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磁場安定化

5.2 系統誤差

系統誤差となる要因はいくつかあるが、ここでは磁場の変動によっておきる系統誤差に ついて評価を行う。

5.2.1 静磁場変動

EDM測定実験で最も大きな系統誤差の要因になるのが、測定時に印加している静磁場 の変動である。ここでは印加静磁場の安定性について計算し、議論を行う。

5.2.2 電場反転の際の磁場安定性

式(2.1)(2.2)より、外部磁場に対して電場を平行及び反平行に印加した際のハミルト

ニアンはBohr磁子µB、原子のg因子gF を用いて

H± =1

F (gFµBB±datomE) (5.1) と書き表すことができる。電場反転の際に磁場が完全に一定であれば、EDMと電子 のエネルギーシフトのみを測定することが可能であるが、その際に磁場の電場に平行 な成分が揺らいだ場合、EDMの効果の観測が困難になる。210Frの場合、gF = 2/13 datom = 895dFr であるから、E = 105 V/cm の電場を静磁場に平行/反平行時に電 場を印加した際のスピン歳差周波数を測定する際の電場との相互作用時間1 秒の間に 1028 ecmの電子EDM測定精度を達成するために許容できる測定間の磁場の中心値の 変動∆B0

∆B0= 2dFrE gFµB

= 2×895×1028×105

2/13× 5.8× 105 = 2.4 fT (5.2) である。この要求される磁場安定性と現状の磁気シールド内の磁場安定性をAllan分散を 用いて比較する。Allan分散σAllanとは平均値の分散を評価する値であり、以下のように 定義される[44]

σAllan(τ) = vu ut 1

2 (N 1)

N1 i=1

(xi+1−xi) (5.3) ここでxiは測定量の平均値のi番目の値であり、τ はその平均時間で、N は平均化後の データ数である。図5.1(a)は磁気シールド内のY(円筒軸)方向の残留磁場の変動を示 している。このデータのAllan分散を示したグラフが図 5.1(b)である。図5.1(b)より、

現状の磁気シールドを用いた場合、1秒間隔のシールド内の磁場の安定性はおよそ20 pT であり、要求される磁場安定性より4桁上である。

5.2 系統誤差 61

4.0 4.2 4.4 4.6 4.8 5.0

0 30000 60000 90000 120000 150000 180000 Time [sec]

Magnetic field [nT]

10-3 10-2 10-1

10-1 100 101 102 103 104 105

Allan deviation [nT]

Integration time [sec]

(a) (b)

5.1 (a) 磁気シールド内軸方向の残留磁場の時間変化。(b) (a)に示した残留磁場 Allan分散。

要求される磁場安定性を実現するために、我々は磁気シールドの性能向上、Rb原子の 非線形磁気光学回転現象(NMOR)を用いた光学磁力計 [45]の開発を進めている。

更に、Fr原子に印加されている磁場を直接測定するために、光格子にFr原子と同時に Rb原子をトラップして両原子のRamsey共鳴を同時に測定する(co-magnetometer) とも計画している。

5.2.3 リーク電流による磁場変動

我々は、図5.2のように超高真空中にトラップされた原子集団に対して電場を印加す る。リーク電流は印加静電磁場と平行な方向に流れることが考えられ、リーク電流が電場 と平行な方向に磁場をつくることは考えにくいが、対角線を描くようなリーク電流が走っ た場合に垂直方向に発生する磁場が最大になる。この場合に、リーク電流が原子集団に対 して与える磁場変動を評価する。今回設計した電極の場合、リーク電流をδI とすると、

このときリーク電流がつくる磁場はµ0を真空の透磁率、rを電極中心からの距離として、

δB = µ0δI

2πr cos (θ) (5.4)

リーク電流は40 kV/cmを達成した際に20pA以下であったので、電流の経路から距 離r mにおける電場に垂直方向な磁場は、

B(r) = µ0δI

2πr cos (theta)

×107

2πr 20×1012× 2

5

<3.6×10181

r T (5.5)

のように見積もられる。原子が電極中心に球対称で分布していることを考えれば、リーク 電流の経路とリーク電流に最近接の原子の距離はの原子のスケールr01010 mで評価

δI

anode

cathode

r 10 mm

20 mm z r0

r1

θ

5.2 電極間のリーク電流がつくる磁場

できる。また、トラップ領域はレーザーの直径r1103 mで決まることから、リーク 電流により原子集団が平均で感じる磁場の印加静磁場に平行な成分は

r0+r1

r0 B(r) dr r1

<3.6×1018 17

103 <60 fT (5.6) となる。この磁場変動は我々のEDM測定感度に対して1桁大きい系統誤差となるため、

電極間の様々な経路を通るリーク電流が作る磁場のシミュレーション計算を行ってリーク 電流の影響を評価し、電極間のリーク電流を抑制することが重要である。

5.2.4 Magnetic Johnson ノイズ

熱平衡状態にある導体中の自由電子の熱運動によって導体を流れる電流密度が変動す ることにより、周囲の磁場が変動する。この現象はMagnetic Johnsonノイズ(Magnetic Johnson Noise, MJN)と呼ばれる。MJNによるEDMへの系統誤差は相互作用時間τ の間の時間平均であり、式(5.7)*1で表される[47]

(∫ τ 0

Bn,z(t)dt )

rms

=µ0

τ 2

kB T0

8π ρ d

z(z+d) (5.7)

ここで、µ0は真空の透磁率、kBはBoltzmann定数、ρは電気抵抗率、dは導体の厚さ、

zは導体からの距離、τ は測定時間を表す。

我々の測定セットアップの場合、測定領域に最近接の導体は銅製の電極である。銅の電 気抵抗率はρ= 1.73×108· m、電極と原子集団との距離はz∼ 5 mm、電極の厚さd∼ 20 mm、測定中の温度は 300 Kである。相互作用時間τ 1 sとすると、式 (5.7)よりBMJN 2.2×1012 Tとなる。

*1(5.7)の次元は(磁束密度)·(時間)であることに注意

5.2 系統誤差 63

5.2.5 幾何学的系統誤差

本項では、原子・分子ビームを用いたこれまでの電子EDM探索実験において決定精度を 制限してきた静磁場の非一様性とv×E効果によって生じる幾何学的系統誤差(Geometric Phase Effect, GPE) [46]について議論する。

静磁場B0、電場Eが印加されている半径Rの円柱状の容器に静磁場に平行な面を速度 vxyで運動している原子(磁気回転比γ)を考える。このとき、v×E効果によって生じる 磁場

Bv= (E×v)/c2, (5.8)

及び磁場の非一様性

B0r =

(∂B0z

∂z )r

2 (5.9)

により生じる疑似EDMdf

df = 2γ2|B0r||Bv||ωr| ω02

( 1−ωr2

ω02 )J¯h

2E (5.10)

=−F¯h 2

1 B0z2

∂B0z

∂z vxy2

c2 (

1−ω2r ω20

)1

(5.11) と書ける(詳しくは付録A参照)。ここで、ω0は静磁場によるゼーマン周波数ω0=−γB0ωrは容器内を原子が回転して移動する際の角速度でありωr =vxy/Rである。

簡単のために我々の実験条件を次のように簡素化する。Fr原子は光双極子トラップ

(ODT)中に存在しており、ODT 用のレーザー光は空間的に円柱状に分布している。

ODT中のFr原子の平均温度T T = 100 µKなので、平均速度v v=

kBT

m = 6.3×102 m/s (5.12)

である(kB はボルツマン定数。mFr原子1個あたりの質量)。また、ODT用のレー ザー光の半径R15 µmなので、

ωr = vxy

R = v

R = 4.2×103 rad/s (5.13)

となる。静磁場はB0 = 1 µT程度を印加予定であり、対応するスピン歳差周波数ω0ω0= 1.3×104 rad/secである。静磁場生成用のコイルは現在検討中であるが、ここでは 中性子EDM探索実験に用いられているコイルの非一様性∂B0/∂z = 1 nT/mを採用す る。以上のパラメータを式(5.11)に代入すると我々の実験条件における幾何学的系統誤 差は

df 1×1029 ecm (5.14)

となる。この値は我々の目標精度1028 e cmより1桁小さく、v×E効果が十分抑制さ れていることがわかる。

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