78
79
調査の対象とした 29 社のうち、19 社は、平成 23 年度(2011 年度)の時点で倒産していな い活躍企業であり、残りの 10 社は、平成 10 年度から平成 20 年度(1998 年度から 2008 年 度)の間に破産法の適用等を受けた倒産企業である。財務諸表は、平成 23 年度もしくは倒 産した年度から遡って 3 期分を取得した。企業情報の要約を図表 5-1 に示す。
分析の対象とした勘定科目および経営指標は、中小企業基盤整備機構の経営自己診断シ ステム[6]において入力データとされている「売上高」、「経常利益」、「純資産合計」など の 29 科目と、出力データとされている「総資本償却前経常利益率」や「売上債権回転日数」
などの 27 指標とした。これらの入出力データは、財務諸表に計上される勘定科目であるこ と、財務分析における基礎的な経営指標として位置づけられていることから、一般に広く 用いられているものといえる。
本研究では、中小企業の財務諸表に欠損値が見られることや、時系列的な変動があるこ となどを考慮し、倒産リスクの評価にあたっては、3 期分の財務諸表から算出可能なデータ の平均値を分析の対象とした。例えば、取得した 3 期分のデータのうち、2 期分が欠損して いた場合は、1 期分のデータを当該企業の変数とし、前年度との差を取る経営指標を求める 場合は、3 期分のデータから算出できる 2 期分の平均値を当該企業の変数とした[7]。
倒産リスクの評価には、一般化線形モデルの一つとして位置づけられるロジスティック 回帰分析[8]を用いた。この分析方法において、倒産企業をy = 1、活躍企業をy = 0とし、
説明変数
x
(注:本来この X は複数個の変数を表す行列式だが、5.2 の冒頭で述べた様に中 小企業の指導において、多変量モデルは仲々馴染みにくいと考え、本研究では単変数のみ 扱う)によって表される企業の倒産確率は、𝑝(𝑦 = 1|𝑥) =
( )1 0
1
e
x ・・・・(2)で表され、本研究では、この
p
を倒産リスクと呼ぶことにする。倒産リスクは、式(2)から
S
字を描くロジスティック曲線となる。すなわち、式(2)を用いた対数オッズ(ロジット)は、
ln
1−𝑝(𝑦=1|𝑥)𝑝(𝑦=1|𝑥) ・・・・・・・・・(3) となる。これを展開すれば、ln
1−𝑝(𝑦=1|𝑥)𝑝(𝑦=1|𝑥) = ln (b0+b1 )=
b0+b1図表 5-1 企業情報の要約
平均値 中央値 最小値 最大値 資本金[千円]
10,500 6,080 1,000 57,200
従業員数[人]
75 55 10 377
設立年度[年]
1954 1958 1904 1990
80
となる。従って、倒産企業であるか、それとも活躍企業であるかの対数オッズは 、
p(y=1|x)=0.5
のときに 0 となり、倒産リスクが五分五分と評価される。本研究ではp(y=1|x)=0.5
となる の値を当該企業の倒産判別値と呼ぶことにする。また、分析については、誤差やパラメタ数の影響を評価する赤池情報量規準(AIC)[9]と正判別率を活用して 進める。
5.2.2 結果
財務データを集計した結果、3 期分の財務諸表を用いても欠損値が生じた勘定科目は、「土 地」、「受取手形割引高」、「受取手形裏書譲渡高」の 3 科目であった。本研究では、これら を除いた各々の勘定科目の実数と経営指標などにロジスティック回帰分析を適用し、計 53 項目について分析を行った。勘定科目の実数を説明変数とした結果を図表 5-2 に、経営指 標を説明変数とした結果を図表 5-3 に示す。なお、図表 5-2、図表 5-3 における正判別率は、
倒産判別値を閾値としたとき、その実数や経営指標が活躍企業と倒産企業を正しく判別で きた割合を表す。
図表 5-2 より、単独の勘定科目の実数のうち、AIC が最小で、正判別率が最大となったも のは、「純資産合計」を説明変数とした場合で、その AIC は 31.7、正判別率は 79.3%であっ た。純資産は、財務諸表のうち、B/S において負債と共に貸方に記載される勘定科目であり、
広義には自己資本として位置づけられる。純資産は、経営の安全性を考える上で、多い方 が望ましい。なお、この他に AIC が相対的に小さかった科目として、「現金預金」、「経常利 益」を説明変数としたものが順に挙げられる。
また、図表 5-3 より、単独の経営指標のうち、AIC が最小で、正判別率が最大となったも のは、「売上債権回転日数」を説明変数とした場合で、その AIC は 29.0、正判別率は 82.8%
であった。この経営指標は、「受取手形」や「売掛金」といった売上債権を回収するのに要 する日数を表す。この日数は、資金繰りを考える上で、短いほうが望ましい。なお、この 他に AIC が相対的に小さかった指標として、「総資本償却前経常利益率」、「売上高支払利息 割引料率」を説明変数としたものが順に挙げられる。
81
図表 5-2 単独の勘定科目の実数を説明変数とした分析結果の一覧
科目名
β
1 AIC 正判別率流動資産合計[円] −4.20×10−10 40.5 0.655 現金・預金[円] −7.72×10−9 * 31.7 0.724 受取手形[円] −1.57×10−8 37.1 0.586 売掛金[円] −6.19×10−11 41.4 0.655 棚卸資産[円] 5.43×10−10 41.0 0.621 固定資産合計[円] −2.26×10−10 40.4 0.655 有形固定資産合計[円] −1.54×10−10 40.9 0.655 資産合計[円] −1.81×10−10 40.2 0.655 流動負債合計[円] −3.87×10−11 41.4 0.655 短期借入金[円] 5.34×10−10 40.3 0.690 長期借入金・社債[円] −2.16×10−10 40.8 0.655 純資産合計[円] −6.27×10−9 * 31.7 0.793 負債[円] −8.26×10−11 * 41.1 0.655 固定負債合計[円] −2.04×10−10 40.9 0.655 有利子負債[円] 1.49×10−11 41.4 0.655 売上高[円] −4.04×10−10 37.9 0.621 売上総利益[円] −4.69×10−9 35.0 0.690 営業利益[円] −8.47×10−9 34.2 0.690 受取利息配当金[円] −2.25×10−7 38.2 0.655 支払利息・割引料[円] 5.72×10−9 40.8 0.621 経常利益[円] −1.46×10−8 31.9 0.655 減価償却費[円] −1.46×10−8 36.4 0.759 期末従業員数[人] −2.90×10−2 35.5 0.655 前期資産合計[円] −1.62×10−10 40.4 0.655 前期純資産合計[円] −3.51×10−9 35.3 0.759 前期売上高[円] −3.66×10−10 38.2 0.621
*
p
< 0.0582
図表 5-3 単独の経営指標を説明変数とした分析結果の一覧
指標名
β
1 AIC 正判別率売上高総利益率 −7.20×10−2 39.2 0.690 売上高営業利益率 −5.44×10−2 38.5 0.690 売上高経常利益率 −1.03×10−1 36.8 0.690 総資本営業利益率 −1.20×10−1 37.7 0.690 総資本経常利益率 −2.37×10−1 35.0 0.655 総資本償却前経常利益率 −3.88×10−1 * 29.1 0.759 インタレスト・ガバレッジド・レシオ −1.44×10−1 35.2 0.621 債務償還年数[年] −6.89×10−3 41.0 0.690 総資本回転率 −1.47×100 39.7 0.655 売上債権回転日数[日] 2.63×10−2 ** 29.0 0.828 棚卸資産回転日数[日] 1.48×10−2 37.6 0.724 一人当たり売上高[円] −8.67×10−9 41.2 0.655 一人当たり有形固定資産額[円] 2.27×10−8 40.8 0.690 一人当たり経常利益[円] −7.50×10−7 33.8 0.655 自己資本比率 −7.41×10−2 * 32.1 0.724 流動比率 −9.13×10−3 38.4 0.690 当座比率 −1.36×10−2 37.3 0.690 固定長期適合率 9.81×10−4 41.3 0.655 減価償却率 −1.73×10−1 * 33.1 0.793 手元現金預金比率 −1.29×10−1 * 33.6 0.724 借入金月商倍率 1.36×10−1 37.6 0.655 借入金依存度[%] 6.32×10−2 * 34.3 0.759 預借率 −1.17×10−2 37.9 0.655 売上高支払利息割引料率 1.02×1010 * 30.7 0.759 前年比増収率 −2.87×10−2 40.4 0.724 総資本回転率増減 4.30×10−1 41.3 0.655 自己資本比率増減 −1.18×10−1 38.6 0.690
*