4.1 緒 言
第3章ではRh、Ru、Pd、Ptなどの白金族金属分散アルミナ膜およびNi、Co、 Cu、 Fe などの卑金属分散アルミナ膜を調製すると共に、膜の微細構造、 H2~ He、 CH4、N2、ArおよびC02ガスの透過係数、H2‑N2混合ガスに対するガス分離能など
を検討した。その結果によると、 Ru、問1、 Pd、 ptおよひ~Ni などの金属分散アルミナ
膜における水素ガスの透過係数および、分離係数はKnudsen拡散機構から予想される 以上の高い値が示されており、 Knudsen拡散機構以外のガス透過機構が存在するこ とが判明した。しかしながら、ガス透過機構の解明については、金属分散アルミナ 膜の透過特性、微細構造の解析および金属の吸着特性、吸着分子一表面聞の相互作 用および移動などの基本原理などにより間接的に検討されることにとどまってい る。逆の面からみると、このような拡散機構を明らかにするため、実験的検討およ び理論計算などが必要である。
多孔質膜における非凝縮性ガスの透過は、細孔径がlnm以下の超微細孔構造を 持っている分子ふるい膜中のガス拡散透過、即ち透過速度が温度の上昇と共に速く なるという活性拡散(熱拡散)を除けば、 一般的に数nm‑...数十nmの系田子し径を有する膜 の場合では主なKnudsen拡散機構に従うと考えられている[1]。また、細孔径が数百 nm以上の大きな細孔あるいはピンホール中の透過速度がガスの粘度に依存した非分 離性の粘性流(Poiseuilleflow)透過および分子拡散なども存在する[2,
3 ] 0
一方、金属 分散多孔質アルミナ膜における水素ガスの透過は、以上のガス透過機構のほか、水 素と金属表面との相互作用に起因する表面拡散の寄与が大きいと考えられる。第3章 で述べたように、 5000C
で5時間熱処理した金属分散アルミナ膜の細孔径は1‑...7nmの 範囲に分布しており、膜中のガスの透過は気相における拡散(Knudsen拡散)と吸着相における拡散(表面拡散)とが並行して起こると考えられる。これらの透過機構中、
気相におけるKnudsen拡散は分子量の‑1/2乗に比例するため、分離対象とする気体の 聞に大きな分子量の違いがない限り大きな分離能は期待できない。また、粘性流透 過もしくは分子拡散の存在は膜の選択透過能をさらに低下させることが認められ る。従って、ガス選択透過能およびガス分離能を向上するには、吸着相における表 面拡散の割合の増加が必要となる[4,5]0そのため、高選択分離能を有する膜の作製
と、膜によるガスの分離操作の最適化が重要である。
第3章で既に高い水素選択透過能および分離能を有する金属分散多孔質ガス分離膜
‑68 ‑
の開発に関する研究を行った。そこで、本章では、金属分散アルミナ膜の水素に対 する吸着挙動、膜のガス透過係数および分離係数測定および解析、シミュレーショ
ンなどによるガス透過および分離機構について検討を行う。
42 白金族金属分散アルミナ膜における水素の吸着および金属表面に吸着した水素 のスビルオーノてー
4.2.1 白金族金属分散アルミナ膜における水素の吸着
Fig.4・1にRu分散アルミナ膜のXPSスペクトルを示す。 5∞℃で水素還元後、金属 Ruに対応するピーク(3d3β=282eV)が現われ、 Ru金属粒子の存在が明らかになった。
この結果はFig.3.5に示すRu分散アルミナ膜のXRDの測定結果と一致する。また、水 素還元時間の増加と共にRuの
酸化物に対応するピーク(3d3/ 2=284.geV) がf~ エネルギー側
にシフトし、それに伴って金 属に対応するピークが大きく
なっている。一方、 5000
C
で 3hr水素還元後の試料を室温で大気中2日放置すると、 Ru金
i
属に対応するピークがほぼ消
宮
失したことを示し、還元後のさ
〈
金属粒子は酸化され易いこと が示された。
Fig.4・2に1.33wt%Ru分 散 アルミナ目莫の20‑‑‑‑‑‑6000Cでの 水素吸着実験結果を示す。白 金族金属分散アルミナ膜にお ける低温での水素吸着すべて について、 Langmuir型吸着等 温線が得られ、化学吸着が存 在することが分かった。この ことは白金族金属表面に水素 の解離吸着の結果と一致し[6‑
8]、膜の中に分散した金属超
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Ru (3dsn)
C
b
a
290 286 282 278 Binding energy / eV
Fig. 4.1 1.33wt%Ru‑A12U3膜の各種処理に伴うRu3伽 XPSス ペクトルの変化
(a)空気中で500't、 5時間焼成;(b) 500't、 3時間水素気流中 で還元後、 25'tで空気に2日間接触;(c) 500't、 2時間水素‑
窒素気流中で還元;(d) 500't、 7時間水素一窒素ガス気流中 で還元
‑69 ‑
274
0.2 0.3
噌Ei
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凶ち 同日 同¥
℃ ω
モ
O∞宮 古口
︒日
︿ 微粒子の表面によるものと考
えられる。しかし、高温での 水素の吸着等温線は平衡圧の 増大とともに吸着量がゆっく
り上昇していく。これは解離 吸着した水素原子の間に相互 作用あるいは担体アルミナへ のスピルオーバーによるもの と推測され、 Frumkin‑Temkin
型吸着に従うと考えられる。 0.5
Fig. 4‑2 1.33 wt%Ru分 散 ア ル ミ ナ 膜 に お け る 水 素 の 吸 着 等 温 線
マ, 293K;
0
, 473K;口, 673K;ム, 873K 0.4 0.30.2 p/p
。
0.1
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Fig. 4‑3 1.33wt%Rh, Ru, Pdお よ びPt分散アルミ ナ 膜 に お け る 水 素 吸 着 量 の 温 度 依 存 性
0
, Rh‑AhU3;口, Ru‑A12U3;ム, Pd‑A12α ;
マ, Pt‑AhU3
ハUハU
8 K
︐ ︐ ︐ ︐ ︐ ︐ ︐
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︿
また、 1.33wt%Rh、 Ru、Pd およびPt分散アルミナ膜にお ける20‑‑7000Cでの水素吸着 量の温度依存性をFig.4・3に 示す。 1000
C
̲,600oC
の温度領 域 で の 水 素 吸 着 量 はRh、RuおよびPd分散アルミナ膜の場
4BEA
n u た。
2
( 回 ) 宮 口 ︑ 山 口 数 あ た り の 水 素 吸 着 量 が 大 幅
に 増 大 し た 。 こ れ は 金 属 表 面 に 吸 着 し た 水 素 が ア ル ミ ナ 表 面 の ス ピ ル オ ー バ ー に 起 因 す
るものと考えられる。
金 属 表 面 に 吸 着 し た 水 素 の ア ル ミ ナ 表 面 へ の ス ピ ル 4‑2‑2
n u
n u
n u
噌'A
800 600
400
I1L
200 オーバー
金 属 表 面 に 吸 着 し た 水 素 の
ス ピ ル オ ー バ ー 現 象 に つ い Temperature / K
Fig. 4‑4 1.33 wt% Rb, Ru, Pdお よ びPt分 散 ア ル ミナ膜の水素吸着と金属原子の量論関係
0
, Rh‑A12U3;口,Ru‑A12U3;ム,Pd‑A12U3;マ
,
Pt‑A12U3 て、 Khoobiarら[9]は1964年に室温で、Pt/A1203‑W03混 合 物 の 上に解離吸着した水素がptから A1203の 表 面 を 経 て
W03の 表 面 に 移 動 す る す る こ と を 初 め て 発見した。その後、
Pd/Si02、Pd/A1203、
d } . .M
Suppo口
Pt/Ti02... Pt/A1203、 Pt/Si02、Pt/C、Pt/ Zeolite、Rh/A1203、 Ru/A1203な ど の 担 持 金 属 触 媒 上 に お け る
水素、
CO
などのスピ CB
Fig.4‑5 金 属 表 面 に 吸 着 し た 水 素 の ス ピ ル オ ー バ ー の 模 式 図 A:金属/金属担体, B:金属/酸化物(固体混合物);
C:金属/酸化物(担持化合物);1, IIは金属粒子である。
ー71‑ A
模 式 図 をFig.4・5に 示 す[18]。吸着した
水素の担体へのスピルオーバーのため、水素の吸着量は金属原子量の数倍以上高い 値を示すこともある。水素ガスが白金族金属分散多孔質アルミナ膜を透過する場合
ル オ ー バ ー が 見 い だ された[10‑17]。 担 持 金 属 触 媒 上 へ の 水 素 の ス ビ ル オ ー バ ー の
で は 、 こ の よ う な ス ピ ル オーバー現象が存在するこ とが予想され、それが表面 拡散速度および水素の選択 透過能の向上を考える上で 重要な因子となり得る。
Fig.4‑6とFig.4・7は 1.33wt%Ruお よ び 1.33wt%Rh分散アルミナ膜 における水素吸着温度を変 えたときの昇温脱離スペク
トルである。 200Cで水素を 吸 着 さ せ た 場 合 で は120‑‑‑ 1 500C付 近 に 一 つ の 脱 離
ピークのみを示したが、こ れに対し3000C2時間、それ から300→200Cで1時間で水 素吸着させた後、室温での 吸着に認められなかった高 温 側(400‑‑‑5 OOoC)の 脱 離 ピークが現われた。この現 象 はPt/Ti02[19]
、
Rh/Ti02[20]
、
Ru/Al203[21]およ び、NijAl203 [22]触媒の昇温脱 離の結果と傾向が一致する ことから、 RuおよびRh上の 解離水素の担体への拡散に よるスピルオーバー水素と 帰 属 さ れ る 。 ス ピ ル オ ー ノてー水素の量は、吸着温度 に依存して増加する。 300
gE Eh 担h 吋 モ︿
(c)
o
200 400 600 800 1000 Temperature/ O C
Fig. 4‑6
1 .
33 wt% Ru‑A12U3膜および、A
12U3膜にお ける吸着水素のTPD
測 定 結 果(a) Ru‑A12
U 3 ,
300~20oC で、H2吸着→20~8000C脱着
(b) Ru‑A12
U 3 ,
200C で、H2吸着→20~800oC 脱離 (c) A12U 3 ,
300~20oC で匝吸着→ 20"‑' 8 00 oC脱 離22 2h 吋 H
・ ヨ モ ︿
(b)
o
200 400 600 800 1000 Temperature /oCFig. 4‑7
1 .
33 wt% Rh‑AhU3膜における吸着水素 の
TPD測定結果(a) 300"‑'20o
C
で段吸着→2
0"‑'800 oC脱 離 (b) 200C で、 H2吸着→20~800oC 脱離℃→200Cで吸着した水素の昇温脱離量と金属原子量との比は、 Ru分散アルミナ膜お よび悶1分散アルミナ膜の場合ではそれぞれ2.35および2.87であり、 4∞℃における水
‑72‑
恒
素吸着量の測定結果に比べやや高 い値を示した。これはTPD測定の 場合では300→200
C
での活性化吸 着した水素も含まれていることが 考えられる。Ni上では白金族金属と同様に解 離吸着した水素がスピルオーバー
して担体に移動することが観測さ
れた。 Fig.4‑8、Fig.4‑9に示す
ように、 NijA12u3試料の4000Cに お け る 水 素 吸 着 後 の 昇 温 脱 離 (TPD)において室温での吸着の場 合には現れなかった400.̲.600 oC付 近の脱離ピークが確認された。ま た、質量分析の結果高温での脱離 ピークは水素の脱離ピークである ことが明らかになった。
以上の結果から、単一ガスある .~ ョ
いは混合ガスが白金族金属あるい
5
はNi分散アルミナ膜を透過すると
3
き 、 水 素 は 金 属 表 面 で 解 離 吸 着 し、さらに吸着した水素のアルミ ナ上へのスピルオーバーが起こる ため、水素の選択透過を促進した ためと考えられる。
43 膜のガス透過機構の解析 4‑3‑1 表面拡散
担何 回ロ ト渇
t ﹄
sH
︿
900
凝縮性ガスあるいは吸着性ガス
の場合、細孔内輸送において吸着、脱離を繰り返しながら拡散していく表面拡散の 寄与が大きいことが知られている。そのメカニズムについては次の三つが考えられ ている[23]0 (1)ホッピングによる吸着分子の拡散、 (2)2次元日ckの法則に従う場合、
すなわち膜中における濃度勾配が、拡散のドライピングフォースとなる場合、 (3)細
(a)
o
200 400 600 800 1∞ o
Temperature /C
Fig. 4‑8 1.33wt%Ni‑Al2:αの水素の昇温脱離測定結果 (a) 30"Cで3時間水素吸着→20‑‑800"C脱離
(b) 400"Cで3時間水素吸着→20‑‑800"C脱離
(c) 400"Cで3時間水素吸着→400"Cで1時間真空排気 処理→20‑‑800'C脱離
(c)
ハUハU
'E
EA
300 500 700
Temperature / 'C
Fig.4‑9 1.33wt%Ni‑A12U3の昇温脱離水素のMassスペ クトjレ
(a) 30"Cで3時間水素吸着→20‑‑800'C脱離 (b) 400"Cで3時間水素吸着→20‑‑‑800'C脱離
(c) 400"Cで3時間水素吸着→400"Cで1時間真空排気処 理→20‑‑800"C脱離
ー73‑