第 1 節で触れた四全総や近畿圏基本整備計画で,遠周辺地帯は近郊整備区域・近郊 緑地保全区域・保全区域のいずれかに指定されている。実態としても,保全と開発が 併存するこの地帯は都市化の最前線であるとともに,都市化の抑制地帯でもあり,都 市圏の外枠をなす地帯であるといえる。その動向は,都市圏がこれからも膨張してい くのか,それとも縮小に向かうのか,あるいは域内構造の再編成が進められていくの かといった都市圏の在り方とも深く関係している。そこで,北摂の豊能町と能勢町に おける開発動向,環境・生産機能の保全,および社会資本整備の状況について瞥見し
ておきたい。
大阪市北方の北摂山地に位置する豊能町では,既述のごとく昭和40年代中頃から西 部地域において大規模な住宅開発が進められ,さらに東部地域においても住宅地の開 発が進み,昭和40年代初頭には4,000人弱であった人口が平成 2 年には23,000人強と,
6 倍近い伸びを示している。そして,昭和60年から平成 2 年までの 5 年間に45%と府 下最大の人口増加率を記録しており,大阪大都市圏における都市化の最前線に位置し ている。
相対的に安価で,かつ健康的で緑豊かな住環境を提供しているといえるが,前節で も融れたようにバス・自動車交通とも不便であり,能勢電車も朝夕は満杯状態で,交 通の便は良くない(豊能町,1990)。上・下水道,医療,福祉,文化施設といった社 会資本整備の面でも,西部地域ではある程度は計画的な整備がなされているものの,
全体的にみれば大きく立ち後れている(図14-10,表14- 8 参照)。そして,新住民の 大部分は町外に職場をもっているため,豊能町の町外就業率は76%と,遠周辺地帯と しては異常に高い値を示している。また,団地が近隣都市にアクセスしやすい位置に 立地していることも手伝って,購買活動の面においても近隣の諸都市に依存的である ことは既に述べたところである。
表14- 8 農業・その他の指標 地 区
指 標 大阪府 大阪市 豊中市 箕面市 豊能町 能勢町
① 農 家 減 少 率(%)
(1965~1985年) -34.6 -62.7 -47.8 -24.7 -10.4 -11.0
② 農業就業者減少率(%)
(1965~1985年) -46.3 -71.7 -56.4 -29.1 -24.2 -40.3
③ 経 営 耕 地 減 少 率(%)
(1965~1985年) -44.2 -68.6 -58.7 -33.2 -19.7 -15.5
④ 農 業 粗 生 産 額(指数)
(1985/1965) 173 26 109 216 333 284
⑤ 上 水 道 普 及 率(%)
(1988年) 99.8 100.0 101.1 99.8 80.0 71.8
⑥ 下 水 道 普 及 率(%)
(1988年) 61.3 99.8 98.2 97.8 78.0 ―
⑦ し 尿 処 理 率(%)
(1988年) 77.7 99.4 97.6 95.0 85.0 20.0
⑧ 人口 1 万人当り医師数
(1986年) 18.70 28.84 13.35 13.88 2.37 3.72
(注) 1 .①~③は農業センサスによる。
2 .④~⑧は大阪府統計年鑑などによる。
大規模開発は林野を切り開いて行われたので,昭和40年から60年にかけての農家数 と経営耕地の減少率はそれぞれ10%,20%にとどまっており,住宅進出の農業への直 接的な影響は少なかったといえる。その間に農業就業者数は24%減少し,農業粗生産 額の伸びは3.3倍であった。
第 1 節で触れた諸計画では,遠周辺地帯からその外縁部にかけての地帯は,都市圏 住民が余暇を健康的に過ごす場としての役割が期待され,自然との触れあいの場の提 供とレクリエーション機能の充実が求められている。しかし,豊能町では,図14-10 に示したように,ほとんどそうした施設の立地をみない。その点では,隣接する能勢 町に大きく立ち後れている。なお,五つの老人福祉施設が町内に立地し,都市圏にお ける社会福祉機能の一端を担っていることと,オイスカ関西研修センターを迎え入れ て,国際的貢献の一翼を担っていることを付け加えておこう。
能勢町では,図14-11に示したように新しい住宅開発が 5 カ所にみられるが(現在 開発中のものを除く),いずれも数十戸のミニ開発であり,昭和40年から60年にかけ ての人口の伸び率は 5 %弱にすぎない。ただし,この間に第 1 次産業就業者数が35%
減と大きく減少したのに対して,第 2 次・第 3 次産業就業者の方はそれぞれ68%・62
%増と高い伸びを示しており,この20年間に就業の場が第 1 次産業から第 2 次・第 3 次産業へと大きくシフトしたことがわかる。昭和41年~61年の間の町内事業所の就業 者数は1981人→2772人と791人の増をみ,昭和40年~60年の通勤流出者数は1097人
→2070人と973人も増えていることから(流入者は233人→669人と436人増),就業構 造の変化は町内事業所の雇用拡大と町外就業者の増加に起因することがわかる10)。こ うした一連の変化が都市の作用を強く受けた結果であること,そしてその対極には農 林業の停滞という大きな要因があることはいうまでもない。昭和40~60年にかけての 農家数と経営耕地面積の減少率はそれぞれ11%と16%であり,農業就業者数は40%の 減少をみている。なお,農業粗生産額も2.8倍にとどまっており,農業生産の伸び率 は高いとはいえない。
都市住民が自然と親しむ保養とレクリエーションの場として,能勢町には大阪府に よって青少年野外活動センターが設けられており,年間に93万人の青少年を受け入れ ている(昭和59年)。その他に,「能勢の郷」が約9.2万人の施設利用客を,能勢簡易 保険保養センターが約3.3万人の宿泊客と4.1万人の日帰り客を受け入れている(数字 は昭和59年のもの)。それ以外に,豊中市立青少年センター,能勢町自然休養村管理 センター,府民牧場(年間約 5 万人の利用あり),キャンプ場,それに妙見山という 信仰・観光の対象もある。このように,能勢町は都市圏における遠周辺地帯の重要な
役割の一つである保養・レクリエーション機能を果たしている。
能勢町では毎年10月に「栗まつり」と称する観光イベントを催しており,町外から もかなりの参加者をみている。町外からの参加者の能勢町に対するイメージとして,
自然(38%),森林(17%)に次いで,味覚(13%),田園(11%)といった項目があ げられており(能勢町商工会,1986,24),田園的な雰囲気や農畜産品も都会人を引 きつける大きな要素となっていることがわかる。なお,参加者の多くは川西市を始め とする北摂地域の住民である。昭和59年に催されたドライブ・オリエンテーリングへ の参加者424人の内,63%が北摂地域からの参加者であったし(大阪・京郁・神戸か らは17%…能勢町商工会,1986,15),能勢町の宣伝活動も,能勢電車・阪急宝塚線 の沿線に的が絞られている(能勢町商工会,1985,59)。能勢町のような都市近郊の 観光・レクリエーション地の場合,近いという距離的な要素が強く働くので日帰り客 が多くなり,自ずと比較的近い地域からの入り込み客が多くなるのは当然であろう。
こうした都市住民の遠周辺地帯に対する観光・レクリエーション需要,それに対する 能勢町の対応,あるいは郵政省,大阪府や豊中市などによる観光・レクリエーション 施設の設置は,都市圏における遠周辺地帯の一つの重要な役割を示すとともに,遠周 辺地帯が都市圏の中で生き延びていく一つの手だてを提示しているといえよう。一方 では,表14- 8 や図14-11に示したように,上・下水道を始め,文化施設・医療機関等 の社会資本装備は豊能町と同様に遅れているので,就業や購買におけるのと同様に,
この面においても他都市に依存的である。そうした現実を直視するならば,遠周辺地 帯にとって都市圏の他地域(特に近隣の中周辺地帯)と連帯することも重要な課題で あるといえよう。
6 “周辺”地域からみた都市圏
前節までにおいて,大都市圏を“周辺”地域の側からとらえ直す試みとして,大阪 大都市圏の“周辺”地域を近周辺地帯・中周辺地帯・遠周辺地帯と 3 地帯に分け,各 地帯における通勤流動・購買活動の分析を通して中心都市を始めとする都市圏の諸地 帯との関係について考察した。さらに,都市化との関連において農業および地域社会 の諸相について分析を行うとともに,都市圏における遠周辺地帯の役割の一端につい て検討した。それらの分析を踏まえて,まず三つの地帯の特徴を指摘すると次のよう になる(図14-12)。
近周辺地帯の諸都市は,“周辺”地域の中でも最も都市化が早く進んだ地帯であり,
尼崎市や摂津市のように工業的に発達した都市と豊中市や吹田市のように住宅都市的 な発展を遂げた都市とに分類される。いずれの都市群においても,第 3 次産業が発達 しており,都市的機能の集積度も高い(摂津市はその面ではやや遅れている)。通勤 流動の面では,前者のタイプは自市内に多くの事業所を擁し,就業機会に恵まれてい るので,中心都市に隣接しているにもかかわらず,自市内就業率が高く,近隣地域か らの通勤流入もみる。後者のタイプは大阪市への通勤流動率が高い。購買活動の面で は,最寄り品は主として自市内で購買されるが,買回り品になると大阪市都心部の商 業地区の比重が高まる。ただし,近年では豊中市の千里中央のように,“周辺”地域 中心の発展がみられ,都心商業地区のウエートは低下してきている。
この地帯の農業は大きく後退し,一部に都市農業と呼べるタイプの農業がみられる
地 帯 区 分 中心都市 近周辺地帯 中周辺地帯 遠周辺地帯
類 型 市 町 大阪 尼崎
(摂津)
豊中 吹田
高槻 茨木
箕面 池田
豊能 能勢
機 能 中心機能> <住宅 <住宅 住宅>
第 2 次・第 3 次産業> <第 1 次産業<
<郊外中心機能>
通 勤 流 動 流入≫流出 流入><流出 流入<流出 流入≪流出
地 元 就 業 率 ● ◉ ◎ ◎ ○ △ ◉
中 心 都 市 へ の 就 業 率 ○ ◉ ◎ ● ◎ △
最寄り品の地元購買率 ● ● ● ● ◎ ○ ○
最 多 額 購 買 の
中 心 都 市 出 向 率 ● ◉ ◉ ◎ ◎ ○ △
近 郊 農 業 △ △ ○ ◎ ◉ ● ●
自 治 会 形 態
融合 融合
分立 重層
融合 分立 重層
分立 包摂 重層・融合
包摂 分立
自 治 会 機 能 自治会 自治会
(ムラ) 自治会
ムラ ムラ
図14-12 “周辺”地域 3 類型の属性
(注) 1 .図中の●◉◎○△の記号は,左から右へと標記の機能が弱くなったり,率が低くなる ことを表現している。
2 .「機能」の><の記号は標記の機能の強弱の方向を示している。
3 .「通勤流動」の≫≪><の記号は流入・流出のどちらが多いかを示す。なお,近周辺 地帯は,流入と流出が地域によって異なるため,両方のケースがあるという意味で><
の記号で表した。
4 .「自治会機能」の「自治会」は都市的な自治形態をとり,「ムラ」はムラ的形態をとる ことを示している。