山 内 瑶 子
*1三 崎 直 子
*2♯(2012 年 9 月 28 日受付,2012 年 12 月 11 日受理)
要旨:助産学生が臨地実習で分娩介助を行うために,学内でモデルを用いたスキルの練習が必 須である。そこで本研究の目的は,学内での分娩介助スキルの練習に役立つ胎盤モデルを作成 することである。モデルは胎盤の重量感を疑似体験できることに焦点を当て,簡便で経済的な ものとした。方法は胎盤モデルの作成,実際の胎盤を扱った経験のある助産学生による使用感 の評価,簡便さと経済性の側面からの胎盤モデルの評価である。胎盤モデルはストッキングと フェルト生地,小豆を用いて 500g とした。助産学生の使用感とモデルに対する評価は,複数回 答で「重量感を疑似体験できた,現実感があった」が多かった。また「胎盤実質や卵膜は胎盤 娩出のトレーニングに役立った」,「臍帯付着部位について工夫してほしい」があった。作成時 間は 3 時間,費用は500円であり,簡便で安価であり,重量感,使用感とともに分娩介助の練習 に役立つものであった。
キーワード:胎盤,疑似体験,教材,重量感と使用感
*1弘前大学大学院保健学研究科健康支援科学領域 障害保健学分野
〒036‑8564 青森県弘前市本町66‑1 E-mail:[email protected]‑u.ac.jp
*2弘前大学大学院保健学研究科健康支援科学領域 健康増進科学分野
♯ corresponding author
Ⅰ 緒 言
助産師の行う分娩介助スキルは専門性が高く,多く のスキルの総合であり,熟練も要するため,修得が最 も難しいものであり,十分な学習時間が必要とされる。
臨地実習でケアを展開するためには,規定の授業時間 のみならず,授業時間以外での学生の自主的な反復ト レーニングが必須である。しかし大学の助産学教育は 過密スケジュールのために,授業や臨地実習時間は限 られており,我々教員には与えられた時間内で効率的 かつ現実感のある分娩介助スキル教育の工夫が求めら れている。
その中でも我々は胎盤娩出スキルに着目した。胎盤 娩出は分娩介助の一部であり,胎盤剥離兆候や胎盤娩 出様式などの知識,卵膜を子宮内に遺残させないよう な娩出方法などといったスキルを必要とする。現在,
授業やトレーニングで使用しているモデルは,市販さ れている胎盤モデルと手作りの胎盤モデル(従来型)
であるが,スキルの学習に効果的なモデルとは言えな い。市販の胎盤モデルは実際の胎盤の重量を実感しや
すいという利点があるが,非常に高価であるため数量 を確保できないこと,材質に柔軟性がないため娩出時 に破損しやすく,修理には多額の費用と長期間を要し,
反復したトレーニングには適していないといった欠点 があった。また手作りの胎盤モデル(従来型)につい ても,実際の胎盤の重量や大きさ・厚さから程遠く,
娩出時に胎盤の重量を実感しにくいという欠点があっ た。そのため,自然に娩出されてくる胎盤の重量を利 用して娩出させるという胎盤娩出スキルのトレーニン グが困難であることが,分娩介助スキルの課題のひと つであった。
そこで本研究は,胎盤の重量を実感できる胎盤モデ ルを作成し,それを評価することを目的とした。胎盤 モデルは胎盤娩出スキルのトレーニングに役立つと同 時に,学生が個々に作成することができるように経済 性および簡便性に優れているものとした。そのことに よって個人が所有する教材として大切に使用するこ と,学内でのスキルのトレーニングが楽しみとなるこ とにつながる効果も期待できると考えられる。
Ⅱ 研究方法 1.研究期間
研究期間は平成24年 6 月〜 9 月である。
2.胎盤モデルの作成(図1)
胎盤モデルは,実物の胎盤に近い重量を感じられる ことに焦点を当て,研究者と共同研究者が考案し作成 した。胎盤の重量には食用の乾燥豆を活用した。その 他胎盤実質部分にフェルト生地,パンティストッキン グ(以下,ストッキングとする)を用い,臍帯と卵膜 にストッキングを使用した。作成方法について以下に 示す。
(1)ストッキングの足部分を 2 枚重ねにし,小豆450g を入れて端を結ぶ。10等分ほどに区切り,余って いるストッキングを細く切って紐代わりにして縛 る。
(2)フェルト生地 2 枚,裏地生地 1 枚を重ねて縫い合 わせる。
(3)臍帯用のストッキングはそれぞれ 2 等分して 4 本 の紐状にする。(2)の中心に裏地生地側から臍帯 用のストッキングを 1 本通して,フェルト生地側 に結び目をつけて固定する。臍帯用のストッキン グをかぎ針で鎖編みにし,50cm ほどの長さにす る。必要時,ストッキングを追加していく。
(4)フェルト生地側から卵膜用のストッキングをかぶ せ,周囲を縫い合わせて固定する。
(5)フェルト生地側に(1)を縫い付けて固定する。
乾燥した小豆を選択した理由は,様々な乾燥豆を使 用して胎盤モデルを作成した結果,小粒状の豆が胎盤 の分葉に似た柔らかい弾力感を得ることができたため である。破損しにくいように,ストッキングの足部分 は 2 枚重ねにして強度を保ち,破れにくくする工夫を
した。小豆の重さを支えることができるように,フェ ルト生地は 2 枚重ねにして厚みを増す工夫をした。ま た裏地生地を使用したのは,胎児面の滑らかさを得る ためである。
3.胎盤モデルの評価
評価は,①学生による胎盤モデルの使用感,②胎盤 モデル作成の経済性と簡便性とした。臨地実習で実際 に胎盤を取り扱った経験のある助産学生 9 名に,学内 で胎盤娩出スキルのトレーニングに胎盤モデルを使用 してもらった。使用後すぐに研究者と共同研究者が助 産学生にインタビューをし,胎盤モデルの使用感につ いて自由な回答を得た。得られた回答を「重量感」,「使 用感」,「修正」の 3 つのカテゴリーに分類した。胎盤 作成の経済性と簡便性に関しては,材料経費,材料を 手軽に購入できるか,作成に要した時間,作成スキル について評価した。
4.倫理的配慮
助産学生には,本研究の目的・方法,得られた回答 から個人は特定されないこと,研究に参加しない場合 でも成績などの評価には影響しないことについて口頭 にて説明し,了承を得た。
Ⅲ 研究結果
1.学生による胎盤モデルの使用感(表1)
胎盤モデルの使用感について31の回答が得られた。
それらをカテゴリーに分類した結果,「重量感」の回 答数 8 ,「使用感」の回答数16,「修正」の回答数 7 で あった。「重量感」の全ての回答が「重量感を疑似体 験できた」であり,実物の胎盤に近い重さを利用した 胎盤娩出スキルのトレーニングができたことが述べら れていた。「使用感」では,「胎盤娩出に現実感があっ
胎児面 母体面
図1 作成した胎盤モデル
た」10,「卵膜娩出のトレーニングに役立った」 3 ,「胎 盤の一次検査のトレーニングに役立った」 3 が挙げら れ,胎盤実質の厚みや臍帯を牽引した時の抵抗感など が表現されていた。「修正」では,「胎盤実質の娩出の させにくさ」についての回答が 3 ,「臍帯付着部位の 工夫」についての回答が 4 であった。
2.胎盤モデル作成の経済性と簡便性
胎盤を 3 回作成した。作成経費はいずれも約500円 で,内訳は小豆 450g で300円,20cm×20cm 大のフェ ルト生地が100円,裏地生地が100円,ストッキング 2 足であった。それらは近隣のホームセンターあるいは スーパーマーケットで購入することができた。作成に 要したスキルは,「布を切る」,「布に縫い付ける」,「か ぎ針で鎖編みをする」という普段の家庭生活で活用さ れている 3 種類のスキルであった。作成にはいずれも 約 3 時間を要した。
Ⅳ 考 察 1.胎盤モデルの評価
ほとんどの学生は,作成した胎盤モデルを使用して 実際の胎盤に近い重量と胎盤実質の厚さを実感するこ とにより,疑似体験できたことを述べていた。胎盤の 重量を利用した娩出動作を練習することができたこ と,胎盤娩出時に両手で胎盤モデルをしっかり支える ことができたことを述べる学生もいた。したがって,
より実践に近い練習をすることができたため,今回の 胎盤モデルは学内の胎盤娩出スキルのトレーニングに 大いに役立つことが示された。また胎盤の重量を実感 することで,胎盤を慎重に扱う意識が芽生える効果も あったと考えられる。その一方で,胎盤の厚さによる 握りづらさ・娩出のさせにくさ,胎盤の臍帯付着部位 の工夫の必要性について述べる学生もおり,改良の必 要性があることがわかった。
胎盤モデルの作成に要した時間は約 3 時間で経費は 約500円であり,いずれも購入が容易な物品であった。
その上,作成に必要とした布を切る,布に縫い付ける,
かぎ針で鎖編みをするというスキルは,小中学校の技 術家庭科で学ぶものであった。それに対して市販の胎 盤モデルは約10万円であること,従来型の胎盤モデル の作成時間に 1 日要することから,今回作成した胎盤 モデルは経済性と簡便性に優れていると判断できる。
2.学内トレーニングへのモデルの活用
従来型の胎盤モデルの作成は,代々の当教育担当者 によって受け継がれてきた。しかしそれは,疑似体験 をしながら胎盤娩出を練習するという側面では困難な モデルであり,助産学生は実際の胎盤を思い浮かべな がら練習をするか,あるいは全く現実的なイメージを 持たずに練習をしていたと思われる(図 2 )。それに ついて少数ではあったが「胎盤モデル(従来型)は実 際の胎盤と異なっているということを自分に意識させ 表1 学生による胎盤モデルの使用感
(数)
重量感 重量感を疑似体験できた。 8
本物の胎盤に近い重さ・厚さを手に感じることができた。 5
胎盤の重さを利用して娩出させる動作を正しく練習することが
できた。 2
重さを感じることができるため,胎盤をしっかり支えることを
意識できた。 1
使用感
胎盤娩出に現実感があった。 10
厚みがあり娩出に抵抗感がある。 3
ダンカン式での娩出を練習することができた。 1
臍帯を引っ張るときの力はこんなに強い。 3
臍帯を引っ張ったときに胎盤の重さによる抵抗を感じる。 2
従来の胎盤モデルは実際の胎盤と異なっているということを自 分に意識させて練習していたが,新しい胎盤モデルについては そう思わなくてもよかった。
1
卵膜娩出のトレーニングに
役立った。 3
卵膜の薄さが本物に近く,裏返すときも丁寧に行うことができた。 1
卵膜の長さが十分あるため,卵膜の娩出の練習ができた。 1
卵膜の胎児面のヌルヌルした感触を疑似体験できた 1
胎盤の一次検査トレーニン
グに役立った。 3 母体面の分葉があるので,胎盤の一次検査の練習がきちんとで
きた。 3
修正 胎盤実質
7 胎盤の厚さによる握りづらさ・娩出のさせにくさを感じる。 3
臍帯 臍帯付着部位と臍帯との接続に工夫が必要である。 4
(複数回答)