直積集合
λ∈ΛAλ に 関するつぎ の命題は 自明である: (∃λ∈Λ such that Aλ =∅)⇒
λ∈Λ
Aλ =∅
つぎ の命題はこの命題の裏(=逆の対偶)であるが,
λ∈ΛAλ の定義において, 本質 的な意味を持つ:
(∀λ∈Λ, Aλ =∅)⇒
λ∈Λ
Aλ =∅
添字集合 Λ の元が 有限個であれば, Λ = {1,2,· · · , n} と考え, 各 Ai から 1 つず つ元 ai を選ぶことにより, (a1, a2, . . . , an)∈n
i=1Aiが 得られ, 上の命題が 成立す る. また, Λ の元が 無限個であっても,
λ∈ΛAλ = ∅ であれば, a ∈
λ∈ΛAλ を 1 つ選び,定値写像λ →aを考えることにより,
λ∈ΛAλ の元が 得られ,上の命題が 成立する. しかし, 一般の場合には問題が 生じ る. 実際,上の命題を書き直すと, つ ぎ のようになる:
(AC) (∀λ∈Λ, Aλ =∅)⇒ ∃f : Λ→
λ∈Λ
Aλ such that ∀λ∈Λ, f(λ)∈Aλ
ここでは,各 λ∈Λ に対し て, 一度に aλ ∈ Aλ を 選び 出す(あるいは 選択する)写 像f :λ →aλが 存在する18 ことを主張し ており,各 λ∈Λに対し て aλ ∈Aλ が 取 れ るとい うことだけではない. 集合論におけ るこの命題(AC)を選出公理(あるい は選択公理) [Axiom of Choice]といい, 写像 f を (Aλ)λ∈Λに対する選出関数(ある いは 選択関数)[choice function]とい う.
つぎ の命題は 選出公理から 容易に 導け る:
• 全射f :X →Y に 対し て, 写像g :Y →X で f◦g = idY となるものが 存在 する. このとき,g は 単射である.
証明 gは 集合族(f−1(y))y∈Y に 対する選出関数とし て得られ る.
注意: Y が 有限集合の場合には,帰納法で示せる(演習3.6). また,上の命題か ら選出公理を導けて,上の命題は選出公理と同値になることが分かる. 実際,上 の命題を仮定すれば,X=
λ∈Λ{λ} ×Aλ,Y =
λ∈ΛAλ とし,f :X →Y を 射影prY : Λ×Y →Y のX上への制限として,上の命題を適用して, (Aλ)λ∈Λ の選出関数が 得られ る.
単射に 関し ては, 選出公理を用いずに, つぎ の命題が 示せる:
• 単射f :X →Y に 対し て, 写像g :Y →Xで g◦f = idX となるものが 存在 する. このとき,g は 全射である.
証明 f :X →f(X)は 全単射であるから,逆写像f−1:f(X)→Xが ある x0∈X を 1つ取り,つぎ のように g:Y →X を 定義すれば よい:
g(y) =
f−1(y) ify∈f(X), x0 ify∈Y \f(X)
上の 2 つの命題からつぎ の定理が 得られ る:
定理 4.2 集合 X, Y に 対し て, X から Y への単射が 存在するための必要十分条 件は, Y から X への全射が 存在することである.
18§3.1 の「 集合に よる 写 像の 定義 」に よれば, 各 λ ∈ Λ に 対し て, Γ∩
{λ} ×
λ∈ΛAλ
= Γ∩
{λ} ×Aλ
が 一点集合となるΓが 存在するということである.
演習 4.1 選出公理を用いて, つぎ を示せ:
(1) 各 λ ∈Λ に 対し てAλ =∅であれば, 各射影 prλ0 :
λ∈ΛAλ →Aλ0 は 全射で ある.
(2) 各 λ∈Λに 対し てAλ =∅であれば,命題 4.1(1)の逆が 成立する. すなわち,
λ∈Λ
Aλ ⊂
λ∈Λ
Bλ ⇒ ∀λ ∈Λ, Aλ ⊂Bλ
ヒント (1)選出公理により存在が 保証され る(aλ)λ∈Λ∈
λ∈ΛAλを 用いて,任意の x∈Aλ に 対し て, prλ(y) =xとなるy∈
λ∈ΛAλを 作れ. (2)を 示すのに(1)が 適用できる.
演習 4.2 集合Λの元によって添字付けられた空でない集合の間の写像fλ :Xλ → Yλ に対し て,f :
λ∈ΛXλ →
λ∈ΛYλ を,つぎ のように 定義する:
∀x = (xλ)λ∈Λ∈
λ∈Λ
Xλ, f(x) = (fλ(xλ))λ∈Λ ∈
λ∈Λ
Yλ
λ∈ΛXλ prλ
f //
λ∈ΛYλ prλ
Xλ fλ
//Yλ
このとき, 選出公理を用いて, つぎ を示せ: (1) f が 全射 ⇔ ∀λ∈Λ, fλ が 全射 (2) f が 単射 ⇔ ∀λ∈Λ, fλ が 単射
ヒント (1)⇒: 演習4.1(1)を 参照.
⇐: y= (yλ)λ∈Λ∈
λ∈ΛYλ に 対し て,選出公理により,
λ∈Λfλ−1(yλ)=∅.
(2) ⇒: x= x′ ∈ Xλ に 対し て, yλ = x, yλ′ =x′ とな るよ うなy = (yλ)λ∈Λ, y′ = (yλ′)λ∈Λ∈
λ∈ΛXλを作りf が 単射であることを適用. ここで,y,′y のλ以外の座 標を 決めるには 演習 4.1(1)を 参照.
⇐: (xλ)λ∈Λ= (x′λ)λ∈Λ ∈
λ∈ΛXλ であれば, ∃λ∈Λ,xλ=x′λ なので,fλが 単射 であることを 適用.
演習 4.3 A を 空で な い 集合, W を 2 つ以 上元を 持つ集 合と すると き, 写像 f : X → Y に 対し て, f∗ : XA → YA と f∗ : WY → WX を, つぎ のように 定義 する:
∀g ∈XA, f∗(g) =f◦g および ∀h∈WY, f∗(h) =h◦f A
g
f◦g
??
??
??
??
??
XA
f∗
66 YA
X f //Y
X
h◦f
??
??
??
??
??
f //Y
h
WX
f∗
vv WY
W このとき, つぎ を示せ:
(1) f が 全射 ⇔ f∗ が 全射 (⇒を示すのに 選出公理が 必要) (2) f が 単射 ⇔ f∗ が 単射
(3) f が 全射 ⇔ f∗ が 単射 (4) f が 単射 ⇔ f∗ が 全射
ヒント (1) ⇒: h ∈ YA に 対し て, f◦g = hとな るよ うな g ∈ XA は, ∀a ∈ A, g(a)∈f−1(h(a))を 満たす.
⇐: y ∈Y に 対し て,cy∈YAを cy(a) =yとなる定値写像とすれば, 条件が 適用で きる. (cy の存在に A=∅が 必要)
(2)⇒: g=g′ ∈XAとすれば,∃a0∈A,g(a0)=g′(a0).
⇐: x=x′ ∈X に 対し て,cx, cx′ ∈XAをそれぞれ cx(a) =x,cx′(a) =x′ となる定 値写像とすれば,条件が 適用できる.
(3)⇒: h=h′ ∈WY とすれば,∃y0∈Y, h(y0)=h′(y0).
⇐: (背理法)f が 全射でなければ, ∃y0∈Y \f(X). W が 異な る2 元を 持つことを 用いて,h(y0)=h′(y0)でh(y) =h′(y) (y=y0)となるh, h′∈WY を作り,f∗が 単 射であることに 矛盾を 出す.
(4) ⇒: g ∈WX に 対し て, h◦f =g とな るよ うな h∈ WY は, y =f(x)∈ Y ⇒ h(y) =h(f(x)) =g(x)でなければ ならない.
⇐: x0=x1∈X に 対し て,W が 異なる2 元を 持つことを用いて,g(x0)=g(x1)と なるg∈WX を 作り, f∗が 全射であることを 適用.