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112 乖離を確認し、評価替えを実施する。

7.4 今後の中小企業支援関係者への期待

情報の非対称性の緩和に向けては、金融機関の企業評価能力の向上が重要になる。

企業評価の精度を向上するためには、金融機関の取り組みに加えて、評価される側の中 小企業の取り組み、さらに、中小企業を支援する機関や士業の支援体制強化が必要になる。

それぞれに期待される取り組みについて、筆者の考えを述べる。

7.4.1 金融機関に期待される取り組み

今後、金融機関に期待される重要な取り組みは、審査能力やノウハウの向上である。

酒井(2010)は、金融機関は勿論借り手企業の将来を正確に知りたいが、それは絶対的に困 難であり、それを銀行は十分に承知しているからこそ、入手可能な情報の範囲で審査技術 を磨いてきたところであって、今日問題となるのは、情報の非対称性などでは決してなく、

審査能力・ノウハウの欠如こそが問題であると指摘している[1]。また、吉田(2011)は、

現在の金融機関の姿勢に関する問題点を、①自己責任によって貸出を行うという銀行本来 の姿勢が崩れていること、②無理な数的実績づくりに走っていること、③真っ当な貸出業 務を行う人材の育成を怠っていることとし、資金使途や借入申出の金額の妥当性も十分に 検証せず、より多くの金額を貸すことが貸出業務の使命であると思い込んでいることや、

顧客第一、顧客ニーズをきく、CS 向上というスローガンを掲げながらも、実際に行われて いることが、銀行が自らから掲げる数値目標の達成に傾注していることは改めなければな らないと指摘している[5]。今後は、金融機関の事業計画や人事評価のあり方についても、

検討が必要であろう。

審査能力やノウハウを向上するためには、金融機関が中小企業を真摯に理解するように 努めることが肝要である。家森(2011)が指摘するように、「選ぶ金融」から「育てる金融」

への移行が期待され[2]、また国が、金融機関にコンサルティング機能の発揮等を求めてい る中で、金融機関は、中小企業との面談を重視して、積極的に企業にアプローチし、企業 情報を十分に収集するような取り組みが重要になる。

その一つの取り組みとして、近年は「目利き能力」の重要性が注目され、金融機関では、

目利きの研修プログラムが整備されてきている。目利き業務とは、企業の経営能力や事業 の成長性などの情報を把握する業務と定義され、その目的は、審査対象企業の経営資源の 活用状況を比較調査し、当該企業における優位性の源泉及び今後の見込み、すなわち事業 の将来性について判断することとされる。具体的には、①目的の明確化、②目利き業務の

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スケジュール化、③事前調査の実施、④資料の収集、⑤評価と仮説の設定、⑥企業審査報 告書の作成の手順で行われる[6]。

また、ABL 担保融資への取り組みにも注目したい。本研究では、売掛債権回転日数が倒産 リスクの評価に適しているという結果を報告したが、金融機関が ABL の状況を随時管理し て、企業の事業継続を強力にサポートするという認識を持ち、ABL 担保融資を積極的に活用 することも、重要な取り組みになるであろう。

中小企業は千差万別の特徴を持っており、金融機関にとっては各々の特徴を量的、質的 の両面から可能な限り収集し、随時、蓄積した情報を分析して、客観的に評価できるよう なノウハウを身に着けることが、将来の組織としての強みになり、他行との競争を優位に 進める源泉になる。真摯に中小企業に向き合う人材を評価するシステムの構築も必要であ る。

宮島(2013)は、中小企業評価では「経営者の信頼性」が重要とし、「この経営者は、必 ず融資をきちんと返済してくれる」と判断できることが信頼性であって、いくら言うこと が立派であっても、また、公的な役職などに就いていても、行動が伴わないため返済に懸 念を与えるような経営者は信頼されないと指摘している。また、信頼性について、かつて 三井住友銀行の頭取を務めた西川善文氏が企業評価で重要視した「仕振り」[7]や、山岸(1999)

の信頼性の区分[8]を紹介し、整理している。「仕振り」は、西川氏が企業を評価するうえで 重要とした経営者の資質や経営のやり方であって、企業と金融機関との取引の中で蓄積され た情報であり、長期に取引すればするほど金融機関の信頼を得られる情報である。また、山 岸(1999)によれば、信頼は「能力に対する期待としての信頼」と「意図に対する期待とし ての信頼」に区別でき、前者は仕振りであり、後者は経営者が必ず融資を返済しようとする 責任感を有しており、実際にそうした行動をとることへの信頼ということになり、そのため には、約束を守る、隠し事をしない、やると決めたことを実現するために努力するといった ことになるとしている[9]。

筆者は、信用保証協会に勤務して、多くの中小企業経営者に面談してきているが、宮島

(2013)の指摘と同様、中小企業の評価で最も重要なのは、経営者の「信頼性」であると 実感している。「金融機関や取引先には絶対に迷惑をかけない」という経営者の強い意志は、

中小企業と金融機関担当者の強い信頼関係につながる。口先だけではなく、真に責任感が ある人物であることを見極める必要があるが、この点についてはまず財務諸表の状態が参 考になる。例えば、真面目な経営を実践してきた中小企業の財務諸表は、P/L 上は減収や赤 字であっても、減価償却を適正に実施し、業績の悪化に際して役員報酬を迅速に引き下げ ている経過等が確認でき、B/S 上は不健全資産、投資等が少なく、買掛債務、税金、社会保 険料、借入金返済等に延滞がなく、メイン行依存が高い等の傾向がある。もちろん、この ような傾向だけをもって、真面目な責任感ある経営者と断定するのは問題があるし、投資 等を行っているから不真面目というわけではなく、一つの見方を示したものである。この ように長年の経験等から得られる直感等をフルに発揮して仮説を構築し、その上で、経営

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者とのコミュニケーションを十分に行うことが、中小企業経営者と金融機関の信頼関係に なる。

また、中小企業と金融機関との信頼関係の中で重要になるのが、「規律」であると考える。

経営者の良き相談相手になることは重要であるが、本来資金の借り手である中小企業と、

貸し手である金融機関は利益が相反する存在である。互いの存在を認識しながら規律をも って対応することが重要である。負債には、経営を規律付けする効果があるとされている [10]。広田(1996)は、負債の規律付けを、「①負債での調達比率が高い企業の経営者は、負 債を返済可能なだけの収益をあげるために、むだのない経営を行うよう日々努力しなけれ ばならない。②企業の負債発行は、経営者にその返済を強いることを通じて、企業内の余 分なキャッシュ・フローを削減し、経営を効率化することになる」と述べている。また、

実証分析を行い、日本においては規律のメカニズムは主に低成長企業において働いている こと、株主の規律付効果は乏しいものの、負債の規律付は有効に機能していると結論づけ ている [11]。特に、リレーションシップ・バンキングの遂行においては、負債の規律付け 効果の発揮が重要になる。現在、金融円滑化法の施行等により、融資金を返済棚上げする 条件変更等が容易に行われるようになってきているが、一方では、資金繰りに余裕がない 中で、約定返済を遅滞なく行う企業もあるわけであり、返済棚上げした企業が競争上有利 にならないように、負債の規律付け効果を再認識した対応を期待したい。

中小企業と金融機関とのコミュニケーションの円滑化は、ただ親密にすればいいという ことではなく、負債の規律付けの効果発揮や事業撤退の指導等、企業の将来のために、厳 しく接することも重要になる。金融機関担当者はバンカーとしてのプライドを持って、

中小企業と積極的かつ真摯に向き合うべきである。

7.4.2 中小企業に期待される取り組み

中小企業金融の充実のためには、金融機関の取り組みに加え、中小企業自身の取り組み が重要になる。情報の非対称性の緩和に向けては、金融機関の取り組みだけでは限界があ り、中小企業がしっかりと自社の事業内容、業況、強み、課題、将来性等を金融機関に伝 えることが必要になる。

融資を受ける際に、経営計画や資金繰り表を要請されることがあるが、自社のことであ るのに、金融機関に作成してもらっていては、しっかりとマネジメントを行えるようには ならない。「私たちは小さな企業なので、事業に精一杯で、マネジメント等難しいことはわ からない。」ということを言っていては、現在の厳しい経営環境を乗り越えることはできな い。「金融機関は敷板が高くて行きづらい」、「現在の担当者とはウマが合わない」、「事 業内容のことを言っても、理解しない」という声を聞くことがあるが、事業継続する上で は金融機関のサポートは不可欠なものであると認識し、円滑な関係を構築するために積極 的に金融機関に情報を伝える機会を増やしていくことが重要である。なにしろ、中小企業 の事業内容を最も理解しているのは企業自身であり、金融機関にしっかりと、熱意をもっ

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て伝える姿勢を期待したい。中小企業と金融機関とのコミュニケーションの円滑化のため には、双方の真摯な取り組みが必要である。

7.4.3 中小企業を支援する機関や士業に期待される取り組み

情報の非対称性の緩和に向けては、金融機関、中小企業に加えて、中小企業を支援する 機関や士業の取り組みにも一層期待がかかる。

まず、国や地方公共団体、大学等研究機関には、情報の非対称性の緩和に向けた企業評価 の開発や拡充を後押しする支援を期待したい。このような取り組みは、平成 12 年に、財務 評価を充実するため、中小企業庁が主導して、CRD[12]の開発に取り組んだ実績がある。現 在では、CRD は財務評価の代表的なモデルとして、全ての信用保証協会に加えて、多くの金 融機関が活用するまでに至っている。今後は、定性評価、特に知的資産の評価についても、

同様の取り組みにより、一つのモデルの構築を期待したいところである。現在、経済産業 省は知的資産経営を通じた日本企業の国際競争力の強化に向けて、各種政策を立案すると ともに、ポータルサイトを開設し、情報発信を行っているところであるが[13]、知的資産 の効果的活用に向けて課題になるのが、知的資産に対する適切な理解と評価である。知的 資産は目に見えない資産であり、また B/S に計上されないため、その評価が難しいが、企 業が保有する知的資産が将来、企業業績に貢献することを的確に評価できれば、金融機関 は積極的に資金繰りの支援を継続することができる。知的資産の的確な評価方法は、一つ の金融機関等で開発できるものではなく、中小企業、金融機関、有識者等、関係者全体で 評価方法の開発に取り組み、特に国にはその評価方法確立に向けて主導的な役割を期待し たい。

当然、定性評価は、ケースバイケースの判断が要求され、画一的な評価は難しいものがあ るが、財務評価方法に比べ、定性評価方法の開発は大きく遅れている現状を踏まえ、少し ずつ前進するように、国全体で、定性評価方法の開発に向けた検討を行うことを期待した い。

次には、商工会議所・商工会・団体中央会等の商工団体、経済同友会や経営者協会等の経 済団体、産業振興センター、信用保証協会や大学等に期待する取り組みについてである。中 小企業金融の充実のためには、金融機関の取り組みのみでなく、中小企業のレベルアップも 必要になる。そこで中小企業支援機関には、中小企業金融やマネジメントについて学べる環 境の整備を期待したい。中小企業金融の充実を図るためには、金融機関が中小企業を理解す ることに加え、中小企業が金融を理解する取り組みが重要であり、そのための教育環境の整 備が不可欠である。経営者のみならず、経営陣、後継者、従業員等向けの中小企業金融カリ キュラムが創設されるとよい。また、地域では、地域の中小企業、地域の金融機関や中小企 業支援機関等に、大学卒業後、就職する者も多く、大学で中小企業金融に関するカリキュラ ムを充実するとよい。筆者の身近な話題として、栃木県では、近年、社会人向けに作新学院 大学の MBA コース、宇都宮大学、白鷗大学、作新学院大学の 3 大学による MOT コースの開講