実数は, (a)または (c)をみたす Qの切断とし て 定義され る. すなわ ち,実数の集合Rは つぎ のように定義され る:
R=
(A1, A2)
(A1, A2)はA2に 最小数がないQの切断 ここで,切断(A1, A2)は, 切断の切口infA2 (= supA1) を表し ているのである.
切断に関する注意: Qの切断(A1, A2)は,A1=Q\A2 より,A2だけで 完全に 決ま るので,つぎ の条件を 満たすA⊂QをQの切断と 呼び,その うち最小数が ないもの 全体をRと 定義することも出来る.
(i) ∅ =A=Q; (ii) a∈A, a < b⇒b∈A
各x∈Qに 対し て,Ax1 = a∈Q
ax
,Ax2 = a∈Q
a > x
=Q\Ax1 とすると, (a)を満たすQの切断(Ax1, Ax2)∈Rが 得られ る. 実際,x= maxAx1 となる. 各x∈Qを (Ax1, Ax2) ∈Rと同一視することによりQ⊂Rとみなす. よって, (c) を満たす Qの切断 が 無理数である.
順序: つぎ のように 定義され る Rにおけ る大小関係 は,Qにおけ る大小関係の拡張 であり,この に より,Rは 全順序集合となる:
(A1, A2)(B1, B2)⇔
defA1 ⊂B1 (⇔ A2 ⊃B2)
演習 5.44 上の がQの順序の拡張であり,R上の全順序とな ることを 示せ. 演習 5.45 Qが Rにおいて 稠密であること,すなわち,つぎ が 成立することを 示せ:
∀x < y∈R, ∃z∈Q such that x < z < y
定理 5.9 (実数の 連続 性) R の 切 断を Q の 切断と 同 様に 定 義す る (条 件 (ii) は R = A1∪A2). このとき,Rの切断 (A1, A2)について,A1 に 最大数があるか A2に 最小数があ るかのど ちらかである.
演習 5.46 実数の連続性(上の定理)を証明せよ.
ヒント (A′1, A′2) = (A1∩Q, A2∩Q)はQの切断で, (a)のときは, maxA1= maxA′1; (b)のときは, minA2= minA′2; (c)のときは,この切断(A′1, A′2)の表す実数をzと すれば,∀x∈A′1, ∀y∈A′2,Ax1 A′1Ay1,すなわち,x < z < yとなり,z= maxA1
か z= minA2となる.
演習 5.47 (ワイエルシ ュト ラウスの公理) Rの空でない部分集合が 上に 有界であれば
上限を 持ち,下に 有界であれば 下限を持つことを 証明せよ.
ヒント A⊂Rが上に有界の場合(下に有界の場合も同様),上界をA2し,A1=R\A2
とすると,Rの切断(A1, A2)が 得られ る. maxA1が 存在し ないことを 示せば,実数 の連続性より, minA2= supAが 存在する.
演習 5.48 α = (A1, A2)∈Rに 対し て,−α= (A−1, A−2)∈Rを A−2 =
−x
x∈A1, x= maxA1
, A−1 =Q\A−2 と 定義するとき, α >0⇔ −α <0 (α <0⇔ −α >0)を示せ.
演算: 2つの実数(A1, A2)と(B1, B2)の和(A1, A2) + (B1, B2) = (C1, C2)をつぎ のよ うに定義する:
C2 =
def
x+y
x∈A2, y∈B2
, C1 =
defQ\C2
(A1, A2)0, (B1, B2)0 の場合に 積 (A1, A2)·(B1, B2) = (D1, D2)を 次のよ うに 定義 する:
D2 =
def
xy
x∈A2, y∈B2
, D1 =
defQ\D2
一 般の 場合には, α < 0, β 0; α 0, β < 0; α < 0, β < 0 に 応じ て, それぞ れ αβ =−((−α)β);αβ =−(α(−β));αβ = (−α)(−β)と定義する.
演習 5.49 上の演算が well-definedであり,Qの演算の拡張であることを 示せ. 演習 5.50 Rに おけ る加法と乗法の結合律,交換律および 分配律を 証明せよ. 演習 5.51 Rに おけ る加法と乗法に 関し て,さらにつぎ が 成立することを 示せ:
∀x∈R, x+ 0 =x; ∀x∈R, ∃1−x∈R such that x+ (−x) = 0 ;
∀x∈R\ {0}, x1 =x ; ∀x∈R\ {0}, ∃1x−1 ∈R such that x·x−1 = 1 演習 5.52 Rが 順序体とな ること,すなわち,つぎ が 成立することを示せ:
x < y⇒ ∀z∈R, x+z < y+z ; x < y, z >0⇒xz < yz
演習 5.53 (アルキ メデ スの公理) 任意の正の実数x, yに 対し て, y < nxとな る自然 数 nが 存在することを 証明せよ.
ヒント 0< n−1< y−1xなるn∈Nを見付ける. Qの切断でy−1x= (A1, A2)と表 すと,y−1x >0 より∃r∈Asuch that r >0. このとき, 0< r < y−1xより,r∈Q の分数表示を 考えよ.
参考書: この節のデデキントの切断による実数の構成に関し ては,つぎ の書籍 に 丁寧な 解説がある:
• 吉永悦男 : 初等解析学 — 実数+ イプ シ ロン ・デ ル タ+ 積分, 培風館, 1994.
注意: 5.5 節と 5.7 節において,実数の 2つの構成法, カント ールによるものと デデキントによるものを取り上げ たが,カント ールの手法は距離空間の完備化とし て一般化され,デデ キント の手法は 順序位相の完備化とし て一般化されている.
6 集合の濃度 ( 基数 )
有限個の元し か 持たない集合であれば,その元の個数を数えて何個の元を 持つと い うことが 出来る. そし て, 2 つの 集合の元の個数を 比較し て, 元の個 数が 同じ とか 違うとか,また,一方が 他方より多いとか 少ないとかを知ること が 出来る. この章では,無限個の元を持つ2つの集合に 対し て,ど のように 元 の個数を比較することが 出来るのか,すなわち,個数とし ての自然数(基数)の 無限への拡張を考える. 無限といっても無限に 多くの無限があり,それらの間 に大小関係があり,和や積を考えることも出来るのである. 無限に 関する理解 を深め, 有限と無限の違いを明確に する.