ここで, 6 章で 証明を与えずに 述べた 3つの定理 6.4, 6.9, 6.11の証明を与える. まず, 定理6.4である濃度の比較定理は, 整列定理と整列集合の比較定理を用いれ ば 簡単に 示せる.
58Ernst Friedrich Ferdinand Zermelo, 1871-1953
濃度の比較定理の証明 任意の濃度m, nに 対し て,m= cardX,n= cardY となる 集合X,Y を 取り, 整列定理を 適用し て整列集合とする. このと き,整列集合の比較 定理より, (1)X ≃Y, (2)X はY の切片に順序同型, (3)Y は Xの切片に順序同型, のど れか 1つが 成り立つ. (1), (2), (3)に 応じ て,m=n,mn,mnが 得られ る.
演習 7.10 ツォルンの補題を用いて,濃度の比較定理を直接証明せよ.
ヒント 上記の 証明のように 集合 X,Y を取り,X の部分集合 Aと 単射f :A→Y
の組(A, f)全体からなる集合をMとする. X の部分集合とし て空集合∅を 考えれ
ば,包含写像∅ ⊂Y は 単射であるので, M=∅が 分か る. Mにつぎ のように順序を 定義し て,ツォルン の補題を 適用:
(A, f)(A′, f′)⇔
defA⊂A′ and f =f′|A
Mの極大元(A0, f0)に対して,A0=Xであれば mn,そうでなければf0(A0) =Y となり,nmが 得られ る.
ツォルンの補題を用いて, 定理6.9, 6.11, すなわち,つぎ の証明を与える: (1) mℵ0, n m⇒m+n=m (定理6.9);
(2) mℵ0, 1nm⇒mn=m (定理6.11).
不等式mm+n m+m= 2mが 成り立つので, (1)はつぎ に 帰着する: 定理 7.12 mℵ0 ⇒2m=m.
証明の方針 m= cardX とし,A⊂X と 全単射f :A→A× {0,1} の組(A, f)全 体からなる集合を Mとする. mℵ0= 2ℵ0より,M=∅が 示せる. Mにつぎ のよ うに 順序を定義し て,ツォルン の補題を 適用:
(A, f)(A′, f′)def⇔A⊂A′ and f =f′|A
Mの極大元(A0, f0)に 対し て,その極大性を 利用し て,X\A0が 可算集合を含まな いことを 示す. こ うし て, X\A0が 有限となり, cardA0= cardX から 結論を 得る. (演習6.2参照)
不等式mmnmm=m2 が 成り立つので, (2)はつぎ に 帰着する: 定理 7.13 mℵ0 ⇒m2 =m.
証明の方針 m= cardX とし, A⊂X と 全単射 f :A →A2 の 組(A, f)全体から なる集合を Mとする. mℵ0=ℵ20より, M=∅が 示せ る. Mに 前定理のように 順序を定義し て,ツォルンの補題が 適用. Mの極大元(A0, f0)に対し て,その極大性 と 前定理を 利用し て,X \A0が A0 と 対等な集合を 含まないことを 示す. こ うし て, card(X\A0)<cardA0 となり, 定理 6.9から cardA0= cardX となるので,結論 を 得る.
線形空間V において,部分集合 M がつぎ の条件を満たすとき1 次独立[linearly independent]であるとい う:
∀x1, . . . , xn ∈M, xi =xj (i=j), ∀t1, . . . , tn∈R,
t1x1+· · ·+tnxn= 0⇒t1 =· · ·=tn = 0.
また,V の任意の元が M の有限個の元の 1次結合とし て一意的に表せるとき, す なわち, つぎ の条件を満たすとき,M は V を生成する[generate]とい う:
∀x∈V, ∃x1, . . . , xn∈M, ∃t1, . . . , tn∈R such that x=t1x1+· · · , tnxn
1 次独立な B ⊂ V で V を 生成するものを, V の基底[basis]とい う. 線形代数で は, 線形空間 V が 有限の基底を持つとき, V は 有限次元[finite-dimensional]とい うが, その 基底の個数が 一定になることを示すことができ, その個数を V の次元
[dimension]と定義し た. 線形空間V が 有限の基底を持たないとき, V は 無限次元
[infinite-dimensional]というが, 無限次元であっても同様のことが 成立する. 定理 7.14 ど んな線形空間 V (={0})にも基底が 存在し, その基底の濃度は 一定 である.
演習 7.11 ツォルンの補題を用いて, 上の定理の前半, すなわち,ど んな 線形空 間 V (={0})にも基底が 存在することを証明せよ.
ヒント 1次独立なV の部分集合で包含関係⊂に関し て極大なものが 存在すること を 示し,それが V の基底になることをその 極大性を 用いて 示せ.
1 次独立な 極大部分集合の存在を 示すには, 1 次独立なV の 部分集合全体が 包含関 係 ⊂を 順序とする帰納的順序集合となることを 示し て,ツォルン の補題が 適用せよ.
演習 7.12 上の定理の後半, すなわち, 線形空間 V の2つの基底 B, B′ が 対等 になることを証明せよ.
ヒント cardBcardB′ を 示すために, B′ の有限部分集合全体をFin(B′)とし て, 写像ϕ:B →Fin(B′)を 各 v∈B が ϕ(v)の1次結合で 表せるように 取る. このと き,B′=
v∈Bϕ(v)を 示し,演習6.16を 適用する. B′ =
v∈Bϕ(v)を 示すには, ∃u∈B′\
v∈Bϕ(v)とし て,B′が 1次独立であるこ とに 矛盾を導く.
演習6.16を 適用する替わりに,各 v∈Bに対し て存在する全射gv:N→ϕ(v)を 用 いて,全射f :B×N→B′を作ってもよい.
8 順序数 ( 序数 )
自然数には, 1個, 2個, 3個,. . . とものの個数を数える基数とし ての役割 と, 1番目, 2番目, 3番目, . . . とものに 順番を 付け る序数とし ての役割が あ る. 英語では,基数は, one, two, three, . . ., 序数は, first, second, third,. . . , と呼び 方も異なる. 基数の無限への拡張は 6章で扱った. この章では,序数の 無限への拡張である順序数を導入する. 有限では,基数と序数の違いはあまり 意識し ないが,無限になるとその違いは 非常に 顕著なものとなる.