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看護職者が高齢者への患者指導を実施する上で感じる困難

ドキュメント内 保健科学研究_第3号 (ページ 53-71)

齋 藤 久美子

*1

 横 田 ひろみ

*2

 一 戸 とも子

*3

小 倉 能理子

*3

 佐 藤 真由美

*3

(2012 年 9 月 28 日受付,2012 年 12 月 11 日受理)

要旨:本研究の目的は,看護職者が高齢者への患者指導を実施する上で感じる困難について明 らかにすることである。

 A県内の看護職者に行った患者指導に関する調査に協力の得られた672名のうち,「高齢者に 対する指導における困難」の自由記述へ回答した389名の記述内容を分析した。

 看護職者が高齢者への患者指導を実施する上で感じる困難は,10カテゴリー抽出され,《理解 できるような説明の仕方》《サポート力が低い人への指導》《視力・聴力・認知等の低下がある 人への指導》《指導を受け入れてもらうための働きかけ》《理解力を把握すること》《必要な知識 技術を覚えてもらうこと》《生活習慣を変えようと思ってもらうこと》《指導した健康行動を実施・

維持できるようにすること》《対象者に合わせた指導計画の立案》《看護職者の指導力が発揮で きる体制作り》であった。

 これらの結果から,患者指導にあたって,高齢者の特性を捉えること,指導を行う方法・態 度について深めていくこと,看護職者が指導力を向上させることができる環境づくりの必要性 が示唆された。

キーワード:看護職者,高齢者,患者指導,指導上の困難

*1弘前大学大学院保健学研究科健康支援科学領域 老年保健学分野

〒036‑8564 青森県弘前市本町66‑1 E‑mail:[email protected]‑u.ac.jp

*2弘前大学大学院保健学研究科健康支援科学領域 障害保健学分野

*3弘前大学大学院保健学研究科健康支援科学領域 健康増進科学分野

Ⅰ はじめに

 高齢化の進展や,慢性疾患の増加,医療の高度化・

複雑化に伴い,高齢者の入院・外来に占める割合は年々 増加している1)。疾患によっては,生活習慣の変更を 余儀なくされたり,退院後も医療処置を継続しなけれ ばならなかったり,ADL が入院時より低下する場合 もある。また,家族形態の変化により,核家族や独居 高齢者も増加しており,必要な介護や支援が十分に受 けられる状況にない高齢者もいる。このような中で,

健康の保持増進や健康回復のために,看護職者による 患者指導の重要性に対する認識は高まっている。しか し,我々の調査2)では,臨床における看護職者は様々 な状態にある患者や家族,例えば高齢者,理解力が低 下した患者,意欲が低い患者,認知機能に障害がある 患者などに対する指導法に多くの困難を感じていた。

中でも,認知症や難聴,視力障害がある高齢者に対す

る指導方法,独居や高齢者夫婦への退院時指導など,

高齢者に関する指導への困難が多くを占めていた。

 より良い生活を営むためには,疾患を持っていても いかに QOL を上げて生活するかが問われる。また,

寝たきりや疾患がない健康に生活できる期間(健康寿 命)を伸ばすことに関心が高まっており,平成24年 7 月に策定された第 2 次健康日本21には健康寿命の延伸 が目標にあげられた3)。疾患がない場合でも,高齢者 にとっては機能低下を予防するように過ごすことは重 要なことである。そのためには,自分の体力や疾患の 状態に合わせて,健康の保持増進や健康回復のために 望ましい生活習慣の獲得や好ましくない生活習慣の変 更が求められる。今までの生活を変えなければならな いことや新しい健康行動を身につけなければならない ことは,多大な努力が必要とされる。特に,心身とも に老化の過程にある高齢者にとっては,とまどいも大 きいと思われる。また,感覚記憶・短期記憶の低下4)

知的機能の低下や気力の低下に伴い5),新しいことへ の学習に対して消極的な傾向がみられる人もいる。高 齢者の特徴や家庭的・社会的背景を踏まえたより個別 的な患者指導が求められる。

 高齢者への患者指導の先行研究をみると,退院時指 導や退院支援について6−10)の報告が多く,他には疾 患に関連したもの11,12),ストーマ管理や服薬指導など 医療処置に関連したもの13−17)などであった。看護職 者は高齢者への指導にあたって様々な困難を感じてい ると思われたが,その実態について調べられたものは 見つけることができなかった。そこで,その実態を明 らかにすることにより,看護職者の高齢者への指導力 を向上させる示唆が得られると考えた。

Ⅱ 目  的

 高齢者への患者指導にあたって指導力を高めるため の示唆を得るために,看護職者の高齢者への患者指導 を実施する上で感じる困難について明らかにする。

Ⅲ 用語の定義

 「患者指導」は,患者および家族を対象に,健康の 保持増進や健康回復のために望ましい行動の獲得や行 動変容を可能とする援助であり,日常の看護業務のな かで,患者に対して行う全ての指導的関わりとした。

なお,看護においては,患者教育という言葉も患者指 導と同じような意味で用いられているが,ここでは患 者の行動変容を支援する具体的なスキルという考えか ら患者指導とした。引用文献で患者教育と用いられて いる場合は,そのまま患者教育とした。

Ⅳ 研究方法  1.調査期間:2008年10月〜11月

2.対象者:A県内の100床以上の39病院の看護職者 に行った「患者指導に関する質問紙調査」に協力の得 られた672名のうち,「高齢者に対する指導において,

困った,難しいと感じていること」についての自由記 載への回答者389名である。

3.調査方法:無記名自記式質問紙法。質問紙は病院 に一括して郵送し,依頼部数は看護者全体の 2 割程度 とした。施設内での対象者の選定は看護部に一任し,

個々の看護師への配布は看護部責任者に依頼した。記 入後の質問紙は個別に返送( 1 施設のみ留置)しても らった。

4.調査内容:対象者の性別,年齢,経験年数,勤務 場所,職種,高齢者に対する指導において,困った,

難しいと感じていることである。

5.分析方法:自由記述の内容から,患者指導を実施 する上で感じる困難を抽出してコードとし,同じ意味・

内容のものに分類して〈サブカテゴリー〉化した。さ らに類似性や相違性を確認して帰納的に《カテゴリー》

をつくり,カテゴリーの概念を規定した。コード化か らカテゴリー化までの検討は,複数の研究者で行い,

妥当性を高めた。

6.倫理的配慮:調査の目的,方法,プライバシーの 保護,研究への参加は自由意志であること等について 質問紙に明記し,返送をもって承諾とした。なお, B 大学大学院医学研究科倫理委員会の承認を得て実施し た。

Ⅴ 結  果

 対象者は,女性383名,男性 6 名,平均年齢は40.2

±9.8歳,平均勤務年数は18.0±9.8年であった。職種は,

看護師365名,助産師20名,准看護師 4 名であった。

その中で保健師免許を保持しているのは21名であっ た。勤務場所は,病棟359名,外来30名であった。(表

1 )

 看護職者が高齢者への患者指導を実施する上で感じ る困難は806コード得られ,サブカテゴリーは21,カ テゴリーは10抽出された。カテゴリーは,コードが多 い順に《理解できるような説明の仕方》274コード,

《サポート力が低い人への指導》124コード,《視力・

聴力・認知等の低下がある人への指導》114コード,《指 導を受け入れてもらうための働きかけ》85コード,《理 解力を把握すること》55コード,《必要な知識技術を 覚えてもらうこと》52コード,《生活習慣を変えよう と思ってもらうこと》44コード,《指導した健康行動 を実施・維持できるようにすること》24コード,《対

表1 対象者の背景

n=389

人数(人) %

性別 女性 383 98.5

男性 6 1.5

職種

看護師 365 93.9

助産師 20 5.1

准看護師 4 1.0

勤務場所 病棟 359 92.3

外来 30 7.7

年齢 20‑29歳 78 20.0

30‑39歳 98 25.2 40‑49歳 129 33.2 50歳以上 83 21.3

未記入 1 0.3

平均年齢 40.2±9.8歳

象者に合わせた指導計画の立案》21コード,《看護職 者の指導力を発揮できる体制作り》13コードであっ た。(表 2 )

 以下カテゴリー別に,内容を述べる。《 》はカテゴ リー,〈 〉はサブカテゴリー,「 」はコードを示す。(表

3 )

 《理解できるような説明の仕方》のサブカテゴリー は〈説明したことを理解してもらうこと〉〈理解でき るように説明すること〉の 2 つであった。〈説明した ことを理解してもらうこと〉のコード数は256と最も 多く,「同じことを何度も指導しているが,前に進め ない」「理解力低下のためなかなか覚えられない。覚 えてもすぐ忘れる」「指導した内容を覚えていない」

「理解力が乏しい」「誤った理解をする」「覚えるまで に時間がかかる」などであった。〈理解できるように 説明すること〉では,「伝えたいことが伝わらない」「相 手に分かりやすく説明することが難しい」などであっ た。なかなか指導内容を理解してもらえず,理解して もらうことの難しさや,理解してもらえるような説明 の仕方について難しいと述べていた。

 《サポート力が低い人への指導》は〈家族にサポー トしてもらうこと〉〈支援の必要性があるが,患者を サポートする人がいない〉の二つのサブカテゴリーで

あり,〈家族にサポートしてもらうこと〉のコードは「介 護者も高齢で指導しても理解してもらえない」「説明 しても理解が得られず,家族の協力も得られない」で,

〈支援の必要性があるが,患者をサポートする人がい ない〉のコードは「独居で家族の協力が得られない」

「自己管理能力が低下しているが,独り暮らしのため 家族の協力が得にくい」など,家族も高齢のためサポー トできなかったり,家族がいても協力を得られない場 合や,自己管理が難しい状況であるが独居のためサ ポートが得られない場合難しいという内容であった。

 《視力・聴力・認知等の低下がある人への指導》の サブカテゴリーは,〈認知症がある人に理解してもら うこと〉〈難聴の人に理解してもらうこと〉〈視力低下 がある人への指導〉〈字が読めない人への指導〉〈感覚 機能が低下している人への指導〉であった。コードは

「認知症の方が多く,訴えも分かりにくい」「難聴で意 思の疎通が困難」「難聴で指導に時間がかかる」「目が 悪いため指導に必要な資料が見えない」「字が読めな い・わからない等,指導の受け入れがスムーズにいか ない」など,視力障害,聴力障害,認知の低下等年齢 を重ねることから出てくる症状により,意思の疎通が 難しい,指導の過程で理解してもらうことが難しいと 感じていた。

表2 看護職者が高齢者へ指導する上で感じる困難のカテゴリー,サブカテゴリー,コード数

カテゴリー サブカテゴリー コード

コード数  合計

理解できるような説明の仕方 説明したことを理解してもらうこと 256

理解できるように説明すること  18 274

サポート力が低い人への指導 家族にサポートしてもらうこと  62

支援の必要性があるが,患者をサポートする人がいない  62 124

視力・聴力・認知等の低下が ある人への指導

認知症がある人に理解してもらうこと  46

114

難聴の人に理解してもらうこと  45

視力低下がある人への指導  9

字が読めない人への指導  7

感覚機能が低下している人への指導  7

指導を受け入れてもらうため の働きかけ

指導を受けようとする態度になってもらうこと  63

積極的に取り組もうとしない人への指導  22  85

理解力を把握すること 理解力の程度を把握すること  50

退院後に指導した健康行動が実践されているか評価すること  5  55 必要な知識技術を覚えてもら

うこと

手技を覚えてもらうこと  26

必要な知識・自己管理を覚えてもらうこと  26  52

生活習慣を変えようと思って

もらうこと 生活習慣を変えようと思ってもらうこと  44  44

指導した健康行動を実施・維

持できるようにすること 指導した健康行動を,実施,維持できるようにすること  24  24

対象者に合わせた指導計画の

立案 対象者に合わせた指導計画の立案  21  21

看護職者の指導力を発揮でき る体制作り

患者指導に対する意識付け  5

 13

指導力を高めること  4

指導時間を確保すること  4

ドキュメント内 保健科学研究_第3号 (ページ 53-71)