④ 進出に当たっては公害を出さないということで,昭和49年 6 月に県・町当局と 公害防止協定を結んだ。同協定書には,生活用水については 3 次処理をし,工場から の排水については処理のうえ,雨水とは分離して排水すること(第 1 条),大気汚染 防止対策(第 2 条),騒音および振動防止対策(第 3 条),悪臭防止対策(第 4 条),
環境の整備等(第16条)などが謳われている。今のところ,公害問題は発生していな いが,第 3 条の騒音については外周テストコース場とモトクロス場からの騒音につい て,乳牛への影響を心配する声が酪農家の一部に聞かれる。
以上のように,大津町に進出した本田技研工業熊本製作所は,従業員規模約2,600人,
年間製造出荷額約1,000億円という大事業所(昭和58年現在)として,①~④の進出 政策を逐行することにより地域社会に大きな影響を与えている。
部門を担当するホンダエクスプレスが381人(臨時雇い53人を含む)の人員を擁した から,熊本製作所と子会社の総従業員数は2,813人を超えた(表17- 1 ,表17- 2 参照)。
熊本製作所の従業員の地域的内訳は,大津町24%,その他の熊本県内55.1%と,県内 出身者が約 8 割という高率に達した(他は,九州諸県が8.7%,九州以外が12.2%)。
大津町に焦点を絞ると,正社員のうち560人が大津町出身者ということになる。その 内,地権者採用分(前節参照)は工場で280人,開発総業で58人,ホンダエクスプレ スで79人,計417人(うち,男子は284人)であった。大津町内には,400人を収容す る独身寮と,社宅が66戸(55世帯入居,59年 3 月)あり,その他に町営住宅(416戸),
雇用促進住宅(60戸),一般賃貸住宅などへの入居者もかなりあるとみてよいから,
これらの人数と上述の町内出身者とを合計すると,熊本製作所と子会社の従業員のう ち大津町内に居住する者は千数百名に達するとみられる。ちなみに,昭和55年の全就 業人口が10,166人であったから,本田技研工業とその子会社への就業者が 1 割以上を 占めることになる。これらの数字からみても本田技研工業が大津町の労働市場にいか に大きなウエートを占めているかが十分にうかがえる。しかも,熊本製作所とホンダ エクスプレスは男子雇用型の工場であるから,新規学卒男子や男子世帯主層の就業機 会の拡大という面でも大きな効果をもたらしていることはいうまでもない。
熊本製作所とその子会社以外に,合弁 3 社と下請等の関連会社による雇用もかなり ある。前節で触れているように,熊本製作所の関連企業( 2 次, 3 次下請を含む)は 237社で,そのうち県内企業は89社といわれる(本田技研工業側の資料による)。熊本 県職業安定課の資料によると(表17- 2 の資料と若干異なる),熊本県内に立地する主 たる関連企業55社のうち雇用人員数の判明している43社の総人員は3,807人である(臨 時雇い616人を含む)。その内,菊池地方には28社が所在し,その雇用人員は1,544人(臨 時雇い420人を含む)である。したがって,熊本製作所と関連会社の分を合わせると,
6,988人が熊本県内分(これは昭和57年の従業者数 4 人以上の製造業事業所の従業者
表17- 1 本田技研工業㈱熊本製作所の生産高・従業員数 年 度 生産台数
(千台)
出荷額
(億円) 従業員数 年 度 生産台数
(千台)
出荷額
(億円) 従業員数 昭和51 308 268.6 749 昭和56 999 880.1 1,639 52 486 376.4 800 57 1,227 1,022.5 1,888 53 576 385.5 1,261 58 1,143 1,005.8 2,273 54 697 492.6 1,279 59 1,176 1,049.5 2,336 55 840 739.6 1,348 60 1,278 1,569.1 2,458
(注) 1 .生産台数,出荷額は 3 月から翌年 2 月までの累計。昭和60年は計画数字である。
2 .従業員数は各 4 月末の数字(正規従業員のみ)。
3 .本田技研工業㈱資料による。
数の約 7 %に相当),うち4,725人が菊池地方分(これは昭和57年の従業者数規模 4 人 以上の製造業事業所の従業者数の約45%に相当)である(表17- 2 )。洩れている関連 企業がかなりあるとみてよいから,その雇用波及効果をもっと大きく見積る必要があ ろう。なお,これらの関連企業も男子雇用型企業で,実に総従業者の79%が男子であ る(菊池地方,表17- 2 )。熊本製作所と子会社も含めた場合の男子従業者比率は87%
である。従来は男子雇用型企業の乏しかったこの地域にとって,本田技研工業熊本製 作所とその関連企業の立地が男子の雇用促進に果たした役割がいかに大きいかが十分 にうかがえる。
表17- 2 本田技研工業㈱熊本製作所と関連企業(菊池地方)の雇用状況など
(昭和58年)
市町村 職安 会 社 名 総 数 男 女 種類 業 種 操業年月
菊池 菊池 九州テイ・エス 148 (2) 117 (2) 31 1 次 オートバイシート 51. 3
〃 〃 九州東海電線 93 (1) 31 62 (1) 〃 電装部品 51. 4
〃 〃 国産工業熊本工場 85(20) 69(20) 16 〃 オートバイ部品製造 49.12
〃 〃 菊池三興 28 … … 〃 金属加工 50. 2
〃 〃 菊池井上ゴム化成 104 … … 〃 ゴム・プラスチック製品 49.
〃 〃 イエシロ熊本工場 33 … … 2 次 オートバイシート 51. 8
〃 〃 栄光樹脂工業熊本工場 43 … … 〃 オートバイ部品
〃 〃 花房電装 21 20 1 〃 電装部品加工 56. 4
〃 〃 東電装 1 1 0 〃 電装部品加工
大津 〃 本田技研工業㈱熊本製作所 2,778(399)2,558(398) 220 (1) ― オートバイ製造 51. 1
〃 〃 開発総業(ホンダ開発) 75(21) 35 (1) 40(20) 子 不動産・清掃・食堂 51. 1
〃 熊本 第一総業 32 (2) … … (2) 1 次 エヤークリーナー
〃 〃 湯浅電池熊本出張所 5 5 0 〃 バッテリー販売 51. 8
〃 〃 大国産業 … … … 2 次 オートバイ部品製造
〃 〃 星木産業 〔6~10 人〕 … … 〃 オートバイ部品製造
菊陽 〃 菊陽製作所 26 (6) 25 (6) 1 〃 オートバイ部品製造・金物
〃 〃 阿蘇技研 〔30~49 人〕 … … 〃 オートバイ部品製造
合志 菊池 ホンダエクスプレス 328(53) 263(46) 65 (7) 子 梱包輸送 50.12
〃 〃 合志技研工業 393(101) 365(80) 28(21) 合 オートバイ部品製造 51. 4
〃 〃 スチールセンター熊本事業所 32 24 8 1 次 部品製造・梱包 51. 4
〃 〃 九州精鍛 14 12 2 〃 クランクシャフト製造 56. 4
〃 〃 中井商店 12 11 1 〃 スクラップ商
旭志 〃 大同工業 8 6 2 〃 倉庫業 51. 2
〃 〃 山田製作所熊本工場 104 (2) 74 30 (2) 〃 自動車・オートバイ部品 56.11
〃 〃 日本精機 5 … … 〃 機械 55. 4
〃 〃 九州柳河精機 316(70) 232(35) 84(35) 合 オートバイ部品製造 51. 1
〃 〃 熊大技研工業 20(11) 20(11) 0 2 次 オートバイ部品製造 52. 4
〃 〃 旭機工 21 15 6 2 次 オートバイ部品加工 56.11
計 4,480(686)3,883(599) 597(89)
(注) 1 .( )内数字は臨時雇い・準社員(内数)。
2 .〔 〕は規模区分を示し,実数ではない。
3 .雇用人員数および男女区分が確定されないものは合計から除外されている。
4 .「種類」欄の“ 1 次”,“ 2 次”は下請会社,“合”は合弁会社,“子”は子会社を示す。
5 .「菊池地方」とは,菊池市と菊池郡を指す(以下の図・表についても,同様)。
6 .操業年の年号はすべて昭和である。
(出典)熊本県職業安定課資料,菊池職業安定所『業務統計』昭和57,58年度。
関連企業による雇用効果をより詳しく把握するために,本田技研工業との合弁 2 社,合志技研工業と九州武蔵精密の事例を紹介しておきたい。菊池郡合志町に立地し た合志技研工業は,熊本製作所の操業開始に歩調を合わせて合志町に進出し,ハンド ル,マフラー,タンクなどの供給を行い,昭和53年243人,昭和55年380人,昭和58年 393人と(表17- 3 ),熊本製作所の生産拡大に伴って雇用人員を増やしている。昭和 59年 5 月現在の従業者数は少し減って373人で,そのうち約80人が合志町,約80人が 熊本市内,残りが周辺市町村からの採用である。なお,発足当初に愛知県の親会社か ら派遣された20~30人の要員の大部分は引きあげたという。前章で触れているように 同社の下請企業24社のうち,9 社が県内に立地しており,その大部分は熊本市( 3 社),
菊陽町( 2 社),合志町( 1 社)など,周辺地域に立地している。昭和58年現在にお ける従業者数不詳の 3 社を除く県内関連企業 6 社の雇用人員数は568人であった。こ れら関連企業の合志技研工業への製品納入率は不詳であるので,同社による雇用波及 効果を正確に算定することは難しい。
九州武蔵精密が関連作業の中では最遠地の球磨郡錦町へ立地した主要な要因の一つ は,「安価で豊かな労働力」が得やすいことにあった(昭和59年 8 月,同社での聞き 取り)。同社は昭和50年 2 月,立ち上がり要員として地元採用者56人(うち女子 2 人)
と本社出向者14人の計70人を配し,51年 4 月の操業開始以来,熊本製作所の生産量の 伸びに呼応して生産拡大のための新規雇用を行い,59年 8 月現在の雇用人員は290人 で,うち286人が地元雇用(うち15人は臨時雇い)で,本社からの出向者で残ってい るのは 4 人のみである。同社も,男子が249人(86%)を占める完全な男子雇用型企
表17- 3 本田技研工業㈱熊本製作所と主要関連企業(菊池職安管内)の雇用動向 会社名 年 度 操業開始年月 昭和53 昭和56 昭和58 昭和59 本 田 技 研 工 業 昭和51. 1 1,252 1,560 2,778 2,524
開 発 総 業 51. 3 76 80 75 73
ホンダエクスプレス 51. 3 164 310 328 241
合 志 技 研 工 業 51. 3 243 380 393 373
九 州 柳 河 精 機 51. 3 127 190 316 308
九 州 テ イ・ エ ス 51.10 … 70 148 112
山 田 製 作 所 56.10 ― 100 104 111
九 州 東 海 電 線 51. 5 54 60 93 98
国 産 工 業 49. 8 … 80 85 78
計 1,916 2,830 4,320 3,918
(注)臨時雇いを含む。
(出典)菊池職業安定所『業務統計』。
業である。実は,地元の錦町が同社を誘致した狙いもここにあった10)。職種構成は,
工場のライン従業員が208人で,残りの82人は事務,営業,技術関係の従業員である。
学歴別では,大学卒業者40人(九州地区内の大学から採用),高専卒業者 1 人,高校 卒業者245人で,中学卒業者は零である。高卒採用者のほとんどは球磨郡内の高校出 身者である。臨時工は球磨職業安定所を介して募集されるが,その前歴は都会からの Uターン組,農家の人,転職者など様々である。従業員の出身地は(図17- 2 参照),
西は球磨村から東は水上村までと,球磨郡内一円に広がっている。地元の錦町(135人)
をはじめ,相良村,人吉市,山江村,多良木村,湯前村,須恵村などからの就業者が 多く,免田村,深田村,岡原村,上村など,比較的近隣の水田地帯からの就業者は少 ない。したがって,同じ球磨郡内といっても,農業収益が乏しく,地区内に適当な就 業の場の少ない山村地帯からの就業者が多いといえよう(ただし,冬季は積雪のため,
しばしば交通が杜絶する五木方面からの就業者は零)。なお同社の熊本県内における 下請関連企業は上益郡嘉島町の 1 社のみで,その面での雇用波及効果は乏しい。
このように,オートバイ生産という広い裾野産業を擁する本田技研工業熊本製作所 は熊本県北部,特に菊池地方一帯に男子を主体とする大量の新規雇用を創り出し,地 域労働市場に大きなインパクトを与えるとともに,地域経済と地域社会に多大の刺激 を与えている。
労働市場への影響 大津町の労働市場関係の一般統計を欠くので,大津町の過半 部を管内とし,熊本製作所をはじめ,多くの関連企業を管内に含む菊池職業安定所(図 17- 3 参照)のデーターに基づいて考察を進めたい。
まず,一般職業紹介の状況をみてみよう(表17- 4 )。求人総数(県内求人数〈年間 有効求人数〉+県外求人数)は昭和50年から減少傾向を辿り,同54年~55年頃から再 び上向き,同56年~57年にはほぼ昭和46年~49年のレベルに回復している(県全体も 同様の動きを示すが,昭和54年以降の回復がやや弱い)。しかし,内訳をみると,昭 和46年~49年には県外求人数は 5 ~ 7 割を占めたのに,昭和50年以降は急速に減少 し,県内求人数(有効求人数)が求人の大部分を占めるようになる(県全体も同様の 動きを示す)。求職者数は昭和55年までは,多少の波はあるものの大きな変化はなか ったが,同年以降は増加する傾向を示す。この点については,県全体は一貫して増加 傾向を辿り,やや異なった動きを示す。求職者数を月間求人数(県内求人数)で除し た求職倍率は,昭和53年頃まではおおむね 3 ~ 5 倍であったが,昭和54年以降は2.4
~2.6倍と,倍率が大きく低下している。これは前述の県内有効求人数の回復を反映 したものと解釈される。それには本田技研工業とその関連企業による雇用増が大きく