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第8章 結論

8.2 研究の結果

本研究は、金融機関等が中小企業の実態を評価する際に用いる財務評価と定性評価につ いて、その課題を明確にすると共に、その課題解消に向けて、実際の企業データを用いた 実証分析を行い、新たな企業評価方法を提言した。また、それらの方法を効果的に活用す るための手順について整理した。

8.2.1 財務評価について

財務評価については、中小企業と金融機関との円滑なコミュニケーションを実現する新 たな評価方法の開発に取り組んだ。具体的には、中小企業の倒産リスクを経営改善点と関 連づけて評価するために、「簡易実質自己資本」と「営業キャッシュフロー」を組み合わせ た経営状態別チャートによる評価方法を提言した。

当該企業の経営状況を可視化するという本研究の提案方法は、中小企業の倒産リスクを

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定量評価できることに加え、当該企業の財務体質のどこに問題点があり、今後どのような 経営改善が必要か、その大筋を示すことが可能であり、中小企業と金融機関とのコミュニ ケーションの円滑化に貢献できると考えている。

今後、「実質自己資本」については、本研究で提言した売上債権と棚卸資産の観点に加え て、短期貸付金、仮払金、立替金、繰延資産等の不稼働資産や減価償却不足等を控除し、

返済が不要な役員借入金を加算するような方法を用いると、さらに精度の向上が期待でき る可能性がある。また、経営状態別チャートの実用性を高めるため、「償還力」の評価を加 えたチャートを提言し、チャートの区分を「A+」「A」、「B」、「C+」、「C」、「D」の 6 つに区分 し、各区分の評価を整理した。

8.2.2 定性評価について

本研究では、企業活動の実態をより的確に把握するうえで有用な定性評価方法を開発す るための基礎的検討とその方法の開発に向けた提案を行った。企業の特徴となるキーワー ドに基づいて経営資源を分類するとともに、技術力に関わる経営資源の保有状況を考慮し た中小製造業の財務特徴分析を実施し、有用な結果を得た。本研究で実施した一連の方法 は、中小製造業の実態把握評価するうえで有用で、中小製造業以外の業種に適用するには 検討の余地が残されているものの、企業活動の実態を総合的に把握評価するための一つの 手段として有効と考えられる。

なお、技術力に関わる経営資源をテキストマイニングによって分類し、それらと財務デ ータの相関性を分析して得られた結果と考察は、次のようにまとめられる。

① 技術力に関わる経営資源は、(A)本業を支える製造技術と直接的な関係度が高いもの、

(B)アイディアやデザインに関係するもの、(C)社会的な評価の獲得と将来への投資 に関係するもの、という三つの評価の観点に基づいて分類できる。

② 技術力に関わる経営資源は、全体的に、経営の効率性や生産性、そして収益性を高める 要因となっている。しかし、中小製造業では、これらの経営資源に対する投資が借入金 に依存している傾向にあり、その拡充は経営の安全性を後退させるというトレードオフ に近い関係にある。

③ 経営の安全性は、技術力に関わる経営資源のバランスが A 群に比べて C 群に偏ると特に 後退する傾向にある。

④ ただし、C 群に該当する経営資源を多く保有している企業ほど、社会的な評価が高いこ となどから、信用取引を円滑に進めているという実態も垣間見える。

したがって、技術力に関わる経営資源は、企業活動の規模や成長の度合いによって拡充 するべき優先度が異なっており、評価の際には、これらの度合いと経営資源のバランスに 注意する必要があるといえる。

定性評価には、実際には多くの評価項目が存在し、全ての項目の評価に対して有効な方

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法を確立し、金融機関が現場で活用するに至るまでには、長い時間を要するものと考えら れる。今後は、「技術力」のみならず、「販売力」、「経営者の資質」等の他の定性項目につ いても、本研究による技術力の評価同様に有無の二択による評価の可能性を分析し、有効 であれば、積極的に活用したい。中小企業の評価の質的向上を図るためには、有効な定性 評価方法の構築が必要であり、試行錯誤しながらも着実に前進する取り組みが求められる。

8.2.3 企業評価の手順

企業評価については、財務評価の「経営状態別チャート」や定性評価の「定性項目チェ ックリスト」を活用して、次の通り、仮説を構築し、検証することがのぞまれる。

① 仮説構築(事前評価)

・事前評価に必要な資料や情報を収集する。

・金融機関内で情報を共有する顧客情報帳票(仮称)を作成する。

・提出された財務諸表を活用し、財務評価を実施する。

顧客情報帳票には、経営状態別チャート(図表 7-1)、金融検査マニュアルによる債務 者区分、企業格付け、実数分析・比率分析・損益分岐点分析・CF 分析等による課題等 を記載する。

・定性評価についてチェックシート(図表 7-2)等で評価する。

・企業の経営状況について、仮説を構築する。

・企業評価のスケジューリングを検討する。

② 企業訪問、経営者面談・ヒアリング

・企業を訪問し、設備状況、人や機械の稼働状況、商品や製品内容、在庫状況、伝票処 理等を実査する。

・財務面の課題について、経営者にヒアリングする。

・必要に応じ、経営者と共に、資金繰り表を作成する。

・定性評価項目について、優位性、模倣困難性、将来性等をヒアリングする。

・経営者と共に将来について的確な予測を行うため、経営計画を作成する。

③ 検証(総合的評価)

・事前評価で構築した仮説の検証を行う。

・事前評価、企業訪問、経営者ヒアリングの結果を踏まえ、チャートをはじめ各評価に ついて修正を行い、総合的な評価を行う。

・顧客情報帳票を完成する。

・評価内容について、金融機関内で情報を共有する。

④ モニタリング

・随時、企業評価が適正であったかモニタリングを行う。

・新しい財務諸表が策定された場合は、以前の企業評価や計画内容と、実績の乖離を確 認し、評価替えを実施する。

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この一連の手順を実施することが、企業評価の精度を高めると共に、中小企業と金融機 関とが情報を共有することで、両者の円滑なコミュニケーションを実現することを可能に するといえる。