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第4章 従来の中小企業の評価方法と課題

4.3 財務評価の概要と課題

企業活動の実態を評価するうえで、簿記や会計によって整理された財務諸表(決算書)

は、重要な分析対象である。財務諸表に計上された「売上高」などの勘定科目や、財務分 析を通じて算出される「総資本償却前経常利益率」などの経営指標は定量情報であるため、

当該企業の状況を過去のデータや他社のデータと比較可能であり、客観的に評価し易いと いう特徴を持っている。金融機関では、これらを定量分析するための方法が長年にわたっ て研究されており、方法の確立や標準化が進んでいる。例えば、中小企業基盤整備機構が 一般にも公開している経営自己診断システム[3]は、勘定科目などを入力すると、種々の 経営指標を自動算出できるため、財務分析の簡便化に役立っている。また、財務諸表から 得られる定量情報に多変量解析を適用するなどして構築されたクレジット・スコアリング モデル(credit scoring model)は、信用リスクに関する情報を一つの指標(信用スコア)

に一元化し、当該企業を格付けすることができるため、与信判断の際などに用いられてい る。近年の財務評価の精度向上は目覚ましいものがあり、金融機関の中小企業評価におい ては、定性評価よりも財務評価の比重が大きい状況である。

4.3.1 財務諸表の概要

中小企業の財務諸表は、一般に開示義務がなく、大企業に比べて未整備の状況にあるが、

企業評価する場合には重要な対象になる。現在、中小企業の財務諸表は、法人税法及び会 社法、中小企業の会計に関する指針や中小企業の会計に関する基本要領等に基づき作成さ れており、別表、貸借対照表、損益計算書、製造原価報告書、販売費及び一般管理費内訳 書、株主変動計算書、CF 計算書、付属明細等で構成されている。ここでは、財務諸表の 根拠法等、内容、分析の際の留意点等について整理する。

● 法人税法

法人税について、納税義務者、課税所得等の範囲、税額の計算の方法、申告、納付及 び還付の手続並びにその納税義務の適正な履行を確保するため必要な事項を定めた法 律[4]。

● 会社法

会社の設立、組織、運営及び管理について、定めた法律[5]。

● 中小企業の会計に関する指針

中小企業が、計算書類の作成に当たり、拠ることが望ましい会計処理や注記等を示す 指針[6]。

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中小企業の会計に関する基本要領

中小企業の多様な実態に配慮し、その成長に資するため、中小企業が会社法上の計算 書類等を作成する際に、参照するための会計処理や注記等を示す要領。「中小企業の 会計に関する指針」と比べて簡便な会計処理をすることが適当と考えられる中小企業 を対象に、その実態に即した会計処理のあり方を取りまとめて作成されたもの[7]。

企業評価では、図表 4-1 の通り、財務諸表の連続性(棚卸資産や繰越利益等)、別表・貸 借対照表・損益計算書等の整合性、企業実態や業績の状況、税金や社会保険料の延滞の有 無、取引先等との関係状況等を確認する。

図表 4-1 財務諸表の内容

内 容 審査における確認事項

別表 主に税金に関わる内容を報告 別表と B/S・P/L との整合性、財務諸 表の連続性(棚卸資産や繰越利益等)、

株主構成、減価償却実施状況、税金や 社会保険料の滞納の有無等

貸借対照表 balance sheet B/S と略称

ある時点の企業の財政状態を明らかに する計算書。資産、負債、純資産で構成 される。

資産の実在性、負債の網羅性、財務バ ランス、財務の健全性(不健全資産、

不稼働資産の有無等)、各勘定の増減、

負債の大小、債務超過の状況等 損益計算書 profit and

loss statement P/L と略称

一会計期間中に生じた収益と費用を示 し、その期間の経営成績を明らかにする 計算書

売上、原価、費用、利益の状態と増減、

借入金に対する償還力、赤字企業の黒 字化に向けた対策、将来の見込み等 販売費及び一般管理費

内訳書

企業の販売及び一般管理業務に対して 発生した費用

各費用の大小や増減。赤字企業の場合 の費用削減余地、将来の見込み等。

製造原価報告書 工場にかかる原価を表す。材料費、労務 費、経費等に区別して作成される。

各原価の大小や増減。赤字企業の場合 の原価削減余地、将来の見込み等。

キャッシュフロー 計算書

CF 計算書と略称

企業の一期間の現金の増減を表す計算 書。営業活動による CF、投資活動によ る CF、財務活動による CF に区分される。

CF の状態及び増減、CF 改善の余地、

将来の見込み等。

株主資本等変動計算書 B/S の純資産の変動状況を表すもの決算の連続性、変動状況等。

附属明細書 各勘定の内訳や金額を詳細に記載し、

B/S、P/L 等を補完、補足する。

所有不動産の状況、借入金の状況、税 金や社会保険料の滞納状況、取引先と の取引状況、不良資産の有無等

※ 筆者作成

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貸借対照表で企業の実力や業績を把握し、損益計算書で収益構造、将来の見通しを推測、

さらに貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書(以下、「CF 計算書」という)

等で将来の返済可能性を評価する。

財務諸表を分析する場合は、次の点に留意する必要がある。

① 架空計上等数値を意図的に操作している場合がある。粉飾決算といわれるものである。

特に、関係会社との取引の計上方法等によって操作する場合があり、また、融通手形 の疑いも留意が必要である。B/S の資産は実在性、負債は網羅性の確認が必要になる。

② 事実に対して複数の会計処理の方法が認められているため、同一業種・実質収益は同 じでも異なる数値が計上される場合がある。具体的には、建設業の工事完成基準と工 事進行基準の採用によって、異なる計上になる。

③ 資産は取得原価主義に基づいて評価されており、現在の時価とは相違する。

図表 4-2 資産の評価方法

取得原価主義 資産を、取得時の支出額に基づいて評価する。

時価主義 資産を、時価で評価する。

割引原価主義 将来獲得する収益の金額を現在価値に割り引いた総額で、資産を評価する。

ディスカウントキャッシュフロー(DCF と略称)

※ 筆者作成

④ 収益は実現主義、費用は発生主義に基づいており、実際の現金の増減とは相違する。

図表 4-3 収益の計上方法

実現主義 収益を、実現の時点で認識すること。実現とは、財貨又は役務を提供し、対価として貨幣 性資産を受領したときに収益を認識する。

発生主義 収益・費用を、財貨又は役務の経済的価値の増減に基づいて認識する。

現金主義 収益・費用を、現金の収入・支出に基づいて認識する。

※ 筆者作成

4.3.2 実数分析

財務諸表を分析する方法には、実数分析、比率分析(趨勢分析を含む)、損益分岐点分析、

資金繰り分析、キャッシュフロー分析(以下、「CF分析」という)等がある。分析では、経 験的基準値、時系列、経営指標または同業他社、自社内基準値等と比較することで、企業 の評価を行う。

実数分析は、財務諸表の実数をそのまま用いて、財務の健全性、売上高や収益の趨勢、

収益状況、返済能力等を判断するものであり、財務諸表の実数そのものを評価の対象とす るため、スピーディに企業を評価することが可能である。また、各勘定科目の金額が少額 である中小企業を評価する場合は、比率分析等よりも活用しやすい。例えば、A社は純資 産1,000千円、総資産2,000千円、B社は純資産3億円、総資産10億円の場合、比率分析で自

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己資本比率を算定した場合、A社は50%、B社は30%で、A社を高く評価することになる が、一般的に考えて倒産リスクの少ないのは経営基盤のしっかりしたB社であろう。実数 分析であればB社の方が、企業規模が大きく、経営基盤も安定していると評価できること から、実態の評価に活用しやすい。

従来から、金融機関職員は、長年の経験によって培われたノウハウと倒産を予測する鋭 意な勘などを働かせて、特に実数分析中心の財務分析を行ってきた。実数分析の具体例を 図表4-4に示す。企業評価等に際して、財務諸表に目を通しただけで、企業の業績の良し悪 しや課題を瞬時に評価できる能力は、金融機関職員ならではの専門的かつ高度な能力であ った。近年はコンピュータに入力すれば機械的に格付けが出力されるようになってきてい るが、機械的に判断された格付けに過度に依存することは、金融機関職員の有するこれら の能力の低下につながる懸念がある。

図表 4-4 中小企業財務諸表の実数分析の一方法

※ 筆者作成

実数分析は、スピーディに評価ができることや、実態評価に適しているという効果があ る一方で、業界の平均値等を活用できる比率分析に比べて同業他社との相対的な比較が難 しいことや、個々の科目が、金融機関にとって重要な判断となる企業倒産の危険性を直接 概要確認

•B/SとP/Lの関係

•①黒字か、赤字か(売上総利益、営業利益、経常利益、当期利益、償却前利益)

•②債務超過か(自己資本) ・③回転は良好か(効率的経営) ・④借入金償還力の状況

B/S分析

•各科目を月商と比較し、問題点を把握する

•現金預金の状況 ・売掛債権、棚卸資産の状況(不良化の有無)

•不健全資産で社長の姿勢を読む(貸付金、立替金、仮払金等)

•プラス評価はあるか(例えば含み資産) ・支払手形の状況

•借入金の状況(借入金月商倍率、借入金依存度、借入金償還力、役員借入)

•実質債務超過ではないか ・大きな変動はないか ・会社資産や個人資産はあるか。

P/L分析

•各科目を売上高に対する構成比や、過去の趨勢と比較し、問題点を把握する

•売上高と利益の動き(増収増益、増収減益、減収増益、減収減益)

•コストのかかっている科目は何か ・減価償却は適正か。

•安定した収益(安定した黒字、不安定な黒字、一過性の赤字、慢性的な赤字)

•プラス評価はあるか(役員報酬の状況、コストダウン等)

•大きな変動はないか

CF分析 •CFはプラスか ・CFの変化