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認知症高齢者における徘徊対応プロトコールの有用性の検討

ドキュメント内 保健科学研究_第3号 (ページ 85-100)

大 津 美 香

*1

 高 山 成 子

*2

 渡 辺 陽 子

*3

(2012 年 9 月 8 日受付,2012 年 12 月 11 日受理)

要旨:徘徊の対応方法は従来,予防が中心であり,徘徊が出現した際の対応方法については,

未開発であった。そこで,本研究では,認知症高齢者の徘徊時の対応として,徘徊対応プロトコー ルを作成し,その有用性を検討することを目的とした。先行研究のエビデンスに基づき,徘徊 プロトコールの試案を作成し,予備調査を経て,第 1 段階「徘徊に伴うリスクのアセスメント と対応」,および第 2 段階「徘徊のタイプ別アセスメントと対応」の徘徊対応プロトコールを 作成した。そして,認知症専門棟の看護師による 7 名の認知症高齢者(アルツハイマー病,血 管性認知症,レビー小体型認知症)への臨床適用を行い,これらの評価を基に有用性を検討し,

認知症高齢者の徘徊対応プロトコールを完成させた。従来の予防的対応方法では徘徊が生じた 際の中断にはつながらないが,本研究において作成した徘徊のタイプ別に即した援助方法によ り,徘徊の中断に至ったことから有用であり,標準的看護プロトコールとして利用が可能であ ると考える。

キーワード:徘徊,プロトコール,認知症高齢者,認知症の行動・心理症状

*1弘前大学大学院保健学研究科健康支援科学領域 老年保健学分野

〒036‑8564 青森県弘前市本町66‑1 E-mail:h̲[email protected]‑u.ac.jp

*2石川県立看護大学看護学部

*3県立広島大学保健福祉学部

Ⅰ.はじめに

  徘 徊 は 認 知 症 の 行 動・ 心 理 症 状(Behavioral  Psychological  Symptoms  of  Dementia: 以 下 BPSD)

の 1 つであり,他の BPSD に比して出現頻度が高く1), 重度になっても長期間持続するといわれている2)。そ のため,在宅療養において,徘徊は介護者にとって最 も介護負担感を抱く症状の 1 つとして認識され3),特 に夜間の徘徊については,家族は我慢できないと感じ ている4)。救急医療現場においては,事故の危険があ るため,看護師は徘徊に危機感・恐怖感を抱き5),ま た,病院,診療所,高齢者施設,訪問看護ステーショ ンなどの様々な保健医療福祉施設においても,看護師 は帰宅欲求が強く興奮した療養者の対応に困難を感じ ている6)。グループホームのスタッフにおいても同様 に,帰宅願望の強いケースでは,制止すると興奮する ことが介護ストレスの原因となっており7),認知症高 齢者のあらゆる生活場所において,ケア提供者は徘徊 や帰宅欲求の対応に困難を感じている。

 徘徊に伴うリスクとして,転倒・転落,骨折などが

あり,一般高齢者と比較すると,認知症高齢者では転 倒のリスクが 3 〜 6 倍も高まるといわれ8),アルツハ イマー病(AD)9),レビー小体型認知症(DLB)10), 血管性認知症(VaD)11),前頭側頭型認知症(FTD)9)

などの認知症の種類によっても転倒のリスクに特徴が みられる。また,徘徊する認知症患者では大腿骨近位 部骨折の発生リスクが約 7 倍に上昇するといわれる が12),リスクの程度にかかわらず転倒・転落事故の発 生の予防から徘徊は制止される傾向にある5,7)。一方 で,下肢筋力の低下は転倒のリスクを高め13),活動性 の低下は骨密度を減少させる要因となっている14)こ とから,認知症高齢者の予後を考慮すると,転倒・転 落などのリスクの高い徘徊以外では,むしろ徘徊は安 全面を確保したうえで,中断はせず見守る対応も必要 であると考える。しかし,徘徊に関する看護ケアの標 準化が行われていないため,対応方法の統一された見 解は得られていない。

 徘徊の減少に向けた対応として,認知症高齢者が ショートステイの利用回数を重ねることで,「仕事に きている」との認識により帰宅願望や徘徊が減少した

との報告がある15)。また,老人保健施設では,生活歴 を把握し過去の役割を遂行できる家庭的な環境を工夫 することにより,徘徊が減少した事例の報告もある16)。 さらに,徘徊行動のタイプを基に対応方法を検討した 研究もあるが17−19),徘徊の標準化された対応方法につ いてはまだ開発されていない。米国では徘徊のプロト コールは開発されているが20),対応としては徘徊の予 防が中心であり,徘徊を予防するための環境調整,科 学技術を用いて安全性を確保するための介入,レクリ エーションや音楽療法などを用いた身体・心理社会的 な介入,ケア提供者の支援と教育などの 4 つの視点か らの介入が行われている。一方で,徘徊が出現した際 の対応方法については,未開発であり,徘徊が出現し た際の対応方法を開発することが急務である。このこ とから,本研究では,認知症高齢者の徘徊時の対応と して,徘徊対応プロトコールを作成し,その有用性を 検討することを目的とした。

Ⅱ.認知症高齢者の徘徊対応プロトコールの作成 1.徘徊対応プロトコール作成のプロセス

 本プロトコールは 3 段階のプロセスを経て作成し た。第 1 段階では,先行研究からのエビデンスを基に プロトコールの原案を作成した。原案については,老 人専門看護師 1 名および認定看護師教育課程認知症看 護コースの専任講師 1 名による専門家の意見を踏ま え,プロトコールの試案を作成した。第 2 段階では,

試案を用いて予備調査を行い,試案の有用性について 検討し,試案の修正を行った(試案の修正案の作成)。

さらに,第 3 段階では,第 2 段階で作成した修正案を 用いて本調査を行い,有用性を検討し,徘徊対応プロ トコールを完成させた。

2.先行研究のエビデンスに基づいた徘徊対応プロト コール試案の作成

 徘徊する認知症患者では大腿骨近位部骨折の発生リ スクが約 7 倍に上昇するといわれ12),徘徊から併発し て転倒や骨折などのリスクを引き起こすことがあるた め,徘徊が生じた際はまずは早期にそれらのリスクの アセスメントを行い,二次的障害のリスクが高い場合 には徘徊を中断するための対応方法が必要であると考 えた。また,直ちに徘徊を中断する必要性が低い場合 の徘徊に対しては,目的・理由別に対応を行うことで 徘徊が中断される状況がみられることから18,19),二次 的障害のリスクが低く早期の対応が不要な徘徊に対し ては,徘徊の目的・理由をアセスメントし,徘徊のタ イプ別対応を行うことが徘徊の中断に有効であると考

えた。そのため,徘徊対応プロトコールは 2 段階に構 成し,第 1 段階を「徘徊に伴うリスクのアセスメント と対応」,第 2 段階を「徘徊のタイプ別アセスメント と対応」とした。試案の作成にあたっては,老人専門 看護師 1 名,認定看護師教育課程認知症看護コースの 専任講師 1 名,および,認知症の BPSD について約 9 年以上の研究経験のある研究者 3 名による有識者間 で検討を行い,徘徊対応プロトコールの試案を完成さ せた。

(1)第 1 段階徘徊対応プロトコール:徘徊に伴うリス クのアセスメントと対応

 第 1 段階徘徊対応プロトコールの試案は以下の①〜

⑦の順に従って,徘徊に伴うリスクをアセスメントし,

1 つ以上の項目に該当する場合,yes の対応方法へと 進み,徘徊の中断に必要な介入を行う。そして,第 1 段階徘徊対応プロトコールにおいて徘徊の中断が不要 な場合には,第 2 段階徘徊対応プロトコールが適用と なる。

① 徘徊に伴う身体損傷のリスクについてのアセス メントとその対応

 複数のチューブ・ドレーン類が挿入されている患 者では転倒を引き起こすリスクがあり21),チューブ・

ドレーン類が転倒により抜去されると身体損傷がよ り重症になることが予測されることから,「①徘徊 に伴う身体損傷のリスクについてアセスメントす る」ことをまず第 1 に挙げた。

 チューブ・ドレーン類が挿入されている認知症高 齢者に徘徊がみられる場合には,注意障害,実行機 能障害などの中核症状から,歩行時のチューブ・ド レーン類の自己管理が困難であると考えられ,まず 歩行の中断が必要となる。また,中断を促しても歩 行のニーズが持続する場合には,ケア提供者により 安全が確保された状態で歩行の付き添いをすること とした。

② 徘徊に伴う体力消耗のリスクについてのアセス メントとその対応

 徘徊のみられる人は徘徊のない人よりも骨量が多 いといわれ14),活動性を維持することは生活機能を 維持するために大切である。しかし,徘徊の総時間 が長い場合,移動距離が長い場合には,体力の消耗 や脱水などが引き起こされることが考えられる。そ のため,休息を促すこと,水分・栄養補給を促す介 入が必要であると考えた。

③ 歩行状態についてのアセスメントとその対応  認知症高齢者では転倒のリスクが高く,骨折など

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