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ムチラン住民組織のへのアンケート調査

ドキュメント内 都市貧困層の社会運動への参加 (ページ 107-118)

第 5 章 社会運動への参加に関するフィールド調査

5.1. ムチラン住民組織のへのアンケート調査

前章までで明らかにしたように、既存の社会運動を活用する参加型住宅政策のムチランは、

都市貧困層の居住環境の改善だけでなくコミュニティとしての連帯感も強め、都市貧困層 の社会的包摂に一定の成果があるといえる。ただし、ムチランの対象者は必ずしも最貧困 層ではない一部の都市貧困層に限られる点や、ブラジルで制度化や普及が進む参加型行政 では、多くの貧困層が「市民」として参加することが期待や想定されている点が、問題点 として確認できた[近田 2003,2005b]。このような問題が生じる要因として、ムチランの参 加者が実際にどのような社会経済的状態の人々なのか、明確に把握されていない点が挙げ られる。

そこで本節では、ジャルジン・セレスチ地区の2つのムチラン住民組織を対象としたアン ケート調査をもとに、家族と住宅という住民組織を構成する世帯の状況に焦点を当て、ム チランの参加者の具体像を明らかにする。ただしその前に、本アンケート調査の概要につ いて説明する。

5.1.1. アンケート調査の概要

(1) 調査対象の住民組織

本アンケート調査は、サンパウロ市南東部に位置するジャルジン・セレスチ地区の「ジャ ルジン・セレスチⅡ協会(Associação de Construção por Mutirão Jardim Celeste 2、以下

「セレスチⅡ」)」と「ジャルジン・セレスチⅣ協会、以下「セレスチⅣ」)」という 2 つの

住民組織を対象に実施した65。セレスチⅡとセレスチⅣは第1章で説明したセレスチⅠと同 様、ムチランのプロジェクト単位で結成される住民組織である。ジャルジン・セレスチ地 区にはセレスチⅡとセレスチⅣを含め、異なるプロジェクトで結成された住民組織が複数 存在する。これら 2 つの住民組織をアンケート調査の対象に選んだ理由は、ジャルジン・

セレスチ地区関係者から随行員やアシスタントとして協力を得られたことなど、調査の実 施可能性が最も高かった点が挙げられる66。また後述するように、両住民組織の戸数が合計 で300戸と数量的に一定の規模がある点や、2つの住民組織では協働による住宅建設作業へ の参加の度合いが異なり、その違いが参加者のプロフィールと関連していると推測された 点も考慮に入れた。これら2つの住民組織の概要は次の通りである。

セレスチⅡは、サンパウロ市南東部地区の地区レベルの住宅運動団体から対象者を募り、

無償かつ協働による住宅建設を目的に結成されたプロジェクト・レベルの住民組織である。

セレスチⅡの建設予定住宅戸数は200戸で、1992年1月に建設が開始された。住宅の引渡 しは1994年に予定されていたが、サンパウロ市政府の政権交代によりプロジェクトが幾度 となく中断された。そのため、2006年の本アンケート調査実施時において、住宅の建設は 終了していたが、プロジェクトの継続性に支障をきたした市政府との関係悪化などから、

土地の権利が正規化されておらず、入居とともに開始されるはずの市政府への資金返済は 行われていなかった。

セレスチⅣも同様の住民組織で、100戸の住宅建設を目的として1997年に開始された。

ただしセレスチⅣは、住宅の建設方法などが一般的なムチランの政策スキームと次の点で 若干異なる。通常のムチランでは、政府が用地確保や資材購入のための資金援助を行い、

参加者が無償協働作業により住宅を建設する。しかしセレスチⅣでは、無償かつ協働での 作業は住宅の 1 階部分など一部に限られ、それ以外の部分の住宅建設は、建築資材の手配 を含め各世帯自らの資金と労働力により行う「自助建設」方式が採用されている。ただし セレスチⅣのプロジェクトも、市政府の政権交代により資金が滞るなどの問題が発生し、

進捗状況の遅れやプロジェクト内容の変更を余儀なくされた。そのため、本アンケート調 査の実施時点において、セレスチⅣでは大半の住民が既に入居していたが、依然として建 設中で住民不在の住宅も散見された。

(2) アンケート調査の実施方法

本アンケート調査は2つの住民組織の全住宅を戸別訪問し、構造化インタビュー方式の質 問票に回答してもらう方法で実施した。その際、調査の円滑な実施と対象住民から信憑性

65 両住民組織の概要については[UMM 2006]や[PMSP n.d.,c]、および筆者の過去の現地フィー ルド調査にもとづいている。

66 アンケート調査はジャルジン・セレスチ地区関係者3名の協力のもとに実施した。そのうち 1名はセレスチⅡの住民かつリーダーで、1名はセレスチ協会の住民、あとの1名はジャルジン・

セレスチ地区の住民組織にメンバーを輩出している地区レベルの住宅運動団体MMVL(1章で 紹介)の参加者である。

の高い回答を得るため、ジャルジン・セレスチ地区住民と知己の関係にある現地協力者と ともに調査を行った。実施期間は2006年11月26日~12月3日、および、同年12月14 日~16日の2回である。

建設予定住宅数 200戸のセレスチⅡでは、調査実施時点で188戸が存在していたが、転 出などにより9戸が空き家であった。そのため、居住者のいる住宅は179戸で、このうち 154戸からデータを収集することができた。ただし、プロジェクト終了後の売却や賃貸など により、154戸のうち3戸にはムチラン参加者ではない住民が居住していた。

建設予定住宅数 100戸のセレスチⅣに関しては、調査実施時点で102 戸が存在していた が、転出などにより1戸が空き家であった。そのため、居住者のいる住宅は 101戸で、こ のうち71戸からデータを収集することができた。ただし、プロジェクト終了後の売却や賃 貸などにより、71戸のうち5戸にはムチラン参加者ではない住民が居住していた。

(3) 質問事項

アンケート調査は大別して、家族(família)、住宅(casa)、人間関係(contatos)、社会 運動(movimentos)の4つの項目について質問を行った。各項目に関する質問事項は次の 通りであり、これらの中から本論の論旨に合致する調査結果について、次節以降で分析を 試みる。なお参考までに、アンケート質問票のオリジナル(ポルトガル語)を本論末に資 料として添付する。

【家族】家族構成と各構成員の性別、年齢、婚姻状況、学歴、職業、所得。

【住宅】テレビなどの基礎的な生活財の有無、ムチラン住宅入居前の住居形態、住宅の建 築進捗状況、住宅に対する満足度とその理由。

【人間関係】所属コミュニティに対する満足度とその理由、日常生活で最も関わりの多い 人物、助けが必要な時に頼りとする人物。

【社会運動】社会運動への参加の有無と参加者、参加する社会運動の種類、頻度、理由、

活動、役職経験の有無。

5.1.2. 家族に関するアンケート調査の結果

家族に関してアンケート調査で捕捉できた2つのムチラン住民組織の人口は、セレスチⅡ が551人、セレスチⅣが232人である。平均年齢はそれぞれ31.6歳(男性29.8歳、女性 33.1歳)67と 31.7歳(同 30.2歳、33.2歳)でほとんど差はない。ただし男女比率は、セ レスチⅡが男性43%/女性57%、セレスチⅣが49%/51%とセレスチⅡの女性比率が高く、

67 年齢が不明だったセレスチⅡの女性1名(家長)の年齢を「第一子の年齢(12歳)+20歳=

32歳」と仮定した数値。図5.1.2.Aの人口分布も同様。

家長68が女性である割合もセレスチⅡ(40.9%)がセレスチⅣ(26.8%)だけでなく、ブラ ジル全体(29.2%)とサンパウロ大都市圏69(32.0%)より高かった[IBGE 2007]70。また、

被扶養者である可能性の高い10歳未満(セレスチⅡ:13.6%、セレスチⅣ:12.1%)と60 歳以上(セレスチⅡ:9.8%、セレスチⅣ:6.9%)の割合も、セレスチⅡの方が高かった。

1 世帯の平均家族人数は、セレスチⅡ(3.6 人)がセレスチⅣ(3.3 人)だけでなく、ブラ ジル全体(3.4 人)とサンパウロ大都市圏(3.3人)を上回っていた。なお、世帯人数の分

布は図5.1.2.Aの通りである。

図5.1.2.A セレスチⅡとセレスチⅣの世帯人数の分布

(注)棒グラフの横の数値は世帯数。

「AJC2」は「セレスチⅡ」、「AJC4」は「セレスチⅣ」。以下、本節の他の図も同様。

同居家族の構成に関して(図5.1.2.B)、セレスチⅡとセレスチⅣとも子供との同居は60%

強であり、ブラジル全体(60.1%)とサンパウロ大都市圏(61.0%)と同様な値だった。た だしセレスチⅡが、単身または夫婦のみ(14.3%)に関して、セレスチⅣ(25.4%)やブラ ジル全体とサンパウロ大都市圏(ともに24.4%)より低く、孫や親類との同居(25.3%)に

68 本調査では世帯内の最高齢者、または女性の最高齢者が男性配偶者(事実婚を含む)と同居 している場合にはその男性を「家長」とした。

69 サンパウロ市ではなくサンパウロ大都市圏(第2章の表2.1.2.Aで説明)と比較するのは、機 能や空間的にひとつの都市として捉えたサンパウロが、行政区のサンパウロ市を超越して存在す るためである。

70 以下、本章において比較対象として用いるブラジル全体とサンパウロ大都市圏も同じ出所。

ついては、セレスチⅣ(11.3%)、ブラジル全体(15.6%)、サンパウロ大都市圏(14.6%)

より高かった。

これらの家族や同居形態に関する調査結果から、プロジェクトの資金を全て市政府が提供 し、住宅建設を全て参加者が無償の協働作業で行うセレスチⅡの方が、資金や建設作業を 各世帯が部分的に負担するセレスチⅣ、および、ブラジル全体とサンパウロ大都市圏と比 べ、より貧困な家族を多く含んでいると考えられる。セレスチⅡは世帯人数が多く、一般 的に男性より就労条件の劣る女性および女性家長の割合と、被扶養者および子供以外との 同居の割合が高かった。そのためセレスチⅡの家族は、より多く且つ社会的に弱者の人々 で構成されている可能性が高い。この点を次の所得に関する調査結果で検証する。

図5.1.2.B セレスチⅡとセレスチⅣの同居家族構成

(注)データラベルのはじめの数字(カンマの前)は世帯数で、次の%表記が全体に対するその 割合。

セレスチⅡとセレスチⅣと所得水準を(図5.1.2.C)、ブラジル全体とサンパウロ大都市圏 との比較から最低賃金換算71の世帯平均月収でまとめた。本調査を実施した2006年時点で、

世帯平均月収が最低賃金と同額以下の割合は、セレスチⅡ(24.0%)がブラジル全体(17.6%)

より高く、セレスチⅣ(9.9%)はサンパウロ大都市圏(9.2%)とほぼ同じ水準だった。最 低賃金と同額より多く2倍以下の割合は、セレスチⅡ(24.7%)だけでなくセレスチⅣ(26.8%)

もブラジル全体(23.9%)より高かった。ブラジル全体はサンパウロ大都市圏より低所得層

71 調査実施時は350レアル。

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