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第 4 章 チャナッカレ方言の述語形式

4.2.1 共通語の先行研究

-IK 接辞というのは、共通語では動詞から名詞を派生する名詞化接辞あるいは形容詞 化接辞の一つとして使用されているものである。以下の表に-IK の付加で動詞から派生 された名詞、形容詞の実例を示す。

4-1 -IKによって派生された語

-IK接辞派生形 派生語及びその意味

名詞あるいは名詞修飾形としての使用例(竹 内(2010)『トルコ語辞典』から引用したも の)

aç+IK

açık (①外、②開いた、開かれ た)

Et-i açık-ta bırak-ma.

肉-ACC 外-LOC 置く-NEG

(肉を外に置くな。)

②açık pencere (開いた窓)

kır+IK kırık(壊れた) kırık sandalye(壊れた椅子)

kes+IK kesik (切られた) kesik dallar(切り落とした枝)

del+IK delik (穴の開いた) delik kova (穴の開いたバケツ)

düş+IK

düşük(①落ちた、下がった、②

流産)

düşük mide(下がった胃)

②düşük yapmak(流産する)

kop+IK kopuk(切れた、取れた) kopuk düğme(取れたボタン)

上記の表に見て分かるように、-IKは açık(外)や düşük(流産)のような語彙化して 全く違う意味になる名詞も作り出している。また、形容詞的にも用いられ、修飾する名 詞の特性について述べる。例えば、kır-(割る)への-IK の付加で出来た「割れた、割れ ている」という意味のkırıkは名詞修飾形としてkırık sandalye(壊れた椅子)といった名 詞句を作る。この名詞句に kırıkがあることで、その椅子がどのようなものであるか、ど のような特性を持っているのか、どのような状態であるのかといった点が明らかに分か る。これは、kırık 自体が持っている意味だけではなく、派生を行った接辞の特徴による ものだと推測される。

以上をふまえた上で、以下、-IKについての先行研究を見ていきたい。

トルコ語の文法書を著したHengirmen(2007)によれば、この-IKは「-k(-ık,-ik,-uk,-ük)」

として捉えられ、動詞から形容詞的な役割を果たす名詞や名詞的な語彙を派生する接辞 として説明されている。

また Lewis(2000)によれば、この接辞は語形成のもとで取り扱われているが 、その ほとんどが受身的な意味のある形容詞及び結果を表す名詞を派生するもの、とされてい る23。 従来の先行研究の中で結果を表すという現象に注目しているのは Lewis(2000)

のみであり、この点で従来の研究とは大きく異なる。

Lewis(2000)があげている用例のいくつかは以下の通りである。

4-2 Lewis2000)による-IKの派生語

トルコ語動詞語幹 -IK派生語

birleş- to unite birleşik united

boz- to destroy bozuk broken

çık- to come out çıkık dislocated

değiş- to change değişik varied

現 代 ト ル コ 語 に お け る-IK 接 辞 に つ い て の 代 表 的 な 先 行 研 究 と し て 他 に Korkmaz

(2003)、Gencan(2001)やBanguoğlu(2007)もある。

Korkmaz(2003)の定義では、-IK というのは「された」という意味、つまり受身的な

意味を含んでいる形容詞を派生する非常に生産的な接辞であると指摘されており、動詞 から形容詞を派生する接辞というカテゴリーに入れられている。次のような例が取りあ げられている。

「açık kapı(開いたドア)、batık gemi(沈んだ船)、bulanık hava(陰気な天気)、buruşuk yüz(しわのある顔)、 karışık iş(複雑な仕事)、kesik baş(切れた頭)、uyanık adam(目覚め た男)、yanık vücut(焼けた体)」 (Korkmaz 2009:344)

上記の例は特に名詞と組み合わされた用例である。

-IK は一部の先行研究では、名詞化接辞として認められ、一部では、形容詞化接辞と して認められているが、トルコ語は名詞と形容詞の間に連続性があるため、-IK がどち らを派生しているのかは決定しにくい。

次に、Gencan(2001)は-IK について様々な用例をあげて、具体的な説明を行ってい る。他の先行研究と同様に接辞の生産性を述べ、接辞の母音調和による異形態について

23 -IK makes adjectives, mostly with passive meaning, and nouns, mostly denoting the result of action.

(Lewis2000:220)」

説明している。派生接辞が付加される動詞を「自動詞からの派生」と「他動詞からの派 生」の二つのグループに分けている。Gencan(2001)の説明を以下の表にまとめる。

4-3 Gencan2001)による-IKの派生語

動詞語幹+派生接辞 派生された形容詞が表す意味 例

他動詞+IK 受身的(edilgen) bozuk(壊れた)

自動詞+IK 能動的(etken) soluk(枯れた)

つまり、Gencan(2001)は、-IK が他動詞語幹に付加された場合、意味的に受身を表 すような形容詞が成り立ち、一方で、自動詞語幹に付加された場合、意味的に能動的な 形容詞が派生されると指摘している24

さらにこのことを解明するため、以下の例(a)と(b)を挙げた上で、下記のように説明し ている。

「a)kesik=kesilmiş(切れた・切れている=切られた・切られている・切られたらしい), kırık=kırılmış(壊れた・壊れている=壊された・壊されている・壊されたらしい), açık=açılmış(開いた・開いている=開かれた・開かれている・開かれたらしい)

b) yanık=yanmış(焼けた・焼けている=焼けた・焼けている・焼けたらしい), çıkık=çıkmış(抜けた・抜けている=抜けた・抜けている・抜けたらしい),

düşük=düşmüş(下がった・下がっている=下がった・下がっている・下がったらし

い)」

(Gencan 2001:247)

(a)と(b)はそれぞれ他動詞語幹と自動詞語幹から成り立っている派生語である。

(a)の場合、-IK 付加の派生語と、それと同様の意味を表す-mIş 接辞の付加によって成立

した語があり、(a)では受身化接辞である-Il に -mIş 接辞が付加された語がある。(b)の場 合も、(a)と同様の対応が見られるが、-mIş 接辞の付加で出来ている語には受身化の接辞 がない。

24 ‘-(i)k ekiyle türemiş sıfatlar, türedikleri eylemlerin geçişli, geçişsiz oluşlarına gore ikiye ayrılır. Örnekler de buna göre seçilmiş ve sıralanmıştır.

1. örneklerin türediği kökler geçişlidir; sıfatlar da edilgen anlamlıdır.

2. örneklerin türediği kökler ve gövdeler geçişsizdir; sıfatlar da etken anlamlıdır. ’ (Gencan 2001:246-247)

このように、Gencan(2001)では(b)の場合、-IK 派生語の意味に対立している語には 受身化接辞の「-Il」が現れないため、自動詞語幹に-IKが付加されて派生した形容詞は動 作性の高いあるいは能動的な意味を持つと結論付けられている 。そして、この主張につ いて次の用例が取り上げられている。

6) O koca ebniye-nin25 sark-ık saçak-lar-ı, kır-ık その 大きな 建物-GEN 乗れ下る- Ik 庇-PL-DEF 壊れる-IK kafes-ler-i, dök-ük kapak-lar-ı, çarp-ık kapı-lar-ı...

窓格子-PL-DEF ぼろぼろになる-IK 戸-PL-DEF ぶつかる-IK 扉-PL-DEF

(その大きな建物の乗れ下った庇、壊れた窓格子、ぼろぼろになった戸、ゆがんだ 扉・・・)

(Hüseyin Rahmi Gürpınar) (Gencan 2001:247)

また、Gencan(2001)では değişik(違った), çıkık(抜けた), dolaşık(絡み合った)

のように意味的に自動詞的又は他動詞的な働きを持つ動詞の中で、-IK 付加による派生 語は動作性が高いあるいは能動的な意味を持つと記述されている26

最後にBanguoğlu(2007)は-IKを次のように定義し、共通語での用法を説明したのち、

アナトリア方言について言及している。「(-IK とは)古くて非常に生産的な過去分詞 の形式である。当接辞はこの機能を失い、ほとんど受身の意味を持ち、動詞から形容詞 を派生することとなった(Banguoğlu 2007:248)。」

(-IK が付いた形に相当する現代トルコ語の形式として、以下のような対応関係が取り あげられている。二つとも動詞から派生した形容詞であるが、違う形で同じ意味を持 つ。)

例:kes-ik kes-il-miş 切る-IK 切る-PASS-PF (切れている) (切れている)

「アナトリア方言ではこの派生による昔ながらの分詞としての仕組みと同じような用 法が見られる(Banguoğlu 2007:248)。」

25 オスマントルコ語における「bina(建物)」の複数形。

26Kimi anlamlarıyla geçişsiz, kimi anlamlarıyla geçişli olan eylemlerden -ik ekiyle türemiş olanlar da etken anlamlı olur: Değişik, çıkık, dolaşık...’

この説明に関して以下の例が取り上げられている。例 7 はアナトリア方言での用法を 表示し、例8はその意味に相当する共通語の例として示されている 。

7) Ali gel-me-y-ik- -tir. (方言)

アリ 来る-NEG-介入子音-IK-3SG-GM

(アリは来ていないはずだ。)

8) Ali gel-me-miş ol-malı-dır. (共通語)

アリ 来る-NEG-PF なる-OBL-GM (アリは来ていないはずだ。)

(Banguoğlu 2007:248)

以上、Banguoğlu(2007)の例にも現れるように、-IK の述語としての屈折的な用法は アナトリアの各地の方言で見られる。それに関する研究について、次の節で説明する。