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述語形式-mAk vā の形態論的な特徴

第 6 章 チャナッカレ方言の述語形式-mAk vā について

6.3 チャナッカレ方言における存在表現の文法化

6.3.1 述語形式-mAk vā の形態論的な特徴

チャナッカレ方言による述語形式の-mAk vāは動詞の不定形に存在の表現var が付加さ れた形で成立すると前述した。形態的な特徴からは-mAk vā あるいは mAk varには以下 の三つのパターンがある。

①現在:動詞+mAk (INF) var/vā ex. İç-mek vā

飲む-INF ある

(飲むようだ・飲むだろう・飲むかもしれない)

パターン①はもっとも一般的に用いられるものであり、現在または進行中の出来事に関 する話し手の推量を表示する。

②過去:動詞+mAk (INF) var/vā+過去形コピュラ(-DI) ex. İç-mek vā-dı

飲む-INF ある-PST.COP

(飲んだようだ・飲んだだろう・飲んだかもしれない)

パターン②は文末の存在表現に過去コピュラ-(y)DI が付加されたものであり、過去に起 こった出来事について話し手の現在の推量を表す。つまり、過去コピュラマーカーは単 に出来事の時間を表示し、話し手の推量は現在を表す。一方、構文内に過去を示す時間 副詞が用いられたり、文脈から過去の出来事ということがはっきりと分かれば、このパ ターン②より①の方が圧倒的に多く用いられる。

③未来:動詞+(y)AcAk なる+INF var/vā ex. iç-ecek ol-mak vā 飲む-FUT なる-INF ある (飲むかもしれない)

パターン③は未来形の形式であり、形式上 -(y)AcAk olmak vāというセットの形で現れる。

未来の出来事や根拠に基づいて未来に起こる可能性があると思われる出来事に関する話 し手の推量・想定を表す形式である。

共通語にvar/yokの対立がある一方、-mAk vāの否定は共通語と大きく異なり、その対 立が見られない。否定のコピュラ değilや非存在の yokが一切現れず、varが付加される 前の動詞に動詞否定専用の接辞-mA が付加された形で構文の否定が表示される。

17) Hiç dışarı-ya bak-ma-mak var. 47 全然 外-DAT 見る-NEG-INF ある (外を全然見ていないようだ)

18) Ali ora-da ol-ma-mak var.

アリ あそこ-LOC なる-NEG-INF ある (アリはあそこにいないようだ。)

19) Ayşe içki iç-me-yecek ol-mak var.

アイシェ お酒 飲む-NEG-FUT なる-INF ある (アイシェはお酒を飲まないかもしれない。)

さらに述語形式 -mAk vā と時制の関係について述べると、過去のコピュラマーカー

-(y) DI と未来を表す接辞-(y)AcAk との用法が多い。未来形の形で用いられると「動詞+

-(y)AcAk var」の形式ではなく、ol- という補助動詞が付加された「動詞+-(y)AcAk olmak vā/var」という形式のみで表される。

以下の 6-2では -mAk vā の時間との関係を具体的に示す。-mAk vā 形式では基本的に 現在・過去という 2 つの時制が表示される。前述したが、-mAk vā 形式が無標の場合、

出来事の現在時を表す。さらに過去形は定過去と呼ばれる-DI 過去形のみであるが、そ の表示マーカーも動詞語幹に付く接辞の-DI ではなく名詞語幹につくコピュラの-(y)DI/

idi に限定される。過去形の-(y)DI が表示される場合、出来事が過去に発生したことを示 す。最後に未来形の場合、出来事の未来への想定を表すこととなる。

4717~19は方言話者(男性、50代)に確認して作成したものである。

表 6-3「-mAk vā」の時制との関係

時制 gel+mAk vā (来る+INF var)

肯定 否定

現在 gel-mek var

来るかもしれない

gel-me-mek var 来ないかもしれない

過去 gel-mek var-dı

来たかもしれない

gel-me-mek var-dı.

来なかったかもしれない

未来 gel-ecek olmak var

(これから)来るかもしれない

gel-me-yecek olmak var

(これから)来ないかもしれない

次に表 6-3では、他のテンス・アスペクトマーカーとの共起を見る。(*)は非文法的 という意味で用いられ、このような形式は存在しないことを示す。

6-4「-mAk vā」のテンス・アスペクトマーカーとの共起

時制 gel+mAk vā (来る+INF var) (来るだろう・来るかもしれない)

肯定 否定

現在進行 (-(I)yor)

gel-mek var

*gel-iyor olmak var 来ているだろう

gel-me-mek var

*gel-mi-yor olmak var 来ていないだろう 定過去-DI/(y)DI

⋇コ ピ ュ ラ の み の 用 法

gel-mek var-dı

*gel-di ol-mak var 来ただろう

gel-me-mek var-dı

*gel-me-di ol-mak var 来なかっただろう 伝聞過去

(-mIş/-(y)mIş)

*gel-miş olmak var

*gel-mek var-mış 来たらしい

*gel-me-miş olmak var.

*gel-me-mek var-mış.

来なかったらしい アオリスト-Ar *gel-ir olmak var.

来るだろう

*gel-mez olmak var.

来ないだろう 未来 -(y)AcAk

(想定)

gel-ecek ol-mak var.

(これから)来るだろう

gel-me-yecek olmak var.

(これから)来ないだろう 未来の過去

(仮定)

gel-ecek ol-mak var-dı 来ようとしただろう

gel-me-yecek olmak var-dı 来るまいとしただろう

述語形式の -mAk vā は人称接辞と共起する場合、文末の var の部分に人称接辞が付加 される。つまり、名詞述語に付加される時と同様である。-mAk vā は人称制限がないが、

3人称の用法が圧倒的に多い。一方、1人称の場合、話し手自身の体験に基づく想起、つ まり後で気づいたことへの思いや推量を表す。

6-5 -mAk vāと人称接辞との共起

非過去gel-mek var (書くだろう・書くかもしれない)

1SG gelmek var-ım gelmek vā-yım.

2SG gelmek var-sın gelmek vā-sın.

3SG gelmek var gelmek vā.

1PL gelmek var-ız gelmek vā-yız.

2PL gelmek var-sınız gelmek vā-sınız.

3PL gelmek var-lar gelmek vā-lā.

疑問文の場合、 -mAk vā 形式が成立しないことを以下で示す。トルコ語は疑問の副詞 mIを使って疑問文を成立させるが、それは当該形式と共起しない。

20) *Gel-mek vā mı?

来る-INT ある Q (来るだろうか)

-mAk vā 形式が疑問文を構成しないのは、話し手の内面的な思考を中心にする構造で

あるからである。つまり、話し手の認識による推量が中心となる表現であるため、疑問 文として相手の思考を訊ねることができない。以下の用例21は話し手が視覚によって推 量したことを述べるものであり、それを 21 (a) のような疑問文にすると非文となる。一 方、21 (b) のように話し手自身が判断した第三者の様子を相手に確認してもらいたい時、

否定のコピュラdeğil と疑問詞のmI が付加されて確認要求文が成立する。

21) (遅い時間で、朝ご飯を準備する人たちを見て発話する)

Aha… Ġāvaltı yap-ma-mak vā bunlā…

ああ、 朝ご飯 する-NEG-INF ある これら

(ああ、この人たちは朝ご飯を食べなかったかもしれない。)

a) *Aha… Ġāvaltı yap-ma-mak vā bunlā mı?

ああ 朝ご飯 する-NEG-INF あるこれら Q

(*ああ、この人たちは朝ご飯を食べなかったかもしれないか。)

b) Aha… Ġāvaltı yap-ma-mak vā bunlā, dē mi?

ああ 朝ご飯 する-NEG-INF ある これら ない Q

(ああ、この人たちは朝ご飯を食べなかったかもしれないよね。)

このような確認要求文は文脈に従うものであり、ごく稀に用いられる。相手との会話 がない場面では成立しないため、必ず相手と一対一の会話が必要となる。

最後に -mAk vā 形式は時間・場所・理由・方法や様態などを訊ねる時に用いられる副 詞とも共起しない。例えば、例22 (a) を22 (b) のように疑問の副詞を付加して疑問文に すると非文法的な構文となる。-mAk vā は話し手の推量を示すため、疑問文にできない。

22) (話し手は相手に知り合いの人について話をする)

a) Çok para ġazan-mak vā-la.

たくさん お金 稼ぐ-INF ある-3PL

Geçen sene-den beri bi āsa, bi de araba al-ık-lā.

経つ-PRT 年-ABL 以来 一 土地 一 も 車 買う-PF-3PL

(お金をたくさん稼いでいるかもしれない。去年から一つの土地、さらに一つの車 を買っている。)

b) *Ne zaman/ Nerede/ Nasıl / Kiminle/ Neden çok para ġazan-mak vā-la?

いつ/どこ/どのように/誰と/どうして たくさん お金 稼ぐ-INF ある-PL

(*いつ/どこ/どのように/どうやって/だれと/どうしてお金をたくさん稼いでいるか もしれない。)

以上、 -mAk vā 形式の用法を記述し、話し手の内面的な思考を表す認識モダリティの 一種としてどのような用法があるか明らかにした。