次の条件を満たす数列 x = (xi)i∈ を コーシ ー36列[Cauchy sequence] (あるい は 基本列[fundamental sequence])と呼ぶ:37
∀n ∈N, ∃i0 ∈N such that i, j i0 ⇒ |xi−xj|<1/n
この節では,コーシ ー列を用いたカント ール38の方法で実数の構成を行う. 有理数 のコーシ ー列全体のなす集合を Cs(Q)と書くことにする. これは,Q の部分集合 である. 実数は, つぎ のように 定義され る Cs(Q)におけ る同値関係≃による同値 類とし て定義され る. すなわち, 商集合 R= Cs(Q)/≃が 実数の集合である.
(xi)i∈ ≃(yi)i∈ ⇔
def∀n∈N, ∃i0 ∈N such that ii0 ⇒ |xi−yi|<1/n 演習 5.27 上で 定義し た ≃が Cs(Q)におけ る同値関係であることを示せ.
ここでは,x = (xi)i∈ の ≃による同値類を [x]と表すが, [x]が limi→∞xi だと 思えば よい. 例えば, 円周率 πは 3.1, 3.14, 3.141, 3.1416,. . . とい う数列の同値類 であり, 2の平方根
√2は 1.4, 1.41, 1.414, 1.4142,. . . という数列の同値類である.
注意: 実数を有理数列の極限として定義し たいが,その極限となる実数は,今は 存在していない. まず,収束する数列はコーシー列となること,さらに異なる数 列でも同じ 極限を持ち得ることに注意せよ. そこで,コーシー列となる有理数列 の集合を考え,同じ 極限を持つ数列を同値だとして,その同値類で有理数列の極 限を表すのである. 実際,ど んな実数でもa0∈Zと ai ∈ {0,1, . . . ,9}(i∈N) を 取り, 無 限小数 a0.a1a2· · · で 表せ るが, こ の 無限 小数は a0.a1, a0.a1a2, a0.a1a2a3, . . ., と いう数列の極限を 表す.39 よって, 0.999· · · = 1 と 書くと き, 違 うものを 同じ とし ているよ うに 感じ るか もし れ ないが, 数列 0.9, 0.99, 0.999, . . . の 極限が 1 に 等し いことを 意味し ているのであり, 0.333· · · = 13 と書いて いるのと 同じ 意味である.
各 x∈Qを定値数列の同値類 [(x, x, . . .)]∈Rと同一視することにより,Q⊂R とみなす. このとき,ある項から先が 同じ 数x∈Qになる有理数列 (xi)i∈ の同値 類 [(xi)i∈]は xと同一視され る.
36Augustin Louis Cauchy, 1789 – 1857.
37ここで, ∀ε > 0, ∃i0 ∈N, . . . ,と 定義し たいところだが, 実数が まだ 定義され ていな いので, ε >0の代わりに 1/nで 考え る. r >0に対し て,|x|< r⇔ −r < x < r.
38Georg Ferdinand Ludwig Philipp Cantor, 1845–1918.
39a0.a1a2· · ·=∞
n=010−nan= limn→∞n
i=010−iai
命題 5.4 任意の (xi)i∈ ∈Cs(Q)は有界である. すなわち,つぎ が 成立する:
∃n∈N such that ∀i∈N, |xi|< n.
証明 (xi)i∈Nはコーシー列なので,∃i0∈Nsuch thatii0⇒ |xi−xi0|<1 このとき,∀ii0,|xi|<|xi0|+ 1
a= max{|x1|, . . . ,|xi0−1|,|xi0|+ 1} ∈Qとおき,a=a1, a2,a1, a2∈N,と 表す このとき,a=a1, a2a1=a1,1 ∵ a11a2a1 (演習5.6)
∴ ∀i∈N, |xi|aa1
演算: つぎ のように定義され る R 上の加法と乗法は, Q 上の演算の拡張であり, これらの演算に 関し て Rは 体になる:
[(xi)i∈] + [(yi)i∈] =
def[(xi+yi)i∈] [(xi)i∈][(yi)i∈] =
def[(xiyi)i∈]
演習 5.28 上の演算が well-defined であり, Qの演算の拡張であることを示せ. 注意: 上の演算が well-definedであるためには,代表元の取り方に依存し ない ことだけでな く,定義に おけ る (xi+yi)i∈
と (xiyi)i∈
がコーシ ー列になる ことも示す必要が ある.
ヒント (xiyi)i∈Nが コーシー列になることを示すには,つぎ の不等式を 参照:
|xiyi−xjyj||xiyi−xjyi|+|xjyi−xjyj|=|xi−xj||yi|+|xj||yi−yj|
命題5.4より,∃n0∈Nsuch that∀i∈N,|xi|,|yi|n0なので,つぎ の不等式を得る:
|xiyi−xjyj|n0|xi−xj|+n0|yi−yj|
演習 5.29 Rにおけ る加法と乗法の結合律, 交換律および 分配律を証明せよ. 演習 5.30 (xi)i∈ ∈Cs(Q)に対し て, つぎ の条件が [(xi)i∈]= 0となるための 必要十分条件であることを示せ:
∃n0,∃i0 ∈N such that ii0 ⇒ |xi|> n−10
ヒント 必要条件であ ることを 示すには, (xi)i∈N ≃(0,0, . . .)とな ることと(xi)i∈N
が コーシ ー列であることの2条件を 用いる.
演習 5.31 Rにおけ る加法と乗法に 関し て, さらにつぎ が 成立することを示せ: (1) ∀x∈R,x+ 0 = x; ∀x∈R,∃1−x∈R such that x+ (−x) = 0
(2) ∀x∈R,x1 = x ; ∀x∈R\ {0},∃1x−1 ∈R such that x·x−1 = 1
ヒント (2)におけ るx−1 の存在: x= [(xi)i∈N]と表し たとき,xi = 0となることも 考慮し て,y= [(yi)i∈N]を 以下のよ うに 定める:
yi=
x−i 1 ifxi= 0, 0 ifxi= 0.
このとき, (yi)i∈Nが コーシ ー列になることと[(xi)i∈N][(yi)i∈N] = 1を 示せば よい. (yi)i∈Nがコーシ ー列になることを示すには,演習5.30より,∃n0,∃i0∈Nsuch that
∀ii0,|xi|> n−10 なので,∀i, ji0に対し て,つぎ の不等式が 成立することに注意:
|yi−yj|= |xj−xi|
|xixj| < n20· |xi−xj|
順序: つぎ のように定義され る Rにおけ る大小関係 は,Qにおけ る大小関係 の拡張であり,この により,Rは 順序体となる:
[(xi)i∈][(yi)i∈]⇔
def∀n∈N, ∃i0 ∈N such that
ii0 ⇒yi−xi >−1/n (or xi−yi <1/n) (yi−xi >−1/nは xi < yi+ 1/nあるいは xi−1/n < yiとし てもよい.)
演習 5.32 上の が well-defined であり, Qの順序の拡張であることを示せ.
演習 5.33 上で 定義し た が R 上の全順序となることを示せ.
ヒント (O1) – (O4)を 示す. (O4)は 背理法. (O4)を 満たさない仮定すると,
∃(xi)i∈N,∃(yi)i∈N∈Cs(Q) such that [(xi)i∈N][(yi)i∈N], [(xi)i∈N][(yi)i∈N] このとき,つぎ が 成り立つ:
∃n1∈N, ∀i∈N, ∃ji such that yj−xj−1/n1
∃n2∈N, ∀i∈N, ∃ki such that xk−yk−1/n2
(xi)i∈Nと(yi)i∈Nが コーシ ー列なので,上の条件におけ るiを 十分に 大きく取れば,
|xj−xk|と |yj−yk|が いくらでも小さくなることを用いて,矛盾を 導く.
演習 5.34 上の順序 により定義され る狭義の順序 <に 関し て, つぎ を示せ: [(xi)i∈]<[(yi)i∈]⇔ ∃n0 ∈N, ∃i0 ∈N such that
ii0 ⇒yi−xi >1/n0
ヒント は 全順序なので, [(xi)i∈N] <[(yi)i∈N]は [(xi)i∈N][(yi)i∈N], すなわ ち, つぎ の条件と 同値:
∃n∈N, ∀i∈N, ∃j ∈N such that ji, xj−yj −1/n (i.e.,yj−xj 1/n) 問題の右辺の条件が 成り立つとき,任意のi∈Nに 対し て,j = max{i0, i}とすれば, j i,yj−xj>1/n0となり, ⇐が 得られ る. 逆に ⇒を 示すには,上の条件におい て,yj−xj 1/nが (yj−1/3n)−(xj+ 1/3n)1/3nを 意味することに 注意し て, (xi)i∈Nと(yi)i∈Nが コーシ ー列であることを 組み合わせよ.
演習 5.35 Rが 順序体となること, すなわち,つぎ が 成立することを示せ: x < y⇒ ∀z ∈R, x+z < y+z; x < y, z >0⇒xz < yz 演習 5.36 x= [(xi)i∈]∈R の絶対値に 関し て,つぎ を示せ:
[(xi)i∈]
= [(|xi|)i∈]
ヒント x0のときは,|x|=xなので (xi)i∈N≃(|xi|)i∈Nを 示し, x <0のときは,
|x|=−xなので(−xi)i∈N≃(|xi|)i∈Nを 示す. このとき,つぎ に 注意せよ: [(xi)i∈N]0 ⇔ ∀n∈N, ∃i0∈N such that ii0⇒xi>−1/n [(xi)i∈N]<0 ⇔ ∃n0∈N, ∃i0∈N such that ii0⇒xi<−1/n0
演習 5.37 x = [(xi)i∈], y = [(yi)i∈] ∈ R, n ∈ N に 対し て, つぎ の 条件は
|x−y|<1/nであるための必要条件であり, |x−y|1/n であるための十分条件 であることを示せ:
∃i0 ∈N such that ii0 ⇒ |xi−yi|<1/n
演習 5.38 (実数におけ る有理数の稠密性) Qが Rにおいて稠密であること,す なわち, つぎ が 成立することを示せ:
∀x < y ∈R, ∃z∈ Q such that x < z < y
ヒント x= [(xi)i∈N], y = [(yi)i∈N]と すると き, [(xi)i∈N]<[(z, z, . . .)] <[(yi)i∈N] とな る z ∈ Qの存 在を 示すのだが, ∃n ∈ N, ∃i0 such that i i0 ⇒ xi+ 1/n <
z < yi−1/nとな るz ∈Qを 探せば よい. x < yより, ∃m∈N,∃i1∈Nsuch that i i1 ⇒ yi−xi > 1/m. さらに, (xi)i∈N, (yi)i∈N が コ ーシ ー列であ ること より,
∃i0i1 such thati, ji0⇒ |xi−xj|, |yi−yj|<1/4m. このとき, ii0に 対し て,xi0,yi0,xi,yiの大小を 考慮せよ.
定理 5.5 (アルキ メデ ス40 の公理) 任意の正の実数 x,yに対し て, y < nxとなる 自然数 nが 存在する.
補題 5.6 アルキ メデ スの公理は 次の条件と同値である:
∀ε >0, ∃n ∈N such that 1/n < ε
証明 条件を 仮定すれば,
∀x, y >0,∃n∈Nsuch that 1/n < x/y このとき,y < nx よって,アルキ メデ スの公理が 得られ る
逆に,アルキ メデ スの公理を 仮定すれば,
∀ε >0,∃n∈Nsuch that 1< nε このと き, 1/n < εとなり,条件が 成立
演習 5.39 上の補題を実際に 示すことにより,アルキ メデ スの公理を証明せよ.
40Archimedes, 287 B.C.(?)–212 B.C.
ヒント ε = [(ǫi)i∈N] と すると, ε > 0 より, ∃k ∈ N, ∃i0 ∈ N such that ∀i i0, ǫi>1/k. このとき,n= 2kが 求めるもの.
数列(xi)i∈ に 対し て,つぎ の条件を満たす x∈R を (xi)i∈ の極限[limit]と呼 び, (xi)i∈ は xに収束[convergent]するという. このことを limi→∞xi =x または xi →x (i→ ∞)など と表す.
∀n∈N, ∃i0 ∈N such that ii0 ⇒ |xi−x|<1/n
補題 5.6 に より, 上の定義におけ る 1/n は ε > 0で 置き換えてもよい. すなわ ち,次の条件が 上の定義の条件と同値になる:
∀ε >0, ∃i0 ∈N such that ii0 ⇒ |xi−x|< ε
演習 5.40 有理数のコーシー列 (xi)i∈ は x= [(xi)i∈]∈Rに収束すること,す なわち, x= [(xi)i∈] = limi→∞xi を示せ.
ヒント 各xjは [(xj, xj, . . .)]と同一視し ていることに注意せよ. また,演習5.36に よれば,|x−xj|= [(|xi−xj|)i∈N]であるが,|x−xj|<1/nであることをRにおけ る <の定義に より書き下し, 示すべきことを 明確にせよ. 一方, (xi)i∈N はコーシ ー 列なので,∀n∈N,∃i0∈Nsuch thati, ji0⇒ |xi−xj|<1/2nである.
定理 5.7 (実数の完備性) 実数のど んなコーシ ー列 (xi)i∈ もある実数 x ∈ R に 収束する.
演習 5.41 演習5.40 を用いて, 実数の完備性(上の定理)を証明せよ.
ヒント xi= [(xi,j)j∈N]とすると,41 演習5.40より,∃n(i)∈Nsuch that∀j n(i),
|xi−xi,j|<1/i. このとき, (xi,n(i))i∈N∈Cs(Q)となり,x= [(xi,n(i))i∈N]∈Rを 得 る. 演習5.40より, x= limi→∞xi,n(i)に 注意すれば,x= limi→∞xiが 示せる.
定理 5.8 (ワ イエルシ ュト ラウス42 の公理) Rの空でない部分集合が 上に 有界で あれば 上限を持ち, 下に有界であれば 下限を持つ.
演習 5.42 実数の完備性を用いて,ワ イエルシュト ラウ スの公理を証明せよ.
ヒント A ⊂ Rが 上に 有界の 場合(下に 有界の 場合も同 様), x1 ∈ Rを A の 上 界, a1∈Aとし, 12x1+12a1がAの上界であれば,この値をx2とし,a2=a1とする. そ うでなければ,この値を a2とし,x2 =x1 とする. x1, a1 からx2,a2を 定義し た方 法を繰り返すことにより, (xi)i∈N, (ai)i∈Nが 帰納的に定義できる. このとき, (xi)i∈N
はコーシ ー列となることを 示せば, 実数の完備性よりx= limi→∞xi∈Rを 得るが, これがAの上限となることが 分か る.
41一斉に (xi,j)j∈N∈Cs(Q)が 取れ るのは 選択公理による.
42Karl Theodor Wilhelm Weierstrass, 1815–97.