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精神看護学実習における患者の認知と 感情に着目する記録様式の評価

ドキュメント内 保健科学研究_第3号 (ページ 122-132)

則 包 和 也

*1

 川 添 郁 夫

*1

 倉 内 静 香

*2

小 野 志麻子

*3

(2012 年 9 月 28 日受付,2012 年 12 月 11 日受理)

要旨:本研究は,認知行動療法の精神看護学実習への導入を視野に入れ,学生が患者の認知と 感情に着目する新しい記録様式(以下,新様式)の効果と指導方法についての検討を目的とした。

学生に,患者の発言の認知と感情を示す箇所に下線を引いて着目する事,および,その着目を 看護計画の立案と実施に活用する事を指導した。実習終了後,アンケート調査を行い,結果を 分析した(n=70)。60%以上の学生が認知に下線を引く事が難しいと答えた。また,67%が認 知を,48%が感情を,患者から聞き出す事が困難と回答し,ソクラテス的質問法についての演 習が必要と考えられた。また,患者の感情への着目が出来たとする群が,出来なかったとする 群よりも,認知への着目および認知と感情に着目した看護実践が有意にできたと回答しており

(p<.05),感情への着目が,認知への着目を促し,認知と感情に着目した実践につながることが 示唆された。

キーワード:精神看護学実習,認知行動療法,記録様式

*1弘前大学大学院保健学研究科健康支援科学領域 障害保健学分野

〒036‑8564 青森県弘前市本町66‑1 E‑mail:[email protected]‑u.ac.jp

*2弘前大学大学院保健学研究科健康支援科学領域 健康増進科学分野

*3弘前大学大学院保健学研究科非常勤講師

Ⅰ.はじめに

 出来事に対する患者の思考や視覚的イメージ等の認 知に注目し,歪んだ認知の修正を試みることによって,

抑うつや不安などの否定的な感情を改善する認知行動 療法が,幅広い精神疾患に適用されている。認知行動 療法の実施に基づいた研究は,世界各国から報告さ れており1),精神療法の世界標準となっている2,3)。 また,看護領域においても,認知行動療法あるいは 認知行動療法的なアプローチの試みが報告されてい る4−6)

 我が国では,2010年の診療報酬改定によって,認知 行動療法が保険点数化となり,認知行動療法の実施に おいて看護師が重要な役割を担うことが将来的に期待 されている。それに伴って,これまで医師や臨床心理 士からの研究報告がほとんどであった我が国でも,看 護師からの研究報告7−11)が徐々に増えている。この ような現状から,認知行動療法の基礎的な知識や理論

を教育する必要性が高まっていると考えられるが,看 護学生に対する認知行動療法の教育に関する報告は非 常に少ない。また,認知行動療法の視点を取り入れた 看護学実習を評価する研究はほぼ皆無である。

 弘前大学(以下,本学)では,2008年から学生に対 して認知行動療法の知識や理論,事例等について,筆 者が担当する精神看護方法論および精神看護学演習の 中で紹介し,説明を行っている。しかし,これまで精 神看護学実習において,受持ち患者の認知や感情を記 録する様式はなく,認知行動療法の実践を想定した取 り組みが困難な状況であった。そこで,従来使用して いるアセスメント様式を一部修正して,受持ち患者の 認知や感情に着目し,記録することができる新しい記 録様式(以下,新様式)を開発した。本研究は,新様 式の導入効果について,学生にアンケート調査を実施 した回答をデータとして分析を行い,認知行動療法的 なアプローチの効果的な指導方法について検討する基 礎資料とすることを目的とする。

Ⅱ.研究方法 1.新様式の開発

 本学の精神看護学実習は, 1 人の学生が 1 人の患 者を受け持つ方法で実施しており,学生は実習が開始 した最初の週で,様式を用いて患者のセルフケアに関 する情報を収集し記録する。様式はオレム・アンダー ウッドモデル12)に基づいた『空気・水・食物』,『排泄』,

『活動と休息のバランス』,『孤独とつきあい』,『体温 と個人衛生』の 5 つの領域に,『安全管理』,『服薬・

その他』の 2 つの領域を独自に追加して, 7 つの領域 からセルフケアレベルをアセスメントするものであ る。 各 領 域 は, 主 観 的 情 報 をSデ ー タ(Subjective  Data)として患者の発言をそのまま記載する欄,客 観的情報を O データ(Objective  Data)として観察か ら得られた情報を記載する欄,および,それらの情報 を基にして現在の患者のセルフケアの状態を学生が評 価するアセスメントの欄の合計 3 つの欄で構成され る。新様式の開発においては,様式の基本的な構成の 変更は行わずに,患者の認知や感情に関する情報を各 領域の S データへ記入し下線を引くことを指示する文 言と,アセスメントの欄に認知や感情,対処に留意し

た評価を行うように指示する文言をそれぞれ追加した

(表 1 )。

2.アンケート用紙の作成

 アンケートの内容は,新様式についての使い心地,

患者の認知・感情等への着目の程度や必要性について 問うものであり,段階評価13項目および自由記述 3 項 目の全16項目で構成されている(表 2 )。

3.対象者と調査期間

 平成24年度の精神看護学実習を行った 4 年次学生を 対象者とし,各実習クールの最終日(学内実習)に,

本研究の主旨等を口頭で説明し,アンケート用紙を配 付し,回答を依頼した。調査期間は平成24年 4 月〜 7 月であった。

4.認知行動療法の講義での取り組み

 認知行動療法の説明を講義に取り組んだ過程を表 3 に示した。 2 年次後期の精神看護方法論において「神 経症性障害と依存症」,「気分障害と看護」等の計 3 コ マの講義で認知行動療法の概要や認知モデル**を使 用した疾患の理解について説明した。 3 年次前期の精

 本学の精神看護学実習は,4 年次に 1 期を 2 週間として合計 4 期で実施している。 3 箇所の実習施設にそれぞれ担当教 員を配置し,施設毎に学生の指導を行っている。 4 年次に実施される他の実習は,老年看護学,地域看護学,在宅看護学 があり,他の科目は 2 , 3 年次に実施している。

** “ある状況における人の感情や行動は,人がその状況に与える意味づけ(認知)によって規定される” という理論に沿っ て疾患の理解を試みる枠組み

主観的データ(認知や感情に関する部分には下線をひく) 客観的データ アセスメント(認知や感情,対処にも留意して行う)

【空気・水・食物】

セルフケアレベル【   】

【排泄】

セルフケアレベル【   】

【活動と休息のバランス】

セルフケアレベル【   】

【孤独とつきあい】

セルフケアレベル【   】

【体温と個人衛生】

セルフケアレベル【   】

【安全管理】

セルフケアレベル【   】

【服薬・その他】

セルフケアレベル【   】 セルフケアレベル 1 :看護の全面的介入が必要  セルフケアレベル 2 :一部の介入を要する

セルフケアレベル 3 :支持・教育的介入を要する セルフケアレベル 4 :自立している

*主観的データは,原則として受け持ち対象者の発言や状況をSデータとしてそのまま記述する

*新様式では,主観的データおよびアセスメントの後に括弧内に太字で示した文言を追記した 表1 新様式の概略

表2 アンケート用紙の項目

様式3の “使い心地” について,当てはまるもの1つに○を付けて下さい。

  Q 1 .受持ち患者の認知に下線を引く事は─

     1 .かなり易しい  2 .易しい  3 .どちらでもない  4 .難しい  5 .かなり難しい   Q 2 .受持ち患者の感情に下線を引く事は─

     1 .かなり易しい  2 .易しい  3 .どちらでもない  4 .難しい  5 .かなり難しい   Q 3 .様式 3 を用いると,受持ち患者の認知と感情に着目する事は─

     1 .効率的にできる  2 .やや効率的にできる  3 .どちらでもない  4 .あまり効率的でない  5 .効率的でない   Q 4 .様式 3 の “使い心地” についての意見・感想を自由に書いて下さい。

様式3を用いてアセスメントを行った事について,当てはまるもの1つに○を付けて下さい。

  Q 5 .受持ち患者の認知への着目が─

     1 .よく出来た  2 .出来た  3 .あまり出来なかった  4 .ほとんど出来なかった   Q 6 .受持ち患者の感情への着目が─

     1 .よく出来た  2 .出来た  3 .あまり出来なかった  4 .ほとんど出来なかった   Q 7 .受持ち患者の個別性への着目が─

     1 .よく出来た  2 .出来た  3 .あまり出来なかった  4 .ほとんど出来なかった   Q 8 .着目した受持ち患者の認知と感情を,看護計画を立案する際に─

     1 .よく活用した  2 .活用した  3 .あまり活用しなかった  4 .ほとんど活用しなかった   Q 9 .着目した受持ち患者の認知と感情を,看護計画を実施する際に─

     1 .よく活用した  2 .活用した  3 .あまり活用しなかった  4 .ほとんど活用しなかった   Q10.アセスメントの際に,認知と感情に着目する事についての意見・感想を自由に書いて下さい。

受持ち患者の認知と感情について,当てはまるもの1つに○を付けて下さい。

  Q11.受持ち患者本人から,認知についての情報を得る事は─

     1 .かなり易しい  2 .易しい  3 .どちらでもない  4 .難しい  5 .かなり難しい   Q12.受持ち患者本人から,感情についての情報を得る事は─

     1 .かなり易しい  2 .易しい  3 .どちらでもない  4 .難しい  5 .かなり難しい   Q13.これまでに受けた実習と比較して,受持ち患者の認知と感情への着目は─

     1 .よく出来た  2 .出来た  3 .あまり出来なかった  4 .ほとんど出来なかった   Q14.患者の認知と感情に着目する事は,看護に必要だと思いますか?

     1 .非常にそう思う  2 .そう思う  3 .そう思わない  4 .全く思わない   Q15.患者の認知と感情に着目する事を,今後の看護に活かしたいと思いますか?

     1 .非常にそう思う  2 .そう思う  3 .そう思わない  4 .全く思わない   Q16.患者の認知と感情に着目する事について,自由に意見を書いて下さい。

表3 認知行動療法の説明と精神看護学講義の関係 認知行動療法について

説明した講義とテーマ 説明内容

2 年次後期

精神看護方法論

 ・神経症性障害と依存症  ・不安障害と人格障害  ・気分障害と看護

・認知行動療法の概要

・認知行動療法モデルを使用した各 疾患の理解

3 年次前期

精神看護学演習

  ・ SST の概要( 1 コマ)

 ・SST の実際( 2 コマ)

 ・看護過程の展開( 4 コマ)

・認知行動療法の実施方法

・認知行動療法の看護への活用

4 年次前期

精神看護学実習  ・実習ガイダンス

 ・実習オリエンテーション

・新様式の概要

・認知と感情に下線をひく事の説明

ドキュメント内 保健科学研究_第3号 (ページ 122-132)