第5章 結論
第2節 農村観光発展とルーラリティ再編のメカニズム
図 5-1 前衛村における農村観光の発展とルーラリティの変化
社会関係においては、村民の収入・職業構成が観光業への依存度を増し、ルーラリティ の低下を招いた。一方、観光業の参入に伴い、村民関係やホスト―ゲスト関係、村の管理・
運営の指標において、観光業との繋がりによる新たな特徴も表れている。
全体的にみると、生産空間では比較的ルーラリティが維持されているが、生活空間、社 会関係ではルーラリティの低下が著しい。
第二に、農村観光の進展に伴い、ルーラリティの維持において、新たな傾向がみられる ようになった。Lane(1994)が指摘するように、従来、ルーラリティの重要な特徴は農的・
ローカルな要素、伝統性とされており、前衛村においても、従来から生産されていた水稲、
アブラナの生産風景や、生活空間におけるかまどなどの存在がルーラリティの維持に重要 な役割を果たしていた。しかし、ルーラリティの詳細な实態をみると、維持されていると 評価できるルーラリティにおいても、その实態には新たな特徴が現れている。
まず、生産物はローカルなものから非ローカルなものへと転換し、現在では後者によっ てルーラリティが維持されている。前衛村に農村観光が導入された当初、主な観光対象は 従来から生産されていた野菜などローカルな農産物のもぎ取りであった。この段階の農産 物は、生産機能が中心となっており、観光機能は補助的に存在しているにすぎなかった。
農村観光の発展に伴い、観光機能が重視されるようになると、栽培される生産物は非ロー カルなイチゴやブドウの他、ハーブといった景観作物へと変化していった。このような景 観作物の栽培は、従来の農産物のもぎ取りという体験型観光に加えて、農的環境の中で過 ごす保養型観光が農村観光の重要な内容になりつつあることを示している。また、人工的 な観光施設においても、「ルーラリティ=伝統的」という見方をすれば、伝統文化に基づい て造られた新たな観光施設がルーラリティを維持する役割を果たしていると捉えられる。
ただし、ここでの伝統文化とは、前衛村が経験した生産・生活文化の再現だけではなく、
祟明島ないし中国における伝統的な文化を含むものと拡大解釈されている。
生活空間において、2000 年以降に西洋風「別荘」様式家屋が多く建築された。このよう な家屋は現代的な形式と自然豊かな環境の下に存在し、農村の新たな特徴になっている。
この状況は、多くが集合住宅に居住する都市住民にとっては魅力的なものである。これら の家屋は建築様式という指標からみれば、伝統性と乖離しているが、現代都市が持たない 特徴である点を考慮すれば、新たなルーラリティとして捉えることができる。
第三に、農村観光にとって、ルーラリティの低下は必ずしも悪影響を招くとはいえない。
先行研究では、ルーラリティの低下が農村観光の魅力を損なうことが強調され(鄒、2005;
席ほか、2011)、前衛村においても、生産空間における人工的な観光施設の増加により農的 用地の減尐、現代な娯楽施設の建造、生活空間における家屋の増築による庭園の農的景色 の消失、社会関係における農家楽経営の競争による村民関係の悪化など多くの問題は確か に存在している。しかし、農村地域におけるルーラリティには、アメニティの欠如などの ネガティブな要素が反映されていることも尐なくない。ルーラリティ低下の背景には、そ うした面を改善し、農民生活と農村の魅力を向上させる取り組みも必要不可欠であること は否定できない。
前衛村では、従来、農業生産の収益性が低く、多くの村民が貧しい生活をおくる経済状 況であった。生活空間における住宅規模の狭さや老朽化、内装の簡素さは、こうした経済 状況を反映したものであると理解できる。こうした住宅に関する指標に反映されているル ーラリティは、観光実受け入れ態勢の不十分さという点で農村観光の阻害要因になってい る。経済状況の好転に伴い、住宅規模の拡大による空き部屋の増加が、農家楽経営すなわ ち生活空間の観光化の前提条件となった。とくに生活空間においては、政府の規制によっ て家屋の間取り変更や設備の設置が促されたことで、住宅のルーラリティの低下が著しく なっている。しかし、このような変化は機能面で優れたものの導入でもあったため、農村 観光の発展を促進する効果もあった。
社会関係の側面においては、収入・就職構成が農業から観光業へ転換するというルーラ リティの低下がみられたが、村民の収入が増え、生活に対して良い影響を与えている。こ のように、村民の観光に対する関心が高まり、農村観光の発展にも繋がっていると考えら れる。
最後に、農村観光において、ルーラリティへの重要視と経済利益の追求、村民の生活向 上欲求は互いに競合し合い、このメカニズムによってルーラリティを評価する各指標の強 弱が変化させられている。ルーラリティが農村観光商品の中心的でユニークなセールスポ イントになっていることが挙げられている(OECD、1994)。農村観光の発展によるルーラリ ティの低下が批判されている(鄒、2005;席ほか、2011)。しかし、ルーラリティは観光者 の認識に判断される一方、観光施設の整備は村或いは投資者、政府によって实施されてい る。このように、ステークホルダーの需要に合わせて、異なる指標でルーラリティの再編 が進んでいる。
ホスト側の村民は観光者に認識されるルーラリティの特徴に誘導され、農業生産風景の 維持や伝統文化の活用などのために観光施設を整備し、ルーラリティを維持している。一
方、経済的利益の追求のため、非ルーラリティの要素が進入してくる。前衛村における農 村観光への外部投資者は、観光実を増加させるために多くの都市的観光施設を整備し、と くに観光発展の萌芽期と展開期に農村観光の発展に対して、補助的な役割を果たした。ま た、生活空間と社会関係の都市化が進んでいることは、前衛村の経済が向上して以降、生 活空間の改善と、収益性が高い農村観光業への参入によって展開されてきたと理解できる。