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農業からみた“周辺”地域

ドキュメント内 ムラとマチの時空 : 社会と暮らしの地理 (ページ 37-47)

 近畿地方の農村空間を概括的に区分した山本ら(山本他編,1987)は,中心都市か ら外側に向かって都市農村空間→郊外農村空間→周辺農村空間と変化する同心円的な 構造を提示している。

 確かに,1 農家当たりの生産農業所得(図14- 6 )をみると,おおむね中心都市や近・

中周辺地帯では低く,遠周辺地帯とその外縁地帯で高くなっている。しかし,必ずし も一円的に高いとはいえない。近郊野菜栽培に特色のある京都市,宇治市から南山城・

大和高原にかけての茶栽培を中心とする地域,いちご栽培や施設園芸などに力を入れ

京都

神戸 大阪

大津

名張

三田

姫路

明 石

奈良

和歌山 堺

 彦根

20万円未満 20〜40万円未満

40〜60万円未満 60〜80万円未満

80〜100万円未満 100万円以上 図14- 6   1 農家当たりの生産農業所得(1985年)

(注)1985年農業センサスによる。

ている奈良盆地,野菜と果樹に特化した泉州南部から紀ノ川流域といった,特定の作 物に特化して主産地形成を行っている地域ほど生産農業所得が高くなる傾向にある。

このことは,生産農業所得の高さが農業経営の在り方とも大きく関連しているのであ って,単に都市化の度合によってのみ規定されるものではないことを意味している。

 図14- 7 によると,都市圏全体にわたっておおむね稲が販売額で第 1 位を占めてい るが,前述の茶や果樹・野菜に特化した地域ではそれらの特化作物が稲を抜いて販売 額で第 1 位を占めている。稲を除いた販売額第 1 位の農畜産物としては,都市圏人口 への供給を主眼とする野菜・施設園芸はおおむね近・中周辺地帯に立地するが,同様 な性格をもつ酪農は,都市化のあおりで市街化区域からの追い出しを受けて,今や中

京都

神戸 大阪

大津

名張

三田

姫路

明 石

奈良

和歌山 堺

 彦根

施設園芸 果 樹 類

工芸作物 酪  農

養 豚 野 菜 図14- 7  稲を除く販売額第 1 位の農畜産物(1985年)

(注) 1 .1985年農業センサスによる。

    2 .黒丸印を付した市町村は,稲を含めても当該農畜産物が第 1 位であることを示す。

    3 .複数の農畜産物が重複している場合は,凡例記号を重ね書きしている。

周辺地帯から遠周辺地帯にかけて分布するようになっている。工芸作物・果樹は主と して遠周辺地帯からその外縁地帯に立地している。以上のように,販売に力点をおい た農・畜産物の生産地域の分布は中心都市から外側へと都市化の状況に対応した特化 を遂げながら,基本的には同心円的な広がりを示すものの,前述のように必ずしも当 該地域一円にわたって行われているわけではないことにも留意しておきたい。

 その他の指標についても,大なり小なり,同様な傾向が認められる。第 1 次産業就 業者率は都市圏では全体的に低いが,遠周辺地帯から外縁地帯ではやや高くなってい る。中でも,紀ノ川流域,大和高原から宇治市南部の茶業地域などでは20%以上に達 している。自営兼業農家率30%以上の地域は主として中心都市とその近周辺地帯に

(ただし,市域内にかなり農村地帯を含む神戸市や京都市は低い),15%未満の地域は 遠周辺地帯から外縁地帯に分布している。中周辺地帯は両者の中間的な性格を示す。

ただし,中・遠周辺地帯の中でも,泉州のように伝統的に機業を副業として行ってき たような地域では自営兼業農家率が高くなっている。農地面積率(対可住地面積)30

%以上の地域は,地形的条件に左右されながらも,おおむね遠周辺地帯からその外縁 地帯に分布している。

 なお,一人当たり総所得(農外所得を含む)をみると,“周辺”地域,中でも中周 辺地帯に所得の高い市町が多く,次いで中心都市とそれに隣接した近周辺地帯,その 他の中周辺地帯で高く,遠周辺地帯の市町村が最も低い,という傾向がみられる。こ れを前述の生産農業所得との関連でみると,総体的に逆相関の関係にあることが読み 取れる(宇治市とその南部地域,および大和郡山市を除く)。これは,農業所得の所 得全体に占める比重が高い地域ほど総所得が低いこと,換言するならば,わが国の農 業の所得レベルの低さを如実に反映した結果であるといえる(以上,図は省略)。

 このように,農業とそれに関連するいくつかの指標をとって都市圏を眺めると,大 きくは中心都市から“周辺”地域へと距離的な隔たりと都市化度合に応じて,ある傾 向をもって変化しているといえる。ただし,詳細にみると,必ずしも一様に変化して いるとはいえない。主産地形成の有無,農業労働力の量と質(例えば,泉州地域にみ られるような,農業の兼営を可能とする安定的な自営兼業機会の有無といった農業の 存続を可能とする条件の差異…青木,1985,161-165),あるいは地形や水利といった 自然条件の差異によって,同じゾーンの中でも農業の態様は異なってくる。そうした 傾向は,筆者らが1970年代に調査した岸和田市の事例においても指摘したところであ る(青木・橋本他,1979,16-26)。また,光岡(1978,20頁)が指摘するように,農 業の構造変化には農業自体のもつ歴史的性格や主体的な条件によって規制される面の

あることも忘れてはならない。

4  “周辺”地域における地域社会

 “周辺”地域の農村地帯では,都市化の進展につれて流入者住宅・商業施設・工場・

事務所といった非村落的・非農業的要素が増えて,混住社会化が進んでいる。そして,

農村の側においても兼業化や脱農業が進み,その伝統的性格が薄れつつある。こうし た“周辺”地域における混住社会化の進展と非農業的要素の拡大は,従来の都市・村 落という社会単位以外に,それらとはかなり異なった性質を帯びた,あるいはそのど ちらにも区分され難い地域社会(青木は潜在的都市社会と呼ぶことができようとして いる…青木,1985,190頁)が都市圏の地域的構成単位として加わってきたことを意 味する。また,それは都市圏の社会的内実の変化を示唆しているから,都市圏の社会 構造を考える上で欠かすことのできない分析対象でもある。

 次に,都市化現象に伴う地域社会の混住化現象を農村サイドからとらえ,都市化地 域における四つの地域社会類型について論じる。すなわち,旧住民(先祖代々その土 地に住み付いている家の人たちやその分家の人たちを指し,地付き民とも呼ぶ)を主 体とする伝統的農村社会で,多くは権利・義務制限的に新住民をその社会組織の中に 取り込んでいる包摂型,新住民が地付き民社会から分立した地域社会を形成している 分立型,混住化のいっそうの進行によって新・旧住民の境が不分明となり,新・旧住 民混在の地域社会が形成されている重層型(旧住民の伝統的な社会的組織や連帯が維 持されているケースが多く,その意味で社会的に重層的な構造をもつことが多いこと から,この名称を用いた)と新旧住民の区別なく一体的に構成・運営されている融合 型の四つのタイプである。なお,こうした類型分化には住居の粗密といった集落形態 や農業の残存度合も大きく関与する。一般的に,都市化が進むほど分立型や重層型・

融合型が増える傾向にあることはいうまでもない。

 以下,このような諸類型が,都市圏全体,中でも北摂地域においてどのように現れ ているかについて検討しておきたい。

 まず,都市圏全体において,農家率50%以上5)の農業集落数の対全農業集落数比率 が60%以上である市町村(1980年,図14- 8 )は遠周辺地帯からその外縁地帯に多く 分布し,逆に中心都市に隣接する近周辺地帯ではおしなべて10%未満であり,中間の 中周辺地帯から遠周辺地帯では10~60%となっている。したがって,おおむね中心都

市に近づくにつれて農業集落の基底をなしてきた農家の割合は低くなるという傾向に あるといえる。それを裏返せば,都市の影響力が大きくなるほど,農業集落内に非農 家や新住民が増加してくるということになる。このように,都市の影響力が農業集落 の在り方に大きく影響している。本節で取り上げる北摂地域における上記の比率は近 周辺地帯の豊中市が零,中周辺地帯の箕面市は11%,遠周辺地帯に位置する豊能町は 73%,能勢町は93%となっており,先の指摘と一致している(ただし,遠周辺地帯や その外縁地帯では零~100%とかなり偏差が大きく,この地帯ではそれぞれの地域の 内的要素が大きく作用してくることをうかがわせる)。

 箕面市では,1960年には3.4万人であった人口が1990年には12.2万人と3.6倍にも増 京都

神戸 大阪

大津

名張

三田

姫路

明 石

奈良

和歌山 堺

 彦根

10〜20%未満 20〜40%未満 な  し

10%未満

40〜60%未満 60〜80%未満

80〜90%未満 90%以上 図14- 8  農家率50%以上の農業集落の比率(1980年)

(注)1980年世界農林業センサスによる。

ドキュメント内 ムラとマチの時空 : 社会と暮らしの地理 (ページ 37-47)