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部門別財務情報の公開とその有用性について

ドキュメント内 連結会計論 (ページ 177-195)

I 序

一 一 一 米 国 に お け る 多 角 経 営 企 業 の 部 門 別 外 部 報 告 会 計 を 中 心 と し て 一 一 一

今日,企業の経営多角化傾向は,世界的にみられる一般的経済現象であるが,

米国においては,従来の水平的ないし垂直的な結合形態とは異なって,その経営 の多角化が,複合的・多角的合併として特徴づけられる現代合併運動の展開を通

じて,外部的発展として達成されたところに,その特徴がみられるのである九 因みに,最近の企業買収および吸収合併企業数をみた場合,これが実に1950年 の10倍以上にも達しておりへ資産1,000万ドル以上所有の合併企業数の全合併企 業数に対する割合も, 1951‑55年が52.7%. 1956‑60年が62.4%, 1961‑65年が 66.1%,そして1966‑68年が82.5%と激増していてへまさに最近の合併は大型 化の傾向にある。また,合併・買収による取得資産額の新規生産設備投資額に対 する割合も, 1960年に僅か14.8% (23/155億ドル)にすぎなかったものが, 1968  年には54.6% (152/279億ドル)にも増大していてへ合併・買収の経済的重要 性が明白に示されているのである。

更に, 1948年から1968年までの大規模合併において,買収された資産総額を合 併形態別に表わせば,第一図の通りであるがへこの連邦取引委員会 (Federal

1)  David F. Hawkins, Financial Reporting Practices of Corporations, 1972  p.398. 

2)  Gilbert Burch,The Merger Movement Rides High," Fortune, Feb. 1969  p.80 

3)  Bureau of Economics, U. S.  Federal Trade Commission, Report of the  Bureau, Economic Report on Corporate Mergers. 1969. pp. 1‑35. 

4)  Ibid., pp. 1‑13  なお,本稿における引用文中の傍点は、すべて引用者が施し たものであることに留意されたい。

5)  Ibid., pp. 1‑33. 

Trade Commission)によって複合企業として分類されている合併比率の増加傾 向によっても,経営多角化の著しい現状を知ることは容易なことであろう。

第l図 連邦取引委員会による合併形態別割合の推移

(%) 

ω 90 :

i

;:::;;:r:;::R1F  88.5% 

E m

言 垂 直 的 合 併水平的合併

80  b. 

70 :iI'工¥  複合的合併

60  隆 翠 市 場 拡 大

50  ~製品拡大

40 

E

コ そ の 他

30 

│ 資 一 万 ド ル │

20  以上の所有企業

による。

10 

1948  1852  1956  1960  1964  1968  51  55  ‑59  63  ‑67  (年度)

叙上のように,急激に生成・発展した複合企業ないし多角経営企業は,その企 業数の増加と経営規模の拡大とによって,企業会計上に種々の問題を提起するに 至っている。そして,その一つが,最近の米国において,多角経営企業は,年次 報告書に連結財務報告のほかに,部門別財務報告をも併せて公開すべきであると する主張となって現われているのである。

そこで,本稿では,多角経営企業の財務報告について,まず,かかる主張がな されねばならなかった社会・経済的な背景を歴史的に考察し,それのもつ沿革上 における社会・経済的な意義を解明すると同時に,果たして部門別財務情報が一 般的に論ぜられているょっに,それ程の有用性をもっているものかどうかについ ても,これを検討してみたいと考えている。

部門別財務情報公開の動機

既にみたように, 1960年代になって,とみに顕著となった複合企業による企業 の買収および吸収合併は,一連の独占禁止法との関連において,抵触するのでは ないかとの疑念がもたれ始めた。従って,ミンガンのハート上院議員 (Senator Philip A. Hart)を委員長とする上院司法委員会の反トラストおよび独占に関す る専門委員会 (theSubcommittee on Anti‑Trust and Monopoly of the Senate  Committee on the Judiciary)によって, 1965年4月,

r

産業集中に影響を及ぼ す吸収合併その他の諸要因

J

(Mergers and Other Factors Affecting Industry  Concen tra tion)に関する公聴会が開催されるに至ったヘこれは,ロング上院 議員 (Senator Long)の提出した「子会社および関係会社と取引を行なう企業 に,売上高,売上原価(項目別に) ,一定の費用および純損益を公開するように 要求する」法案を審議するに当って関かれたものであった。その席上で,連邦取 引委員会のデイクソン委員長 (PaulDixson)は,かかる財務的情報の公開は水 平的に統合された企業にのみ限るべきではなく,むしろ多角経営企業にも要求す べきであると重要な発言をしているのである九

このことから,最近.一般的には投資家および債権者の立場から議論されてい る多角経営企業の部門別財務情報公開に関する問題も,本来,複合企業の経済活 動が,独占禁止法に抵触していないことを立証するために,その財務情報をどの 程度まで公開すべきであるかという問題をめぐって展開されたものであると考え ることができるのである8)

6)  Rechard Frank Kochanek, An Empirical Investigation of the Relation‑ ship btweenSegmental Financial Reporting by Diversified  Firms and  Stock Prices, 1972. p. 35 

7)  Morton Backer and Walter B. McFarland, External Reporting for Seg‑ ments of a Business, (A Resarch Study in Management Reporting, NAA),  1968. P. 12. 

8)  未尾 ε秋稿「セグメント・レポーテイングの沿革とその背景J商学論究 21巻 34 (4812月)16頁参照。

それでは,多角的吸収合併や買収が,一体どのような理由によって,水平的な いし垂直的吸収合併や買収などと同様に反トラスト法の立場から問題にされるの かについて,以下,考察してみることにしよう。コチャネック (RichardFrank  Kochanel王)によれば,

r

複合企業は,利益計上会社と損失計上会社とを共に従 属会社にすることによって 特定の産業分野における苛酷な競争にヨリよく耐え うるということが警戒される原因の一つである勺と指摘している。特に,

r

合企業が,ある産業で稼得した独占利潤を,損失(ないしは異常な低利潤)での 販売助成のために実際に使用することは,

r

交叉的助成j ( crosssu bsidiza tion ) 

として論及しうるであろう1りが,かかる情況下においては,単一製品生産企業 (single‑line producers)が,いかに能率的な営業活動を遂行しようとも,所詮,

自由競争は厳に制限されてしまって,当該企業の存続は不可能になるのである。

更に,連邦取引委員会は,複合企業が特定部門における独占的利潤を有してい ない場合でも,親会社による広告宣伝力,経営管理能力,財務的資金力,生産設 備能力および工業技術能力等によって,その一部門は,単一製品生産企業に対し て競争上の有利性をもつものであると認識しているへそして,この見解は,事 実, Proctor and Gamble杜の CloroxCompany買収事件の解釈において,連 邦取引委員会のセイドマン (AlbertG. Seidman)によってとられたのであるl

叙上のように,反トラストの観点からみれば,部門別外部報告は,複合企業に よる自由競争上の阻害度を正しく判断するためには,どうしてもその公聞が必要 とされたのである。そこで前述の上院専門委員会は 証券取引委員会 (Securi‑ ties and Exchange Commission)が複合企業にヨリ充分な財務報告を要求する 権限をもっているかどうかを問い 部門別財務情報の公聞を要求する法律を制定

9)  Richard Frank Kochanek, op. ci, .tp. 33. 

10)  John M. Blair,An Overall View of Conglomerate Concentration" , Eco‑

nomics 01 Conglomerαte Growth, ed. Leon Garoian, 1969. p.  2.  11)  Richard Frank Kochanek, op. ci ,.tp. 34. 

12)  Albert G. Seidman,Conglomratesand the  Federal Trade Commis  sion", Mαnαgement Accounting, Apri11970. p. 23. 

せんとしたのである問。

これに対して, 8ECのコーへン委員長 (ManuelF. Cohen)は, 8ECが部門 別財務情報の追加的公開を要求する権限をもっており,従って,当該問題につい ては,目下検討中であるとの回答をしたlヘ 当 時 8ECは , 様 式8‑ 1 ,  8‑7および10に関して 「もし営業が異なる種類の製品の生産ないし販売ある いは異なる種類の用役の提供から構成されているならば,可能な限り,前年度中 の総売上高に対して15%ないしそれ以上貢献した各製品ないし用役の相対的な重 要性あるいは同様な製品ないし用役の種類を表示すること15)

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と指示していた。

しかし,前述のように,製品別売上高の公開しか要求せず,しかも表示方法につ いても別段定めていなかったので,これに基づく部門別財務報告は,形式・内容 の両面において様々であり,通常は製品別売上高の大まかな割合が表示されるに すぎなかったのである附。

そこで8ECは, 1968年9月4日,様式8‑1,8‑7および10の改正を提案 したが,その際,コーヘン委員長は,複合企業に関する財務報告の増加は望まし いけれども,株主を誤解せしめないような報告規則を発展させるよう注意せねば ならないと慎重な態度を示した。その改正案の主な内容は, (1)前2会計年度の いずれかにおいて,総売上高あるいは異常項目および法人税控除前の純利益に対 して, 10%ないしそれ以上貢献した関連ないし類似の製品または用役の各種類ご とに,過去5年間にわたる各年度の製品別売上高および純利益(異常項目を除外 した)に対する貢献度を表示すること, (2)もし可能で、あれば,営業成績が報告 されている企業の各部門で使用されている資産額を表示することであったへ

13)  Richard Frank Kochanek, op. ci .,tp. 35 

14)  Alfred Rappaport and Eugene M. Lerner, A Framework for Financial  Rportingby Diversified Companis(A Reseαrch Study in Manαgement  Reporting No. 2, NAA), 1969. P. 45. 

15)  Howard Kellogg,SECProposes Profit Reporting by Conglomerates" ,  The New York Certified Public Accountαnt, Jαn.  1969. p. 16. 

16)  Richard Frank Kochanek, op. ci .,tp. 36.  17)  Howard L. Kellogg, op. cit., p.  16. 

ところが,この改正案において,部門別報告基準が従来の15%から10%に強化 された点に対して,多数の反対が集中し むしろ20%に緩和することを支持する ものが多かったのである則。その結果, 1969年7月14日公表の最終案においては,

SECは,製品別資産の公開条件を除外し,企業の報告部門についての判断や適 切な報告様式についても,これを経営者の自由裁量に任せてしまうように余儀な くなってしまったのであるへしたがって,結局,様式lO‑ Kにおける部門別 報告に関する規定は, (1) 

2

種類以上の事業を営む会社は,主要な事業種類別に,

全体の売上および利益についてその貢献度を百分比ないし金額で公開し, (2) 1種 類の事業会社は,主要な製品ないし用役あるいは類似製品ないし用役グループの 売上を公開するよう要求することになったのである。

田 部門別財務情報公開の要請

叙上のような関連において, SECが部門別財務報告問題について,産業界や 専門的諸国体に意見を求めたところ, AICPA (米国公認会計士協会)は,証 券取引委員会および証券取引所に関する特別委員会を設置し,当面の問題および 当該問題解決上の会計士の役割について概説した報告書をSECに提出したへ

更に,その後の調査・研究によって,当該問題の重要性と複雑性とを認識した 同会計原則審議会は,財務管理者協会もその調査を開始した直後でもあったため,

その成果を当審議会の意見書として公表することを差控えて, 1967年9月「多角 経営企業による補足的財務情報の公開」と題する会計原則審議会報告書第2号と

して,これを公表した別

18)  Richard Frank Kochanek, op. cit., p. 37‑8  19)  Ibid., p. 38. 

20)  A. A. Sommer, Jr., Conglomerate Disclosure:  Friend or Foe?" , Public  Reporting by Conglomerates, eds. Alfred Rappaport, Peter A. Firmin, and  Stephen A. Zeff, 1968. p. 3. 

21)  会計原則審議会の意見書としてではなく,報告書として公表したことの意味は,

たとえ監査対象が本推奨内容から議離していても,当該監査報告書上に限定意見を つけることが要求されないところにある。しかし,これがたとえ公式の意見書では なかったとはいえ,複合企業に代えて,多角経営企業なる用語で調査対象企業の概

本報告書においては,

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さしあたり,当審議会は,多角経営会社が,その各事 業部門ごとに補足的な財務情報を自発的に公開するよう,前向きの姿勢で自社の 実態を慎重かっ客観的に再検討することを勧告する辺

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と述べ,次の財務報告書 では自発的にヨリ多くの部門別営業成績が公開されるであろうという見解がとら れたのである。換言すれば 当審議会は 1968年度の財務報告書における製品別 報告の程度が,部門別財務報告規則の必要性や範囲等を判断する上での一つの基 準として役立つものと考えたのである制。

それ以来,等審議会は,未だ当該問題に関する意見書を公表していないが,当 審議会に代位した財務会計基準審議会 (FinancialAccounting Standards Board)  は,その研究すべき緊急課題としての最初の7項目 (seveninitial Agenda items)  のーっとして,多角経営企業の財務報告問題を選定したと報告されているへ

さて,投資家および債権者の立場からみれば ある企業が他の企業を買収ない し吸収合併を行なう都度,投資家ないし財務分析家にとって有用な財務的情報の 源泉は消滅していくが,就中,取得企業がその部門別営業成績を公開しなければ,

その全部が完全に情報損失となり,情報に基づいた投資の勧告や決定は,益々困 難なものになっていくのである。

ところで,会社の収益性を判断する場合,その情報源の相対的な重要性につい て財務分析家が評価したところによると,彼等の53.5%は,公表財務諸表が財務 情報の主要な源泉であると考えておりお) しかも39.9%のものは,年次財務諸表 念をヨリ正確にし,当該企業に部門別営業成績を自発的に公開せしめる動機づけを 行なったことは,大いに意義の認められるところである。

22)  Accounting Principles Boαrd, Stαtement No. 2, Disclosure of Supplemen‑

tal Financial Information by Diversified Companies  (American Institute  of Certified Public Accountants) 1967. p. 4. 

23)  Howard L. Kellogg, op. cit.,  p.  17. 

24)  Richard Frank Kochanek,Segmental Financial Disclosure by Diversi‑ fied Firms and Security Prices" , The Accounting Reuiew, April1974. p. 245.  25)  Robert K. Mautz, Finαncial Reporting by Diuersified Compαnies  (Fi‑

nancial Executives Research Foundation) 1968. p. 112 

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