3.4.1 資金調達手段の多様化
日本の中小企業に対する直接金融の環境は十分な体制とは言えない。中小企業の直接 金融環境を整備するためには、情報開示の在り方、財務諸表の作成の統一化に加え、確 固たる経営基盤を有する中小企業が数多く存在する等中小企業自体の底上げが必要にな り、現状を見る限り、早期の実現は難しいといえよう。
以前は、日本の中小企業金融の特徴に、メインバンク等による根貸等の根雪的な貸付 効果があった。根雪的な貸付は、実際には返済がなされない状況を金融機関はわかって いながら、企業存続のために容認してきたものである。この貸付には、ゾンビ企業を延 命するようなことなどから適当でないとして批判もあり、自己査定の厳格化等により減 少した。しかしながら、直接金融による資金調達が難しい中小企業にとっては、金融機 関からの安定した資金調達が重要であり、これらの貸付方法が果たした効果を改めて考 える必要があろう。実際には現在でも、金融機関は、手形貸付のころ貸し、長期での貸 付を行いながら、中小企業の経営を支えている。
現在は、社債や資本性借入金等のように、返済を劣後する貸付方法が徐々に充実して きている。社債は、金融機関が独自に発行する社債に加え、信用保証協会付の社債の取
48
り扱いが増加している。また、資本性借入金は、金融機関の DDS に加え、日本政策金融 公庫の資本性ローン、中小企業再生支援協議会版資本的借入金等活用ができるようにな っている。金融庁は、金融検査マニュアルの中で、DDS や資本性借入金は自己資本とみ なすと示している。
また、担保については、不動産担保が多い状況は変わらないが、ABL(Asset Based L ending)担保等による資金調達も徐々に増加している。加えて、大型融資に対応するた め、複数の金融機関が協調して融資するシンジケートローン等の利用も増えている。
3.4.2 トランザクション・バンキングとリレーションシップ・バンキング
Berger and Udell(2002)は、中小企業金融における方法を、トランザクション・バンキ ングとリレーションシップ・バンキングの 2 種類に分けた[39]。トランザクション・バン キングは取引時点における財務データや担保価値等の定量的な情報を重視する貸出であり、
リレーションシップ・バンキングは中小企業の定性的な資質や、金融機関と中小企業との 継続的・多面的な取引関係を重視する貸出である [26]。
トランザクション・バンキングについて、Berger and Udell(2002)は、「財務諸表に基 づく貸出」、「資産ベース貸出」、「クレジットスコアリング」の
3
種類に分けている[39]。「財務諸表に基づく貸出」は、融資の可否や条件を、B/S、P/L 等の質によって決定するも ので、透明性の高い財務諸表を有する大企業や比較的規模の大きい中堅企業に適している 方法である。「資産ベース貸出」は、担保価値によって融資の可否や条件を決定するもの である。「クレジットスコアリング」は、統計的手法を用いて、非倒産企業と倒産企業を 判別し、その倒産確率を活用して融資の可否・条件を判断するものである[40]。トランザ クション・バンキングは、自由度が低い、モデルの正確性や実用性、さらには金融機関職 員の財務諸表の読解力低下といった問題もあり、最近、金融機関はスコアリング貸出残高 を圧縮する傾向もみられている[41]。
一方、リレーションシップ・バンキングが注目されるようになったのは、2002 年 7 月の
「金融システムと行政の将来ビジョン」からであり、その後金融審議会報告「リレーショ ンシップバンキングの機能強化に向けて」、金融庁「リレーションシップバンキングの機能 強化に関するアクションプログラム」によって広く知られるようになった。リレーション シップ・バンキングは、「金融機関が顧客との間で親密な関係を長く維持することにより顧 客に関する情報を蓄積し、この情報を基に貸出等の金融サービス等の提供を行うことで展 開するビジネスモデル」のことであり、その本質は「長期的な取引関係により得られた情 報を基に、質の高い対面交渉等を通じて、早い時点で経営改善に取り組むとともに、中小 企業金融における貸出機能を強化することにより、金融機関自身の収益向上を図ること」
である[42]。リレーションシップ・バンキングに関連した諸研究のおおむね共通した知見 は、中小企業融資の現場における「信頼」・「継続的コ ミュニケーション」・「互酬性
(reciorocity)」、お互いに「お互い様」のやり取りを重ねていくことといった規範意識や
49
社会的行為が信用供与を促進する傾向であり、つまりは貸し手と借り手とが、そもそも同 じ地域のメンバー同士で顔を合わせる機会も多く、次いで、「入金は忘れない」、「借りたも のは返す」という約束履行の実績が積み重なれば、貸し手から借り手への信用供与がより 活発になるという連関である[43]。
近年に至っては、地場企業、そして地域景気の回復が欠かせないことから、行政当局 はリレーションシップ・バンキングの概念をさらに狭義に限定し、地域金融機関は地域 に根差した金融活動、すなわち「地域密着型金融」を行うべきことを定めた[44]。
リレーションシップ・バンキングは、日本のような複数行取引の場合、金融機関担当者 の担当企業数が多く、スクリーニング及びモニタリングに十分な時間が割けないことに加 え、リレーションシップにより育ててきた企業の事業が軌道に乗った途端に、他の金融機 関が参入し、低金利で営業をかけてくるため、儲かるビジネスモデルにならない等の問題 がある。
図表 3-24 リレーションシップ・バンキングとトランザクション・バンキング リレーションシップ・バンキング トランザクション・バンキング 定 義 金融機関が顧客との間で親密な関係を長く維
持することにより顧客に関する情報を蓄積 し、この情報を基に貸出等の金融サービス等 の提供を行うことで展開するビジネスモデル
取引時点における財務データや担保価値等の 定量的な情報を重視するビジネスモデル
融資方法 ・一般的な貸付 ・シンジケートローン
・クレジット・スコアリング貸出
・ABL 効 果 ・情報の非対称性の緩和に期待
・ソフト情報の独占的活用
・柔軟な支援が可能
・金融機関担当者の審査能力の向上
・ハード情報の活用
・エージェンシー問題が総じて小さい
・融資審査コストの圧縮
・スピーディな融資が可能 課 題 ・審査・モニタリングコストが大
・ホールドアップ問題
・ソフトな予算制約問題
・自由度が低い
・景気の変動の影響を受けやすい
・モデルの正確性や実用性
・金融機関担当者の審査能力の低下の懸念
※ 筆者作成
実際には、リレーションシップ・バンキング及びトランザクション・バンキングとも、
十分に効果を発揮しているといえる状況までは至っておらず、情報の非対称性の問題を緩 和し、中小企業金融の充実を図るためには、両方法のさらなる推進を図ることや、両方法 の補完関係を強化することなどが重要である。