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資料:中小企業庁『中小企業白書 2007 年版』p.137

3.1.3 メインバンク制

複数行取引で重要になるのが、メインバンクの存在である。メインバンクの定義につ いて、酒井(2010)は、堀内・福田(1987)の融資系列という概念[7]や、シェーンホル ツ・武田(1985)[8]のいう①高い融資シェア、②資本関係、③人的関係、④総合的な取 引関係、⑤長期的関係、⑥メリットの享受・デメリットの許容の 6 つの前提要素等いくつ かの概念を紹介し、中小企業と金融機関の間のメインバンク・システムを考えた場合は、

その要素は「高い融資シェア」と「長期的関係」が基準となるとした[9]。本稿において は、メインバンクについて、酒井の定義を参考にし、「融資シェアが高く」、「長期的関係 があり」、さらに事業再生が注目される現状を鑑み、「いざという時に取引する複数行の中 で中心的な役割を担う」金融機関と定義する。

メインバンク・システムは、日本の企業向け金融を特徴づけるものであるが、金融シ ステム危機が発生し、金融機関の様々な問題が明らかになるにつれて、批判的言及が増 えていった[10]。この点について、酒井(2010)は、日本におけるメインバンク・シス テムに関する分析は大企業との関係を中心に理論形成が図られていたとしている[9]。ま た、橘川(2012)も同様に次のように指摘している。「メインバンク・システム論が主と して注目したのは、大企業と都市銀行の関係であった。しかし、両者の関係は、1980 年代 以降、大企業が徐々にエクイティファイナンスに軸足を移したことによって、変容をとげ るに至った。大企業が、都市銀行からカネを借りなくなったのである。都市銀行は、大企 業に代わる新たな貸出先を求めて、中小企業向けの融資に力を入れ始めた。しかし、都市 銀行と新規の借り手である中小企業の間には、長期にわたる濃密な関係が成立していなか ったので、情報のやりとりは不十分なレベルにとどまり、都市銀行のモニタリング機能は 十分には作用しなかった。そこにバブル崩壊後の長期不況の影響が加わり、都市銀行が新 たに取り組んだ中小企業向け融資のかなりの部分は焦げ付き、不良債権と化した。このこ

0.8 1.5 2.9

7.6

1.2 4.7

10.8

24.3

6.1 10.1

18.5

26.6

16.5

28.6

34.5

28.8

37.2

42

28.3

11.8

38.4

13.1 5

1

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とは、メインバンクのモニタリング能力そのものに対する不信感を強めることになり、メ インバンク・システム論は急速に影響力を失った」とし、メインバンク・システムの批判 は、あくまで都市銀行と中小企業という組み合わせがミスマッチだったからであると指摘 している[11]。筆者は、メインバンク・システムに対する批判は大企業に関するもの、ま たメガバンクと中小企業の関係に関するものであって、地域金融機関と中小企業の間では 効果的に機能すると考えている。この点について、広田(2012)は、日本のメインバンク・

システムが弱体化したという意見があるが、企業とメインバンクの取引関係を様々な面か ら調査した結果、現実は企業とメインバンクの取引関係は決して弱まっているとは言えず、

メインバンクの「いざという時の」機能は依然として存続していると報告している[12]。

複数行取引が行われる中で、中小企業にとっては安定的な資金供給を実現し、自社の状 態を的確に理解し、いざ再生の局面になった時に中心的な役割を担うメインバンクの存在 は必要である。特に近年、事業再生が注目されており、メインバンクには事業再生の中で 中心的な役割を果たすことが期待される。

メインバンクの現状について、中小企業白書 2007 年版では、日本の中小企業の 93.2%が、

メインバンクがあるとし、メインバンクとの平均取引年数は、創業 10 年以内の企業におい て 7.8 年、11~20 年の企業において 12.9 年としており、長期間にわたる取引をしていると 報告している。メインバンクと中小企業の取引は借入にとどまらず、図表 3-4 の通り、取 引先の紹介や経営指導・アドバイス等のサービスを受けている[5]。

図表 3-4 借入以外のメインバンクとの取引

(単位:%)

① 預金取引 94.9 ⑥ 役職員の派遣・受け入れ 12.6

② 取引先の紹介 31.9 ⑦ 事業承継の手続き 2.8

③ 外国為替取引 27.0 ⑧ 税理士等の紹介 1.4

④ 経営指導・アドバイス 21.6 ⑨ 上場支援 1.1

⑤ 集金業務 19.0 ⑩ その他 7.5 資料:中小企業庁『中小企業白書 2007 年版』p.132

近年は、メインバンク・システムの概念に似た「リレーションシップ・バンキング」の 推進が重要と叫ばれている。リレーションシップ・バンキングについては後述するが、メ インバンク・システムとリレーションシップ・バンキングとは概念の発生形態が異なり、

同義ではないが、ともに、中小企業と金融機関の間で親密な関係を長く維持して取引を行 いながら企業を支援するところに同様の概念があり、中小企業金融の最大の課題である

「情報の非対称性」の緩和に重要な役割を果たす。両者の比較を図表 3-5 に示す[10]。

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図表 3-5 メインバンク・システムとリレーションシップ・バンキング

メインバンク・システム リレーションシップ・バンキング 定 義 明確な定義はない。

本稿では、融資シェアが高く、長期 的関係があり、いざという時に複数 行の中で中心となる金融機関と定義 した。

金融機関が顧客との間で親密な関係 を長く維持することにより顧客に関 する情報を蓄積し、この情報を基に 貸出等の金融サービス等の提供を行 うことで展開するビジネスモデル 対象企業 あらゆる規模の企業 中小企業

範 囲 企業救済や役員派遣まで含む広い 概念

融資に係るスクリーニング、モニタ リング

金融機関 基本的に 1 行 一行に限らない。地域金融機関 情 報 ハード情報もソフト情報も含む ソフトな情報の生産・蓄積が重要

※ 『中小企業金融「根拠なき通説」の実証分析』p.124 加工

3.1.4 政策金融

日本では、戦後復興期から高度成長期にかけて、国内貯蓄不足、金融資本市場の未発 達の中で、政策金融が果たしてきた役割は大きい。政策金融の役割について、田部

(2010)は、市場の失敗が存在し、政府の介入がそれを緩和しうる場合に、収益性、政 策目的、補助が流出するリスク、モニタリングコスト等を勘案し、政策金融という手法 が、補助、税制、規制等他の介入手段と比較して、より効果的、効率的であると認めら れた場合、理論的に政策金融が必要になり、その範囲は、民間金融機関の発展段階や状 況によって変化するということになると整理している[13]。

政府系金融機関については、民間金融の整備が進む中で、民業圧迫、民間金融の発展 阻害、構造転換の阻害、財政負担が指摘され、平成 14 年経済財政諮問会議において、図 表 3-6 の通り、あるべき姿が整理された[13、14]。そして、政府において政府系金融機 関のあり方について検討が進められ、図表 3-7 の通り、政府系金融機関の統廃合が進め られた。

しかし、近年なって、リーマンショック等の経済金融危機時に、企業が円滑な資金調 達を図れることなどから政府系金融機関の必要性が見直されつつある。政府系金融機関 を巡る社会的評価の推移をみれば、景気が比較的順調な場合には「不要論」が語られが ちとなり、不況や自然災害等で危機的状況に直面すれば「有用論」の声が強まる傾向が ある。小葉、壷内(2013)は、実証分析を行い、不況期に大手民間金融機関が貸出残高 を減少させる中で、リレーションシップ型貸出を行う中小・地方民間金融機関は貸出残 高を変化させず、政府系金融機関はむしろ貸出残高を増大させることによって中小企業 金融の円滑化を図ってきた結果を報告した[15]。政府系金融機関は、中小企業の成長・

発展、そして経済危機に直面した際の資金調達等において現在においても重要な役割を

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担っており、今後、景気変動に対して頑健な金融システムを構築する点からも、統廃合 のあり方について慎重な検討が求められる。

図表 3-6 公益性・金融リスクの評価困難性から見た政策金融の位置付け 公益性大

(B)政策金融で行う必要なし 補助金などの他の政策手段と比較 し、コスト最小化の観点から厳格に 検証

(A)政策金融 ・直接融資

・間接融資 を選択 ・債務保証 等

(C)民間に委ねる (D)民間に委ねる 現状でも民間に委ねられて

いる範囲

証券化などにより市場化を強力に 進める

金融リスク評価困難性大 資料:政策金融の抜本的改革に関する基本指針

(平成 14 年 10 月 7 日経済財政諮問会議)

図表 3-7 政府系金融機関の統廃合

統廃合前 統廃合後

国民生活金融公庫 2008 年 10 月に日本政策金融公庫に統合 農林漁業金融公庫

中小企業金融公庫 国際協力

銀行

国際金融等業務

海外経済協力業務 2008 年 10 月に独立行政法人国際協力機構に統合 沖縄振興開発金融公庫 2021 年まで存続する見込み

商工組合中央金庫 2015 年 4 月から概ね 5~7 年後を目途に完全民営化。

日本政策投資銀行 2012 年 4 月から概ね 5~7 年後を目途に完全民営化。

公営企業金融公庫 2008 年 10 月廃止。地方公営企業等金融機構に事業を承 継。

住宅金融公庫 2007 年 3 月廃止。独立行政法人「住宅金融支援機構」

に継承

資料:田部真史「政策金融について(総論)」p.23 各金融機関HP 閲覧日:2015 年 2 月 18 日

3.1.5 企業の成長に合わせた金融機関の存在

中小企業への融資を行う金融機関には、メガバンク、地方銀行、第二地方銀行、信用 金庫、信用組合、政府系金融機関等がある。メガバンクや地方銀行は株式会社組織であ