子に対して電場をかけてEDM測定を行 う。従って電極の間隙はトラップレーザー直径および電極付近での原子の広がりにより 最適化される。今回電場印加試験に使用した電極は、電極間隔: 1 cm、電極直径 2 cm あり、放電を防ぐためにR = 10の曲率をつけてある。アノードに100 kV、カソードを 0 Vとした場合の電極間電場のシミュレーション結果を図3.2に示す。この電極中心の約 1 mm3の領域に光双極子トラップにより原子を捕捉し、静電場を印加する。また、図3.3 の(a)は垂直方向の電場をプロットしたものである。電極にかけた電圧が対称ではないた め、垂直方向は円筒方向に比べて電場の非一様性の効果が強く見られる。原子集団が存在 する直径 1 mmの領域での垂直方向の電場勾配は約10 kV/cm2であり、原子集団に 印加された電場が、最大で1 kV/cm異なることになる。EDMの測定精度は電場強度に 比例することから、100 kV/cmの電場を印加した場合、 1 %の系統誤差となる。

0 1 2 3 4 5 6

動径方向距離  [cm]

0 0.5

1 1.5

2 2.5

-0.5 -1 -1.5 -2 -2.5

垂直方向距離 [cm]

0 V 100 kV

3.2 電極のシミュレーション結果。アノード電 極 とカソ ー ド電極 に それ ぞれ 100 kV0Vの電圧を印加している。また、図中に等電位線が示されている。

3.1.2 電場印加試験装置

この装置は真空中で100 kV/cmの電場の達成を目指して開発された。試作機のチェン バーはステンレス製でガラスのビューイングポートがついている。また、チェンバー内部 はロータリーポンプおよびターボ分子ポンプ(TMP)を用いて排気され、3日間の真空引 き後、5×105 Paの真空度を得ている。

電極間の電場は、電極間隔を10 mmに固定したため、印加電圧(0 100 kV)によっ て調整出来る。しかしながら、高電圧側のフィードスルーの絶縁耐圧が50 kVであるた

(a)垂直方向 (b)円筒方向 3.3 電極中心での電場勾配のシミュレーション結果

め、安全面から最大で50 kV/cmの電場が達成可能である。電場印加面積はカソード、ア ノード共におよそ200 mm2であり、電極間隔はほぼ一定である。

カソードからアノードに流れたリーク電流は放電した際の電流計へのダメージを抑える ためにローパスフィルターを通り、高感度電流計(Keithley Instruments, 6485 5-1/2digit Picoammeter,分解能: 10 fA)により測定される。

anode

cathode

HV insulator Pumping

system

Low pass filter Pico-ammeter

High voltage power supply

3.4 電場印加システムの概略図、電極はアルミナ碍子を挿み、図上部フランジにス テンレス製の支柱で固定されている。

3.1.3 電極の加工と表面処理

電極は無酸素銅を用い、平坦な部分の表面粗度はRa = 0.2 mmで、エタノールによる 洗浄を行った。図3.6のようにチェンバーとの絶縁にはアルミナ碍子を用いた。

3.1.4 電極のコンディショニング

コンディショニングとは、超高真空中で長時間の微弱なグロー放電をさせ続けることで 電場を安定化させる手法である。この現象は、電極の尖った点や電極表面に存在する不純

3.1 電場印加システム 31

HV GND TMP

Vac. gauge

RP

Discharge

(40kV)

3.5 電場印加システムの写真。アノードを高電圧電源(HV)、カソードをグランド (GND)につなげている。真空はロータリーポンプ(RP)とターボ分子ポンプ(TMP) で引いている。また、右上は40kVの印加電圧の際の電極間の放電を撮影したもので ある。

1 cm

3.6 電極の写真。周囲にある白い部分がアルミナ磁気の碍子である。

物等が放電により減少することにより起こると考えられている[41]

3.1.5 電場印加実験結果

暗電流測定結果を図3.7に示す。0 kVから徐々に印加電圧を上げていき、30 kV で測定を行った。その後、3 日間 10 kV1.5日間 20 kV の電圧を電極に印加し、コ ンディショニングを行った。コンディショニング中のチェンバー内真空度はどちらも、

7 × 106 Paであった。実験結果より、コンディショニング後にリーク電流が小さく

なっていることがわかる。また、コンディショニング後には放電が起こる電圧が上昇し、

より高電圧を印加することが可能になった。さらに、リーク電流の測定を行っていない場 合の実験では、電極間に50 kVの電圧を印加し、3分程度火花放電が起こっていないこと を確認した。リーク電流がEDM測定に対して与える影響については第5章で述べる。

3.7 リーク電流の計測結果。×で表されるのがコンディショニング前、+で表 されるのがそれぞれ10kV20kVでのコンディショニング後の実験結果である。

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