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看護師が診療所外来に通院中の認知症を有する高齢心不全患者の 疾病管理において抱いている対応困難と支援の実態

ドキュメント内 保健科学研究_第3号 (ページ 100-111)

大 津 美 香

*1

 高 山 成 子

*2

 渡 辺 陽 子

*3

(2012 年 9 月 19 日受付,2012 年 12 月 11 日受理)

要旨:本研究では,看護師が診療所の外来に通院している慢性期における認知症を有する高齢 心不全患者の疾病管理において,抱いている対応困難と支援の実態を調査することを目的とし た。全国の500件の循環器の有床診療所の看護師各 1 名,計500名が本調査の対象となった。有 効回答数が13名(有効回答率2.6%)と非常に低かったが,その原因として,認知症を有する高 齢の慢性心不全患者のフォローアップを行っている診療所は少ないことが推察された。診療所 の外来では認知症のタイプ,重症度,認知症の行動・心理症状の出現する背景が把握されない まま,支援が行われている傾向があった。認知症を有する高齢慢性心不全患者の悪化の兆候を 発見することは非常に困難と感じられていたが,これに対して,【悪化予防及び悪化時の具体的 な指導】【症状や検査結果などの客観的な情報を活用した悪化のアセスメント】【通院間隔を短 く管理すること】などが実施されていた。

キーワード:認知症,慢性心不全,高齢外来患者,対応困難,支援

*1弘前大学大学院保健学研究科健康支援科学領域 老年保健学分野

〒036‑8564 青森県弘前市本町66‑1 E‑mail:h̲[email protected]‑u.ac.jp

*2石川県立看護大学看護学部

*3県立広島大学保健福祉学部

Ⅰ. はじめに

 わが国では欧米に比して心不全の罹患率や死亡率は 低いが,心不全の罹患率は上昇を続けている1)。特に 高齢者では心不全の罹患率が高く2,3),また,高齢に なるほど認知症の罹患率も高くなる4)ため,認知症 を有する高齢心不全患者の疾病管理は重要であると 考えられるが,心不全の疾病管理に関する研究は少な く5),認知症を有する高齢心不全患者の疾病管理につ いては,急性増悪期の事例研究以外6),ほとんど行わ れていない。

 認知症高齢者の心不全の急性増悪期の事例研究にお いては6),治療と安全を優先させるために,身体抑制 が行われ,その結果,酸素カヌラを嫌がり外したり,

点滴を自己抜去したり,徘徊が生じるなど治療の継続 が困難となり,看護師は認知症を有する高齢心不全患 者の援助に困難を抱いていることが報告されている6)。 また,既往歴は不明であるが,一般病院,介護老人保 健施設,療養型医療施設などの医療施設に入院・入所

中の認知症高齢者においても,目が離せず見守りが必 要で業務が緊迫化するため,看護師にとって対応が困 難であることが報告されている7)。在宅において認知 症高齢者を介護する家族介護者においても,行動・心 理 症 状(behavioral  and  psychological  symptoms  of  dementia;  BPSD)のみられる療養者に対して介護負 担を感じており8),認知症高齢者では合併症の種類・

経過や生活場所にかかわらず,BPSD が出現しやすく,

対応が困難となる傾向があると考えられた。

 認知症患者にみられる BPSD の中でも対応が最も 厄介であると捉えられている徘徊については,米国で はガイドラインが作成され,徘徊予防のための取り組 みが行われ9),わが国においても対応方法についての 検討が行われている10,11)。BPSD に対する対応方法の 検討が行われている一方で,合併症のある認知症患者 への対応や支援の実態については明らかにされていな い。特に,外来に通院している在宅療養中の認知症を 有する慢性心不全患者の疾病管理の支援にあたってい る看護師の対応困難や支援についての実態は明らかに

なっていない。

 そのため,本研究では,診療所の外来に通院してい る慢性期における認知症を有する高齢心不全患者の疾 病管理において看護師が抱いている対応困難と支援の 実態を知ることを目的とした。

Ⅱ.研究方法 1.対象者

 全国の循環器の有床診療所1,107件のうち(2011年 10月 1 日の時点において),各都道府県 9 −11件の計 500件をランダムに選出した。各診療所の看護師長に 対して,外来に勤務し認知症を有する高齢心不全患者 の看護に携わった経験のある看護師 1 名の紹介を依頼 した。そして,全国の500件の循環器の有床診療所の 看護師各1名,計500名が本調査の対象となった。

2.調査方法

 本研究の説明文書,協力依頼書,質問紙,参加同意 書(返信用葉書),情報保護ラベル,および返信用封 筒を同封し,郵送による質問紙調査を行った。調査期 間は2011年10月下旬から同年11月下旬であった。

3.調査内容

 調査対象となった看護師の概要については,看護師 の経験年数,循環器看護の経験年数,認知症看護の経 験年数,現在の職場での経験年数,現在の職場におい て携わった認知症を有する高齢心不全患者の人数につ いて調査した。

 認知症を有する高齢慢性心不全患者に関する内容に ついては,先行研究12,13,14)を基に作成し,患者の認知 症のタイプおよび重症度,患者の心機能の分類 (New  York  Heart  Association  ;  NYHA),患者にみられて いた BPSD・精神症状,BPSD に対する看護師の認識,

患者の悪化徴候の確認,重要と感じ入手の必要がある 情報,実際に収集しケアに生かした情報について,選 択式の回答を設定した。また,対応に困難を感じた場 面・内容,対応に困難であった場合に行った効果的及 び非効果であった対応方法,診療所外来において行っ ている慢性心不全の疾病管理の指導のポイントについ て,自由記載を求めた。

4.分析方法

 対象看護師の概要については,記述統計を行った。

選択式の回答については単純集計を行った。また,自 由記載の内容については,第 1 段階として生データを 意味内容の類似性を基に分類を行い,第 2 段階として

1 段階の集約内容を更に意味内容の類似性を基に分類 を行い,内容を集約した。

5.倫理的配慮

 本研究の目的,方法,個人情報の保護,任意性,拒 否により不利益は生じないこと,データの保存及び使 用並びに保存期間,研究終了後のデータの破棄方法等 について文書にて説明を行い,自由意思の下,同意を 得られた場合には,参加同意を示す返信用葉書に署名 し,質問紙とは別に情報保護ラベルを用いて返信を依 頼した。質問紙の回答については無記名で行い,個人 名や施設名が特定されないようプライバシーの保護に 努めた。なお,本研究は弘前大学大学院医学研究科の 倫理委員会の承認を得て実施した。

Ⅲ.結  果 1.回収率および回答者の概要

 500部配布し,回収数は14部であった。そのうち有 効回答数は13部(有効回答率2.6%)と非常に低かった が, 7 診療所より事例の経験がなく本研究への協力が 不可能であることの連絡があった。対象となった看護 師の性別はすべてが女性であった。看護師経験年数は 19.3±7.7年,循環器看護の経験年数は10.5±6.1年,認 知症看護の経験年数は12.0±5.0,現在の職場での経験 年数は6.5±5.6年,現在の職場で携わった認知症を有 する高齢心不全患者の人数は 3 〜43人(平均14.8±

13.3人) であった。

2.認知症を有する高齢心不全患者の概要

(1)認知症のタイプ・重症度

 認知症のタイプおよび重症度を表 1 に示す(複数回 答)。これまでに支援にあたった患者の認知症のタイ プは,「覚えていない」13名が最も多く,順に「血管性」

10名,「タイプを意識していなかった」 9 名,「アルツ ハイマー病」 8 名,「診断がされていない」 6 名,「レ ビー小体型」 3 名,「前頭側頭型」 2 名であった。認 知症の重症度は,「測定しなかった」 7 名,「軽度」

3 名,「覚えていない」 2 名,「中等度」 1 名であった。

(2)心機能の分類

  患 者 の 心 機 能 の 分 類 を 表 1 に 示 す( 複 数 回 答 )。

NYHA は「Ⅱ度」が4名,「Ⅰ度」が 1 名,「覚えてい ない」 3 名,「診断されていなかった」 2 名,「Ⅲ度」

および「Ⅳ度」は皆無であった。

(3)BPSD・精神症状

 患者にみられていた BPSD・精神症状を表 2 に示す

(複数回答)。多い順に,「不穏」 8 名,「焦燥」「徘徊」

「言語的攻撃性」 7 名,「身体的攻撃性」「興奮」 6 名,

「多動」「睡眠障害」 5 名,「不安」 4 名,「脱抑制」「妄 想」「幻覚」「せん妄」「うつ状態」 2 名,「不潔行為」

1 名であった。

(4)BPSDに対する看護師の認識,および患者の悪化 徴候の確認

 認知症患者では,身体疾患,使用薬剤,痛み,不快 などの環境的要因が BPSD を引き起こす誘因となる ことを「いつも踏まえていた」が 0 名,「まあ踏まえ ていた」が 6 名,「あまり踏まえていなかった」が 7 名,

「全く踏まえていなかった」が 0 名であった。また,

症状が悪化した際に,心不全の徴候を「認知症のない 患者と同様に,発見・確認することができた」は 1 名,

「なんとか発見・確認できたが,困難であった」は 7 名,

「重症化してから発見・確認することができた」は 5 名,

「認知症のない患者と比較して,発見・確認すること 人数

【遭遇した認知症のタイプ】

 アルツハイマー病 8 人

 血管性 10人

 レビー小体型 3 人

 前頭側頭型 2 人

 診断がされていない 6 人

 覚えていない 13人

 タイプを意識していなかった 9 人

【認知症の重症度】

 軽度 3 人

 中等度 1 人

 重度 0 人

 測定しなかった 7 人

 覚えていない 2 人

【心機能の分類】

 NYHAⅠ 1 人

 NYHAⅡ 4 人

 NYHAⅢ 0 人

 NYHAⅣ 0 人

 診断されていなかった 2 人

 覚えていない 3 人

 重症度にかかわらず困難 4 人

表1 患者の認知症のタイプ,重症度,心機能の分類

  人数

不穏 8 人

焦燥 7 人

徘徊 7 人

言語的攻撃性 7 人

身体的攻撃性 6 人

興奮 6 人

多動 5 人

睡眠障害 5 人

不安 4 人

妄想 2 人

幻覚 2 人

せん妄 2 人

うつ状態 2 人

脱抑制 2 人

不潔行為 1 人

表2 患者にみられた BPSD・精神症状

  重要な情報 入手した情報

認知症のタイプ 6 人 3 人

認知症の重症度 6 人 7 人

出現している BPSD 8 人 10人

BPSD に関与する薬剤使用 9 人 9 人

BPSD に関与する身体疾患 8 人 7 人

処置・検査等の侵襲 7 人 6 人

療養環境 6 人 5 人

家族の協力状況 13人 12人

生活歴 9 人 3 人

病前の性格 7 人 4 人

年齢 6 人 3 人

性別 4 人 2 人

本人の訴え 10人 8 人

表3 重要と感じ入手の必要がある情報および実際に収集しケアに生かした情報

ドキュメント内 保健科学研究_第3号 (ページ 100-111)