パワーモジュールやキャパシタの各コンポーネントを電気的に接続する配線の寄生 インダクタンスの解析手法に関する関連研究を示す。バスバー配線の寄生インダクタ ンスはバスバー配線構造と相関関係にある。すなわち,バスバー配線構造が決まれば 寄生インダクタンスは一意に定まる。その解析方法は理論計算と電磁界解析を用いた 手法が検討されており,以下に詳細を述べる。
2.3.1 理論計算
文献[92]ではバスバー配線の寄生インダクタンスの理論計算法として,バスバー配 線を細線に分割する手法が提案されている。長方形断面のバスバー配線を正方形断面 に分割し,1本の細線の自己インダクタンスおよび細線間の相互インダクタンスを用い ることでバスバー配線のインダクタンス行列を作成する。その後,行列計算を用いる ことで寄生インダクタンス値を算出する手法である。1本の細線の自己インダクタン スは断面形状で定まる幾何学的平均距離[93]と細線の長さで計算できる。しかし,幾 何学的平均距離の計算には積分過程の中で近似計算が必要であり[94],細線の断面形 状と長さの比で1本の細線の自己インダクタンスの計算精度が変化する。そこで,断 面形状である正方形の一辺の長さと細線の長さの比で計算精度を検討しており,バス バー配線の計算に必要な分割数を明らかにしている。また,本計算手法を用いて折れ 曲がりバスバー配線構造の寄生インダクタンスの計算および実測例を示している。計
算値は656 nHに対して同モデルをインピーダンスアナライザで実測した結果,1 kHz
で653 nHであり,計算手法の妥当性を示している。また,本計算手法は 1本のバス
バー配線の自己インダクタンスと2本のバスバー配線間の相互インダクタンスを分離
して算出できるため,バスバー配線の寄生インダクタンスの詳細な設計が可能である。
文献[95]では理論計算を用いてバスバー配線の寄生インダクタンスの周波数特性が 検討されている。高周波電流による表皮効果の影響を考慮するためバスバー配線の細 分化数を増大するとともに,文献[92]の計算手法を改良することで,導体表面の電流 密度を考慮した寄生インダクタンスの理論計算式を提案している。さらに表皮効果に よる電流分布に関して解析式に基づく補正を施すことで,従来の分割計算法では困難 であった表皮効果における寄生インダクタンスの特性を高精度に再現している。文献 [96]でもバスバー配線の寄生インダクタンスの周波数特性が検討されており,1 MHz における寄生インダクタンスは直流の理論計算値に対して3%以下の変動であること が示されている。また,文献[97]では様々なバスバー配線レイアウトに対してバス バー配線の単位長さ当たりの寄生インダクタンスを計算している。例えば,図2.8(a) の幅w,厚さh,長さℓの1本のバスバー配線に対して,単位長さあたりの自己イン ダクタンス[nH/mm]をバスバー配線の長さと幅の比 (ℓ/w)で関数化し,簡易な計算 式を示している。
図2.8(b)はバスバー配線の寄生インダクタンスを低減可能なラミネートバスバー配
線を示す。ラミネートバスバー配線は配線の断面積が幅w,厚さhで,長さℓの2本 のバスバー配線を間隔d で近接配置することが特徴である。ここで,2本のバスバー 配線に流れる電流のベクトルを180°逆方向とすることで負の相互インダクタンスを 活用し,2本のバスバー配線の寄生インダクタンスを低減できる。文献[43]より,ラ ミネートバスバー配線の寄生インダクタンスは次式で計算される。
Lbus= 2µ0µrl π
( ln(
1 + h h+w
)) (2.4)
ここで,(2.4)式はd ≪ 2h,d ≪ h+wの近似計算を含んでいる。すなわち,ラミ ネートバスバー配線においても,2本のバスバーの間隔dが非常に近接しており,か つバスバーの幅wが広い場合に適用可能な数式であり,計算可能なバスバー配線構造 に制限がある。また,文献[98]-[100]では電力変換装置で一般的に使用される長方形 断面積を有するバスバー配線のみならず,円柱や円筒形状のケーブルの寄生インダク タンスを計算する手法が示されている。
(a) One bus bar width: w thickness: h
length: ℓ
(b) Laminated bus bar w
h
ℓ
distance: d
図2.8 文献[43], [97]で計算対象のバスバー配線構造
このように,バスバー配線の寄生インダクタンスを理論的に計算する手法は多数検 討されている。周波数特性を考慮した寄生インダクタンスの計算はバスバー配線の分 割数が膨大になるため計算が複雑であることから,計算精度と実用性を考慮すると直 流的な寄生インダクタンスの計算手法で問題ないことがわかる。一方,分割計算法で は1本の細線の自己インダクタンスに近似計算が含まれるため,計算対象とするバス バー配線構造に応じて分割数と計算精度を検討する必要がある。
2.3.2 電磁界解析
バスバー配線の寄生インダクタンスの解析手法の一つとして電磁界解析が利用され ている。電磁界解析は有限要素法 (FEM: Finite Element Method)を用いており,解 析対象のモデルを要素に分割しコンピュータでマクスウェル方程式を解くことで寄 生インダクタンスを算出する。電磁界解析は複雑なバスバー配線構造の解析や,バス バー配線を固定するネジ付近の電流分布の影響,さらには高周波電流による表皮効果 を考慮した寄生インダクタンスの解析が可能である。
文献[101]では750 kVA の大容量の電力変換装置で使用されるバスバー配線 (幅:
100 mm,厚さ: 1.5 mm,長さ: 100 mm)に対して,電磁界解析ソフトウェア(ANSYS
Q3D Extractor)を用いて寄生インダクタンスを解析している。3種類のラミネート
バスバー配線に対して電流分布と寄生インダクタンスの解析結果を示している。さら に,寄生インダクタンスの解析結果はスイッチング試験のサージ電圧から算出した値
と一致しており,解析結果の妥当性を明らかにしている。文献[102]では理論計算と 電磁界解析を用いて,キャパシタの端子数を変更したときの寄生インダクタンスおよ び電流分布を解析している。端子数を増大して分散配置することで,バスバー配線の 電流分布を均一化できることを示している。また,解析結果を用いることで,単相イ ンバータと三相インバータのそれぞれにおけるパワーデバイスとキャパシタの配置お よびバスバー配線構造の設計例を示している。文献[103]では三次元電磁界解析を用 いて,6 kVの高圧インバータドライブシステムで使用されるラミネートバスバー配線 を解析するとともに,電磁界解析で配線構造の最適化を図っている。文献[104]では 大容量の電力変換装置を対象にした配線構造設計の考え方を示している。スイッチン グ動作時のサージ電圧の抑制には寄生インダクタンスを低減する必要がある一方で,
寄生インダクタンスは急峻な電流変化を抑制する効果がある。すなわち,寄生インダ クタンスは最小化するだけでなく最適化が必要であることが述べられている。そこで,
大容量の電力変換装置に対してラミネートバスバー配線を適用するとともに,配線の 寄生インダクタンスを高精度に算出する必要性が述べられている。
文献[105]ではチョッパ回路やハーフブリッジインバータ,三相インバータ,さら
には3レベルインバータにおけるラミネートバスバー配線の最適構造に関してまとめ られている。回路構成が複雑になるにつれてラミネートバスバー配線の積層数が増大 し,その設計例が示されている。さらに,ラミネートバスバー配線の寄生インダクタ ンス測定に関して共振周波数を用いた手法が示されており,電磁界解析の結果と一致 している。また,フルブリッジインバータはキャパシタから各相のパワーデバイスま での配線距離が異なるケースがあり,相間で配線の寄生インダクタンスにばらつきが 生じる課題があった。そこで,ラミネートバスバー配線を最適化することで,相間の 寄生インダクタンスばらつきを低減可能な構造を示している。文献[106]ではフルブ リッジインバータの動作モードにおける配線の寄生インダクタンス行列を導出してい る。バスバー配線を接続する端子毎に寄生インダクタンスを分離し,パワーデバイス のスイッチング動作に影響を与える成分を詳細に分析している。
このように特定の配線構造に対して寄生インダクタンスを算出するため電磁界解析 を行うことは有用である。しかし,試行錯誤的に複数の配線構造に対して解析するこ
とは,モデルの作成や解析の実行に多大な時間を有するため困難である。また,電磁 界解析における解析条件の設定はノウハウがある。すなわち,寄生インダクタンスの 目標値を満たす配線構造を設計するためには,回路設計者が使いやすいよう汎用性が 高く簡易な寄生インダクタンスの設計手法が必要であると言える。