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ムチランにおけるエンパワメント

ドキュメント内 都市貧困層の社会運動への参加 (ページ 79-97)

第 4 章 都市貧困層のエンパワメント

4.2. ムチランにおけるエンパワメント

本節では、住民組織を活用した参加型住宅政策のムチランを対象に、Friedmannの(反)

エンパワメント・モデルを援用し、ムチランに参加する都市貧困層のエンパワメントを分 析する。その際、ムチランの実施プロセスにおける資源へのアクセス様態を明らかにする。

次に、フィールド調査を行ったジャルヂン・セレスチ(Jardim Celeste)住民組織、およ び、インタビュー調査を行った同住民組織のリーダーのライフ・ヒストリーを事例として、

参加者の主体性や内発的変化に焦点を当てる。そして、前節で指摘したFriedmannのモデ ルの問題点を考慮に入れた上で、それらの要素を同モデルに反映させたムチラン独自の(反)

エンパワメントを提示する。最後に、「個人や特定の集団などのアクターによる能力・意図・

主体性をともなった行為」であるエージェンシーとの関連から、ムチランにおける都市貧 困層のエンパワメントについて考察する[近田2005]。

4.2.1. ムチランにおける資源へのアクセス

ムチランの実施プロセスにおいて、住民組織、技術支援団体、市政府の 3 つの主要なア クターなどが、リードマンが指摘する 8 つの社会的パワーの資源のうち、どのような資源 を有し、どの資源へのアクセスを増加させているかを考える。

住民組織に関して、それ自体が他の資源を増加させる「社会組織」であり、都市貧困層 が UMM などの社会運動への参加を介して住民組織のメンバーになることは、社会組織と いう資源へのアクセス増加を意味している(写真4.2.1.A)。ムチランでは、住民組織の参加 者自身による休日に協働で無償の住宅建設作業が行われるが、これは「生存に費やす時間 以外の余剰時間」に健康な労働力という「労働と生計を立てるための手段」と参加者間の 水平な「社会ネットワーク」を活用し、「防御可能な生活空間」である住宅を建設する、と 理解できる。また住民組織は、技術支援団体などの支援を受けながら、市政府から支給さ れる「資金」を含めたプロジェクトの監理と運営を任されることから、「資金」および「知 識と技術」と「適切な情報」へのアクセスを増加させると考えられる。

ただしプロジェクト終了後、市政府から受けた「資金」の返済が開始されるため、住民 組織の参加者は返済する「資金」や、それを獲得する「労働と生計を立てるための手段」

という資源へのアクセスを増加させていなければならない。この点に関して、ムチランに 参加した都市貧困層の中には、協働作業による住宅建設の経験を活かし、他のムチラン・

プロジェクトなどに有償の建設労働者として関わり賃金を得ている者もいる55

55 2005年9月にサンパウロ市ベラ・ヴィトリア(Bela Vitória)地区で実施した、ムチラ

ン参加者へのインタビュー調査などより。

(写真4.2.1.A)「社会組織」である住宅運動連盟(UMM)の集会場でのミーティング。

(2012年12月 筆者撮影)

技術支援団体は、主に1980年代の社会運動に参加した住宅や都市計画の専門家が結成し た非政府組織(NGO)であり、外部アクターという「社会組織」として位置づけられる。

技術支援団体は、プロジェクトの計画作成の段階から、住宅建設作業や組織化に関する技 術的な指導を行うべくプロジェクトに参加している。つまり、都市貧困層にとって技術支 援団体は、「知識と技能」と「適正な情報」へのアクセス増加を支援する存在だといえる(写

真4.2.1.B)。このようなサービスを提供する技術支援団体は、プロジェクト「資金」の一部

を報酬として受け取ることになっている。また、技術支援団体は住宅運動団体の集会にも 参加し、都市貧困層の「社会ネットワーク」作りなどの支援も行っている。

(写真4.2.1.B)「知識と技能」や「適正な情報」のため技術支援団体がムチラン参加者に提 供した教材。

(2002年9月 ジャルヂン・コメルシアル(Jardim Comercial)地区で筆者撮影)

サンパウロ市政府は、国家または政府であり、その主な役割はプロジェクト契約を結ん だ住民組織に対する資金援助であり、これは「資金」に相当する。市政府は住宅建設用地 の確保や都市インフラの整備も行うが、これらは都市貧困層にとって「防御可能な生活空 間」と「労働と生計を立てるための手段」という資源へのアクセス増加を促進する。この ほかの市政府の役割としては、プロジェクト申請の審査および承認、プロジェクトの監理 や評価などが挙げられる。

ムチランの主なアクターは以上の住民組織、技術支援団体、サンパウロ市政府の 3 者だ が、これら以外にもムチランにおける都市貧困層の資源へのアクセス様態に影響力を持つ アクターがいる。それらは住宅運動団体やその他の市民団体、海外NGO、教会、労働者党 などの政党である。

住宅運動団体やその他の市民団体は、住民組織と同様に「社会組織」であるとともに、

技術支援団体のようにムチランの効率的な実施に寄与しているため、外部アクターだとい える。特に先述したように、都市貧困層は「生存に費やす時間以外の余剰時間」を利用し、

UMMのような社会運動団体の活動に参加することで、プロジェクトごとに形成されるムチ

ランの住民組織の対象となり得る。したがって、住宅運動団体はムチランの住民組織の母 体、つまり、ムチランでアクセスが増加する「社会ネットワーク」という資源の供給源で あり(写真4.2.1.C)、究極的には、都市貧困層に住居という「防御可能な生活空間」へのア クセス増加を促す存在となっている。住宅運動団体、および、人権など住宅以外の問題に 取り組む市民団体は、共通のニーズのもと相互に連携し合い、定期的に会議やイベントを 開催し「知識や技能」や「適正な情報」へのアクセスを増し、問題の改善に努めている。

前述したように技術支援団体はこれらの会議やイベントに参加し、情報提供やネットワー ク作りのアドバイスを行うことがあるが、このような活動は技術支援団体にとって、契約 の対象となり得る有望な住民組織の育成や発掘につながっている。

(写真4.2.1.C)民衆運動本部に参集し「社会ネットワーク」を構築する社会運動のリーダ

ーたち。

(2003年11月 筆者撮影)

海外NGOは、都市貧困層に対して「知識と技能」や「適正な情報」をはじめ「資金」な どの援助を行う。そのため、都市貧困層にとって「社会ネットワーク」へのアクセス増加 を促す「社会組織」であるとともに、外部アクターだといえる。特に、ムチランがエルン ジーナ市長後の政権交代で中断された際には、資金援助が海外NGOに求められることとな

った56。海外NGOはムチランに常に参加しているわけではなく、海外NGOの援助を受け る住民組織とそうではない住民組織とがある。

教会とは、主にキリスト教系の宗教団体を指し、世帯と社会を結ぶ「社会組織」である と同時に、住民組織に支援を行う外部アクターでもある。主に教会は、ムチランの参加者 が休日の無償協働住宅建設を継続できるよう精神的な支援や、教会の活動との関連から住 民の組織化やコミュニティ作りの支援を行う。教会も海外NGOと同様、支援を受ける住民 組織と受けない住民組織があり、前者の場合、住民組織のコミュニティ広場には教会が大 概建設され、資金援助が行われることもある。このような教会の支援によりムチランの参 加者は、「社会組織」とコミュニティ内部の「社会ネットワーク」、「知識と技能」や「適正 な情報」に加え、時として「資金」へのアクセスを増加させ得るといえる。

労働者党などの政党は、都市貧困層が主に政治分野でアクセス可能な「社会組織」であ るが、公式には住民組織への直接的な援助は行っていない。ただし政党は、住民組織のリ ーダーたちを議員補佐として雇用するなど、間接的な資金援助を行っており57、ムチランの 枠組み内で外部アクターとしても機能している。

住民組織のリーダーたちは同時にいくつかの異なる社会組織のリーダーを兼任する場合 があり、定期または不定期に開催される会議やイベントへ頻繁に出席しなければならない。

そのため、自身の生計を保障する安定した職業に就くことが難しい。しかし、社会運動も 支持基盤のひとつとする労働者党などの政党にとって、住民組織のリーダーのように運動 を活発に行い、それぞれのコミュニティで影響力の強い人物は、政党の勢力の安定や拡大 に重要な存在となっている。そのため例えば労働者党は、住民組織のリーダーたちを同党 議員の補佐や事務所職員として雇用して、リーダーたちの生計を保障または補助するなど、

住民組織への間接的な資金援助を行っている。これらの雇用形態は柔軟であるため、住民 組織のリーダーたちは社会運動と労働者党関連の活動の両立が可能となっている。

つまり労働者党などの政党から、都市貧困層はムチランに限定されない「知識と技能」

や「適正な情報」という資源を獲得できる。その一方、ムチランの住民組織のリーダーた ちは個人的に雇用されるなど、ムチランを介した「資金」へのアクセス増加が可能となっ ている。このような状況は、ムチランの住民組織以外の社会運動団体のリーダーにとって も同様とされる58

このようなムチランの実施プロセスにおいて、各アクターが有している資源やそのアク セスの様態をまとめたのが図4.2.1である。

56 2008年9月にUMMのリーダーに行ったインタビュー調査などより。

57 同上。

58 2004年11月に筆者が行ったUMM(住宅運動連盟)とCMP(大衆運動本部)の会議に

参加したリーダーたちに対するインタビュー調査より。

ドキュメント内 都市貧困層の社会運動への参加 (ページ 79-97)